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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第六十一幕「理解と誤解と誇りの位置関係」

 
 第六十一幕「理解と誤解と誇りの位置関係」

 鋭い風鳴りが聞こえてくるような錯覚を覚えるほど、静馬の振り上げた腕は無駄なくピタリと動きを止め、伸ばした指先は一点、ユリアーヌスを穿つように真っ直ぐに指し示される。

「貴方は認めないだろうが私は騎士だ。必ずや囚われの姫を我が手、我が槍にて救い出す」

 静まり返った大観衆の前で高らかに、相も変わらず気障ったらしい台詞を恥ずかしげもなく宣言する静馬に、観客席から嘲笑が沸き起こる中、フィオナの周りだけがそれぞれ異なる反応を示した。

 スィーリアとベルティーユは、その姿を柔らかな微笑みをもって見守り。
 アンとエマは、げんなりした表情を隠そうともせずに額に手を当て。
 綾子は苦り切った表情を浮かべながらも、どこか諦めたようなため息をつく。

 ミレイユは赤らんだ頬に手を当て、フィオナはといえば赤面して俯いた。

 何やってんの、あの馬鹿

 なんでジョストの場にたってるのに

 騎士じゃなくて、ナンパ男の方が出てんのよ。

「シズマ様ー頑張ってー」
「ちょっとっ、こんな時ぐらいシャッキリしなさいよっ先輩!」

 声援と声援のような罵倒が隣り合って届くと、観衆からの笑い声はいっそう大きくなり、ユリアーヌスも思わず苦笑いを薄っすらと唇の端に浮かべる。

「これ以上恥の上塗りをすることはない、結果はすぐに出る」

 ユリアーヌスの唇から放たれた言葉は、挑発としか受け取れぬものながら、挑発ではなかった。
 少なくともスィーリアと静馬は、それがただ事実を告げているだけなのだと理解しており、反発も怒りも心に湧くことはない。
 しかし、二人を除く観衆はユリアーヌスという人物を理解してはおらず、静馬に向けられる嘲笑の声は一層深まるのを止めようもない。

 だがそれも、所詮は外の現象。

 馬上の二人は一瞬だけ鋭い視線を絡めあい、同時に馬首を巡らせ背を向ける。

 大騎士のようにゆったりとした足取りで戻ってきた静馬の表情に、迎えたカイルが苦い顔を向けながらも、かすかに笑って肩をすくめた。

「思ったより落ち着いているな静馬、あのユリアーヌス卿が相手だってのに、全く普段通りに見えたぞ。それで、オレに出来ることはないのか?」

「もちろん、ここまで付いて来たのだから当然手伝ってもらう。まず一本目なのだが……」

 身をかがめ、声を潜めた静馬の言葉を聞き終えたカイルが、怪訝な表情を浮かべる。
 一体それに何の意味があるのかを問い返そうと顔を上げ、カイルは動きを止めた。

 左側が大きく破損したままの面頬を着け、手早く後ろに手を回し飾緒を結び、兜をかぶり直した静馬の目は、親友を自認するカイルをして初めて見るもの。

 完全に『入り込んで』いて、余計な声が届くことはないと、見た瞬間にカイルは悟らされる。
 あるいはこう言い換えるべきか、静馬の姿は余りに静けさに包まれており、音を立てることを本能的に避けたのだと。
 それでもカイルが動けたのは、己がベグライターとしての絶大な自負か、それとも静馬の親友であるゆえか、伝えねばならぬという強い使命感なのか。

「バイザー無しでのジョストは、現ルールでは禁止されている。そんな装具では不戦敗だぞ静馬」



「だから言っただろうカイル、私はジョストで勝つつもりはないと」



 掛けられた声に、カイルは一瞬にして総毛立つ。

 身に纏う静けさは変わらず
 静かに流れる声は普段通りに穏やかなまま
 それでも、誤魔化しきれないほどの焔が、静馬の内に灯っているのを認めて。

「お前……」

 それを認め表情を変えたのは、カイルを除けば対峙するユリアーヌス以外にはほぼ居ない。
 否、他の者は気付き得無い、何故なら静馬になど目を向けていない為に。
 騎士が突く『標的の板』の方に、気を向けるものなど居ないのだから。

「そうか、つまりはそういう事なのだな山形静馬、良かろう真の実力というものを見せてやろう」

 * * *

 ベルティーユの息を呑む音に、ちらりと視線を振り向けたフィオナは、祈るように手を組み合わせた綾子の奥、手を握りしめて小さく体を震わせるスィーリアを見つけた。
 俯き何かに耐えているのではない。
 ましてや、神に祈りを捧げるよう、両手を組んでいる訳でもない。

