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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第六十幕「詐欺師は常に態度を変えず」

 
 第六十幕「詐欺師は常に態度を変えず」

 綾子の言葉で、静馬によってフィオナにかけられていた魔法は、儚く綻んでいった。

 最初に静馬に出会った日の、タオルを取り損なった理由。
 カイルに顔を殴られた静馬に、綾子が血相を変えて飛びついた訳。
 そして片目を……左目をつぶってみせる仕草が、余りに自然である意味。
 唯一静馬に受け止められた平手打ちが左手、即ち『静馬の右側』からのものであったこと。

 ウソもつかない、隠しもしない、でも真実とは逆のことを見せようとする。

 ただの変態気障ナンパ男にしか見えないのに、誰よりも騎士であろうとする。

 ほんと、先輩は詐欺師だ。

 いったい自分はどれだけ静馬に騙されて。
 どれだけ騎士を魅せられて
 どれだけ、あの人に救われてきたのか。

 涙が零れ落ちそうになるのを、きつく唇を噛み締めて耐える。
 そうしなければ、今にも叫びだしてしまいそうになるのを、抑えられない。
 小さな両手を握りしめ、フィオナは真っ直ぐに姿を表した、紅の騎士の姿を見つめる。

 * * *

 水野貴弘を中心と据えた集団は、フィオナたちとはまた別の一角に集まっていた。
 観衆の外来を想定していない闘技場の観戦席は、ごく僅かな貴賓用の特別席を除けば、よく言ってシンプル悪く言えば簡素な作りで、闘技場をぐるりと一周取り囲む。
 当然ながらそんな作りであるために、場所によって人気不人気が大きく別れるのは言うまでもなく。
 陣取る場所によって、観衆の質が大きく変化するのもまた、言うまでもない。

 ほとんどが埋まった観戦席、やはり人気が高いのが丁度中央部分を横手から見るのに適した場所で、貴賓席の設置されているのも当然その条件を満たしている。
 もっとも貴賓席は一般観戦席とは階層自体が異なるため、来賓の数が増えると一般観戦者が追いやられる、というようなことはない。

 ウィンフォード学園に態々入るような学生は、言うまでもなく皆ジョストが好きで、必然長手方向の一番いい席の競争率は上がる。
 だがウィンフォードである、騎士を養成する学校だけあって、誰が言うでもなく騎士課の生徒が優先され、次いでベグライター課、最後に一般課の学生という順が暗黙の了解があり。
 その枠組みを超えて優先されるのが、戦う騎士の個人的な関係者である。

 今回の静馬とユリアーヌスの決闘は、静馬の人生最後のジョストという側面はありはするものの、その事実を知る者は多くなく。
 多くの学生にとっては、ウィンフォード学園の学内大会という、お祭りのエキシビジョンでしかない。
 綾子の養護教諭としての顔は、ある程度の融通をきかせることは出来たものの、最初から会場入りしていた訳ではないため、誰かを押しのけてなどということも当然出来ず。
 フィオナ達に静馬の関係者として、優先的に席を宛がうなどということは、出来るはずもない。

 彼女たちが試合直前まで静馬の控室にいながら、労せず最もいい席を確保できたのは、あくまでエマがベルティーユのベグライター役をアン一人に任せ、ベルティーユの試合が終わった後にはアンが合流し。
 静馬の控室にも行かずに、本来は貴族として貴賓席に行くべきミレイユの分まで、頑張って席取りをしていた結果である。
 貴弘達の方はと言えば、全員が大会参加の騎士やベグライターの集団であり、あくまでメインは自身の参加する大会。
 エマとアンが席取りをしていたフィオナたちのように、最前列の席という訳にはいかず、見やすい場所などと贅沢なことを言える筈もない。まとまった席を確保できただけでも御の字、というところだろう。

 それは観戦席にいるほかの騎士たちも同様で、従来の大会ではここまで席取りが殺気立つことはない。
 だがこの決闘で戦う一人は現役国内最強の騎士で、間近で見られるチャンスを逃すまいと騎士課の生徒が殺到、更にはその騎士が家格、騎士としての実力、そして何より美麗な外見とあって、観戦席に女生徒の姿がやけに目立つ事となり。席事情が極めて悪化したのも、二つの集団の環境を分けたと言っていいだろう。

