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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第六十二幕「無敗の騎士王は、それでも笑みを消さず」

 
 第六十二幕「無敗の騎士王は、それでも笑みを消さず」

「ファイヤッ!」

 鏡のように静まり返った空気の中、再び上がった叫び声に、観衆は今まさに二人の騎士が槍を交わさんとする一点に集中し、空間が重圧に呑み込まれる。
 つばを飲む音すら、否、呼吸をすることすら止めて見つめた焦点。
 意外なことに、仕掛けたのは静馬からだった。

 一度大きく上半身を半身に捻ってから繰り出された槍先は、緊張に凝り固まっていた大気を斬り裂き、唸りを上げて打ち下ろし気味に突出される。
 対するユリアーヌスは、先手を取られた事による動揺は欠片もなく、静馬とは正反対にこれぞジョストの騎士と教科書に載せられるべき、オーソドックスにして完璧な姿勢から、体幹の振れぬ無駄も余剰もない、故に鋭さと伸びのある突きが、大気を焦いて駆る。

 交差は一瞬

 鈍い音は二種

 静馬の槍は折れ、ユリアーヌスの口元が歪む。

 息を呑んで一本目を見守っていた観衆からは大歓声が上がり
 ようやく我に返ったフィオナが思い出したかのように酸素を求め
 顔を判定の方へと振り向けて、自分が今見たものが真実で、見間違いではなかったのだと自分を納得させる。

 入っていたのは2ポイント、ただしユリアーヌスにだけ。

 実力通りの結果と言ってしまえばその通りで、何ら疑問を挟む余地はない。
 だというのに、フィオナはショックを受けていた。
 自信満々と言うよりは、いつも通りの飄々とした態度で静馬に勝利を誓われ、ココロの何処かで期待していたのだ。

 人の心というものは誤解する。
 見たいもの、求めるものを目の前にすると、それは顕著に現れてしまう。
 あるいは、それは厳密に言えば誤解ではなく、置き換えによる錯覚と言うのかもしれない。

 想像あるいは空想とは、己の中にある材料だけで世界を組み上げることで。
 例えば『天を駆ける』という言葉に、人は地上から見上げて見える、直ぐその辺りを飛んでいる姿を想像するが、それは『天を駆ける』という言葉を選んだ者の言葉を冒涜している。
 想像した光景を言葉にするのなら、それは『空をとぶ』でしかない。

 つまり、人は自分の知覚認識できる範囲に、想像の中で置き換えてしまい、それを真実と信じ込む。

 相手が国内最強の騎士で、ジョストの現役プロで最強とすら言われている騎士であるのに。
 何故か、ほんの僅かな気付きや奇策、あるいは覚悟を持っただけで、『あっさり倒せてしまう程度』の存在と置換え、それが事実であると勘違いする。
 もしくは、実は静馬がとんでもない実力者で、秘められた実力を発揮してユリアーヌスにあっさり勝ってしまう、そんな夢物語のようなことを。

 そんなフィオナの中の幻想を、今の一本は完全に打ち砕いてみせた。

「今、静馬先輩の槍……柵に当たりましたよね」

 二人の騎士がすれ違いざまに槍で突き合うジョストという競技で、騎士同士が接触しないよう間には柵が設けられている。
 騎士は相手を左正面に見ながら、柵に沿ってそれぞれの側を馬に走らせ、右手で持った槍でお互いの特定部位を突くことでポイントを得、あるいは落馬や”羽根落し”で勝負がきまる。
 そのお互いを隔てる柵に静馬の槍は当たり、相手の騎士まで槍は届いてすら居なかった。

 それがフィオナの見た事実である。

 現実は情けも容赦もなく目の前に据えられ、目を逸らすことも出来ずに

 只々フィオナの中にある幻想を、打ち砕き粉微塵にしてしまった。

 フィオナのつぶやきに答えは沈黙しか帰ってこず、その事が静馬を応援していた者達の胸に去来している、絶望の深さを示している。
 静馬の体は鈍ってなどおらず、突き出された槍先は鋭く疾く、スィーリアすら凌駕するのではないかと言える程のものであった。
 そういう意味では、静馬は秘められた実力を発揮し、フィオナの期待に応えたのだ。
 しかし、どれ程鋭い突きであろうとも、静馬からは遠近感が完全に失われており、試合にすらならないのが現実。

 これが静馬にとって、人生最後のジョストであるというのに。
 涙が滲んでくることに、フィオナは歯を食いしばって耐える。
 現実は残酷で、決して物語のように上手くは行かない、そんなことは判っていた。

 たった一度ミスしたからなによ?試合はまだ終わってない

 なのに、自分のために立ち上がってくれた、たった一人の騎士を見捨ててひとりぼっちにするつもりなの?

 ベルティーユ先輩に言われたことはなに?アンタがしなきゃいけないことはなんなの?フィオナ・ベックフォード!