 フィオナがそこに見出したスィーリアの表情は、いつもの毅然とした姿からは考えられない、頬を染め目を輝かせた、車椅子の上で静馬を見つめるミレイユと全く同じ憧憬の眼差し。
 それが黒の鎧に身を包む国内最強の天才騎士、彼女の兄であるユリアーヌスへではなく、静馬に向けられているのを不思議な気持ちでフィオナは見つめていた。

「……ジョストは弱いって言ったのに」

 口をついて出た言葉は、完全に無意識のもの。
 以前スィーリアに、静馬のファンなのだと言われた時、同時に彼女はフィオナに告げたのだ。
 『静馬は騎士としては強くない』と、間違いなく。

「ああ言った。
 静馬のやることは、『ジョストでは反則』と連盟に定められた、騎士らしくないという理由で。
 アイツはその事に一度も抗議したことはないし、反則とされた技をそれ以降使ったことも無い。
 だから、二度と見ることがないと思っていた、アイツのあんな姿を」
 
 一瞬足りとも静馬から視線を外そうとせぬまま、スィーリアがフィオナに答えたのは、そんな予想もつかぬ言葉で。
 それ故に、続く言葉も当然ながら、その場の誰も予想がつく筈のない代物。

「だから私はアイツに、私だけの異名を贈ったんだ、『最強』の意味を込めて『レッド』と。
 しかしフィオナ、だからこそレッドはこのジョストに勝てない」



 ユリアーヌスの低く冷たくすらある呟きは、歓声に阻まれ静馬までは聞こえない。
 されどベグライターから、槍を受け取ったユリアーヌスが身に纏う気配に、手の中で槍が重量をましたように錯覚し、静馬の口角が面頬の内で吊り上がった。
 聞こえずとも届く、揺らぎない馬上の姿から、立ち昇る充実した気力から。

 どんな言い訳も出来ぬほど、相手が実力でねじ伏せに来ていることが。

 ユリアーヌスを見ていた大多数が、その気迫に気圧され一様に息を呑む。
 必然、場は水を打ったように静まり返り、空気は質量を持つかのように重く立ち込めた。
 秒針が時を刻む度に緊張感はいや増し、皆が息苦しさを感じ始めた頃、試合開始の合図の音が、全く釣り合わぬ清々しさで流れ落ちる。

 直後、それは起こった。



「おおおおおおっ」



 腹の底から搾り出された大音量の雄叫びは、闘技場内全ての者の心臓を跳ね上げさせ。
 声援、歓声、アナウンス、その他全ての声上げる行為を、駆逐し呑み込む。
 全員の視線を振り向かせそのまま固定した、真紅の騎士を探した観衆の目が、そこに見出したのは……

 槍を握る右手を、槍投げのように後方に大きく伸ばした異様な姿。

 腋をしめ、腋の下に一種抱えるように槍を固定する、そんな常識以前の『ジョストの騎士はこう槍を構えて戦うもの』という、当り前の姿勢を完全に無視した姿。

  獣じみた咆哮、ジョストらしからぬ異様な構え、それらに受けた衝撃から一人また一人と精神を立て直した観衆は、一様に『ちゃんと真面目にジョストをやれ』と怒りがわきあがり。
 改めて原因である男に視線意識を向け、開いた口から、文句を漏らすこと無く、閉ざした。

 胸を張り、背筋をまっすぐに伸ばした馬上の静馬の姿は、勝つための技術や、セオリーとして成り立った優位――腋を締めやや前傾姿勢で槍を構え隙を伺う、被弾面積を小さくするように身を屈める――を全く無視し。
 そんなものを当り前として受け入れる騎士達を、笑い飛ばさんばかりに堂々たる姿。
 いや、騎士だけではなく静馬のその姿は、そっくりそのまま観衆の心中に湧き上がった文句を、真正面からココロへぶつけ返す。

