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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第七十二幕「らしくあるのは結構難しいが、多分一番魅力を引き出す」

 
 第七十二幕「らしくあるのは結構難しいが、多分一番魅力を引き出す」

 バイザーの奥から、深緑の瞳が強く自身に向けて、押し寄せてくるのをリサは感じていた。

 まるで燃え上がり、押し寄せる……エメラルドの海だ。

 こんな差し迫った状況だというのに、リサの心には不思議と焦燥や恐怖は浮かばず、静かに圧倒するグリーンの意志に打ち付けられるに任せた。

 そして、もう一つ気がつく。

 自分にかけられる他の誰の言葉よりも、フィオナから掛けられる
 攻撃的で、嘲笑的で、挑発的な言葉が、鮮烈に心に響くその理由が。
 どんな声援や励ましを掛けてくれている人よりも、フィオナが、リサの事を信じていて、槍を持って倒しに来ると信じきっている。

 その上で、リサを倒してやるっ、と子供みたいに、キラッキラの瞳で楽しんでいて。
 酷く純粋なその感情の土台には、積み上げてきた今までの練習量から来る自信。
 そこへ至るまでいくたりも苦悩し、折れかかっても自分と向き合って出した答え。

 叩かれ叩き、鍛え研ぎ澄まし、自らのシンに据えたそれこそが――腹に呑んだ槍。

 倦まず曲がらず欠けず、迷いも不安もずべて引っ括めて鎧の内に抱え込んだ、今眼の前に居るフィオナこそ、自分が本当の意味で『初めて認識した』騎士で。

 『天才』と褒めそやされる自分に対し同じ地平に立ち、上からでもなく、下からでもなく、真正面から視線をぶつけてくる目の前の少女こそが、逃げようのない自らの運命なのだ、と。

「……」

 リサの呟きは、唇の中で微かに響くも、誰に届くことはなく、だがそれで充分だった。
 それを聞くべきも、聞かせるべきも、対象は唯一人リサ本人だけ。
 故に、口角を緩ませた例外である人物は、謗られるべきであろうか、乙女の独り言を盗み聞いたのだから。



「どうやら私は嘘つきと、罵られずに済んだらしい」

 軽く肩をすくめ、態とらしい小さなため息を一つついてみせた静馬に、胡散臭げな顔を向けるアンとエマたちとは違い、ベルティーユは華のように艶やかに笑みを綻ばせ、それにしつらえたような上品な笑い声を上げる。
 
「それはもう手遅れですわよ静馬さん、この試合中で一体何度フィオナが『またやられたっ』と、悔しそうな表情を浮かべたことか」

 それで?と、言葉に出さずベルティーユが促してくるのに、静馬は言葉では返さず。
 黙って自らの握りしめた右手の腹で、己の心臓の上を軽く叩いてみせた。
 ただでさえ気障な仕草の似合わぬと言うのに、横たわって膝枕をされたままと言う状態では、最早笑いを取りに来ているとしか見えないその姿は幾つかの失笑を誘うも、ベルティーユの顔からは笑いを拭い去り、その視線をある一点へ向けさせる。

「静馬さんも騎士として、水野さんとは別の意味で失格ですわね」

 呆れたため息ながらも、静馬に戻した視線はやんちゃ坊主を見るような優しいもの。
 アンとエマの二人は、冗談でも口にしては腹をたてるだろう内容を、ベルティーユ本人が口にして居るため、流石に訝しんで軽々には賛同せず口を挟まず。
 周りの者達は、といえばベルティーユの逆鱗に触れた時の恐怖を識ってしまえば、何も考えずに追従で囃し立てるなどとてもする気にはなれない。
 そも、静馬とベルティーユの二人の会話には、アンとエマとて入り込むのに抵抗を感じるのだ、当然それ以外のものになど、踏み込めぬ空気が立ちはだかる。

「私は確かに比類ない腰抜けだと自覚してはいるが、失格とまで言われる酷い有様だったとは」

 肩をすくめ両手を広げる、どうにも芝居がかった大げさなジェスチャーに、ベルティーユが優しい笑みを浮かべ。指先で唇を抑えながら、小さく笑い声を漏らした。

「それはもう酷い有様ですわ。悩める姫に答えを教えず、強敵を見繕っては次々放り込んで、教えるのは相手を強くする方法と……静馬さん御自分には出来るぞっ、と示してみせるだけなのですから」

