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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第七十一幕「清々しきかな騎士の心」

 
 第七十一幕「清々しきかな騎士の心」

 まだ全然完全ではないが、あれがフィオナの切り札だった。
 ベルティーユ風にいうのであれば、リサのチェンジ・オブ・ペースを着想に、その上にフィオナが積み上げてきたものだ。
 そして、フィオナも自覚しているが、練習不足な上に未完成の不完全な、実戦で通用するような代物ではない。

 誰よりもリサ相手には、本当なら使いたくなかった。

 初見の相手なら、まず間違いなく対応できずに決まることは、たった今フィオナが実証して見せた。
 静馬とカイルといった学園生のみならず、ジェイムスまでもがその才を、十年に一人の天才と評価するリサ・エオストレが、なす術もなく落馬したのだ。
 たとえ対峙した天才の名前が、スィーリア・クマーニ・エイントリーと変わったとして、落馬を免れたと断言できるものはおるまい。
 仮に断言した者がいても、それは強弁でしかなく、周りの者は頷かない。どころか、スィーリアにやんわりと否定されたであろう。

 だが、その存在は衆目さらされ、当然ながら次の対戦相手であるノエル、そして勝ち抜けば戦うことになるスィーリアが都合よく見逃してくれる筈もない。
 その技が自分に向けられる二人・・・いや、三人は当然、それ以外の者達とて知覚認識した以上、警戒し何らかの対策を瞬時に模索するのは、最早ジョストに関わる騎士やベグライターにとっては、本能的といってよい反応といえた。
 見てすぐに、誰にでも対策がとれるほどに、穴が有る未完成な欠陥品――できそこないな技ではないが。
 準決勝にまで勝ち残ってくるようなバケモノたちが、それをできないと信じられるほどに、フィオナは能天気になり切れない。

 そして、確信もしている。

 私の勝利を疑いもしない静馬先輩だけど
 新技一つぶら下げただけで優勝できる!なんて言う筈ない
 いや違う、静馬先輩なら絶対にこう言うと

 『目の前に槍持つ騎士がいて、他所を向くということは、勝負の放棄と同義だよフィオナ』

 いつも通りの気障ったらしい仕草で
 飄々と肩をすくめた態度で
 少し困ったような声色で。

 だって、静馬先輩はそれを私に背中でちゃんと教えたから。

 まさか、そんな態度をとらせる気じゃないわよね、フィオナ・ベックフォード。
 アンタの騎士が、騎士廃業してまで開いてくれた道を・・・
 最後の最後まで揺らがず示し、伝え教えてくれたことを忘れて



 余所見しながら通り過ぎようってんじゃないでしょうね!?



 自分自身を叱咤する言葉に奥歯をかみしめ
 フィオナが浮ついた、自身のココロを握りしめる。

 『本気のリサ』から一本とれたくらいで、浮かれてんじゃないわよ
 静馬先輩の片目を奪ったのが、そんな事をする為だったら・・・フィオナ、アンタを八つ裂きにしてやる。
 勝つんでしょ、リサに、ミレイユのお姉さんに、スィーリア先輩に、周りのくだらない目に

 ・・・弱い、私自身に。

「もう諦めたら?膝が笑ってるよリサ?」

 口角を吊り上げて、軽い口調で語りかけながら、フィオナはリサに満面の笑顔を向ける。
 内で吹き荒れる暴風の禍など無いかのように取り繕いながら
 フィオナがしたのは、リサの神経を全力での逆撫で。

 自分の繰り出した凄い必殺技に慢心し
 勝ちが揺らがない圧倒的有利な状況に胡坐をかき
 明らかにリサに対して、上から目線で小馬鹿にした態度をとった。

 遠くから二人のやり取りを、息を飲んで見守っていた観衆は、視線に乗せる怒りを倍増しする。
 水野貴弘も視線に憎悪をのせながら、心の内ではフィオナの慢心を嗤い
 リサにエールを送りながら、そこに気づけと必死に願った。

 しかし、全身に受ける悪意と憎悪で磨かれた針は、フィオナには届かなかった。

 届くはずがないのだフィオナには
 彼女の騎士の守りは鉄壁で
 フィオナは、彼の騎士に絶大な信頼を寄せているのだから。

 誰に誤解されようが、構わずやり遂げた姿を心に刻んでいるのだ。
 ならばもう恐れるものなど何もない
 絶対に彼女の騎士だけは、自分を誤解なんかしないのだから。

 全力で、自分にできる限りのありとあらゆる方法で、対峙する目の前の騎士にぶつかるだけ。

 リサがそれで油断するようなら、その程度の相手だったというだけのこと。
 反発し怒りに視界を狭めてしまったとしても、自分の不明を恥じるだけ。
 フィオナがリサに求め望んでいるのは、『冷静な分析による判断』で。

