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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第六十四幕「掲げる槍の向く先は」

 
 第六十四幕「掲げる槍の向く先は」

 ふざけた真似を……

 ユリアーヌスがそう思っているのは、遠目ながらもスィーリアにははっきりと見て取れた。
 その怒りの根幹もまた、正確に理解している。
 気づくことが出来るものは多くはないが、スィーリア独りでもない。

 当然ながら仕掛けたであろう静馬を除いても、本人であるユリアーヌス、妹のスィーリア、そして貴弘、この三人は実際に気づくはどうかは別としても、気付いておかしくはない。
 いや、とスィーリアは小さく首を振り、やわらかな金髪と香りを少しだけ周りへ振りまく。

 他の誰が気づかなくとも、その三人は気づかなければならない。

 何故ならこれは、レッドから三人に宛てたメッセージなのだから。

 今のこの状況、両者のポイントこそ違ってはいるが
 貴弘が騎士としての歩みを止めてしまった、静馬との試合の再現。

 あの時は、静馬の槍は鐙ではなく貴弘の脚をとらえ
 貴弘は突然襲ってきた激痛と、踏み支えるべき左脚の感覚の喪失により体勢を崩し
 左側へとつんのめるように倒れこむのを、手綱を手繰って無理に落馬を回避しようとさばいた。
 
 そのまま落馬してしまえばよかったのだ、というのは結果論でしか無い上に
 貴弘には受け入れられないどころか、発言者は敵意の篭った視線を返されるだろう。

 貴弘は騎士である、一割、一分、一厘、否たとえそれが零であったとしても、勝利の方向へと向かう者だ、自ら諦めとともに敗北を選びはしない。
 そも師匠であるユリアーヌスが常に貴弘に言葉でもって刻み込んでいるのだ、勝利以外の結果は不要、敗北した騎士など弟子にはいらぬと。

 ある意味において、ユリアーヌスの教育は間違ってなど居なかったと、貴弘のとった行動が証明した形である。

 故に、落馬を回避するために必死でバランスを取った貴弘の、起死回生の一打として下方から突き出された槍が捉えたのが、静馬の左目だったことに罪はない。
 どころか、あの状況あの体勢で、逆転の一手に食らいついた闘争心、発想……起点は何でもいい、ともかくその行動をとった事こそが、貴弘がスィーリアに並ぶ天才騎士であると、静馬が信じる所以である。
 言うまでもないことながら、貴弘の槍に拠って負った傷に対し、静馬には恨む気持ちも何もなく。
 後から勝利を敗北へと、結果をすり替えられたことに対しても又、何ら不満はなかった。
 
 顔になど当てられる方が悪い。

 シンプルに静馬の意見の根幹を表してしまえば、そういう事である。
 完全に虚を突かれ、ジョストの最中だというのに隙を作り、油断した自分の罪であり、恨むのであれば自身の間抜けさと未熟さだ。
 むしろそんな事をしてのけた、貴弘が凄いと純粋に感心た。

 貴弘を恨んだとするならば、親兄弟のみならず血縁縁者一同から顔を合わせるたびに、未だに『未熟者』と言われ続けることにであり。
 それに続いて、『あれが戦場であったなら死んでいたのだぞ』と、長々と説教を聞かされることにである。
 視力を失い距離感をなくし、ジョストを禁じられたことに対してではない。

 だというのに、貴弘はあの試合で負った傷と敗北により、負け犬として腐っている。

 昔の『完全な状態だった自分』に、挑む前から勝てるはずがないと、尻尾を巻いて逃げ出したのだ。
 ユリアーヌスの『敗北したモノに価値はない』と言う教えに甘えて、自分を無価値と言い訳して甘やかし。
 でありながら、ジョストから離れるでなく、ベグライターとして打ち込むでなく、騎士復帰を完全に捨てるでなく、ただ……その場に蹲った。

 静馬には信じられなかった、もう少し正確に表現するのであれば、全く理解が出来なかった。

 貴弘の考えも、感情も、とった行動も、価値観も、何もかもが。
 理解できないモノに対し、人は怒りなど抱かない。
 呆れるか、突き放すか、無視するか――人はそういう対象から、距離を取るよう反応をする。

 そして、物理的距離は、時間とともに心的距離を生み出す。

 幸いにも、様々な者達の思惑と、幾多の要因が複雑に絡み合い、貴弘は静馬の情報を掴めず。
 静馬が貴弘から距離を置くのは、さほど難しくはなかったとスィーリアはみていた。
 まるで知らない相手のように、特に関り合いを持たずに生活するだけ。
 ただそれだけで、二人には接点が最初からなかったかのように、全く良好な赤の他人同士として生活圏を確立できた。

 数年掛けて作った距離を崩したのが、一つ歳下の少女二人。

「それが、フィオナとリサという二人なのは……皮肉なものだ」

 ――片や嫌われ者の凡才、片や頭ひとつ以上抜けた天才――

 レッドがフィオナを放っておけなかったのも解る

 もっとも、アイツを問いただせば『その美しさゆえに』とでも答えるのだろうがな。

 内心の呟きと同様、漏れでたスィーリアの言葉は誰の耳にも届くことはなく。
 苦味の強い、だが楽しげな笑顔に、気づくものもない。

 * * *

 槍を新たにした静馬と、ユリアーヌスの間に犇めく無音の針は、鎧など意にも介さず両者を刺し貫いていく。
 だというのに、静馬の口角は吊り上がり、それは『わらい』という形をとった。
 楽しそうな『笑い』ではない、蔑んだ『嘲笑い』でも、ない。

