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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第六十五幕「間違えて学ぶにも、間違えていい限度はある」

 
 第六十五幕「間違えて学ぶにも、間違えていい限度はある」

 透明な雫は、柔らかな頬の曲線を伝い零れ落ちる。
 最初のひと粒が零れた後は、留まることを忘れてしまったかのように、いつ迄も落ち続けた。
 涙を流している事を、本人は気づいていないのだから、止めることなど出来ず、気づいたとしても流れるに委せたであろう。

 試合は静馬先輩の惨敗。
 1ポイントも取ることがないままに、先輩の人生最後のジョストは終わった。
 目の前に横たわる現実は、これ以上はないくらいに順当で、冷たく、当然の結末。

 これで私はもう、ウィンフォードに居ることは出来ない。

 心のなかでつぶやいた言葉に、フィオナは自分でも予想外に、ショックを受けないことに戸惑った。
 視線の先にある『紅の騎士』の姿を見つめる瞳には、決闘が始まる前より強い光が宿っている。
 国内最強の天才騎士に、ハンデを背負ったまま、そんな事実も踏み越えて戦ってくれたのだ、私のために。
 勝てないと誰よりも理解して尚、人生最後のジョストだというのに

 『最後にぎりぎり間に合って、戦うことが出来てよかった』

 あの人はきっと、いつもの飄々とした口調で言うのだ。
 軽く肩でもすくめながら、最後のジョストを花道のように勝利に飾ることを望まず。
 あの人は騎士だから、勝利なんかの為に戦ったりはしない。

 知らず駆け出していた私を、今度は誰に止められることもなかく。
 背に誰かの言葉が投げかけられたが、それを耳が拾いあげても、心は拾ってはくれなかった。
 今はそれでいい、思い返し冷静になって分析すれば、その時はそう判断したのだと思う。
 だがその時の私は何かを考えても判断してもおらず、ただ一心に他の全てに目も耳も向けていなかった。

 今まさに決闘を終えた二人の騎士が、馬を進めて言葉をかわすその場に向かって、気ばかり焦った脚がなかなか運んでくれないことにもどかしい思いをしながら、少女の浮かべた表情が示している。
 風に舞う涙の雫は、悲しくて流れているのでも、悔しくて流したものでもない、純粋な嬉し涙だと。

 私は絶対にそこに居なければならないと、半ば強迫観念に突き動かされて
 観客席から通路を通って闘技場へ踏み入った瞬間、万雷の拍手に迎えられ圧倒された。
 もちろん自分へ向けられたものではなく、戦った二人への称賛の証としてのものだ。

 熱に侵されたような思考は、それによってにわかに我に返り、今まで幾人もの人に言われた言葉を思い出す。
 逸る心を苦労して抑え、ゆっくりと二人が向かい合う地へと、しっかりと踏みしめるように歩を進める。

 スィーリア先輩のお兄さんのほうが、先に私の存在に気付いたことには、少しだけ不満。
 だがそれも仕方がなかった、此方に向いている左目を完全に閉ざし、その目尻から朱筋を頬に曳く静馬先輩から、私は完全に死角に入っていたのだから。
 それでも先に気付いてほしいと思うのは、ただの我侭でしか無い……

 でも、気付いて欲しかった。
 
 その想いが思いの外大きなため息になって口をついて出ると、片方の騎士が軽く肩をすくめて見せる。
 なんとも言えない空気が漂い、もしかして自分がなにか言うべき沈黙なのかと、少々動揺してフィオナが口を開きかけたところで、ユリアーヌスが一度深い溜息を付く。
 その表情は普段以上に厳しいが、以前のような威圧感も、突き放したような冷たさも感じない。

「もう少し何とかならないのか、その女性の扱いや戦い方は」

「まだどちらも結果を出していない今
 たとえ私の女神が来ようが、私は相手の騎士から目を切りはしない。
 戦い方のほうは、天才騎士の貴方や水野のように戦えと非才の私に言うのは、残酷というものだよ」