 ジョストではするべきではない
 試合では正しくない
 勝負ではありえない

 物語の中にのみ存在する、騎士の姿がそこにあった。



「どうだフィオナ、レッドは格好良いだろう?」

 不意に耳に流れ込んできた声に、初めて自分が静馬に見とれていた事実を知らされたフィオナ。
 だが、此処で素直には頷けなかった。

「あんな変則の構えで、槍をつけるんですか?体だって鈍っているのに」

「まだ、気付け無いのだな」

 どこか笑いを抑えきれないような声のスィーリアに、もう一つ笑みに和らぐ気配が揺れる。
 
「いくら男性とはいえ、普段から鍛えていない方に、鎧を身にまとって落馬した相手を抱き止めるなど、不可能ですわよフィオナ?」

 一体、フィオナの中で静馬さんは、どれだけ凄い理想像と比較されているのかしらね、と上品に笑うベルティーユに、フィオナの頬が一気に朱に染まる。
 全くだ、とスィーリアも笑って賛同しながらも、相変わらず視線は今まさに槍を交わさんばかりに肉薄しつつある、二人の騎士から離れる気配はない。
 二人の金髪の美女に訳知り顔で笑われ、自分だけが答えに届いていないと言われてしまえば、如何に相手が上級生だろうが、フィオナがそこで恥じ入って引き下がるはずがない。

「槍を扱うことって先輩たちにとっては、体を鍛える事と同程度の意味なんですね」

 相手を小馬鹿にした――静馬言うところの誂うような――フィオナの物言いに、さすがの二人も瞳を怒気に染めずには居られなかった。
 如何にフィオナに甘い二人と言えど、その発言は下級生の生意気や、ドギツすぎる冗談として聞き流せる範疇を大きく外れている。
 言葉面だけで見るのであれば、それは普段のフィオナが口にするような、幼さ故の反発の表れにも見えなくはない。

 だが、違うのだ……

 フィオナが口にした言葉は、『貴女達にとってのジョストは、所詮健康体操程度なの?』と怒りよ失望に拠って発せられたものではない。
 直接的ではないというだけで、ほぼ直接的に『お前たちは本当に騎士なのか?』と言い放ったに等しい。

 如何にスィーリアとベルティーユであろうと、流石にこれは聞き流せない言葉だった。
 笑いは顔から消え、嘲られたと感じ強く深い視線をもって、誇りを傷つけられた屈辱で、二対の瞳は氷の冷たさと鋭さをもって、小生意気な下級生を斬り裂きあるいは刺し貫くかに見えたが、二人は視線を向けた先にその姿を捉えることが出来なかった。
 
 そこに見出したのは、紅蓮の怒りを滾らせた瞳をもって、二人を迎え撃つ少女騎士だけだった。

 あるいはこう言い換えようか、侮辱されたと感じた二人より前に、一人の少女が耐え切れぬほどに侮辱されたと感じ、あの言葉はそれに対しての返礼だったのだと。
 今少しわかりやすく事実を説明するのならこうだ。

 先ほどの台詞は、ケンカを売ったのではなく、売られたケンカの領収書を叩きつけたのだ、と。

 小刻みに震える肩、握りしめすぎて白んだ拳、強く噛み締めすぎて今にも痙攣しそうなこめかみ。
 フィオナは全身で自分の体を抑え込んでいた、怒りに手綱を明け渡し怒鳴ることを、湧き上がる悔しさに二人をひっぱたくことを。
 フィオナが頬を朱に染めた理由は、羞恥ではなく激怒であった。

 仮にその少女騎士の胸の内から、その時に言葉が溢れだしていたならこうだ。

 静馬先輩が、体を鍛えることなんて当り前だ、先輩は騎士なんだから。
 なのに二人は、そんな当然の話で何で自慢げにしているの?
 それとも何?二人にとって、静馬先輩が体を鍛えていたのは『自慢』するほど『意外な事』だった訳?
 そりゃ、あの変態気障ナンパ男の姿を見たら、汗をかくのも嫌がる口だけのモヤシ男に見えるわよ?

 あっ……そういうこと。
 私が静馬先輩を『そう』だって思い込んでると、二人は考えてるってこと。
 この学校で、一番長い時間過ごしてても、私じゃ気付けっこないって言ってる訳か。
 いや、違う……私より自分の方が、静馬先輩を理解してるって言いたいのね。

 入学早々何であんな早朝

 静馬先輩と練習場で出会ったのか

 気付けないほど馬鹿だって言ってんのねそれ。

 フィオナが二人に対し牙を剥き噛み付く寸前、場内に響き渡る大声が、再びざわめきを斬り伏せ静寂を縫い止めた。
 だが、今まさに交差せんとする二人の騎士の姿に、視線はその発言者を探す為に彷徨うことはなく。
 その言葉の意味を探ろうとする思考も、やはり湧き上がらない。

 故に、この言葉が意味を持つのはこの場に唯一人、静馬にだけであった。

「セットッ!!」

 2015.10.04


   

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