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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第五十七幕「優雅なる淑女の戦い」

 
 第五十七幕「優雅なる淑女の戦い」

 華やいだと言うには、少々耳にうるさ過ぎる喧騒にウィンフォード学園は包まれていた。
 平日の平常授業時より学園内に居る生徒数は少ないはずであるのに、どこを見ても生徒の姿で溢れており。
 いったい普段はどこに身を潜めているのか、などと馬鹿なことを思わず考えてしまうほど、目の前に広がる光景は雑然とした様相をみせていた。

 学園祭というものは不思議なもので、学校行事である以上生徒たちがこれまでこの学園で学び、身につけてきたものの発表の場でありながら、同時に祭りという側面を持っている。
 どういうことかといえば、今まで過ごしてきた中で得た成果を学園側へアピールする、所謂『文化活動発表会』という部分は建前で。
 その実、各クラスでの出し物という自主的な団結と活動によって、結果的にそれまで生徒たちが学園生活で、何を学び何を身につけたのかの報告を、祭りという浮かれた環境で自然と見せる発表の場である。

 つまりは、今まで築いてきた人間関係、仲の良い相手やグループで協力し、あるいは競い合い。
 緩いとまでは言わないものの、普段より厳しくもない空気の中、生徒たち自らが定めた合格ライン
 それをクリアするために、挫折と苦労と妥協と達成を共に味わう、学生生活で得られる資産である。

 ・・・である以上、もはや言うまでもないとは思うが。

 当然の帰結として、こうなる。

「一方的な言い分で追い出される学園に、義理立てすることなんて無いんじゃないの先輩?」

 非常に悪目立ちする白制服姿の静馬の周りに、近寄る生徒など居るはずもなく、周りの混雑とは無縁の快適な移動が約束され。
 特別免除と言うクラスメイトからの気遣いで、クラスの出し物への参加という雑事からも開放され。
 元々クラブ活動などという煩わしい物にも囚われていない静馬は、自由に学園祭に参加することを皆から許されていた。



 もう少しわかりやすく言い換えるなら、ハブられてボッチだった。



 親友であるはずのカイルは、静馬の姿を見るなり引き攣った顔で一言、「スマンッ」と断るなり走り逃げ。
 ベルティーユはといえば、クラスからというよりは学園内で完全に浮いているものの、そんなことですらも楽しんで流せる豪の者であり、静馬の白制服姿如きの変事はさらりと流したが。
 その友人たるアン・エマの二人がその状況を最大限利用し、『ベルティーユと三人だけ』を堪能するために、同じ境遇である静馬を追い散らすという暴挙に出た。

 結局、非常に悪目立ちする白制服に普段の悪名が重なっても、普段と変わらずに話しかけられたのは

 今や静馬をも凌ぐ悪名の持ち主であるフィオナだけで。

 まさしく学園側の意図した通り、『普段の積み上げてきたものの発表の場』として機能していた。

「学園などというよくわからないものには、確かに義理立てする必要性は感じられないのだが、私が此処で反抗的な態度を取ると、とある美女が煩わしさに悩まされ表情を曇らせることになる。
 それが我が麗しのベルティーユ嬢の勝利に、一点の曇となりかねない以上、私にはそんな真似をする気にはなれない、とまぁそういう事だよフィオナ姫」

「勝利ぃ?」

 あからさまに正気を疑う様なフィオナの表情にも、欠片も気を悪くした風もなく。
 「で?どこに向かってるんです?」と眉間にしわを寄せたまま問い掛けるフィオナに、相変わらず柔らかな笑みを浮かべたまま一つ頷き返すと、静馬はさり気なく手にしたパンフレットを見やすいように傾ける。

「フィオナが出場を思いとどまってくれたおかげで、私としては何に気兼ねもなく彼女に投票できる」

 エメラルドの瞳が紙面の文字上を流れ行き、鼻にしわを寄せるだけでは留まらず。
 「うわぁ……」と思わず口から出てきたのは、嫌悪の声。

 最も目立つ色でパンフレットに書かれている文字は、ミス・ウィンフォード・コンテスト。
 学園生徒数の約半分が参加するという、学園一の美女を決定する学園祭一番の目玉イベントで、言うまでもなくそこには原因というより餌があり、注記にもはっきりと書き記されている。

「出る訳ないじゃないですか、こんな変態を喜ばせる為のもの。これ、先輩が実行委員じゃないんですか?」

 『出場者は当日水着着用のこと』たったその一文だけでも、フィオナが静馬を見る目が生ゴミでも見るように変わるが。
 更にその後に続く文字に、軽蔑で唾でも吐きかけそうな顔になる。

「残念ながら選に漏れてしまって、私は一般参加者だよ」

 軽くいつもの通りの気障ったらしい仕草で肩をすくめて見せ、フィオナの嫌味を受け止めもせずにあっさり受け流すも、フィオナの瞳から疑惑の色は抜けない。
 先日飾り付けの修繕作業に参加した静馬は、自分には参加の義務はないと告げており、冷静になればフィオナにも静馬が学園祭の実行委員ではないことが解るのだが。
 フィオナの中にこつこつと積み上げてきた、静馬に対する変態のレッテルが、フィオナから冷静さを奪い、先入観を強化している。