 ユリアーヌスの言葉は、死角に入るフィオナの存在に、静馬は気付いていると言っており。
 それでも、未だ戦場に身を置く以上は、振り向きも声をかけもしないと静馬は宣言した。
 既に勝負の判定は、審判によりユリアーヌスの勝利と下されている。
 観衆の大半も審判の下した判定を、そのままに受け取っており、彼らにしてみれば静馬の発言は世迷い言でしか無い。

 だが、これは試合ではない。
 騎士が二人、槍持て騎乗して戦ったが、ジョストでもない、決闘である。
 故に、勝敗を決する事ができるのは、ジョストの審判でも連盟でもなく、決闘を戦った二人、お互いだけ。

 つまり、静馬は今こう告げたのだ。

 貴方がまだ納得がいかないのなら、私はまだ槍を置かずに納得がいくまで戦うが、どうする?と

 無言のままに発せられた静馬の意思表明は、その場の二人に誤解されることはなく。
 それがハッタリだと思うようなものは、この場に居るはずもない。

 握りしめられていたユリアーヌスの右手が解かれ、バイザーの縁に静かに触れる。

「私の負けだな山形静馬」

 敬礼、この場で貴方と戦う気はないという、騎士同士の交わす姿礼。

 幕を引いたのはユリアーヌスの静かな一言。
 だが同時に、その一言で最終幕が開いたのだ。
 それと悟ったフィオナの心は焦れつき、波たつ

 この最終幕が上がった時、一人の騎士が、騎士でなくなったのだから。

「どう煙に巻いて言いくるめるか悩んだことが、まるっきりバカの様な潔さに、さて私はどう反応すべきだと思うフィオナ姫?」

 そこで間を外すから、見た目通りの三枚目に落ちるんだって、何でわかんないのかしら、この男?

 ……とは、流石にフィオナも、もう騙されてやりはしない。
 静馬が狙ってそうしていることも理解しているし、それが何を狙ってのことかも、いい加減気付かずに居られるには、長く近くにいすぎた。
 何よりフィオナには、今もっと気になることが2つあり、そんな静馬の三枚目演技に付き合ってやるリソースは、あっさり削減されていた。



「相手が負けを認めたのに、騎士である静馬先輩がそれを躱すつもりですか?」



 以前スィーリア先輩に静馬先輩が言った言葉を、流用して突き付けてやった。
 自分が言った言葉に背くなんてこと、出来ないでしょ?私が先輩を騎士だって認めてしまえば。
 だから、さっさと騎士らしくちゃんとすればいいのよ。

 面頬の内で静馬の口角が吊り上がり、軽やかに馬から降りると、首を傾け目が優しく細められた。
 その表情をみて、フィオナの心はひとつの言葉でうめつくされる。

 …またやられたーっ!

 絶対静馬先輩は、私にこれを言わせようとしてたんだ。
 わざとナンパ男の時みたいな事を言って、私を誘導してこの言葉を引きずりだして。
 フィオナが真赤になった顔を伏せ、歯を噛み締める。
 もし許されるのであったなら、両手で耳をふさぎ、目も閉じていただろう、これから聞こえる言葉に備えて。

「フィオナ姫の騎士として、貴女の名誉を髪一筋とて傷つける事はいたしません」

 ジョストの騎士としてもう立つことはない、しかし自分は貴女の騎士であることをいま認められたのだから。
 堂々と胸を張り、その胸に右手を当て、これ以上ないほどに優雅に静馬はフィオナに向かい、片膝をついて礼をしてみせた。
 ベルティーユにも、スィーリアにも、ユリアーヌスにすらしなかった、高貴なるものへ向ける姿。

 本当に大切にしている相手へ向けた、慈しみの目を向けながら。

「貴女に、この勝利を捧げます」

 周りから一斉に上がった黄色い悲鳴、東雲嬢のアナウンスがそこに拍車をかけ、聞こえなかった範囲の女生徒が何が起こったのかを知り、更に黄色い悲鳴がわきおこる。
 耳まで真っ赤になったフィオナは、ギュッとスカートを握りしめ、なんとか叫ぶことをこらえた。
 耳元に心臓があるみたいに、頭が鼓動一つごとにくらくらする。
 こんな時に大声を出せば絶対に倒れる、そうしたら静馬先輩なら絶対遠慮なんかしないで、私を抱き上げて運ぶ。
 倒れちゃダメだ、倒れちゃダメだっ!此処で倒れたら明日からウィンフォードになんか居られない!!

