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歪んだパズルのつなげ方

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天使とダンス

天使とダンス第二十一話「ひどく歪んだ月鏡」

 
 天使とダンス第二十一話「ひどく歪んだ月鏡」

 小さくティアナが舌打ちをした。

 センターガードのポジションである指揮官のティアナと、フロントアタッカーのスバルは訓練校時代からという長年のパートナーであり。
 もう一人のアタッカーであるギンガはといえば、そのスバルの姉であり師匠。
 更にはティアナ本人とも、プライベートで付き合いのある謂わば気心の知れた仲とあってか、1足す1を3にも4にも出来るだけの下地と、自信も自負も有る。
 しかし現状はキャロが気絶し、その愛竜フリードも無効戦力となっているのみならず。
 気絶したキャロをエリオが抱きかかえている為、機動六課側としての純戦闘員数は年長組の三人だけ。

 対してルーテシアの側は、と脳裏に浮かぶ四人の姿を思い浮かべる。

 ルーテシアの両手が、インフィニティとレリックのケースにふさがれている現状、気絶したキャロと同じ役割を果たし実戦動員は二人。
 現に最初にキャロに対して攻撃した以外は、ルーテシアは何もしておらず。
 その後の全ての迎撃は黒衣の竜人・ガリューと、人形サイズの少女・アギトによってなされており。
 非常に不本意なことに、数的に有利な状況にありながら、それでも此方が押しきれていない。

 油断か余裕かしらないけど……

 あのフェイトさんの偽物が戦闘に参加していないから、かろうじて今は均衡が崩れていないだけだ。

 その見た目からティアナは――いやその場に居る機動六課の全員が――インフィニティが足手まといだとは考えもせず。
 どころか無意識の内に、その実力を彼女によく似た人物のそれと同一視し、完全に誤解していた。
 ガリューとアギトが近寄らせずに押し返せていられたのは、そんな誤解の上に立った虚偽の優位に支えられてのこと。

 <どうするティア?>

 問い掛けるスバルの念話には、それ程追い詰められた感がない。
 1対1でガリューと戦い捕えろと言われれば難しいが、何をされたのか解らぬ間に倒されるというようなことはないと、数度の交錯で彼我の戦力比を肌で感じとっていた。
 何より隣に姉と親友がいる今、負ける倒されるといったネガティブな思考は完全に頭から追いやられている。

 <無理に押さずに足止め、勝つことじゃなく負けないことを優先!>

 此方の現在位置は、機動六課の司令部・ロングアーチも把握している。

 だから、最悪『この場』から移動されても構わない。

 ティアナの下した判断は、現有戦力だけでの単独解決ではなく、状況をそして時間を味方につけるというもの。
 時間稼ぎが可能であれば、相手は管理局の部隊によって包囲される。
 その結果訪れるであろう転機として、最も可能性が高いのは、機動六課の隊長陣の誰かが此処へ増援に回されることだ。

 最悪なのが、相手にフリーに魔法を使わせる時間を与えてしまうこと。
 無理に押して抑えようとした結果、此方が全員行動不能にでもされれば相手は召喚師、悠々と転移魔法で感知範囲外へと逃げられてしまえば、後を追うことも出来ない。

 <了解、プレッシャーをかけ続けて釘付けにするのね>

 すべてを悟ったかのようなギンガからの返答に、無言で頷き返すティアナ。
 視線だけで会話を交わしたスバル・ギンガの姉妹がガリューに仕掛け、迎撃に放たれたアギトの火炎をティアナが逆迎撃で撃ち落とす。
 今までと同じ、だが明確な目的を与えられた攻撃は、全く違う意味を持ち動きはまるで違ってくる。

 ☆ ☆ ☆

 異変に最初に気づいたのは、意外にもインフィニティだった。

 彼女の青紫の瞳は、数度まばたきをしても全く何かを映そうとせず
 可愛らしい耳も同様に、金属音の様な甲高い音が一定の音量で鳴っている以外、なにも感じ取れない。
 だというのに、何をもってそう判断したのか、インフィニティははっきりと隣を歩くルーテシアにこう告げたのだ。