 貴弘達の居る辺りはかなり外周近くで、周りから聞こえてくる声には、眉をひそめたくなる様な内容がチラホラと見受けられる。
 試合前から実力差が歴然であり、悪名高い腰抜けの騎士モドキになど、無様なやられ役以外の何も期待されていない。
 その点についてだけは、騎士課の生徒達もその他の女生徒達においても変わることなく、故にカイルと共に姿を現した静馬の姿など、よくて一瞥されるだけ、悪ければ見向きもされない。

 だがフィオナ達以外で――実況の東雲嬢を除けば――静馬の姿に視線を釘付けにされた者がいた。

 ミレイユの姉であるノエルは、綾子と何事か言い合っていた妹が、静馬の姿を見つけるなり車椅子から身を乗り出すようにして見つめ、両手を組んで祈りを捧げる様を見て、自然と静馬に視線を向け。

 貴弘は静馬の姿を見た瞬間フラッシュバックを起こし、唇まで紫になりながら震える体を隣に座る美桜に支えられ、保健室へとの誘いを弱弱しく拒否しながらも、静馬から目を離せなくなっていた。

 最後の一人の茜は、殴りつけられたかのようなショックを受け、唇を噛み締め顔をうつむけながらも、視線は鋭く斬りつけるように静馬を睨む。

「・・・たばかられた」

 関節が白むほど強く握られた拳は、揃えて据えられた太腿の上で震え、漏れ出た声は怨嗟と共に自らの不明を恥じいるような響きを持って流れ出る。

 腰抜けの口先男だと、信じて疑いもしなかった。
 鎧を見るまで、その男の姓が山県だと気づきもしなかった。
 私は一体、今まで何を見ていたんだ・・・

「ちょっと茜、一人で納得して落ち込まれても、こっちはリアクションに困るのだけど?」

 ノエルは状況に一人取り残されたリサを気遣って、茜の言葉の端を捕まえる。

「山県の姓を名乗り、あの鎧を受け継いでいるなら。アイツは日本で最も有名な騎馬軍の末裔だ」

 苦々しく吐き出す言葉には、己の未熟を呪うようなドス黒い感情がこめられていた。
 ジョストの騎士にして、日本人でありながら、その事に注意すら向けていなかった事は、茜にとってはそれだけの不覚。
 茜にそれだけの感情を見せつけられ、遅れて貴弘もその原因を――茜が何を言っているのかを悟る、悟らされる。

「たまたま苗字が同じだから、あやかったという事じゃないの?」

「ノエルは気付かなかったか違和感に?
 アイツは馬に乗るときに右から乗った・・・あれはアイツが『そう』だという証拠だ」

「それならなおさら、先祖伝来の鎧でジョストなんて、やらないんじゃないですか?」

 リサの問い掛けに周りが肯定的な空気になっていき、茜が思わず顔をしかめる。
 普段生活している分には気にもならないが、たまに根本的な部分での考え方や価値観の相違が表面化すると、自分がこの国の人間ではなく留学生――外国の人間なのだと思い知らされる。
 説明することも考えたが、得てしてこういう差異は、説明されても本当の意味でお互いが踏み寄れないものだと、茜は経験則から思い留まる。
 同じ日本人として反射的に貴弘に救いを求める視線を向けたのは、無理からぬというよりも自然な流れであろうか。
 そこでようやく貴弘の異変に茜が気付き、茜の息をのむ気配につられ、ノエルとリサの二人も遅れて知る。

 紫にまで染まった唇

 顔面は蒼白となる程に血の気のひいた顔

 焦点の合わぬ漆黒の双眸

 貴弘には茜の視線など、欠片も届いてはいなかった。
 彼は今まざまざと、記憶の底に封じていたトラウマを引き摺りだされ、目を閉じても消えることのない記憶を再生されており。
 恐怖に負けて叫びだしも、パニックになって暴れもしないのは、静馬との距離があることと、当時から数年たったことを差し引いても、貴弘の精神力が誇るべき強さを持った故であった。
 
