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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第六十八幕「捻くれ者と正直者」

 
 第六十八幕「捻くれ者と正直者」

 完全な静止状態から、合図とともに弾丸のように飛び出す。

 試合開始後一秒と必要せず、見守る観衆全員に天才という言葉がどういう意味を持つものだったかを、リサは思い出させた。
 静から動へと一瞬で切り替わったにも関わらず、その移行は水が流れるように自然で、駆け抜ける速さは大気を焦がす矢の軌跡のように鋭い。

 それをさも当然のごとく両立させてしまうことが、どれ程困難で有り得ない業であるのかは、直接的には携わらぬ一般科の学生ですらも容易に感じ取れた。
 ましてや、常に騎士の動きに目を配り、パートナーのあるいは対戦相手のそこに瑕がないかと、それこそ何も見逃すまいと目を光らせているベグライター科の生徒はもちろんのこと
 日々馬に乗り技量を磨き続ける騎士科の生徒であれば、見惚れつつも臍を噛む思いで胸の内を煮えたぎらせるに十分な――品のない例えをあえてするのであれば――それだけで金を取れるほどの代物であった。

 新入生の身でありながらベルティーユ・アルチュセール、龍造寺茜という優勝候補を打ち破って準決勝に駒を進めた彼女に向かい、『運良く』などという言葉を観衆の口の中に押し戻す。
 リサはそれを、『たった一動作で』成し遂げてしまったと言い換えてもいい。
 感心とその才に対する憧れ、そして嫉妬の乗ったため息が、会場中から呆と流れだす。

 切り崩されていく二人の少女騎士の間に立ちはだかる距離、それが瞬く間にゼロへと落ち進んでいく中で、槍が交わされる予測位置が、二人の丁度中間であることに気付けたものは居ない。

 誰もがリサの動きに注目し魅了されていた、フィオナを応援していたスィーリアやベルティーユですら目を奪われ、完全にフィオナの初動を見逃していたのだから。
 やや有って我に返り視線を上げた二人が、丁度中間地点でフィオナとリサが激突すると見て取った瞬間、今にも舌打ちでもしそうな、貴族令嬢とは思えぬ程に苦い表情を隠しきれず浮かばせたのを、気配からミレイユは感じ取り遅れて悟る。

 中間地点で二人がぶつかるということは、一体どういうことなのかを。

 結論から言えば、残念ながらミレイユ達のそれは誤解であった。
 フィオナの初動は見事なものでは有った、だがリサの――天才のそれには及ばない。
 では何故リサが先んじた筈の一歩を、フィオナが詰め、追いつき並べたのか。

 原因は開始前にフィオナが見抜いた、リサの攻め気故。

 リサの踏み切りの一歩目は完璧だった。
 まさに天与の才能が故になし得たそれは、一種芸術の域にまで達すると言わざるをえない程に。
 ただ・・・余りに完璧過ぎた。

 ありとあらゆるファクターに於いて、リサが完璧であったのなら、それは何も問題ない。
 しかし、在りし日に静馬がミレイユに説明したように
 そして、今まさにフィオナが見抜いたように
 
 その天与の才が有るのは、不安定な思春期の少女のココロという土台の上。

 焦燥から胴を創ることを疎かにしたリサが、崩れた肉体と精神のバランスを立て直すのに、その天才が生み出した一歩分の優位という、絶対的で貴重なアドバンテージを吐き出したということだ。
 結果、両者ともに踏破した距離は同じ。
 だというのに、両者の内心では大きな差ができていた。

 そんな不安そうな目で。
 今にも泣き出しそうな、追い詰められた顔して。
 気ばかり焦って力み過ぎた体で。



 戦えると思ってるのリサ?