「ルーティ、なんか逆転狙われてる」

 頭上でアギトが火球をばら撒き、その小さななりからは想像もつかない程の大爆発を連続して呼び起こし。
 その間隙を縫って接近を図るナカジマ姉妹を、ガリューが格闘戦で悉く退けるという、今までどおりの轟音と振動の満ち溢れる空間のただ中にあって尚、ルーテシアとインフィニティは全くのんびりと話していた。
 目の前で起こっている戦闘が対岸の火のように、いやその戦闘の余波すらもが自分の身に触れることはないのだと、信じきっているかのように。

「何やってんだよ二人ともっ!さっさとこんな所から逃げて、その後のんびり話せばいいだろ」

 全くもって正論のアギトの怒鳴り声は、非常に残念なことに完全に無視される。

 インフィニティがアギトの言葉――というよりは、存在そのものを無視するのは今に始まったことでなく、アギトもそのことに改めて怒りはしない。
 それでも、アギトがインフィニティの存在を無視するようなことはない、それをすればルーテシアがすごい勢いで不機嫌になるからだ。
 無視され続ける相手に、同じことをし返すことも出来ないというのは、アギトとしても面白くはないのだが、少なくとも表面上はルーテシアと同列に扱っている。

 一方ルーテシアはといえば、アギトがそこまで気遣ってくれているというのに。
 状況的にあるいは常識的に、アギトの方が正しかろうがインフィニティを最優先し
 場合によっては今回のように、アギトの存在を無視することも珍しくない。

 だが今回は、その状況が直後に一変した。

「ルール―、ソイツの言う通りなんかヤバイのが近づいくるっ、魔力反応は……でけぇ!」

 アギトの『インフィニティに対するソイツ扱い』に文句をつけられないほど焦った口調と内容に、ルーテシアは天井へと視線を振り上げ。
 強固なはずのそこが、轟音とともに粉砕崩落する様を、まざまざとみせつけられた。

 爆煙を突き破って二人の頭上に迫る岩塊を、一閃で斬り裂き、左右に蹴りのけるガリュー。
 だが斬り捨てた岩塊の後ろ、陰から自らに迫る鉄塊の存在は完全に不意打ちだった。
 それでも一瞬にして打撃点に左腕を割り込ませて防御態勢をとり、一瞬であったが打撃に拮抗したのはさすがだが。
 気合の掛け声とともに振りぬかれた鉄塊に弾かれ、構造体を砕き抜き、更に奥の壁を突き破った事を考えれば、空中での不安定な体勢の防御は、襲撃者にとって見れば防御ではなかった。

「待たせたな」

 鉄槌を肩に、赤の騎士が不敵に笑う。
 見かけはそれこそエリオやキャロと同年代にも見えるというのに、そのたった一言で機動六課フォワード陣の心から不安や焦りを一掃し。
 そして言うまでもなく、対迎撃行動が取られたということは、こういうことである。

 ガリューが吹き飛ばされている時には、ルーテシア達三人の足元に特徴的なベルカ式の魔法陣が描かれ。
 術者の愛らしい外見からは予測もつかぬ凛々しさで詠い上げ紡がれた言葉は、視界の先にいる標的を完全にとらえた宣言にして、勝利の凱歌。
 周囲の大気が珠を結び、アギトを含むその場の三人が、凍気に巻き込まれ氷結する。

 一瞬にして状況を解決してのけた増援の手腕に、驚くやら呆れるやらといった表情のフォワード陣。
 だがその彼らの安堵を恐怖へ、術者の自信を慢心として打ち砕いたのは
 妙に聞き覚えが有りながらも、聞いたことのない声。