 それにより、フィオナの挑発が、何らフィオナの得にならないとリサが理解してくれること。
 リサが気づくことは難しく、万人には気付かれず、理解されようもない。
 なぜなら、今勝利を目指して戦っているフィオナにとって、全くのマイナスにしかならない行為であり、目的のために行われたのだから。

 誰が対峙中の相手の騎士に、実力のすべてを発揮させるためになど
 自身が悪名と非難を一身に受けてまで、挑発をしたなど思うだろうか。

 いや、それでも気付くだろう。

 フィオナが唯一の例外として、自分を誤解しないと信じた彼女の騎士
 それからもう一人、その騎士の頭を膝枕している姫の二人だけは。
 フィオナが何でそんな行動に出たのか、その起点にある感情を。

 不意を突いて、リサが何かをする前に、倒して終わりなんて・・・

 怖がって勝負を逃げたような、こんな半端な結末は、たとえ結果的に勝ったとしても、絶対に嫌っ

 全てを出し切ったリサに勝って・・・いや、違う。

 リサに勝って認められることなんて、今はもう望んでない。
 ただ見せたかった、天才騎士に凡人の私が勝利する姿を。
 静馬先輩に、ベルティーユ先輩に、スィーリア先輩に、ミレイユに
 そして、水野貴弘に見せつけてやりたかった。

 私は天才騎士なんかに負けない。

 自分のせいで誰かが騎士の道を絶たれても

 そんなことで折れたり、騎士を放り出したりしない

 だから・・・

「想いも声援も、現実にも結果にも解入は出来ない。
 叩きのめされるのが怖くないなら、かかってきなさいよ天才騎士」

 声高らかに、でありながらも、何処かからかう様ないつものフィオナが。
 真直ぐに突き出した槍の穂先を、対峙する天才騎士の胸に向け。
 口角を吊り上げた攻撃的な笑みを浮かべ、小さく顎をしゃくって見せた。



 * * *



「静馬さんは、騎士であるのに魔法もお使いなさるのね」

 頬に細い指を当てながら、ベルティーユが何処か呆れたような、同時に妙に感心したような調子で、自らの巨大な母性の象徴の陰に半分隠れるような位置にある、静馬の顔へ視線を向けた。
 流石に手術直後の麻酔も抜けきっていない状態だと、ベルティーユに見抜かればらされてしまった為に、アンとエマの二人も、いい加減に普通に座れと文句を口にすることはなく、慎ましく穴が開くほどに鋭い視線で睨み続けるにとどめていたが、これ幸いとばかりに口を開いて出てきたのは。

「山県静馬に魔法が使えても、なぁーんにも不思議じゃぁ有りませんよベルティーユ様。
 そいつは『騎士』じゃなくて『遊び人』ですから、転職すると魔法が使えるようになるんです、日本では」

 アンの発言に、流石のエマも一瞬にして顔を青ざめさせる。
 ベルティーユは大抵のことに対して、怒ったりはしないのだが、『山県静馬が騎士である』ということを侮辱とともに否定され、笑って流すことはないだろう。

 アンに非難の視線を向ける暇も惜しんで、慌てて口を挟んでなんとか話題を変えようと画策するエマだったが、ベルティーユのいつも通りの笑顔に浮かんだ冷たい視線に、言葉を飲み込んだ。
 エマが気づいた直後に、アンもベルティーユの視線の冷たさに気づいたものの、こちらはエマとは違い何ら焦ることなく、大仰に一つため息をつく。

「だから騎士を廃業した山県静馬が、役立たずってことにならないんですよねぇ。
 ただのナンパ男だったら、ベルティーユ様から何としても遠ざけてやろうと思っていたのに
 ・・・本当残念だわ」

「魔法を使えるというベルティーユ嬢の言葉を、誰かが否定してくれると私は期待していたが」

 もっとも簡単に否定できるであろう部分を、あっさりと受け入れられたどころか、それを前提としたようなアンのトンデモな言葉に、さすがの静馬も肩をすくめただけでは流せ無かったのか。
 顔に浮かんだ笑みには、ベルティーユと同じような、呆れと感心の色合いが混じっている。

 何より、アンの言葉に何ら反応しないことにより、『騎士でない』と言われたことも、静馬自身は何ら侮辱と感じていないことを示してしまい。
 それによりベルティーユがアンを非難することを封じ、険悪な雰囲気になることを、上品にさっと脇によけてしまった。
 
「御婦人の期待に添えず、大変ふがいないのだけれど。
 残念ながら賢者になれるほど、私は賢くも枯れてもいないので、魔法は使えない平凡な男のままです」

 ベルティーユに膝枕をされた、寝転ばった態勢のまま右手を胸に当て、大仰に眉をしかめて見せる静馬に。
 見守っていたベルティーユ、アン、エマの三人はそろって吹き出し。
 それによって、張り詰めていたような嫌な空気は、完全に払拭されてしまう。