「成程、そう言われると何やら私は、騎士としてと言うよりは、紳士として失格のように聞こえる」

 顎を撫でしかつめらしい表情を浮かべるも、声には全く反省の色も無ければ、申し訳なく思っている香りもしない。
 それで?と、眉を片方動かすだけでベルティーユに、静馬はどう見ても楽しげな様子で、無言のままに促す。
 ベルティーユの言葉が、終わりではないことをちゃんと判っているのだ。

「でも、強くなりたいと、泣きながらでも前に進む少女騎士の……
 いえ、違いますわねフィオナにだけは、師匠として花丸ですわ」

 なるほどと、再び静馬は小さく口にしながら、真っ直ぐにベルティーユを見上げ。

「貴女にとって私は、失格せずちゃんと騎士で居られておりますか、我が麗しのベルティーユ姫?」

「ええ勿論、二重丸ですわ騎士様。
 リサが先程、どんな覚悟をしたのか教えていただけたなら、花丸にして差し上げます」

 ああそれか、と額を抑えながら、今度こそ困ったような表情を浮かべ。
 次いでなんとも情けないような、難しい表情がその顔を覆っていく。

「あまり紳士らしい言葉では表現できないのですが、それでも?」

「ええ、私こう見えてもジョストの騎士をしておりますのよ?」

 言われた静馬が目を二度ほどしぱたいて、両の手を打ち合わせる。
 ベルティーユにしては珍しい冗談、と声の聞こえた誰もが思っただろう。
 だが、アンとエマの二人は、それが冗談ではないと判っていて。

 ということは、一体どういう事なのかと巡らせた思考の先、辿り着いた答えに、とたんにげんなりした表情を浮かべそっぽを向いた。
 
「これは、失礼した。貴女の麗しさにすっかりそのことを失念していた……
 先程リサはフィオナに向かってこう言ったんですよ、『ぶっ潰してやるっ』とね」



 ☆ ☆ ☆



 ほんと、正直者の詐欺師だ……嘘はつかない。

 視線の先には、今まで見たことがないリサの姿。
 確かに『本気のリサと当たりたければ、ジョストの本戦で』って言ってたけど
 ベグライター集団が付きようがないこの環境で、ってことだとすっかり思い込まされていた。

 でも、そうじゃなかった。

 腰抜け二号を遠ざけて
 一対一で向き合って
 同じ一年の私に追い詰められて

 漸く、私に向ける目が、敵を見る目に変わった。

 上から目線じゃない
 哀れみなんか掛けられない
 自分を倒すかもしれない

 騎士を見る、そんな目に。

 天才騎士の本気、そんなものを前に凡人は為す術もない。
 ……なーんてわけないでしょ。
 アンタなんかに負ける訳にはいかないのよ、たかが天才の一年生ごときに。

 アンタが腰抜け2号と、傷なめあって遊んでた間も、コッチは悔し泣きしながら練習してきてんの。
 ピンチに成ったから本気出しますっ!なんて巫山戯た真似されて。
 むかっ腹立ってんのよコッチは、それをなに凄んで睨んで来てるわけ?ぶっ飛ばすわよ?

「上等じゃない、本気出して言い訳出来ないいま、その鼻へし折ってやるわ」

 フィオナの手が、彼女の翼の首筋を撫でる。
 彼女にも解っている、あんな無茶を何度もさせる訳には行かない。
 彼女の騎士も言っていた、無茶を指示すれば彼女の翼は、何も言わず従ってしまうだろうと。
 たとえ実行不可能な常態であろうと、彼女の望みを叶えるために。

 もうあれは使わないよ、だって必要ないもの。

 思いを伝えるよう、何度も優しく首筋を撫でながら、そっと気息を整える。
 相棒はまるで人語を解したかのように、大きく頷くように首を振るも、ちょっと拗ねたように土を掻いた。
 その仕草が「自分はまだ出来るのに」と言われたようで、思わず笑い声を上げて軽く首筋を叩く。

「そうじゃないってば、このまま勝ったらアンタが凄いだけだって言われちゃうでしょ?私にも凄い処見せるの譲りなさいよ、相棒。
 で、あいつらどっちも凄いぞってなったら最高じゃないっ」

 口角を吊り上げるや上半身を起こし、ベグライターから受け取った槍を真直ぐ上を向けると、彼女の翼は当然のように馬首を巡らせ、リサに正面から向き合う開始位置へと進む。
 これからやろうとしていることを頭に思い浮かべ、ちょっと照れくさそうに頬を染めながらも、フィオナは止めようとは少しも思い浮かばない自分を笑う。