 * * *

 戻って来る静馬を迎えたカイルの、なんとも言えない不可思議な表情に、いやぁ流石にプロの一撃は効くな、と全くいつも通りの飄々とした態度で声をかけ、折れた槍を渡し代わりの槍を受け取る静馬。

「まだ最初の一本だ。
 決闘は始まったばかりなのだから、そんな世界の終わりのような顔をしなくても良いだろうに」

 どころか、逆にベグライターであるカイルの方が励まされ、そこに居るのが虚勢を張っているのでも無理に明るく振舞っているのでもない、文字通り何時もの静馬で思わず吹き出して笑う。
 それに拠って視界が開けたのか、ようやくカイルも自分の仕事を思い出し、ため息を付いて上げた顔には小さな笑みが浮かんでいた。

「言われたことは出来ていたか?目的も何も教えないので、文句を言われても受け付けんがな」

 交差する直前、そして静馬が槍を繰り出す直前、叫び声と言っても過言ではない大声で指示を出したのはカイルであった。
 静馬が無言で首肯する所を見ると、要求通りの完璧さでカイルの合図は静馬に届いたのだろう。
 そして指示を受けた静馬の反応の速さも、体の流れも、カイルから見て見事といえる程に、流れるように自然で文句のつけようもなかった。

 だがベグライターとしての実力が高いからこそ、掛ける言葉が見当たらぬのも皮肉なことに事実。
 二人の騎士の間には、実力差以上に厳然と横たわるハンデキャップがあり、それをひっくり返す魔法のような術は、如何に超一流を自称するカイルとて見つけられはしない。

 しかし、小さな笑いは言葉とともに、不敵な笑みへと変化する、否……変化させた。
 此処で心配そうな顔や言葉を向けるようでは、ベグライターとしては話にならない。
 カイルの中での矜持は自身にそう告げ、萎えかかる己のココロに鞭を当て奮い立たせる。

 ベグライターは戦場で孤独になる騎士の、唯一絶対の味方で、ただ一人だけ騎士の心に寄り添うことを許された特別な存在。

 自分が無理を言ってまで静馬に承諾させた特権を、寄り添わず支えず孤独にして何が親友か。

 騎士の気づかぬ敵の情報も見付けられず、取るべきタクティクスをアドバイスも出来ず、その上脚まで引っ張るような無様な真似は、死んでもできん。

 腹に呑んだ言葉は決して表には見せず、だというのに静馬には何故だか全てを見透かされているようなきになるも、そのことですら心地良いと感じている。
 それもお互い様で、馬鹿話もやったし腹を割って真剣な話をしたことも有る、静馬の考える事や心模様をカイルとて同様に見透かすことが出来るのだ。

「次はどうするんだ?」

 故にこの一言は、可能な限り気軽な風を装って、静馬の心という湖面に投げ込んだ一石。
 そこに広がる波紋の形で、先から感じている違和感の正体に気づき、カイルは表情を凍りつかせる。

「……お前」
「何だそんな真剣な顔をして、愛の告白ならせめてドレス姿で頼む。もっとも私にも選ぶ権利というものが有る事はわかってほしいが。次は流石に水平に突いてみようと思う」

 聞こえて来る嘲笑を見回すように視線を一巡り巡らせ、静馬は軽く肩をすくめると、目線である方角をカイルに示してみせた。

「友情は十分に心に刻んだ、と言う訳でさっさとカイルは、あの場へ駆けつけるべきだと私は思う」

 片目を瞑ったまま口元を綻ばせて言う静馬の言葉に、右腕を大きく横に振り、左手を胸に当て我が身が此処にあると示し返したカイルが、強い感情の篭った視線で、正面から静馬の瞳を睨みつける。

「親友の最後のジョストを放り出してか?ベグライターの責任と仕事を放棄してかっ!?」

「人として、ベグライターとして、その意見には賛同し敬意を抱く。
 そんな相手に親友と言われたことを、身に余るが誇りにも思う。
 だが男だろう?男なら姫の危機にそんな戯言を掲げるのは、ちょっと情けなく私は思う」

 ぐっと言葉に詰まるカイルに、やれやれと態と大仰にため息を付いて見せ、静馬は言葉を重ね退路を埋めていく。

「姫を救うのは、王子か騎士の役割だ、別の姫や少女騎士の役割ではないよ」

「オレはベグライターだ、そういう事ならそれはオレの役割じゃない」

「一体何を言い出すんだカイル、男は生まれた時から姫を救うための騎士だ。
 王子になれるかどうかは……まぁ、なかなかに難しい問題だがね」

 * * *

 一本目が終わった後、すぐに二本目が始まらず会場はざわめきだした。
 何か有ったのかという憶測よりも、山形静馬が怖気づき試合を止める交渉でも始めたのではないか、という嘲笑が上回ったのは、当然の成り行きである。
 騎士科に在籍する目端の利く生徒であれば、静馬の槍が柵に当たったことを見逃さず。
 何が起こったのかと誰かに尋ねられれば、何も抵抗を感じずにすんなりその事実を口にし説明するだろうから。

 その上、その憶測を増強するかのように、内容までは聞こえないが静馬とカイルが言い争い、その結果ベグライターをしていたカイルがその場から立ち去ったのだから、好き勝手に憶測は加速して広まっていく。

