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歪んだパズルのつなげ方

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天使とダンス

天使とダンス 第十七話「欠けた月の光は優しくて」

 
 天使とダンス 第十七話「欠けた月の光は優しくて」

 ふんふんふ~ん、と元の歌がわからなくとも、妙に音程が外れている事だけは伝わってくる鼻歌をご機嫌に歌いながら歩くインフィニティ。
 その左腕をしっかりと抱き込むルーテシアの肩には、先日彼女が保護した赤髪の少女がちょこんと座り。つないだ右手の先には、迷惑そうな顔を全く隠そうともせずに顰めるクアットロ。

 今はゼストが別行動なのだが、理由はいたって単純。

 ルーテシアとインフィニティの買い物のために、街へやって来たからだ。

 質実剛健を絵に描いたような、あるいは真面目を通り越して木石のようなゼストだが、人目の多い街中で子供二人と歩いている姿は、はっきり言って目立ちすぎる。
 それでも二人の内のどちらか一人とであれば、――とくにインフィニティが面倒くさがり暫く髪を洗っていない今、髪の色も程よく似通っており――親子で押し通せる気もするが。
 髪の色から顔立ちまで全く似ていない、ルーテシアとインフィニティの二人を連れていては、それも出来ない。

 野外であればSランク魔導士、アームドデバイスを駆る歴戦の上級騎士であるゼストは、最強のボディガードではあるのは疑いようもない。
 しかし、子供服売り場では店員も、周りの客としてきている母親たちも、残念ながら賛同はしてくれないだろう。

 では何故クアットロなのか。

 ルーテシアはともかく、インフィニティと仲の良い相手というなら、それこそチンクやウェンディがいるというのに。
 ウェンディやチンクは実働部隊である、それも純戦闘系であるトーレやディエチとは違い、言い方は悪いがつぶしが利く。純戦闘系であれば、戦闘に投入され戦闘行為が終了すれば即撤収、その後は収集したデータの解析と調整のためラボに居ることが多い。
 本来的に発現したISからしてチンクも純戦闘系であったのだが、ルーテシアと――なによりインフィニティとの接触が糧となり、適応範囲が広がったため任される仕事が増えたのだ。

 何しろドクターの娘達はみな優秀だといっても人数が少ない、その元々少ない人数でありながら戦闘以外の仕事をこなせる者は更に少ないとなれば、時間など早々作れるものでもない。

 で、よりにもよって何故ルーテシアやインフィニティに唯一悪感情を抱いている、クアットロにお鉢が回ってきたのかといえば、彼女の提唱した『余剰排斥』と言う人手不足を加速させた原因への、いわゆる罰ゲームである。

 対人スキルもあり、子供の相手も出来るという事もあって、今現在大規模作戦を展開している訳でもない為に、スカリエッティから二人の面倒を見るよう指示されては否とはいえない。

「インフはこういうの似合う」

 無表情ながらもやはり女の子、可愛い服を前にしてルーテシアも眼をキラキラさせ、久しぶりにインフィニティを拘束していた腕をとき、並んだ服の中から持ってきたのは……白と青のリボンとフリルの塊。
 確かに金髪ロングで顔立ちも可愛らしいので、似合うか似合わないかと言われれば似合うのだが、決定的にインフィニティのキャラと合わない。

 それを見た瞬間、引き攣った笑みを浮かべ『それはない』と即座に心のなかで否定しながらも、「たしかにお似合いですねぇ」と言葉だけでも迎合してのけたクアットロは、頑張ったと賞賛されるべきだろう。
 対してインフィニティはといえば、ぶんぶんと首を振り「動きにくいから嫌」と、はっきり口に出して拒否した。
 表情は変わらないものの、インフィニティの否定の言葉に不機嫌になったルーテシア。

「それじゃインフはどれがいいの」

 子供らしく言い返す言葉の裏には対抗心と、一体インフィニティは、どんな基準で服を選んでくるのだろうかと言う興味。
 今まで共に生活してきて、一度もインフィニティが自分から服を選ぶという行為をしていないことに、ルーテシアは気づいていた。