 * * *

 馬上の人となった静馬は、カイルから槍を受け取り、遠くに対峙する相手を目を眇めて確認すると、重さとバランスを確認するよう手にした槍を縦に横にと数度振り回し、風切り音に忙しなく耳を動かす夜風の首筋を優しくなでる。

「それで、こんな調整期間の短いジョストに、勝算はどのくらい有るんだ?」

 あくまで普段通りの口調で冗談めかしてはいるものの、カイルの目つきは真剣そのもの。
 肩をすくめた静馬から返ってきた言葉もまた、いつも通り根拠の無い自信に溢れながらも、カイルの期待していたものと酷くかけ離れた内容だった。

「一体何を言ってるんだカイル、そんなもの有るわけがないだろう」

 実にあっけらかんと、これから戦おうという騎士本人に断言されてしまい。
 どころか、大丈夫か?と逆に心配されてしまっては、流石のカイルも口をあんぐり開けたまま言葉も出ない。

「ちょっと待てっ、お前あの娘に必ず勝つと誓ってみせたのだろ!?ジョストに勝って名誉を守るって……」

 少なくとも静馬がフィオナのことを大切にしており、騎士として静馬が誇りにかけて誓った以上、そこには勝ちの道筋が有るはずだと。
 自分には見当もつかないが、静馬には勝算があるのだと、ある意味でカイルは呑気に構えていたのだが、その信頼はあっさりと覆された。



「そんな出来もしないことを私がフィオナに?嘘をつかないことが、数少ない美徳だと自負する私が?」



 カイルと静馬の付き合いは長いとはいえないものの、一年の入学早々からなので丸一年程の付き合いになる。
 親友を恥ずかしげもなく自称するだけ有って、その期間教室で寮で厩舎で会話し、あるいは馬の世話を共にしてきた。
 時には将来の夢や恋愛話といった、今思い返すと羞恥のあまり暴れたくなるような内容も有り。
 ウィンフォードにおいて、最も静馬と時間を共有してきたのは、自分だという自負も有る。
 故に、静馬の言葉の意味を――静馬が一体何を言っているのかを――カイルは正確にとらえた。

 ああそうだ、確かに静馬の言うとおりだ

 こいつは、敵を打ち倒すといったし、勝つとも言ったが

 ジョストで勝てるとは、一度も言わなかった。

 だが、あの娘は騙されたって怒るのわかってるだろ?

「お前、そんなだからモテないんだぞ静馬」

 自分の頭を乱暴に掻き毟りながら、苦り切った表情でカイルが吐き出す言葉に、静馬が堪え切れずに吹き出しついには大笑いしだす。

「自分の騎士を見る目が曇っていたからといって、それを私に当たらないで欲しいものだな」

「ふん、なんとでも言え。人生最後のジョストを、派手に負かしてくれる相手とさっさと挨拶してこい」

 そう言って差し伸べるカイルの手に槍を引き渡し、中央へと馬を進める静馬に習うように、馬上の人となったユリアーヌスもゆっくりと中央へ馬を進めてくる。

「よく逃げずに来たとでも言えばいいか?」

「そんな安っぽい台詞を吐かれても困る、そも決闘を仕掛けたのは私で、受けたのが貴方だ」

 軽い口調の応酬は、たった一往復で終わりを告げる。
 強い瞳で静馬を睨んだユリアーヌスの口から漏れたのは、怒りを結晶化させ敵意で磨きあげた憎悪の糾弾。
 
「貴様は何故あんな真似をした」

 水野貴弘の脚を静馬は狙って壊したのだと、ユリアーヌスは信じてを疑わず、憎しみの感情もあらわにその事実を突きつける。

 今までこんな風に、正面切って非難されたことはなかった。
 誰かがそうしてしまえば、公式に表で確定しまう。
 誰もが心の内で判っていながらも、曖昧な言葉で焦点をはっきりさせずに誤魔化した理由。
 
 過去一度として弟子など取らなかった最強の騎士が、初めてとった弟子を潰した相手に騎士を続けさせ無い為、連盟が公式記録からも騎士序列からも、静馬の名を削除させたのだということが。