 そんな高度な感情作用ではなく、静馬の浮かべたそれは――威嚇。

 今これから、この研ぎ澄ました牙で、喰らい破るぞという警告。

 彼我の実力差を、誰よりも実感している筈の静馬が、そう示したのだ。
 未熟な子供の根拠無い強がりや、独りでなんでも出来ると調子に乗っての発言とは、重さが違う。
 バイザー越しに静馬を睨んでいた、ユリアーヌスの目が鋭く細められ。
 僅かに顎を引いて深く息を吐きだすと、肩の力を意識して抜き、その分だけ腹を締める。

 後は腕をかすめるだけで、此方の勝ちだ。

 ……そんな甘えた事を、ユリアーヌスは欠片も意識に乗せては居なかった。
 甘えが油断に繋がり、末節を汚すような無様を晒すつもりはなく。
 何より、勝ちを拾うような真似を、しようなどと考えすら浮かばなかった。

 ユリアーヌスは、公爵家という大貴族の嫡子であり、ジョストの騎士である。
 如何に相手が格下であろうが、反則しかしてこないような無頼であろうが
 正面から実力を持って、それをねじ伏せ、押し通る以外の道を、進めるはずがない。

 それをやれるだけの実力が備わっているのだ、ならば当然そうする。
 仮にそれだけの実力がなかろうが、ユリアーヌスならそうするであろうし。
 なにより、なせるだけの実力を身に付ける努力を、積まずに居るはずもない。

 敗北した騎士になど価値はないという彼の哲学は、口先だけの格好つけではなく。

 実際の血と汗と努力とによってしか、打ち立てられぬのだから。

「圧倒的不利に追い込まれようとも、無理に用意した状況。
 その舞台で『騎士』に討たれ――悪竜退治の英雄譚を、此処で再現し――あの娘にそれを見せ付けることが貴様の望みか?山形静馬」

 ちらと刹那静馬から視線を切り、向けた先には静馬が庇い、決闘の原因となった少女・フィオナ。
 まるでその瞬間を狙ったかのように、開始の合図が二人の騎士を最後の瞬間へと解き放つ。
 故に、彼は現在対峙している相手の――山形静馬の面頬の奥で、唇紡いだ無音の言葉を聞き逃す。



 それはこう紡がれたのだ……『ユリアーヌス、敗れたり』と



 開始合図の寸前、闘いの意味を求めて対峙する者から目を切った。
 『圧倒的優位』を感じて出来た心の余裕、それが緊張に狭まっていた視野を広げたが故の行動。
 それを、集中力の欠如――油断と言わずなんとする。

 だが、静馬が勝ったと告げた根拠は、そこにはない。

 ユリアーヌスは気づくべきだった、否、気づかねばならなかった。
 只管に静馬が続けている攻撃の焦点が何処に有るのかを。
 気付き得るほんの僅かな隙間、其処に意識を向けさせないための、静馬の喫驚な行動だったのだと。

 雄叫びを上げ、観衆を驚愕に陥れ、相手の身を強ばらせた?
 否、雄叫びを上げたのは相手の萎縮を望んでではない。

 柵を突き静馬から距離感が完全に失われていると油断させた?
 否、柵を突いた目的は相手の油断を誘うためではない。

 鐙を切って相手の攻撃から速さ、強さ、鋭さを奪った?
 否、鐙を切った目的は、相手の攻撃を鈍らせるためではない。

 否、否、否、全てが否。

 もはや完全に閉じた左目から、真紅の筋を駆け抜ける空間へと曳きながら。
 残った右目でユリアーヌスを睨めつける静馬には焦りの色はない。
 決闘の前から左目が耐え切れず、途中で遠近感が完全に失われることは判っていた。

 だから最初の一本で、柵に目印を付けたのだ。

 ポイントを取られる不利を負ってまで、両者が全力で対峙した時に、槍を交わす位置に。
 それを頼りにしての目測が、どれだけの精度を持つのかを試したのが二本目。
 結果は、一本目を捨ててまで打った手が、見事に仕事を果たすと証明してみせた。

 では鐙を切った本当の理由はどうか。

 言うまでもないことながら、貴弘との最後の試合の再現の為、ということはもちろんある。
 だが、それならば何故『貴弘にしたように』脚を突かなかったのか。
 再現というのなら、痛みとそれに伴う集中の阻害も再現すべきであろうに。

 再現されたのは状況だけで、状態は別物ではないか。
 だというのに、当時を知るものは誰も彼も現状を、当時と全く同じものと受け止めている。
 いや、そう思うように静馬に誘導されたというのが正しいのか。