 交差の瞬間がせまり、空気は硬質化し時の進みが遅くなる。
 二人の制空圏はほぼ同じ、何方が先に仕掛けるか、フェイントか?届くのか?
 心理の綱引きが一気に最高潮に達する瞬間、観衆の集中も同様に高まり、誰もが息を呑んで見守る。

「っつぇあああぁっ」

 少女騎士達のジョストで、普通聞こえる華やかさとはおよそ正反対の、腹の底から搾り出された唸り声のような低い気合とともに、先手を取ったのはフィオナ。
 槍は大気を焼き焦がすような鋭さをもって、一直線に疾走る。
 瞬間、ギクリと体をこわばらせたリサの手が無意識に手綱を引き、呼応して馬脚が緩む。

 それが結果的にリサを救った。

 経験に裏打ちされた感覚により繰り出されたフィオナの槍は、未来予想地点へ向けられており、リサのヘルムに飾った羽飾りを掠めたものの揺らすにとどまる。
 完全に決まったものと確信していたフィオナは、一瞬茫然としたものの、短く舌打ちをしつつもすぐさま立て直し、反撃に繰り出されたリサの槍を身を捻って躱すも、いつもの鋭さに欠けたリサの震える槍先が運悪く微かに腕を掠めた。
 審判は勿論それを見逃さず、結果だけを見ればリサがフィオナのフェザーズフライを躱し、反撃を決めたという事実だけが残る。

 実況の東雲嬢は当然だが一般科の生徒であるため、出た結果を大仰に捲し立て、煽られた観衆は天才の復活に大いに沸き立った。

 が、二人の少女騎士達は、観衆達の熱狂と酷く温度差のある空気を間に挟んで、自陣へと向かいすれ違う中、短く言葉をかわす。

「何がカウンターよ、単にリサが臆病風に吹かれて竦んだだけでしょ」

 バイザーを跳ね上げたフィオナは、鼻で笑いながらリサに蔑んだ笑いを向けた。

 確かにフィオナの顔に浮かんだ表情は笑いと言える、だが眼だけが笑っておらず。
 そこに浮かんでいる感情は、軽蔑と怒り。

「あぁーあ、もう見てらんない。
 そんなみっともない姿晒すなら、騎士止めなよリサ……迷惑だし、不愉快」

 心を抉るような辛辣な物言いが、何の感情から押し上げられたのかを、フィオナは自覚していない。
 もし此処に彼女が最も嫌悪し、でありながら最も信じる男が居なかったのは、フィオナの不幸だったのか、救いだったのか。
 件の男がその言葉を聞いたのなら、間違いなくこう言うであろうから。

 『ジョストの最中だというのに、相手の騎士に愛のを囁くものではないよフィオナ』と



 ☆ ☆ ☆



 意味ありげな視線を隣のスィーリアから感じ、ゆったりとした微笑みを向ける。
 その眦に僅かに苦味が混じって見えるのは、スィーリアからの視線に僅かに誂いの色とともに、賞賛の気持ちが滲んでいるからだ。
 ベルティーユの笑みに混じった感情は苦味ではなく、彼女にしては本当に珍しいことながら、照れであった。
 証拠に彼女の親友を自認する二人はといえば、それを見て驚きに目を丸くしている。

「流石はベルティーユ、どうやら私の負けようだな」

 そんなことはありませんっ、などとベルティーユは言わなかった。
 気品と誇りを胸に背筋を伸ばし、ただ穏やかに艶然と微笑みを湛えながら、学園最強騎士にして公爵家令嬢に柔らかく微笑み返すだけ。
 自ら負けを認めた相手に、殊更自分の勝利をひけらかす下品を厭いながらも、自らのの勝利に胸を張ることによって、敗れた相手をも護ってみせる。
 ベルティーユ・アルチュセールという少女の在りように、スィーリアはただ細く笑みとともに息を吐きだし……故に、そこに言葉が更に投げかけられ、その内容を一瞬理解できずに、しばし無言で相手を見つめ返した。