「歴代優勝者のビキニ率が、ワンポイントアドバイスって赤文字で書いてあるんですけど?」

「ああ、実に見事な戦術的着眼点だね。
 それを書いた者はそのたった一言で、学習の成果と能力の高さを此処に発表したと言っていい」

 確かに傾向と対策を、データを元に考えて、最も有効な手段を見抜いてはいる。
 だがその天秤のもう一方に掛けられているのは乙女の羞恥心で、それを載せている受け皿は男の欲望だ。
 一種潔癖症ではないかというほど、そういった方面に対する強い嫌悪感を抱くフィオナが、頭でどれだけその有効性を認めても頷けるはずもなく。
 「ええ、そーですねー」と、返事が棒読みになるのも仕方がない。

「流石に知名度がモノを言う為に一年時に制覇とはいかなかったが、我が麗しのベルティーユ嬢がビキニ姿で現れれば、目を奪われぬ男など居ない」

 まるで自分の事であるかのように、誇らしげに胸を張って断言する静馬。
 チクリと痛む胸に眉を寄せながら、フィオナがジトッと静馬を睨み上げ鼻を鳴らす。

「それ、胸の大きさで男を釣ってるって言ってるんですよね?」

「ん?ああ、それは違うよフィオナ。
 もし君がこのコンテストに出場して水着姿で現れたなら、私は君に目を奪われるだろうし。どちらに票を入れるべきか悩み、自分を二つに引き裂いてしまうかもしれない」
 
 ごく当り前に、普段通りの口調でそんなことを言われてしまえば、どんなに静馬が気障な物言いに全く見合わない平凡な外見をしていようが、静馬の相手をすることに最近慣れてきていようが、一年生のフィオナが受け流すことなど出来るはずもなく。
 声の聞こえる範囲の女生徒をも巻き込んで、顔どころか首筋までを紅潮するのを止められはしない。

「は、はぁ!?するわけ無いじゃないですか、水着でステージに立つなんて恥ずかしいことっ」

「フィオナはまだ静馬さんに抱き上げられ足りないのかしらね」

 恥ずかしさに声の大きくなったフィオナに、背後から掛けられた声は笑いに彩られ。
 別種の羞恥に赤く染まった顔を振り向けたフィオナが、噛み付く言葉を吐き出せない程の光景が目の前に広がっていた。
 いや、光景ではない。フィオナが一瞬にして呆けたのは、目の前で微笑む唯一人の人物、その水着姿。

 何より、先ほどの記事の戦術的有効性を認めざるをえない程に、凶悪なまでの母性の象徴が、反発し何かを言えば重ねた言葉の分だけ、発言者に惨めさを感じさせる質量をもって、目の前にあった。

「まだお姫様としての自覚が足りないのは、フィオナだけのせいではないのでしょうけれど」

 そう言って視線を静馬へと移すベルティーユは、隠す素振りも無く黒ビキニに包まれたそれを、まるで見せ付けるように堂々と胸を張った立ち姿で優しい笑みを浮かべた。

「だめですよ静馬さん、いくらフィオナが可愛いとはいえ、そんなお転婆姫扱いをなさっては」

 流石にそこまで言われればフィオナにも、ベルティーユが静馬の何を窘めているのかが解るが。

 静馬先輩が、私のことをお転婆姫……つまり、子供扱いしてるから
 
 私が女の子としての、自覚が出来ない?

 あんな恥ずかしいこと、いっぱい言われてるのに?

「私は女を安売りして媚びを売るような真似、したくないって言ってるだけです。
 だいたい水に入るわけでもなく水着で人前に立つなんて、貴族としてどうなんですか?」

「この国の、貴族の立場まで気を使ってくれるのはありがたいが、あえて言わせてもらうと、まったくもって今の意見はフィオナらしくない」

「ってスィーリア先輩まで!?」

 水着姿の迫力美女がもう一人増え、さすがに二人の胸の絶対的質量に圧倒されたのか、フィオナが無意識に半歩静馬の影に隠れる。

「何が私らしくないって言いたいんですか?」

 眇められた目、尖らせた唇、トーンの下がった声、眉間によったシワ、それら全てがフィオナの本心が負けを認めつつも素直に表明できず、なんとか先の憎まれ口を叩いた事を示しており。
 
「確かに少々気恥ずかしさも感じなくはないが、これは女性としての魅力を競う闘いだ。
 それに対して闘いもせず敵前逃亡など、勝利の女神の名が泣くぞフィオナ?」

 すんなりと伸びた長い脚で、まるで仁王立ちのように立ち、胸前で腕を組むスィーリア。
 少し驚いて見せながらも、それがスィーリアにしては珍しいからかい……というよりは、極親しい物にしか見せないじゃれつきなのだと、すんなりと見て取ったベルティーユ。
 スィーリアに寄り添うようにしながらも、静馬に此方も少し困ったような笑みを向け、片目をつぶってみせる。

