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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第七十幕「お姫様は戦うに槍を用いず」

 
 第七十幕「お姫様は戦うに槍を用いず」

 鼻から息を吸い込み、口から細く息を吐きだす。
 絞り出すように深く、錐先のように細く、シャボンの玉に触れるように柔らかく。
 見た目をそのままに心をリセットしたフィオナは、心の中で天敵に悪態をぶつける。

 やっぱりそうだ、あの詐欺師めっ

 あの男のたった一言で・・・世界は一変してしまった。

 気付いてしまったのだ、自分が冷静になって相手のスキを見抜いたと思っていたが。
 なんのことはない、フィオナもまたリサに負けぬほど、緊張で身体に力が入りすぎていて。
 それが一本目、リサの怯えによる予想外な反応に槍の軌道を修正もできず、フェザーズフライで決めきれなかった原因なのだと。

 つまり、前回あった心の余裕が今のフィオナにはなく。
 本人が自覚していないことまでをも、来場直後のあのナンパ男は見抜き。
 試合中の騎士にかけるべきではない、非難や野次といったものに分類される言葉ではなく――しかしフィオナであれば決して聞き逃さない言葉をもって呼びかけ。

 きっちりフィオナに、心のリセットをさせてのけたという事実に。

 言い換えよう、フィオナの騎士は彼女のピンチに颯爽と現れ。
 姫である彼女を危機的状況からすんなりと救い出し
 のみならず、目の前にある障害を鎧袖一触討ち倒して

 フィオナの前に、道を開いてのけた。

 その手段に絶句させられ、思い出したくもないほどの羞恥心を煽られ。
 全くこれっぽっちも、フィオナに負い目や感謝の心を植え付けずに。
 誰が見ても聞いても、欠片も格好良くはなく、少しも颯爽としていない、胡散臭さを身に纏ったまま飄々と。

「そういうことするから、『たった一年なのに完璧を求めても良い』んじゃないかって勘違いするんでしょ、静馬先輩」

 幼い外見に似合わぬ深いため息を漏らしつつも、フィオナは自然にほほが緩んでくるのを自覚する。
 なによ、カッコいいじゃない・・・ちょっとだけ。
 小さく鼻を鳴らしながら、無理にも不機嫌そうな表情を作っても、頬の赤味は消える気配はなく、隠すように慌ててバイザーを下す。

 リサが何をしようが関係ない、私は私のジョストをする!・・・って、この前までの私ならばここで思ってた。

 でもそれじゃダメなんだ、ジョストは相手も槍を持ってる。

 相手のことを無視して、自分が全力を出せばいいなんて言うのは、全力でも正々堂々でもなくて、ただの甘え。
 自分はやるだけやったっていう、自己満足の言い訳にすらなっていない言い訳、自己欺瞞だ。
 相手の騎士が何をしようが、すべてを受け止めた上で、自分ができることをやり遂げる。

 私の憧れの人はそうした、私の騎士もそうしてやり遂げ、私を騎士としてこの場に立たせてくれた。

 置いてかれる訳には行かないのよ、私だけっ



 それはまるで、穏やかな春の陽差しのような疾風だった。



 開始の合図とともに、相棒である彼女の翼に掛けるべき声も出さず
 ただ静かに流れだしたフィオナの姿は、さながら遠乗りでもするようにゆったりと静かで
 一度は中断され他試合の再開に、観衆が固唾を飲んで見守っていた肩からこもり過ぎた力を抜き去り、唇からは安堵の吐息を漏れ出させる。



 瞬間、フィオナの姿が消えた。



 彼女の翼はフィオナからの何の合図もなしに、完全に彼女の要求を見抜き、完璧に彼女の要望を実現する。

 瞬時加速を幾重にも重ねた、一足ごとに速度を倍増しに、完全に想定外の遠距離からの一撃離脱。

 チェンジ・オブ・ペースだ、そうとしか言いようがなく。
 事実はまさに言葉のままであるし、定義的にもそう分類されるのは間違いない。
 だが目撃した観衆、審判、対峙したリサも、頷かずそう呼ぶことを拒絶するだろう。