 最初に出会った時に着ていたのは、服と呼ぶのに抵抗のあるドロドロなボロ布。仮にそれが元のきれいな状態であったとしても、ルーテシアはそれは検査着で服とは認めないかもしれない。
 その後に着ていたのは、間に合わせで裾を折ったチンクのカーゴパンツだったり、裾を縛ったブカブカのTシャツだったり、袖を適当に切ったチンクのYシャツをワンピースとしてきていたりと、無頓着過ぎる上に適当過ぎた。
 そういう意味で、対極に位置するインフィニティが、どんな服を好むのか見てみたいとルーテシアは興味を惹かれ。
 実際に持ってきたものに、絶句させられる。

「かー姉、これがいい」

 差し出されたものは、確かにインフィニティが反対理由に上げていた、動きやすさでは満点だろう。
 インフィニティが持ってきたのは、飾り気の全くないワンピースの水着――いわゆる競泳水着であった。

 運動性一点張りのインフィニティは、社会倫理や常識を搭載しておらず。

 見た目重視性能無視のルーテシアは、実用性や自分達の今置かれている状況を、視界に入れても居ない。

 別方向の対極に向かって、容赦なくフルスロットルでぶっ飛ばしている二人に、アンタたちには中間はないのかっ!と心のなかで怒鳴り散らしながら、人目があるためにいっそう引き攣った笑顔を向け、どちらもさり気なく否定し置いて来るよう言いつけて背を押す。
 結局その後戻ってきた二人は手ぶらではなく、代わりの服を持ってきては追い返されを数度繰り返し。
 とにかくこの二人に任せてはいけないのだと理解したクアットロは、鋭い目つきで周囲を見回し彼女の優秀な頭脳をフル稼働させて、無難な組み合わせでインフィニティのサイズに合った服を一揃え手早くかき集めた。

 ノースリーブのドレスシャツに淡いブルーのボレロ風カーデガン、焦げ茶のキュロットと黒のニーハイソックスに編み上げブーツ。

 二人の希望の落とし所を探りつつで選んだ為に、はっきり言って良く『かろうじて可愛い』と思えるくらいにマシな見た目を保てたと褒められるべきで、センスが良いの悪いのと言われたら、暴れても文句を言われるどころか同情されるであろう。
 少なくとも競泳水着姿で外を出歩くのを許したり、ゴスだのロリだのと言われるような目立つ服装をするべきではないと判断する、常識の持ち主であり。
 空をとぶことが大好きなインフィニティに、スカートを履かせるほど、良識に欠けてはいないのだから。

 憔悴した表情を浮かべるクアットロが会計を済ませたところで、服を元の場所に戻し終えたルーテシアが、流石に手ぶらで戻ってくる姿を見やりながら。
 次があるのなら絶対に引き受けず誰かに押し付けよう、仮にどうしようもなく引率することになったら、せめてもう一人だれでもいいから巻き込もうと深く心に刻むクアットロの視界の中で、キョロキョロと周囲を見回すルーテシアの不安そうな姿に急速に嫌な予感が沸き起こり。
 掛けられた声でその予感は的中し、まだ安心するには彼女の引率対象は……トラブルメーカー過ぎたと思い知らされる。

「クアットロ、インフはどこ?」



 ☆ ☆ ☆



 ぴょこたんぴょこたんと暫く陳列棚の間で跳ねていたインフィニティ、運動神経はそれ程悪くはないと言っても魔力により身体強化された魔導士でもない、所詮はただの子供にしてはというレベルでの話。
 当然ながらどんなに頑張ってみたところで、棚より高くジャンプできるはずもなく。

 視線を陳列棚に遮られた、好奇心旺盛な少女にとって、迷子になることなど造作も無い。

 別に態とはぐれてやろうなどと思っていたわけではないのだ。
 ただ映像でしか知らない光景を実際に間近で見て、人並みに好奇心が湧きちょっと寄り道をしただけで、唯一の問題があるとすれば元来た方向が全くわからないということだけだろう。
 付け加えるのなら、本人がそのことを問題だと認識していない点も大問題ではあるが。

「どうしたの?探検中?」

 どこか微笑みかけるような、柔らかく聞くものが安心できる優しい声が耳に流れ込んできたのは、背後からだった。
 本来人見知りを全くしないインフィニティだが、それにしてもと思わせるほどに無防備な笑顔で声の主の方へと振り返り

 ――眉を寄せる。

「なんか、おっきい?」



 迷子らしい子供を心配して声をかけたら、全く意味不明の返事をされた相手は、少し困ったように小さく笑い、サイドに一纏めにした長い髪の房を揺らしながら後ろ頭を小さくかく。
 少女というには少々抵抗はあるが、大人の女というのもまた少し違う若い女性は、人懐っこそうな笑顔を浮かべながらごく自然に膝を折って目線を合わせ、正面からインフィニティを見て固まった。



 ちっ……ちっちゃいフェイトちゃんだっ!!