「私は、スィーリア様に負けぬほどに気高く有るつもりです。
 庭園に咲く薔薇と夜空に輝く星、その美しさを比べてどちらが上かを競うなど、無粋というものですわ」

 なるほど、これはレッドが『麗しの』などと絶賛する訳だ。

 胸の内で知らず呟く自分の言葉に、スィーリアは真実敗北を実感し、噛みしめる。

「「周りに美女が多いほど、人生は幸福で鮮やかに彩られることだし」と山県静馬なら……」

 アンの混ぜっ返す言葉は、綺麗に背後から掛けられた男の声に重なり、声の主を全員が振り返る。

「流石はアン、これ程の理解者を得た私は幸せものだ」

 いつもの調子で軽く肩を竦めてみせる飄々とした態度も
 相変わらずの気障ったらしいとも感じる言い回しも
 そのどちらもが凡庸な見た目に全く似合っていないのも

 実に普段通りの静馬だが、振り返った全員の目から笑いが流れ落ち、ミレイユに至っては顔から血の気までもが抜け落ちる。

「……騎士シズマ様」

 呼びかけ、そこで言葉をつまらせてしまう程ショックを受けたミレイユの様子に、車椅子の直ぐ側までゆったりと歩み寄り、右手を胸に当てながら片膝をついて目線を合わせる。
 そのままほっそりとした小さな手を取り、指先に軽く唇を触れさせた静馬は、優しい笑みを目に浮かべつつ真っ直ぐにミレイユを見つめた。

「誓いを果たしに参りました、ミレイユ姫。
 貴女にまだ騎士と呼ばれたことが、どれ程喜ばしく誇らしいと感じているか。
 それをお伝えできぬ我が身の非才をお許し下さい」

「いいえ、いいえっ貴方ほどの騎士は居ません。
 シズマ様に姫と扱ってもらえる私こそ、それがどれ程誇らしいか」

 潤んだ瞳で、そっと握られていない手を静馬の頬へと差し伸べ、細く白い指先が頬に届く寸前、やけに大きく響いた咳払いで我に返り、火傷でもしたようにミレイユは手を引っ込めた。

「これは失礼、今日はミレイユ姫に私の友人を紹介したく参上しました」

 静馬がそっと誘導する手の先に視線を向け、今度はミレイユのみならず、全員が一瞬にして顔から血の気が抜ける。
 慌てて立ち上がりかけるスィーリアとベルティーユのすがたに、アンとエマも今がどういう状態かを悟り腰を浮かせかけるのに、皆の目が向けられている人物は鷹揚に、白手袋に包まれた手の平でその必要はないと示してのけた。

「お父様!?これは一体……」

 二人の男の間を、何度も視線を走らせるミレイユに、静馬は楽しそうに笑みを浮かべたが、もう一人の男・アスコット卿グレイトフルは、相変わらずの仏頂面のままわずかに眉をしかめてみせる。
 ミレイユが驚愕するのも当然、ミレイユとノエル姉妹がジョストに関わることを、グレイトフルは親の仇でもあるかのように嫌い、不快感を露わにしてきたのだ。
 それが、こうして準決勝の第二試合――決勝でノエルが戦う相手が決まる試合に、姿を表したのだから。

「どう言うもこう言うもない、この男が……」

 意味ありげな右目だけの視線を静馬に向けられ、アスコット卿が殊更苦々しげな表情を浮かべ、悔しそうに咳払いを一つ。

「シズマが勝負で得た権利を、ゴリ押ししてきたのだ」

 苦虫を噛み潰したようなグレイトフルの表情に、静馬という人物をよく理解している二人の貴族令嬢は、直ぐにもどういうことか思い至り。
 『ご愁傷さまです』『お気の毒様です』と、慰めの言葉を苦笑いの表情で口にする。

「権利など私はゴリ推していませんよ。こうして静馬、グレイトフルと名で呼び合える間柄で、ただお願いをしただけ違いますか?」

 侯爵家現当主を前に、常変わらぬ飄々とした口調のまま、あまつさえ名を呼び捨てにしてのけた静馬に、声の聞こえる範囲の全員が真っ青になったものの、貴族令嬢の二人はついには耐え切れずに吹き出した。