 その奥にある静馬の狙い、鐙を奪うことで相手のチェンジ・オブ・ペースを封じた、等とは気づきもせずに。

 急加速も急減速も出来ない以上、両者がぶつかるのは目印を付けた、まさにその場所になる。
 それも鐙を失ったことにより、ニーグリップでしか自身を支えられず。
 静馬同様に上体を真っ直ぐに保たねば、槍も突き出せない。

 無理な体勢から攻撃し落馬すれば、静馬に一本となり。
 槍を突き出さねば、それも反則となり静馬が一本得る。
 突き出すには物語の騎士のように、被弾面積を小さくすることも出来ない体勢を取る以外にない。
 
 では残る一つ、雄叫びを上げた理由は何だったのか。

 己を奮い立たせるための、闘争の息吹
 日常から戦闘へと意識を変換するための、精神的儀式
 我こそが其方を倒す者と知らしめるための、示威の咆吼

 然り、されどどれもが真実の正解にあらず。

 カイルからの指示を聞き逃さぬための静寂
 柵を突くという結果を一層笑い事にするための虚仮威し
 そして何より、自身の相棒である夜風を脅かす為の手段

 其処までわかっても尚、静馬の思惑が読み取れる者はない。
 であるが故に、ユリアーヌスは静馬の狙いに気づくことはなく
 全ては静馬の思惑通りに事態は駒を進めゆく。

 先に動いたのは静馬だった。
 繰り出された槍は唸りを上げ、気弱なもので有れば腰が引けるほどの鋭さをもって、通常のジョストとは違う打ち下ろし気味の変速軌道を駆ける。
 されど対するユリアーヌスはといえば、それに釣られて槍を繰り出すような真似はせず、静かに鼻で笑った。
 多分に挑発されたことに対する意趣返しを含む、精神的なバランスシートとしての感情の発露。

 だが事実としての側面を見れば、無理からぬ事。
 静馬の槍は、ユリアーヌスに届かぬ距離で繰り出されたのだ。
 如何にこの瞬間、急加速を行ったとしても決して届くことのない、物理的距離による安全。
 距離感を失っていると、相手が信じても何もおかしくはない、ありえない程に酷い失態……いや醜態。

 しかし、避けるまでもない筈の静馬の攻撃が、標的をとらえ鈍く軽い金属音を響かせる。

 静馬の槍先が捉えたのは、今度は柵ではなく、ユリアーヌスの乗る馬の額。
 言うまでもなく鎧われている其処を突かれようと、多少の衝撃は受けるものの痛みで怯むことなど無い。
 何より距離を見誤った突き故に、突かれたと言うよりは掠めたという程度で、静馬の槍はあっさりと弾かれた。

 それでも乗馬が一瞬怯む気配を見せたのを、鋭く察知したユリアーヌスは、巧みな手綱捌きをもって己の攻撃意志を彼の相棒へと伝える。
 その意を受けた馬は見事に彼に応え、ユリアーヌスもまた応えた馬の動きを無駄にせず
 鐙を失ったままとは思えぬほどに、腰肩腕の動きで完全に槍に威力をのせた突きが繰り出され

 今度は槍を払われること無く静馬の胴――それも音からでも解るほど正確に真芯を捉えた一閃
 仰ぎ見て確認をするまでもなく、勝敗は決した。審判が下したのはユリアーヌスの勝利。
 予想通りに一方的に勝負が進み、結局終わってみれば、静馬は1ポイントも取れぬままという惨敗。



 だというのに、歓声はなかった。


 
 ここまで無残な結果を見せてやれば、ジョストにおもいを残すまい……

 まさしく有限実行、実力を持って相手を、手も足も出させずにねじ伏せた勝利
 惨敗という結果を以って、残るであろう静馬の未練を断ち切った
 残酷といえばこれほど残酷なことはなく、優しいといえばこんなにも不器用な優しさもない

 やや厳しい顔で振り向いたユリアーヌスの視界の端で、小さな影が揺れ落ちる。

 審判の下した判定は、確かにユリアーヌスの勝利。
 されど、審判が下せるのはジョストの勝敗についてでしかない。
 その光景を見守っていた観衆の反応は、沈黙。

 なにより……

「騎士らしく潔く敗北を認めるべきなのは、どちらかなユリアーヌス卿?」

 舞い散る漆黒の羽根の向こうから

 瞑った左目の眦から血飛沫を零したまま

 馬首を廻らし、まっすぐに見つめる静馬が

 兜に刺した真紅の羽根を揺らしながら、穏やかに微笑んだ。

 2015.10.25


 ☆ ☆ ☆

 急に異常な拍手数になって、戸惑いつつもとりあえず続きをという感じです。
 女性キャラの出番が少ない話は、潤いがなくて筆の進みが遅いのは、相変わらず。


   

~ Comment ~

こんにちは 

はじめまして!あるブログを拝見していたら、このブログに出会いました。私もブログを開設しています。「鬼藤千春の小説・短歌」で検索できます。一度訪問してみて下さい。よろしくお願い致します。

Re: 鬼藤千春さん 

コメントに感謝を。

どのような流れ有ってのご縁か、こうしてコメントを頂け嬉しい限りです。
何れ折を見てブログも拝見させていただこうと思います。
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