 迫る槍先に焦りや恐怖を感じる事すらできず。
 リサには一体何が起きたのか、全く理解もできず。
 重く燻ぶる様な残響は長と居座り、遅れて我に返った観衆の眼が見たのは、地上に横たわるリサの姿。



 そして、根元近くまで砕けた槍を手に馬上で佇む、白い靄に包まれた少女騎士の姿だった。



「どうやらフィオナの勝ちのようだね」

 静馬の静かな声は、1ラウンド目をフィオナが取ったことを示す旗が上がるよりも先に流れる。
 ええ、とごく自然に返したのはベルティーユだけ、アンもエマもいや他の誰にも返事をするどころか、言葉を紡ぎだすような余裕はなかった。

 思考回路は、事実認識と原因認識の言葉で完全に渋滞しており。
 静馬が両目――片眼は二度と開くことはないだろう――を閉ざしたまま、ベルティーユの腿に頭をのせて身を横たえた状態で。
 旗どころかフィオナの姿すら見ていないという事実にも、頭に疑問が浮かぶ程の隙間もない。

「麗しの乙女に膝枕をされながら、女神の勝利に立ち会える。今日は私の人生最良の日かもしれない」

 いつも通りに飄々と気障ったらしい言葉を紡ぐ静馬に、見えぬと解っていながらもベルティーユは、柔らかな微笑みと慈しむような眼差しを向け、ゆったりと頷き返す。
 片目を失った静馬も、その事実を察しているベルティーユにも、表情に陰りはなく、空気に悲壮感が混じることはない。
 ベルティーユの細く繊細な指先が、静馬の額に張り付く髪をそっと弄い、小さく楽し気な笑い声を漏らす様に、ようやく周りが恥ずかしそうに頬を赤らめながら、知らず二人に固定していた視線を各々そらしていく。

「そんな日に、一体君はなんの用かな水野貴弘」

 眼を開けず身を起こそうともせず、学園屈指の美女に膝枕をされたまま、静馬は唯一視線をそらさず自分を睨み続ける相手へと声をかける。

「君がいるべきは此処ではなく、リサの所だと思うが?あれはただの落馬ではない」

「それを禁じたのは山県、お前とフィオナだ。
 そしてもう一つのほうも答えはノーだな、リサはこんなところで諦めない」

 まるで貴弘の言葉に応えるかのように、玲奈が美桜が茜がカイルが、立ち上がろうともがくリサへと激励の言葉を大声で投げかけるのが遠く聞こえる。
 静馬は己が言葉を貴弘に理解されない事に軽く肩をすくめ、やれやれと言わんばかりに首を振って見せた。
 ベルティーユがそっと静馬の頬に手を添えて、それ以上首を振るのを止めれば、当然ながら静馬は逆らうそぶりも見せずに黙って従う。

「それを、教えに来てくれたのかい」

 いや、そうじゃない・・・貴弘の俯き噛み殺した様な声は観声に溺れ、それでも静馬はそれを掬い上げる。

 貴弘は己の中で渦巻く感情と言葉を、完全に持て余していた。
 準備していた言うべき言葉も取るべき態度も、此処に来て静馬の姿を見た瞬間霧散し
 一体目の前の男に、如何ぶつければいいのかが、解らなくなってしまったのだ。

「私はカイルに、来年この大会を優勝するのはフィオナだと以前言った」

 黙り込む貴弘の代わりに、静馬は全く関係のないことを突然話だし、周囲で耳を欹てていた者達は、完全に虚を突かれた。
 取っ組み合いの喧嘩でも始まりそうな張り詰めた空気ではあるものの、対峙している内の片方が静馬という時点で、周りから様子を伺って居たもの達は、その選択肢だけはないと一種信頼していたが。
 口論、少なくとも一方的に片方が――いや、貴弘が静馬を――怒鳴りつけるのではないか、という位には悪い空気に身構えていた所に、突然の惚気としか言えない発言である。