「見たことない変な術式だから、ちょっと手間取ったー」

《It is your superb, my lord》

 にへへと何事もなかったかのように、キラキラと煌く欠片を周りに漂わせて笑う金髪の少女の姿は

 天使に見えたか、悪魔に見えたか

 どちらにせよ、その光景を目にした者達の喉が、一斉になるに十分過ぎた。

「なんだよ、それ……」

 今あのちびフェイト、アイツはなんて言った?
 『見たことない』術式だから、『ちょっと』手間取った?
 見たことない術式でも発動前に破壊した、つまり『見たこと有る』のなら……

 『今見た』ベルカ式は、もう手間取らねぇって言ってんのかよ

 ヴィータは背筋を駆け登る悪寒の正体が、恐怖なのだと理解する前に飛び退りかけ、踏みとどまる。
 鉄槌の騎士は退かない、敵がどれほど強大で、どれほど恐ろしくとも、その矜持にかけてただただ粉砕し、前進するのみ。
 愛機グラーフアイゼンを握る手に力がこもり、怒りが恐怖に取って代わる。
 ヴィータの噛み千切るような激情のこもる視線を向けられた先、インフィニティは相変わらずのほほんとした表情で、ルーテシアに向かい手を伸ばした。

「ルーティそれかして」

 言われるまでもなく、インフィニティの言っているそれが、レリックが収められているケースのことだというのはわかったが、ルーテシアは渡すのを一瞬ためらう。
 標的であるそれをインフィニティに渡せば、敵の標的がインフィニティに移ってしまう、ということではなくもっと根本問題として
 付き合いの長いルーテシアにも、インフィニティは何をしだすか全く予想できないからだ。

 下手をしたらいきなりレリックに、魔法攻撃をぶちかます位のことはしでかしても不思議ではない。
 そうは思いながらもそこは惚れた弱みなのか、僅かな逡巡の後ルーテシアは、はいとケースを差し出す。
 そもそもルーテシアの中には、インフィニティのお願いを聞かないという選択肢がないのだから、どれだけ考えようが結果は変わらない。

「壊しちゃダメだからね」

 交戦状態の真っ最中、どころか不意打ちでガリューが吹き飛ばされたいま、自分達を護っているのがアギトしか居ないというのに、まるで普段通りのやりとりのまま仲良くおしゃべりしだす二人。
 だが機動六課側は副隊長のヴィータを筆頭に、インフィニティの実力を先程のバインドブレイクの手腕により、誤解を更に強め。
 結果、それを隙とは考えられず、攻撃に踏み切れない。

 戦闘中であるのに行われたその行為を、誰しも挑発だと理解した。
 お前たちごときには、負けも捕まりもしない、そうあざ笑われる。
 実力差を背景にして、わざと警戒態勢を解いた無防備さを装う、そんなどこにでも有る挑発なのだと。

 そんな戦闘中の真空状態のような中で、インフィニティはケースの封印を解いて中を覗き込み
 ――当然ながら、降り掛かってくる頭上のアギトの常識的な非難は無視され――
 ちょっと横にずれて、ケースの中身をルーテシアに見せながら、首を傾げて尋ねる。

「アタリ?ハズレ?」

「ハズレ、これは6番だから」

 そっかーと、頬を寄せて眺めていた二人だが、不意にインフィニティがケースを閉じると、ぐるりと相手を見回し――隙無く身構えている鉄槌の騎士に向けちょいちょいと手招きする。

「ねぇ11番の持ってる?」

 虚偽の幻影に基づく実力差に、皆が屈辱に歯を噛み締め耐える中、一人ヴィータだけが怒りと憎悪のこもった瞳で、インフィニティの喉笛を噛みちぎりそうな視線を向け。
 不思議そうに小首を傾げるインフィニティに、唐突に気付かされる。