「それを問うのか、騎士である貴方が」

 軽く肩をすくめながらも、以前全く同じ返しを貴弘にしたことを思い出し、静馬は内心妙に納得もした。
 貴弘にとってユリアーヌスこそが理想の騎士像で、それは今も変わらず貴弘の中に根付いており。
 だから水野は、まだ蹲っているのか、と。

 貴弘の中では、静馬との試合はジョストですら無く。
 故にあの時の負傷が試合中の事故ではなく、ただの理不尽な出来事で。
 だから、周りも連盟も『そう』動いたのだと。

 納得したのだ、気が付いたのではなく。
 それは即ち、疑っていたことを確信しただけであり。
 相手が今の言葉では自分の言っていることを受け止めないと、理解したということでも有る。
 
「あれがジョストであり、私が騎士であるが故に」

 あくまで静馬の本心でありながら、どこか皮肉っぽくも聞こえる物言いに、ユリアーヌスの顔に浮かんだ歪みが深まるのも当然。
 『あんな真似』等といった以上、ユリアーヌスにとっては、事故であっても許せぬ騎士らしからぬ行為であるのに、故意であったと静馬に真正面から胸を張られたのだ。
 加害者が居直っているとしか思えず、神経は逆なでされる。

「それが貴様のっ」「問われ答えた、次は私が問う番だ。貴方が感情をぶつける番ではないよ」

 言葉を遮りながらきっぱりと断言する静馬に、そこまでの話の流れは断ち切られ、ユリアーヌスの口は半ば強制的に閉ざされる。
 大変結構、何ら悪びれた風もなく鷹揚に頷き返しながらそう告げ。一旦視線を外して回りを見回し、ある人物の姿を見つけた静馬の口から安堵の息が漏れる。

「では問おう、貴方は一体いつまで責任転嫁をするのを止めない?」

 静馬の言葉に眉を跳ね上げさせたユリアーヌスの顔は、一瞬にしてドス黒く染まる。
 当然だろう、騎士が大観衆の前で真正面から『責任転嫁』――即ち、卑怯者と罵られたのだ、これ以上の侮辱はない。

「勝利が当然で敗北した者は不要と言い、それを有言実行する貴方は素晴らしいジョストの騎士だ。
 だが同時に、指導者として同じことを言う貴方は欠陥品と言わざるをえない。
 敗北しない者に師などいらない、敗北したものを見捨てる師など、不要どころか有害でしか無い」

 軽く肩をすくめながら、静馬は片目をつぶってみせる。

「弟子が敗北した理由を相手に見つけ、八つ当たりなどされても困る」

 2015.09.20


   

~ Comment ~

感想 

静馬さんがカッコいいです。
理不尽な目にあっているのにそれを全て受け入れる器を持ち、分かりにくいフィオナの優しさを一人理解し支える。素晴らしい騎士ですね。
原作は知りませんでしたが引き込まれてしまいました。
良い小説を書いてくださりありがとうございます。無理せず頑張ってください、応援しております!

Re: ぽけぽっけ さん 

 コメントに感謝を。

 原作はゲームなのですが、少し前にアニメ化もしております。
 私は大好きなので、もしこの私の妄想をきっかけに原作に興味を持っていただけたら嬉しい限りです。

 ただ、個人的な感想としましては、私の妄想であるDRは、原作のWRが好きな人が二次創作を探そうと思って、求めている内容ではないだろうなぁ、と思っております。
 そして、アニメではかなりマイルドになっていますが、原作ゲームの方でのフィオナは……主人公に感情移入していると、かなり嫌う方も多いのでは無いかと思います、その点だけは注意を。
 
 そんな中で、フィオナ側の事情がほとんど説明されず、一方的に悪役?になって居るのが、どうにも引っかかったのがキッカケでのこの妄想ですが、楽しんでいただけたのでしたら、書き手として嬉しい限りです。
 気分屋なもので、気分が乗った作品に力を入れてしまう悪癖があるので、DRの気分が乗っているうちにモリモリ進めてしまおうと思っております。
 私はお話を考えながら楽しんでおります、読んで楽しんでいただけたら嬉しいです。
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