 貴弘が真剣な顔で黙り込む程に、言いにくい言葉を伝えに来たのだ。
 それなのに黙って待ってやる所か、そんなふざけた態度をとるとは、と静馬に非難の眼を向ける者すらいる。
 だがそんな非難の視線も雰囲気もどこ吹く風、静馬は右目を開いて貴弘をまっすぐに見据えるや、口角を吊り上げて口を開いた。



「つまり、その決勝の相手に君がなってくれる・・・そういうことだろう?」



 誰も、静馬の声が耳に届いた誰にも、その言葉を理解できなかった。

 だが、ただ一人貴弘だけが、誤解なく紛れなく理解する。

 たった一言、静馬がそう告げただけで――

 静馬の騎士生命を、故意では無いと云えど断ち切っておきながら。
 静馬が槍を持たぬ事を、知らぬとは言え、自分を起因としたことであるにもかかわらず。
 謝罪するどころか、本人に向かってではなくとも否定的な言葉や態度を、臆面も無く表していた厚顔無恥を

 先の決闘によって、過去の試合が自身の敗北であったと眼前に突き付け。
 その上で敗者には何の価値もないという師の言葉を、師自身の態度で否定させ『無価値である自分』という言い訳のよりどころを奪い去ると同時に、誇りある敗者は無価値などではないと、清々しいほど鮮烈に、高らかに宣言され救われたココロと感謝の念

 もう二度と事実から目をそらさず、勝利も敗北も功も罪も賞も罰も、全てから逃げず受け止め立ち向かい背負う決意。
 最後のジョストだというのに、ジョストでの勝利を擲ち、嘲笑を受けることも受け流し、一人の少女騎士のために、最強の騎士を打ち破って見せた・・・
 そう皆に足りない理解をされ、それを否定しようともしない高潔さに、口惜しさと尊崇の念に焼かれる

 ――全てを、いつも通りの飄々とした態度でありながら、わかったと、赦され受け入れたのだ。

 男として負けたという思い
 違うんだっ、と大声で叫び皆に説明したい衝動
 だがそれを、止めはしないだろうが、目前の男が嫌がるであろうと理解しているからこそ
 貴弘は睨むような険しい表情のまま、掛ける言葉に迷い続ける。

 カイルが教えてくれなければ、今も気づけなかった。

 他の少女騎士や姫に・・・『女性』に助けられても、貴弘が救われることはないと静馬に言われ、カイルはベグライターの仕事を試合中に放棄してまで、貴弘のもとへと走り。
 目の前の現実から目を反らそうとする、貴弘の首根っこを掴まえるように前を向かせ。
 貴弘の眼に彼の師が敗北するさまを、刻み付けた。

 決闘の原因となった相手だというのに
 騎士生命を絶った憎むべき仇であるはずなのに
 過去の一点、静馬に負けたあの時に繋がれていた自分を、静馬は救い解き放ったのだ



 ユリアーヌスという、強大にして無比な竜に囚われた姫として。



 その静馬が、いま自分に向けて
 来年はフィオナと戦うのだろう?と・・・
 騎士として再び立つ事を、すなわち自分を騎士としてまだ見てくれた

「私がいまさら言うまでもないことだが・・・水野、君は天才騎士だ。
 だが、たかが天才騎士では、私の勝利の女神には勝てんよ。
 それは、この試合を見て居た君にもわかるのではないかな?」

 自然と古傷である故障した膝に目を向け、唇をかみしめる貴弘。
 静馬は、違うそうではないと首を振って見せ。
 当然ながらそれも、ベルティーユの柔らかな手によって阻止される。

「殿方同士のお話に、口を挟む様な真似をして申し訳ないですが。
 水野さん、貴方は私のことを『話していると疲れる馬鹿な女』と感じているでしょう?」

 唐突に投げ入れられたベルティーユの言葉に、不意を突かれた方は言葉を逸らす事も出来ず、思わず口ごもってしまう。
 それこそがまごう事なき肯定の現れで、アンとエマは貴弘の反応に剣呑な目を向けるが、問いかけたベルティーユ本人は、怒るでなく微笑んで見せた。