 まーた先輩には『試合中に告白するのは関心しないねフィオナ』とか、恥ずかしいこといっぱい言われるんだろうけど……
 そんな事くらいで曲げてなんかやらない、此処でこうしない私なんか私じゃない
 小利口に、賢しげになんて、動いてやんないんだからっ



「リサッ!アンタが私に負ける理由は、アンタが十年に一人の天才騎士だからよっ」



 真っ直ぐに槍の穂先でリサの胸を指し示しながら
 観衆が息を呑んで見守るその焦点で
 フィオナは高らかに、彼女の師を彷彿させるが如く対戦相手の少女騎士を褒め称えながら

 自身の勝利を宣言してのけた。

 フィオナの宣言に、一瞬ざわめきすらも完全に止まった会場。
 その一瞬でもって、フィオナは一気にコンセントレーションを高めた。
 リサへの劣等感も、静馬への罪悪感も、ベルティーユへの嫉妬心も全て削ぎ落とし

 ただ目の前の騎士に、勝利することだけに集中する。

 本当に目の前の天才に、勝てるのだろうかという疑問
 ああまで宣言しながら、負けたらどうしようという不安
 もっと他にいい選択が有ったのではないかという漠然とした後悔

 絡みつき、足を引こうとする思考を迷いなく振り捨て。
 合図の音とともに、もやいを解かれた船のように
 ゆったりと、軽やかに滑り出す。

 先の一本を侵略する火焔とするならば、今のそれは間違いなく森林の穏やかさ。
 リサの仕掛けてくるチェンジ・オブ・ペースにも、心は何ら揺れること無く平静を保ち。
 交差の一点を見抜いて繰り出した槍は、奇しくも二人同時であったのは、出来過ぎであったろうか。

 勢いに乗って攻めくるリサに対し、柳に風とばかりの涼し気なフィオナ。
 普段の二人の態度を、そのまま入れ替えたような奇妙な相関関係に、誰も何も言えぬまま槍は交差し、爆ぜ割れたのは二本とも。
 されど、終焉の鐘が如き、重く響く金属音は一つ。

 否、続いてもう一つ、更に重い音とともに地に衝撃が疾走る。

 何が起こったのか、わからないことが何一つなかった。

 はっきりと全てがわかり、完全に自分の上を行かれただけという結果。
 仕掛けたのは同時でありながら、自分の槍は先に相手に届いたというのに……
 相手の槍によって、自分は馬上より突き落とされたのだ。

 突き出した威力を載せて相手に当たる、ギリギリの間合いで繰り出した。
 タイミングは完璧で、初動はほぼ同時ながらも、自分の方が微かに早かった。
 勝利を確信しつつもそこで緩めず、さらに肩を入れ速さとリーチを増す。

 洗練された無駄のない動きで、最短距離を疾走る槍先
 完全に相手の肩の付け根を捉えたっ、と思った瞬間には自分の体が衝撃で、無理矢理その場に留め置かれ
 ゆっくりと進む時間の中、相手が何をしたのかはっきりと見て取れた。

 自分が捕らえたのは、肩の付け根ではなく左肩で
 先に届いた自分の槍先に逆らわず、弾かれるように相手は上半身を回転させ
 『肩を入れ速さとリーチを増し』た相手の槍先は、自分の胸を貫いたのだ。

 地に墜とされた『天駆ける乙女』は、衝撃で跳ね上がったバイザー越しではなく、はっきりと己を打ち倒した、戦乙女の振り向いた顔を見た。
 そこには、嘲り、失望、蔑み、嫌悪……敗者を見下ろす感情はなく、悪戯っぽい眼をして、ただただ子供のように開け透けの笑顔だけがあり。
 


「私の勝ちだねっ、リサ」



 彼女の言っていた敗因が、どういうことなのか、漸く理解できた。
 ジョストがこんなに楽しい物なのだと、思い出しながら。

 2016.08.12


   

~ Comment ~

NoTitle初感想 

あーうまい、うまいなーもぐもぐもぐもぐ、がつがつがつ、ごっくん
あー静馬さんかっけーなー、フィオナもいい味出してるっていうかみんないい味出してるよなー、ほんっとうにキャラの掘り下げが凄くて本当に何回読み直しても良い、むしろ読み直してまた良さに気づくってゆうか、フィオナの私の騎士って呼び方いいなーとか、キヨタカこの野郎とか思いながらこれはこれでいいなーとか思ったり。
悲恋姫含めもう何回読み直したかわかんないけどもまた必ず読み直しますそれくらい好きです、続き期待しております。
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