 反射的に立ち上がり、駆け出そうとするフィオナの体を捕まえたのは、ミレイユだった。

「何すんの離してっ」

「嫌です、離しません」

 相手がスィーリアやベルティーユであったなら、フィオナは力尽くで振り払っていただろう。
 だが相手は自分より年下の、見るからに華奢な少女だ。その少女が力では自分にはかなわないとわかりながら、それでも腕を掴んで止めた。
 それもおよそ少女に似つかわしくない程に、強い言葉の拒絶を伴って。

「貴女は何をしに、どこへ向かうつもりですか」

「そんなのっ……」

 反射的に口に出しそうになった言葉に、フィオナの体が凍りつく。

「そうです、騎士シズマ様が決闘しているのは、貴女に『そんな事をさせるため』ではなく、『そんな事をさせないため』です。だから貴女から、そんな事をしようとしないでください。
 あの方の決闘を、誇りを、泥に投げ入れるような事……しないで」

 ゆったりと独り開始位置へと馬足を進める静馬の姿に、ユリアーヌスが静かに左手でバイザーを下げる。

「シズマ様は騎士で」

 静馬が音もなく円弧を描くよう、天を指し示す槍の穂先を下げ、持ち手と水平の位置で揺れること無く止まる。
 そのまま、まるで先程の変則的な構えなど無かったかのよう、一分の隙もない完璧なオーソドックススタイルへと、流れる様な自然さで槍は構えられた。

「貴女は、シズマ様が認めた騎士で……」

 気息の練りこまれた攻性の空気が、二人の騎士の中間で不可視の鬩ぎ合いを繰り広げ。
 声援も罵声も、あらゆる音が遠のいていく世界。
 二人の騎士は互いの息遣いをはっきりと耳で捉え、二対の眼が互いの眼光と視線で、試合開始の合図がなる前に、既に相手の動きを絡め取ろうと応酬がなされている。
 


「あの方が、護るべき姫君なんです」



 無音の世界だというのに、開始の合図の音は聞き逃されることはなく。
 二人の騎士は弦より解き放たれた矢の如く、互いの間に横たわっていた筈の距離を、恐るべき速さで殺し接敵す。

 再び二種の鈍響が場を駆け抜け、闘技場は二騎の騎士を除き一瞬、完全に静止した。

 静馬の側のポイントを示す旗が揺れ動くも、旗は降ろされポイントが入ることはなく。
 初動とは逆に、ユリアーヌスが1ラウンド目を得たと、結果は示されるのみ。
 誰も何も言わない、その結果が正しいとも、おかしいともとも。

 何故なら槍が交差する一瞬の攻防で、何が起こったのか、何がなされたのか、見抜けたものはほんの数人だけ。
 それ以外の観衆は、一体何が起きたのかを、正確に知覚することが出来なかったのだ。
 速すぎて見えなかったのではない、余所見をして見逃したのでもない。
 ただ見えず、それ故その審判結果が、正しいのか間違っているのかの、判断する基準を自分の中に構築できず、誰かの下した判断を鵜呑みにするしか出来なかっただけ。

 馬首を巡らせ開始位置へと戻り行く騎士二人は、馬場で柵越しに当然すれ違う。

「それが貴様のジョストか」

 掛けられた声に、冷ややかとすら言えるほど、薄い笑みを浮かべる静馬。
 とても0ポイントのまま1ラウンド取られた騎士が相手に向ける顔ではない。
 ユリアーヌスの表情はといえば、対照的に苦く憎々しげなもの。
 二人の浮かべるべき表情は、本来逆であるべきだ。

「第一線から退いていたので、その間になされたルール変更については、不勉強で申し訳ない」

 全く悪びれた風もなく、飄々とした態度で軽く肩をすくめて見せる。

 前回とは逆に、今はユリアーヌスの槍だけが折れているのだから、判定の結果としては何ら不思議なことはない。
 折れた槍の持ち主の方にのみポイントが入ったのだ、槍が折れるほど相手の芯を捉える正確で強力な突きが、勝負を決したと考えるのが素直な思考の流れ。
 だが二人の騎士が浮かべる表情は、真実はそんな素直な風貌をしてはいないと告げている。

 そう、現実は全くの別物だった。

 ユリアーヌスの槍先は静馬の体に触れることは出来ず、逆に静馬の槍はユリアーヌスの胴をとらえた。
 であるのに静馬にポイントは入らず、ユリアーヌスが1ラウンド目を何故得たのか?
 答えは単純にして明快、ユリアーヌスが1ラウンド目を得たのは、1本目の2ポイントに2本目で得たポイントを加算し、規定の3ポイントに達した為ではなく、静馬の反則により与えられたもの。
 
 それ故に、静馬が得たはずの2ポイントは、当然ながら無効となり未だ0ポイントのままである。

「ユリアーヌス卿、貴方は何か勘違いしているようだが……私は此処にジョストをしに来ているわけではない。
 何よりまだ勝敗もついていないのに、私の全てを見たように言われても、困る」

 2015.10.09


   

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