「あぁレッドだ、まったくもってお前は、何処までいっても何があってもレッドのままだ。
 左眼を犠牲に、フィオナを救った……だけではなかったのだな」

「その言い方は、少々雅さに欠けるというものだよスィーリア嬢」

 ガーゼを抑える眼帯で、隠されていない方の目だけを向けられ、ベルティーユが頷いて賛同しながら華のように微笑んだ。

「天使のような少女が、二人の男性の友情を繋ぐ橋渡しとなったのですわ」

 その一言で、ベルティーユは『本当に正確に』理解していることを示し、静馬はといえば軽く肩をすくめるだけ。

 ミレイユが貴族令嬢でありながら、供も連れずにお忍びで出歩き、その後ノエルとの会話から侯爵家の内情を静馬が読み取ったことも。
 ユリアーヌスとの決闘で、静馬が抜け目なくグレイトフルに勝負を仕掛けたことも。
 その勝負によって、静馬がグレイトフルに求めたのが、『ノエルがジョストをする自由』ではなく、『私を貴方の友人にして欲しい』などという、喫驚な言葉であったことも。

 全てわかっておりますのよ、静馬さん?

 ベルティーユは言葉では何も言わず、大輪の薔薇のような笑みを艶やかに向けるだけ。

「我が麗しのベルティーユ嬢は、明日もそんなに麗しいのですか?」

「そんなことはありません。今日のままでしたら、貴方に置いて行かれてしまいますもの」

 普段よりどこか子供っぽい表情のベルティーユの笑顔を見て、アンとエマも妙な表情を顔に浮かべつつも、二人の会話に口を挟むことはない。
 わかっているのだ、そんな顔をベルティーユから引き出してのけるのは、この眼の前に居る気障ったらしくしか聞こえない言葉を吐き、軽薄にしか見えない態度を常に取り続ける男だけで。
 そのことで嫉妬に駆られ八つ当たりをしようと、山県静馬は難なくそれをかわしてのけるのだと。

「ミレイユ、私が此処にいては学生が落ち着いて試合を見ることが出来ん。
 共に応援するのなら、しかるべき場所へ収まるべきだろう」

 二人の代わりに、非常にげんなりした表情を浮かべたグレイトフルが、止まってしまっている試合を気にかけ、ミレイユに貴賓席への移動を促す。
 グレイトフルの言には一理も二理もある。
 例えば静馬であれば、全く普段と変わらぬ態度で居るのは想像に難くはなく、事実今もそうであるが。
 一般のそれも学生が侯爵家当主の直ぐ横にいれば、野次は元より大声の歓声ですら躊躇われるのだ。

「スィーリア嬢もそろそろ準備に向かうべきではないかな。
 決勝後にインターバルが有るとはいえ、そこで慌てて鎧を着込んで、勝てる相手で無いだろうね」

 挑戦者がフィオナとノエルのどちらになるとしても、去年のような余裕はない。
 静馬はフィオナを騎士として鍛え上げ、そのフィオナは今まさにリサを相手取り、完全に優位に立っているのだ。
 静馬に言外でそう言われたと悟り、スィーリアは以前感じた事実を思い出し、強烈に痛感させられる。

 静馬は本気で私を倒しに来ている、倒せるだけの騎士にフィオナを鍛えあげて。

 故に強張ったスィーリアの耳に届いた
 静馬の続く言葉は
 スィーリアのココロを、一瞬にして空白へと染め上げる

「あのフィオナ相手なら、貴女に負けはないよスィーリア嬢。
 型に押し込められ感情を抑制し、冷静な計算によって勝利に邁進する……全くもってフィオナらしくない。
 故にスィーリア嬢、そしてミレイユ姫及びグレイトフル氏には申し訳ないが、我が女神に真なる姿を取り戻してもらう。
 何しろ私は、彼女の騎士なので」

 そう言って立ち上がった静馬は、皆が何をするのかと黙って見守る中

 

「フィオナ姫、我が勝利の女神である貴女は、そんなにも愛らしいのだから、その上賢しさは必要ない」



 胸を張り堂々と大声で、自身の女神へと実に楽しそうに、笑って見せた。

 2016.01.31




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 読んでいただけている方が居ることに勇気とやる気をもらい、此方の続きをアップ出来ました。
 実は下書きだけならSAOは二話分ほど終わっている現状、気まぐれに続きが書きたくなる作品が移り変わるのですが
 楽しんでもらえたという手応えがかえってくると、そちらを優先したくなるのは自然でしょうか。
 今後共楽しんでいただけたら嬉しい限りです。


   

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