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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第六十六幕「曇のち晴れ、所により暴風雨」

 
 第六十六幕「曇のち晴れ、所により暴風雨」

 空は雲ひとつ無く晴れ渡り、澄み切った空気は窓から流れこみ、肌を流れるように吹き抜けていく。
 身に纏った母からの贈り物である鎧は、昨日から何度もチェックし調整も終え、早朝軽く流して乗った愛馬の調子も上々だ。
 泣いても笑っても今大会で戦うのは後二試合、一年生の身で準決勝まで駒を進めた者は二人だけ。
 その二人しか居ない一年生同士で、準決勝の試合は行われる。

 ついに念願のリサとの試合が、もう始まろうとしていた。

 だというのに、控室で一人座るフィオナの心は、少しも沸き立ってこない。
 原因など考えるまでもなく一つしか無い……
 いや、原因足り得るものは一人しか居ない、少なくともこの学園には。

 あの後静馬は、鎧を外すどころか汗を拭うことも許されず、入場口で待ち構えていた綾子に捕まり。
 少し困ったような苦い笑みを浮かべただけで、抵抗する事も何かを言葉にする事も無く。
 いつもの全く似合っていない気障ったらしい仕草で、フィオナに肩をすくめて見せただけで、どこかへ連れ去られた。

 祝勝会か残念会のどちらかにはなるだろう、そう冗談めかしてタルトタイムに用意されていた物は、主役も店主も不在のままで開く類のものではなく。
 ベルティーユからの誘いも、スィーリアからの声掛けも断ったフィオナは、一人寮室へと戻って携帯電話を握りしめていたのだが、結局現在に至るまで何の連絡もない。
 そもそもフィオナは携帯の番号を静馬に教えていないのだから、連絡など来るはずもない。

 その事に気付いたのは、いつの間にか眠っていて、朝目が覚めたベッドのなかでで。
 睡眠により取り戻した、わずかばかりの冷静さが気づかせた事実に、思わず手の中にあった携帯電話を振りかぶり、投げ捨てそうになったのは誰も知らない事実。
 そんなフィオナの感情の推移をみるに、ベルティーユが『静馬がお転婆姫扱いをしている』という評は、正鵠を射ている。

 校医とはいえ、綾子は美人の若い女である。
 その綾子に手を惹かれて姿を消し、以降二人の姿を見ることがない状況に、校内を席巻する噂は下品なものが多くなり。
 聞きたくなくとも、自然と耳に入ってくる。

 とは言え、そんな根も葉もないうわさ話にフィオナの心がかき乱された、ということでもない。

 態と聞こえるような音量で、近くでうわさ話をするような相手には、当然だが黙って聞き流してなどやらず、下水溝でも見るような嫌悪と蔑みを大安売りした視線を向けて黙らせた。
 更に言うまでもないことではあるが、『フィオナの姉』の座を争っていた二人が、そんな下賎ば心根しか持たぬ者を、何時迄もフィオナに近づけさせるようなこともさせなかった。
 なにより静馬の女神は、そんじょそこらのお綺麗な女神様とはわけが違う。

 あの決闘を見て、まだ静馬を馬鹿にして笑う対象だと認識する者達を、フィオナは人間として扱うことを止めていた。

 それでもフィオナは最下級生であり。
 如何に敵を強気で切り捨てても、心は脆く細い傷つきやすい少女である。
 またフィオナがフィオナである以上、それを素直に表に出せるはずもない。

「この前私がドラゴンになること止めたんだから、今日もちゃんと止めに来なさいよ、ばか」

 無人の控室に溢れる小さな呟きは、誰に届くこと無く、小さく砕けて散る。
 握りしめた手は、ガントレットに覆われ無骨であるのに、酷く弱々しく見え。
 ただでさえ細く小さい体は、今にもオレてしまうのではないかと不安になるほど儚げで
 少女が口にしたドラゴンとは、まるで対極の在りよう。