 静馬さんだけではなく、スィーリア様まで、フィオナをお転婆姫扱いなのですね。

 では、貴方だけを責めるのは間違いなのでしょうね、失礼いたしました。

 無言のベルティーユの問いかけに、静馬も声に出しては何も言わず、軽く肩をすくめ返すだけ。
 静馬が何を伝えているのか、ベルティーユは聞き間違わず、顔に浮かぶ笑みがイタズラっぽいものへと色合いを変える。

「学園祭なのですから、学生としましては楽しんでしまったほうが勝ちではなくてフィオナ?」

 ベルティーユのそれは正論で、正論すぎる分だけフィオナには痛い。
 本人に自覚が無いため、改善も回避もできないのも当然だが、フィオナが先程から突っかかっているのは、ベルティーユにである。
 今はスィーリアにもだが、元々話をしていた静馬に対しては、突っかかっていた訳でも文句を言っていたわけでもなく。
 つい先程のスィーリアがやっていたように、言葉でじゃれついていただけの、いつも通りの不器用なコミュニケーションで……それを横から二人に割り込まれて反発しただけ。
 
 さらにいうのであれば、二人には充分でフィオナには不足している部分に対する、コンプレックスが原因であり。

 タイミング悪くそんな話題をしている最中に、知りうる中でも最大級の二人が現れたため

 噛み付く気力も叩き潰されてしまって、子供っぽくふてくされているだけだったりする。

「心配しなくとも飛び入り参加なさい、などと私は言うつもりはありませんわ。
 私もスィーリア様も、飛び入りなどで簡単に倒される程、女として魅力が低くはない自信がありますもの。
 ですから、これから一年かけて準備して来年、精一杯可愛らしい水着姿で正々堂々、私の手から優勝トロフィーを奪ってお見せなさいな」

 ベルティーユの言葉に、スィーリアが口角を釣り上げる。

「これはこれは、随分と素敵な手袋の投げ方だなベルティーユ」

 スィーリアにもわかっているのだ、いや間違わずに聞き取ったというべきか。
 今ベルティーユは、こういったのだと。

 今年の優勝者である私に、来年逃げずに挑んでみせろ。

 即ち、今年の優勝は貴女ではなく私です、とスィーリアを前にして宣言してのけた。

「ええ、三人もの友人が私の優勝を信じてくださっていますもの。
 それにスィーリア様がいる今年優勝してこそ、私にとっては価値のある勝利ですわ」

 誰もが認める才媛、前年度ミス・ウインフォードにして、女性ですら見惚れる美貌の生徒会長、そんなスィーリアを前にして、増長も気負いもてらいもなく自然体に言ってのけるベルティーユに、スィーリアの口元もほころぶ。

「より古き友を裏切ったなレッド、私が優勝して掣肘を加えてやるぞ、楽しみに待っていろ」

「静馬さんを守るためにも、これで負けられない理由が又一つ増えてしまいましたわね」

 二人笑いあいながら、肩を並べて控室の方へ去っていく後ろ姿には、余人の声をかけられる隙がまるでなく。
 でありながらも、近寄りがたさや張り詰めた空気などというものもなく、ただただ触れることの叶わぬ高貴な華が揺れるよう。
 離れていく二人を見守っていたフィオナが、二人の会話が聞こえない距離になって、ようやく大きく息をついた。

「ミスコンが始まる直前だっていうのに、水着姿で何しに来たんですかねあの二人?」

「見ていてわからなかったかい?」

 それはまた可哀想なことだねと、全く似合わない気障な仕草で肩をすくめる静馬に、先程まで二人に向けていた目とは全然違う眼差しを向けた。
 明らかに、今日の静馬は欠片も信用していない、最低のナンパ男だと信じて疑っても居ないのが見て取れる。

 どーせ、自分に水着を見せに来てくれたーとか、くだらない妄想を言い出すか

 勝利の女神にあやかりに来た―とか、恥ずかしいこと言うんでしょ

 あんな大きいの目の前に四つも見せつけられた静馬先輩なら、何トチ狂ったこと言い出してももう驚かないわよ今日は。

「二人共にアプローチが婉曲的すぎたようだね、もっとストレートに伝えればいいものを」

 フィオナを見つめ、優しい笑みを浮かべながら、いつの間にか手に入れていた缶ジュースを差し出す。

「初めての大会を前にしたフィオナが、学園祭を楽しめているか心配して見に来たところで、出会った相手がライバルだと認識したんだろうね」

 まだ冷たいジュースを受け取りながら、フィオナが首を傾げる。
 ミスコン出場者は事前申請があり、すでに出場者はお互いを認識しているはずだし。
 そもそも美人で目立つ二人だ、今更出会ってライバルだと認識するには遅すぎる。
 なによりベルティーユの言葉にも、スィーリアにライバル心を抱いているのが、隠されもせずに有った。

 明日からの大会のライバルと言う意味であるなら、もっとおかしい。

 それじゃ、一体何のライバルなの?

 流石に静馬先輩も、自分を取り合う恋のライバル……なんて言わないわよね、この腰抜け男じゃ。

「まだわからないかい?スィーリア嬢もベルティーユ嬢も、譲らず主張していたよ、『フィオナの姉の座は渡しませんよ』と」

 2015.06.14


   

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