「山県静馬、貴方が賢者ではないということはたった今、自身が証明しましたが。
 同時に魔法使いであるというベルティーユ様の意見を、今の貴方の行動が補強してしまったのはわかっていますか?」

 頭痛にでも悩まされているのか、エマが額に手を当てながら、じとっとした目で静馬を見据えるも。
 当の静馬はといえば、目を開けてすらいないのだから、そんな周りの微妙な表情など知る由もない。

「エマまでも、私を魔法使いにしたがるのかい?
 もし私が本当に魔法が使えるのなら、今ここで君たちに薔薇の花束でも差し出しているだろうに」

 静馬の言葉にアンがあっさりと説得され、大きく頷く姿に残る二人が噴き出しかかるのを、今度は何とか耐え、エマの眉間に刻まれている溝が一層深まる。
 やんわりとベルティーユは、エマにそれを指摘してやめさせ、一度呼吸を整えてから静馬に向き直る。

「フィオナが変わりました。いえ変わったというよりは、いつものフィオナに戻ったの方が近いのですけれど。私には今までのフィオナとは、やはり違って見えます。
 これは静馬さんの魔法という他ないでしょう?」

 ベルティーユにそうして、精神的に真正面から向き直られてしまえば、静馬がそれを躱せる筈もなく。
 小さなため息とともに、ゆるく右手の人差し指を一本立てて見せる。

「フィオナを変えたのは、私一人ではないよ。
 その内の一人は間違いなく貴女だ、我が麗しのベルティーユ嬢」

「それは確かにそうではあるのでしょうけれど・・・
 いえ静馬さんがそう仰るのでしたら、きっとそうなのでしょうね」

 ベルティーユには、静馬が自分の影響を謙遜しているのではなく。
 ましてや、実際にフィオナへ影響を与えた多寡を言っているのでもなく。
 誰かによる影響全てより、受け入れ成長に転換したフィオナこそが、称えられるべきである。
 そう言っているのだと、解り難い言葉の奥にある、静馬の心を読み解いた。

 でも、だからこそ私は、静馬さんの魔法だと言いたいのです。

 しかし、それを殿方に解れというのは、少々難しいのかしらね。

 思いのほかあっさりとベルティーユが折れたことに、アンとエマ――ベルティーユと付き合いの長いの二人は少し驚き、静馬に向ける視線には訝しむよりも嫉妬がきつく漂う。
 静馬とベルティーユの間に流れる空気が穏やかで、思考にするのも嫌だが、まるで長年連れ添ってきた夫婦のように感じてしまったのだ。

「ベルティーユ様、山県静馬の代わりにあの子を応援するんでしょ?でしたら下ではなく前を向いてください。
 多分、次か多くても二回で決める筈です」

 アンのちょっと不機嫌そうな声に、わずかに苦みの混じった笑みを返しながらベルティーユは頷き返し。
 すぐさま発言に違和感を覚え、前に向けかけた視線をアンの方へと投げかける。

「騎士じゃなくたって、いえ騎士じゃなくベグライターだからこそわかることです」
 
 ベルティーユの無言の問い掛けに、返事を返したのはアンではなくエマ。
 その答えにアンも同意を示すように無言でうなずきながら、軽く肘でエマを突いて言葉を続けるよう促す。

「あれだけ無茶な急加速をさせたなら、馬には予想以上の負担があります。
 リサはショックから立ち直っていないので気づけないでしょうが、乗っているあの子は、どこか故障でもしていないかと、とても不安なはずです」

 エマの指摘に、心臓が一度大きくなるのをベルティーユははっきりと感じた。
 フィオナの披露した技の、派手な部分に自分の目が引き寄せられ、その影となる本当にみるべきところを見逃していた。
 何より、冷静な視点でそれを見抜いたベグライターが、自分には二人もいるが。
 フィオナについているのは、ベグライターという役割ではあるものの、実際は槍を手渡すだけの役しかしない、学園に宛がわれた経験の浅い一年生。

 ベルティーユは、視線をすぐにフィオナへと向け直しながら、両の手を組み心の内で強く祈った。
 祈った内容は、フィオナの勝利でも、怪我をしないようにでもなく、事故が起きませんようにでもない。
 何かが起こったとしても、それはフィオナの決断による結果で、それをすり替えようとは思わない。

 フィオナが後悔をするような結果になりませんように。

 ただただそれだけを、麗しの乙女は義妹を見つめながら、心の底から祈るのだった。

 2016.04.10

 ☆ ☆ ☆

 続きを待っていただいている方には、大変お待たせしてしまい申し訳ない限りです。
 最近個人的なことにより、身の回りの環境が少し変化し、時間が捻出できずにいたため
 泣く泣くエイプリールフールもスルーせざるを得ない状態でした。

 今後とも時間の捻出は厳しいかとは思いますが、続きを放棄する気は全くないので
 気長にお持ちいただけましたら幸いです。


   

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