 体を鎧う甲冑が重ければ重いほど、少女の心はやせ細り、立ち上がるのも困難で

 フィオナは漸く、ベグライターが騎士に寄り添い支えることの出来る唯一の存在という事を、思い知らされていた。

 試合で実際、槍を持って戦うのは騎士だ。
 タクティクスを考え、実行するのも自分一人で充分だ。
 馬の世話だって、今日まで自分でやって来た。



 ベグライターなんて、ほんとうに強い騎士には必要ない。



 今まで散々フィオナがいい続けてきた主張だ、それが間違っていたとは思わない。
 いや、それが正しかったとフィオナはいま、誰よりも強く噛み締め確信している。
 ほんとうに強い騎士には、ベグライターは必要ないのだ。

『でも、体が動かないんだから、しょうがないじゃない』

 自分自身に言い聞かせるような、心の内での呟きに、返事が返ってきたことにフィオナの顔は跳ね上がる。
 掛けられた声は酷く穏やかで柔らかく、叱咤でも激励でもない。
 だがフィオナの窶れ乾いた心へ、染みわたるかのようで。

 俯き光の消えた力ない瞳に、何時もより一層強い意志の炎が灯らせた。

 この場に、仮に他の誰かが居ても、フィオナに返ってきた返事は聞こえなかっただろう。
 何故なら、フィオナのつぶやきに返ってきた言葉は、誰かの口からではなく、フィオナの心の内から響いてきたのだから。
 

『どうやらそこが、分かれ道のようだよ?』

 そんな一言が、フィオナに心を縛り付ける鎖を引きちぎらせ、負け犬の瞳を返上させ……
 騎士の心構えと、負けん気を取り戻させた。

 そうだ、泣き言なんて負けた後だっ

 なにが『体が動かない』よ、悲劇のヒロインぶってバカじゃないのっ

 歯ぁ食いしばって、這ってでも勝ちに食らいつきなさいよ……

 私は、誰が認めなくても、あの人が認めて、守ってくれた、騎士でしょっ!!

 あまり年頃の娘がすべきではない気合の掛け声と共に勢いをつけて立ち上がり、ギュッと一度強く目をつぶって、強く息を吐きだす。
 
「たかが天才少女騎士の一人や二人、私が負けるはず無いじゃないっ」

 言い切ると同時に控室の扉を開くと、まるでタイミングを合わせたかのように、大歓声が流れ込んでくる。
 もう一組の準決勝の勝敗が決したのだと頭では考えながらも、どちらが勝ったのだろうという興味は浮かんでこなかった。
 多分スィーリア先輩が勝ったのだろうと、なんとなくは考えつつも、どちらが勝とうが関係ないと、心がその思考を寄せ付けない。
 どころか、アレほど渇望し待ち望んでいたジョストだというのに、これから戦う相手が天才少女騎士リサであることですら、今は何故拘っていたのか不思議にすら感じてくる。

「ねぇ、これって失恋なの?騎士静馬様?」

 呆れた口調で態と声に出して自分にも聞かせながら、静馬を真似て少し気障ったらしく肩を竦めてみせる。
 静馬よりその仕草は似合うものの、静馬ほどに自然には出来ず、気恥ずかしさに頬にわずかに朱が差す。

 本当、先輩はこんな時まで三枚目だ。

 心のなかで悪態をつくも、それは照れ隠し以外の意味を持たず、フィオナにも本当はわかっている。
 こんな時に思い出したのが、『頑張れ』でも『負けるな』でもなく、あんな言葉だった訳も意味も。

 静馬は今までフィオナに向かって、一度足りとも『がんばれ』などといったことはない。
 『負けるな』などと、フィオナの勝利を危ぶんだことすら無い。

 彼女が言われたのは『相手はたかが天才だ』とか、『私の勝利の女神だ』とかで
 何の実績もない新入生のフィオナを、心の底から強いと賞賛し、優勝すると信じ欠片も疑っていない。
 その静馬が言ったのだ、本気のリサと戦いたいのなら本戦でだと。