「君の名誉を護るため槍を取る騎士がいる、この時点で君にとっては、決闘の勝敗など大きな価値を持たないだろう。
 だが私も騎士だ、我が名誉にかけて君が騎士であることを、今後誰にも侮辱はさせない。
 今回事の発端になった私の弟子に成り代わり謝罪を、どうか許して欲しい」

 馬上から軽やかに地に降り立つと、ユリアーヌスはヘルムを脱ぎ去って脇に抱え、頭を下げる。

「ではもう一つの方も、貴方が責任をもってくれるということでよろしいかな、ユリアーヌス卿」

 公爵家という大貴族の跡継ぎであるユリアーヌスに、頭を下げられるという事態に、驚愕のあまり固まるフィオナを横目に笑いながら、静馬が常の如く飄々とした口調で問い掛けた。
 内容を知らぬユリアーヌスは怪訝な表情を浮かべるも、静馬は内容を伝えようとはせず、ついにはユリアーヌスが内容を知らぬまま頷かされる。
 満足気に一つ頷き、静馬が少し大きめなため息を漏らす。

「私の悪竜退治譚も、姫を二人も救出したことだし、此処で幕としよう」

「なんだそれは、私が悪竜だったと言いたいのか山形静馬」

 顎を撫でる指が朱に濡れるのも気にせず、静馬は軽く肩をすくめた後、はっきりと一つ頷いた。

「私にとってではなく、囚われの姫にしてみれば、貴方は『悪竜の位置に居た』ということですユリアーヌス卿。
 そも貴方は決闘中に私を悪竜呼ばわりしたのだ、そこは痛み分けとしてもらわねば」



 * * *



 『やっぱりアイツは騎士王だったな』



 誰かが漏らしたつぶやきには、誤解のしようもないほどの嘲りがあふれていた。

 所詮は口先だけの張子の虎。
 見ろ、結果は誤魔化せない、誰の目にも明らかだ
 手も足も出ないどころか、自滅したただの道化でしか無い。

 誤魔化しようもないほどの結果を、口先で言いくるめたアイツは、騎士ではない。

「今の発言をしたものが、騎士科の生徒でないことを祈る。
 もし騎士科の学生であるのなら、今直ぐ転科し今後一切ジョストに関わるべきではないっ」

 皆の視線が集まる先、発言者であるスィーリアの口から出た声には、普段のような暖かさも柔らかさもなく。
 忠告の体でありながらも、実際は命令――否、嫌悪の吐き捨てであった。
 聞いた者皆が受け取るそれは、その発言したもののみならず、発言を擁護したものに、二度と関わりたくないという強い拒絶の感情。
 普段から攻撃的なフィオナやアンが言ったのではなく、温厚なスィーリアが口にしたという事実が強く示している。

 今の戦いを見て、一般の学生であればその感想であってもぎりぎり許されるだろう。だがそれも、心の内に描いただけであったならで、口に出しては許されない代物であると、鋭い眼光が無言のままにしらしめる。
 ジョストに関わるベグライターと騎士、両科の生徒であればありえない感想であり、アレを見てこの感想であるならジョストに関わるのを止めるべきだ、本人のためにも、周りのためにも。
 のみならず、静馬への陰口だから直ぐにも周りが同調してくれると、いつもの調子で口にしたのだろうが。
 賢しげに陰口を叩くような、品性下劣なものが騎士を続けるなど、騎士へのジョストへの侮辱であり、唾棄すべきことで、吐き気すら催すとスィーリアは言っているのだ。
 