「怒ってなどおりません、だから否定の言葉を慌てて探さずとも良いのです。
 ただ私と貴方では、そうですねチャンネルが少し違い、私の言葉を真直ぐに受け止めがたく。
 貴方が受け止めようとすると、御自身の理解できる様に変換する手間が発生するということなのですから」

 アンとエマの二人が文句や非難を口にするより前に、ベルティーユ本人がさらりと笑い流してしまえば、さすがに二人は口を閉ざさざるを得ず。
 貴弘もまた、何か弁解や言い訳で取り繕う事も出来ない。
 そして、ベルティーユが一体何を言っているのかわからないという表情の貴弘に、ベルティーユの笑みが一層深まる。

「静馬さんは貴方を、侮っているのでも見下しているのでもなく、ただ純粋にフィオナを自慢しているだけですのよ?
 だから、そこは騎士として突っぱねて差し上げねば、可哀想というものです」

 キョトンとした表情でベルティーユを見つめる貴弘に向かい、では僭越ながら私がと断りを入れたかとおもうや、おもむろにベルティーユは高笑いをし。

「水野さん、貴方やリサではフィオナには勝てませんわよ。
 何しろフィオナの師匠は、貴方の師匠に勝った静馬さんですから!」

 皆が見守る中で、豊かな胸を見せつけるように背筋をピンと伸ばし、声高らかに宣言して見せた。

 一瞬あっけにとられたものの、ようやくベルティーユが何を言っているのか。
 突飛なその行動が、何をしているのかを理解し、貴弘もまた踵を揃え胸を張って、ベンチに座るベルティーユを真直ぐに見据える。

「俺は確かに錆び付いた騎士だ、でも一年後の大会で必ず優勝してみせる」

 ブランクも古傷も全てを乗り越えて、勝てる筈のない相手に勝利して見せた騎士がいるのだから。

 貴弘が胸のうちで付け加えた言葉が聞こえたかのように静馬は肩をすくめ、ベルティーユは華のように鮮やかに笑みこぼす。
 そんな三人の様子をジトーッとした目で見ていたアンが、大きくため息を一つ。

「ところでベルティーユ様は、来年その二人やフィオナには勝てるんですか?」

 リサには今年負けましたけど、と止めまで刺しに来るアン。
 流石にそれは如何に親しき仲であろうが、口にすべき言葉ではないと、エマに睨まれアンも思わず腰が引ける。
 しかし、二人の無言のやり取りは、当然ながら高笑いとともに一蹴される。

「当然ですわっ、スィーリア様の卒業した来年、私が美と武の二冠を引き継がず誰が引き継げるというのです」

 全く根拠も説明にもならぬ言葉ながら、一点の曇りもない笑顔で胸を張り、自信満々に言い切るベルティーユに、貴弘はもちろんのことアンとエマですら口を開け呆然と眺めるなか。
 ただ一人静馬だけが、当然だとばかりに一人頷き。

「ベルティーユ嬢は、やはり我が麗しの君で安心した」

「もちろん、そうでしてよ」

 ベルティーユの笑みが、大輪の薔薇のように艶やかさを増し。

「静馬さんは私とフィオナの騎士です、貴方が静馬さんを横取りなんて許しません。
 ですから貴方はお姫様から、貴方のお姫様を救う騎士にさっさと転職なさって、今すぐそちらに向かってくださいませ」

 妙に迫力のある笑顔で、そう貴弘に笑いかけ追い払った。

 2016.03.07



☆ ☆ ☆



 戦闘がなかなか進まないのは、悲恋姫の頃からの私の悪癖というか弱点です。
 解っていますが、直す気もあまりないので、ずっとこのままでしょう。
 魅力的なキャラが、魅力を発揮できずに埋もれていくのが、どうにももったいないような気がして。


   

~ Comment ~

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Re: 鍵付きコメント様 

コメントに感謝を。

そして返信が遅くなりましたことに謝罪を。
読んで頂けこうして感想を頂けた事が嬉しくてなりません。

忙しく時間がないを言い訳に作風を変えたりせず、可能な限り私らしく進んでまいりたいと思っております。
今後ともご愛顧いただけましたら、嬉しい限りです。
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