 今フィオナは、リサとの対戦に以前のようなこだわりを感じていない。
 だが、いやそれ故にというべきか、『リサとの初めての対戦』に、油断も慢心も心からそぎ落とし、光に切り取られたような入り口、戦いの場へと独り足を踏み入れた。

 * * *

「これは……」

 通路から光指す闘技場へと鎧った姿を表したフィオナを見たスィーリアが、思わずと言った風に漏らした言葉に、隣に座るベルティーユも小さく相槌を打つ。

「流石は静馬さんと、驚くべきか、呆れるべきか、悩みますわね」

 ベルティーユの返しが可笑しかったのか、それとも自身が同じことを考えていたのか、スィーリアも小さく笑みを浮かべながら、全くだと頷く。
 間に挟まれるように座るミレイユはといえば、確かにフィオナから昨日までとは違うものを感じながらも、二人のやりとりについていけるほど確たるものを感じてはない為、助けを求めるように視線を彷徨わせ
 ベルティーユの隣に座るアンとエマと視線が合い、二人に揃って首を振られる。

 スィーリアとベルティーユ、二人は揃って貴族の令嬢だが、ジョストの騎士だ。

 同じことを感じたければ、貴族の令嬢というだけでは足りない。

 貴女も槍を持ち、その身を戦場に晒す騎士にならねば、踏み入れない領分である。

 首を振った二人は、ベグライターとしてベルティーユについてジョストに関わってはいるが、スィーリアやベルティーユと同じ感覚を共有できていない、ミレイユ側の人間だとその目が告げている。
 そして多分、今二人の騎士が感じていることは、この場にいる他の騎士達も感じることは出来ており。
 しかしながら、騎士でないものに伝えるには、言葉というものがどれだけ不完全であるかを思い知らされることになるのだと。

 ミレイユもただの子供ではない、持って生まれた利発さと、淑女として学び修めてきたものがある。
 そうまで二人に釘を差されておきながら、『次の試合はどちらが勝ちますか?』などと、能天気に口にできるわけもない。
 これが身内、それも仲の良い姉とふたりきりであったなら、気軽にそう口に出来もしただろう。
 あるいは相手が静馬であったなら、その質問も許されたかもしれない、彼はミレイユのことを『姫』として扱ってくれるから、少しの我侭も甘えも笑って見逃してくれるだろう。

 だがその静馬も、昨日から姿を消してしまい、今はどこで何をしているのかすら知れない。
 しかしそんなミレイユにも、会場のざわめきが何に驚いているのかはわかった。

「騎士シズマ様は、天才騎士を一人、戦場に立つ前に倒されたのですね」

 フィオナに対峙する端に姿を表したリサの傍らに、水野貴広の姿はなかった。

 * * *

「……逃げなかったんだリサ」

 どう声をかけるか散々悩んだ末にフィオナが口にしたのは、やはりと言うか当然というか、そんな攻撃的で屈辱的な言葉だった。
 とは言え、狙って神経を逆なでするような嘲りの声色ではなく、素直に驚いたような、そしてどこか感心したような響きがそこには有った。
 事実フィオナはリサが逃げずに、一人でも立ち向かって来たことに感心していたし、共感もしている。

 自分からベグライターを拒絶しておきながら、フィオナは控室で独り押しつぶされそうになった。
 リサは無理やりフィオナによって、ベグライターから引き離されたのだ。
 スタートの状態が違うというのに、それでも一人で立ち向かいこの場に立ったリサに、フィオナは意識しては居ないものの、素直に感心し賞賛していた。

 しかし、普段の積み重ねや今までの言動の実績が、フィオナの言葉が素直な称賛――それも僅かな尊敬すら含まれている――などとは受け取らせず、リサの表情が苦味に染まる。

「でもどうせ私が勝つんだし、今からでも棄権したら?」

 リサの表情が露骨に歪んだのを見て取ったフィオナが、今度は明確に意識して挑発を投げつける。
 だが、憎らしげに態と口角を釣り上げた笑みをリサに見せつけながら、フィオナの内心はといえば