 ……こいつら、ただの子供だ。

 エリオやキャロと、年齢的にそうは変わらないであろうルーテシアとインフィニティに、無意識に同じ程の精神年齢を持っているはずだと。
 リィンの氷結拘束魔法を解いた――否、かかる前に術式を分解したインフィニティの異常な能力に、見た目通りのただの子供ではなく、凄腕の魔導師なのだと。
 見かけに騙されてはいけないと気を張っている他のメンバーと違い、その場で唯一人の大人であるヴィータだけが気づきえた。

「帰ってちゃんと調べてみねぇとわからねぇな。
 なあ、お前の目的話してみろよ、場合によっちゃ手助けしてやっても良い」

 怒鳴りつければ子供は萎縮するにしろ反発するにしろ、決して相手の言うことなど聞かずに敵対する。
 だが聞く姿勢を示してやれば、不思議と知っていることを次々と話してくれるものだ。
 少なくとも相手に敵と認識されていない、先ほどのように気軽に声をかけられている現状であれば、その可能性は低くない。

 インフィニティに問いかけながら、ヴィータは思わず赤面する。

 出会った頃、自分にしつこく『話を聞かせて』と言い続けた、長い付き合いの相手を思い浮かべてしまって。

 そこから何を感じ取ったのか、ルーテシアが珍しく誰が見ても解るほど、むっとした表情を浮かべながらヴィータから庇うように、インフィニティを横抱きに間に体を割りこませる。
 それすらも、先の思い浮かべた相手を庇う、此方も長い付き合いとなった金髪の少女の態度を思い出させ、ヴィータは笑うのを必死に堪えた。

「目的?オリジナルを倒す事だけど?倒せないと廃棄処分だしね」

 実にあっけらかんと答えられ、尋ねたほうがショックを受ける。
 ヴィータの問いかけに、インフィニティは正確に答えた、ウソも何もなくまっすぐに。
 故にヴィータはインフィニティが、『レリックを使ってフェイトを倒そうとしている』のだと、ストレートに誤解した。

 仮にヴィータが、『何をするために11番のが欲しいんだ』と聞いていたなら、当然全く違った答えが返っていただろうし、今少し時間があれば『なぜ11番でなければいけないのか』という、当然の疑問にも行きつけたであろう。
 だが悪いことに、その場には『インフィニティそっくりな相手』の子供たちが二人もおり。
 その内の一人はインフィニティの回答を聞いて、弾かれたように襲いかかった為に、その機会は永遠に失われる。

 そこには多分、思考はなかった。

 もう少し正確に表現をするのなら、論理的思考は、結果が出た後でのあとづけでしかなかった。
 故に襲撃した本人も、何故その魔法を選択し、どのように発動させたのかを意識しておらず
 反発、拒絶、あるいは破壊、体を動かしたのはそんな衝動で。

 槍型アームドデバイスに魔力刃を形成した突撃

 だがその槍先は、発言者ではなくその隣に立つ、ルーテシアに向けられていた。

 あえて何故と答えを求めるのなら、『そんなことを言う』インフィニティへの同族嫌悪を、『そんなことを言わせた』――とエリオが勘違いした――ルーテシアへの、トラウマが上回ったということだろう。
 しかし槍先は、天井まで届く巨大な藤色のラウンドシールドによって、ルーテシアに届くこと無く弾きそらされ。
 それによって隙だらけのエリオの胴へ、ルーテシアの手から打ち込まれた魔力弾が、先のキャロと同様派手に吹き飛ばす。
 更に追撃ちで、ルーテシアに急かされたアギトの轟炎が撃ち込まれ、爆煙と爆風がおさまった時には、少女たち三人の姿はどこにもなかったが、ティアナは自分が無意識に安堵の吐息を漏らしていたことに気づく。
 
 爆煙に視界が阻まれる直前、見てしまったのだ。

 ルールーと呼ばれていた少女が、必死に抱きとめる腕の中で

 フェイトそっくりの少女の、硝子のように冷たく透き通った殺気に包まれた目を。

2015.06.06


   

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