 スィーリアが身に纏う鋭い空気を避けるように、多くの者が視線を逃した先は、陰口の蔑称がつく切っ掛けとなりながら、その嘲りを理解しないベルティーユ。

「やはり静馬さんは、騎士王の名に相応しい騎士でしたわね」

 色香に満ち溢れている容姿を誇りながら、無邪気な子供のような笑みを浮かべて喜ぶベルティーユに、アンとエマがげんなりした表情を隠そうともせず、実におざなりに『そうですね~』と返事をしているいつも通りの光景に、逃げるように人が周りへと寄っていく。
 いつも通りの緩んだ空気に、引き攣り気味の笑顔を浮かべた女生徒が、愛想笑いを浮かべて追従する。

「さすがはベルティーユ様、山形静馬の実力を見抜き友誼を結んでいたのですね」

「それほどでも、ありますわ」

 ……そう答えてくれるものだと期待した、あるいは馬鹿にしたというべき、口先だけのおべっかだと誰にでも解る安っぽい称賛に、アンとエマが慌てて止めに入ろうとするが、その言葉がベルティーユの耳に入った瞬間、空気が完全に凍りついた。

「……今、なんとおっしゃいました?」

 底冷えするように低く抑えられた声が漏れだしたのは、艶やかな見惚れるほどの唇。
 そこから流れでた言葉が、白くけぶるような冷気を纏っているような幻視をし、スィーリアからの逃げ場としてベルティーユに寄ってきていた女生徒達は、ようやく自らの失策に気づく。

 安っぽく持ち上げておけば、調子に乗って高笑いする馬鹿女としか見ていなかった目の前の少女が
 下級生にどれほど馬鹿にされようとも聞き流すような、おおらか過ぎだと感じる目の前の女性が
 嘲りすらも気付かずに、微笑んでいるような目の前の少女騎士が

 本気で激怒した時に放たれる怒気は、スィーリアから向けられた怒りなど、比べ物にならないほど、強く深く恐ろしい物だった。

 どちらも怒らせてはならない相手だったのだと、遅まきながら思い知りながら、それでもベルティーユの逆鱗がどこだったのか全く理解できず、それ以上弁解することを完全に封じられてしまう。



「このベルティーユ・アルチュセールを、ジョストの腕で友人を選ぶと侮辱なさっておきながら
 まさか逃げられるなどと考えて……更に侮辱を重ねたりは、しないですわよね?」



 冴え冴えと輝く美貌は高貴にして、絶対的な存在感と格の違いに気圧され、否呑み込まれて瞬く間に周囲の人間の思考を停止していく。
 高みから下知される言葉は、絶大にして絶対。
 逆らう気力も根こそぎすり潰されて、頭を押さえつけられる恐怖心と威圧に、青ざめた顔をすぼめた肩の間に俯かせ、震えながら視線を合わせることを必死に避ける以外の何も出来ない。

 生徒達は思い知らされる事になる。

 貴族とは、民から搾取し得た富で、傲慢に振る舞う凡庸な者達、などというのは自らの貧困な想像から生み出された、嫉妬をこねくり回して創りだした偶像にすぎないと。
 貴族とは、その身分や社会的システムが出来上がる以前、力によって人々を押さえつけ、支配した者達の末裔が名乗る称号で。
 それでありながら尚、尊称をもって呼ばれるのは、騎士道と呼ばれる誇り、その精神性の高さ故。
 よって、誇りを嘲笑う行為……即ち侮辱に対し、騎士は、貴族は、絶対に許しはしないということを。

 それを理解していない学生が

 ジョストという競技の、とはいえ『騎士』を目指すなどということは

 最大級の侮辱であるのだということを。

 2015.11.16

 
☆ ☆ ☆

下書きをそのままのせてしまったので、誤字脱字があるとは思いますが、後日時間を作って見直そうと思っております。
これ以上更新を遅らせるよりはという、緊急避難措置故ご容赦を。


   

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