 また、やられた……あの詐欺師っ、だった。

 散々ポーカーフェイスを覚える必要ない、感情を素直に表現すればいいって繰り返して私に印象付けて。
 相手の表情とか感情に、目が行くようにしかけてたんだわっ
 あームカつくムカつく、何がムカつくって、あの気障ナンパ男の思惑通りに、ちゃんと私が必要なときに気付いちゃうのがムカつくっっ!

 そうよ気付いたわよっ
 相手が誤解したのを利用もできるわよっ
 リサは今ココロに余裕が無いから、こっちが誘導してるのに気付け無いのもわかったわよっ
 でも、私が勝手にアンタの技を盗んだだけなんだから、恩になんてきてやんないわ
 ざんねんでしたーっ、べーだっ!

 心のなかで静馬にあっかんべーと、子供のように舌を出しながら
 リサに見せる表情では、フィオナは厭味ったらしく嘲りせせら笑う。
 だが、続くリサの言葉にフィオナの顔が顰められる。

「フィオナ、かわいそうな人」

「……なんですって?」

 憎まれるのも恨まれるのも良い、蔑まれるのも罵られるのもわからなくもない。
 だが、リサがたった今自分にしたのは、上から目線で、哀れんだのだ。
 フィオナの目が鋭く睨みつけ、頭が急速に冷えながらも、ココロが青い炎に燃え上がる。

 よくもっ……よくも私を哀れんだなっ、リサ・エオストレッ!

 こんな屈辱はない、こんな馬鹿にされ方はない、こんな見下し方はない。
 なにより自分のことを見ようともせず、最初から認めようとしなかったリサにこんなことを言われる筋合いもない。
 確かについさっき尊敬もした、ずっとリサに憧れても居た、だがこんなことを言われて許す訳にはいかない。
 


 何故ならこれは、フィオナのために戦った、静馬をも侮辱する言葉。



「貴女を見ていると、昔の私を見ているようで辛い。
 自分の力を過信して、一人でも大丈夫だと思っていたあの頃の私と」

 怒りのあまり目の前が真っ白になるのを、フィオナはリサの言葉を鼻で笑うことで吐き出し押さえつけた。
 しかし漏れでた声は、先程までの嘲り誂うような声とは違い、そこには怨嗟の響きがこもるのを隠しようもなかった。
 
「ふん、あんたなんかと一緒にしないで。いつまで人を見下せるつもりで居るのか知らないけど、堕ちた天才ごときに負けるわけ無いでしょ」

 斬り捨てるように言葉を吐き捨て、リサとの会話を打ち切りながら
 フィオナは小さく笑い優しげな声色にもどし、一言最後に付け加える。

「もし挫折して騎士をやめるときは言ってね、その時は私がベグライターに使ってあげるかもしれないよ。
 ……リサが水野貴弘をお情けで使ってあげたみたいに」

 リサが怒りの篭った鋭い目でフィオナを睨みつける。
 だがフィオナはそれを上回るほどの憎しみの瞳で、真っ向からリサの視線を受け止めた。

 アンタが先に先輩馬鹿にしたんでしょ、何に睨んでんのよ
 黙ってやられっぱなしになってなんか、やるわけ無いでしょ
 おんなじことやり返されて、思い知ればいいんだわ。

 大会準決勝なんかじゃない、これからやるのは決闘、そうでしょリサ?

 2015.12.07


☆ ☆ ☆

社員旅行や仕事の忙しさを言い訳に、期間を開けてしまい読み手の方には申し訳ないばかり。
今回も下書きなしで誤字脱字誤変換が多そうですが、これ以上期間をあけるよりかはと速さを重視しました。
少しでも面白いものになっていたら幸いです。


   

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