 後ろ姿から、ぼんやりとだが自分の幼なじみで大親友の少女に似ているとは思っていた。
 だが髪の色と髪型が同じなら、後姿は割りと誰でも似て見えるだろうと、冷静な部分でなんでも幼なじみにつなげたがる自分に少し呆れても居たのだ。
 なによりその子供っぽい仕草や綺麗な髪飾りを見て、子供の頃から物静かで控えめな幼なじみとは、実はそれほど似ていないと気づいても居た。
 
 よくよく見れば青紫の瞳や脳天気っぽい表情など、細かい部分もフェイトとは全然違う。

 それでも、振り向いた少女・インフィニティは、幼なじみの眼をもってしても、やはり子供時代のフェイとそっくりとしか言えなかった。

「ええっと、お父さんかお母さんと来たのかな?」

 戸惑う心の動揺や湧いてくる疑問を、無理やりマルチタスクに追いやって表層の思考から切り離し、にこやかに問い掛ける声に緊張や警戒の音が乗らないように十分注意した。

 エリオやキャロに比べ、目の前に居るちびフェイト(仮)は仕草の端々から幼さが見て取れる。
 それは精神的な成熟度や社会性が、二人に比べて低いということと同時に、二人よりも直感力において勝るということでもある。
 頭のなかで知恵や知識、あるいは経験でものを判断せず、ひたすら感覚的にものを捉え、感じたことを疑わずに行動する子供ということ。

「ちがうよ、あのねルーティと、かー姉と来たの」

 親指と人差指を折り曲げた右手を見せながら、全力全開な笑みを向けられた女性は、口元を手で抑えながら頬を赤らめてちょっと俯く。

 フェイトちゃんの外見で、無邪気で人懐っこいとか……

 これってあれ?ブービートラップとかそう言うの?

 突然黙り込んだ相手を、ちょっと首を傾げて下から覗き込むように、じっと見つめるインフィニティの視線に気づいた女性は、数度咳払いして気を取り直し、なんでもないと小さく手を振ってみせる。
 もちろん取り繕えたのは表面だけで、内面はかなりの数の並列思考が混乱を処理中で、とんでもない負荷がかかっているのだが。

「お名前なんていうのかな?お姉さんに教えてくれる?」

「インフィニティ、お姉ちゃんは?」

 ルーテシアが聞いていれば、感動で泣き出したかもしれない程に、自然にその名前を自分のものとして告げるインフィニティ。
 だがそれを聞いた相手の女性は、ほっと安堵の吐息を漏らす。

 内心の恐怖を隠しながら、今の質問はされていたのだ。
 『フェイト・テスタロッサ』と答えられることを恐れながら
 あるいは、『何言ってるのなのは?』と不思議そうに言われることに怯えながら。

 インフィニティと名乗ったこの子からは、一般人以上魔導士以下の魔力しか感じない。

 つまりこの子は、フェイトちゃんやエリオみたいなクローン魔導士じゃない、他人の空似ってことなんだ。

 余りにフェイトに似すぎているが、フェイト同様の存在であるなら同等の魔力を持っているはず――なのはの先入観はそんな答えの実を結ぶ。
 彼女の知るクローン体は二人共、高い魔導士としての資質と魔力を持っており、違法実験は『あのレベル』の魔導士を人工的に造り出す為に、見合わないコストを掛けるものだと勝手に思い込んだ、いや思い込もうとし無意識に自分を騙したのかもしれない。

 それは違法実験の資料に添付された、まるでモノのように打ち捨てられた『失敗作』の映像が、幼い頃のなのはの心につけた傷。
 あるいは、無意識に判断したのかもしれない。
 フェイトと同程度ならいざしらず、それ以下の相手なら、一対一でもどうとでもなると。

 いや、それも穿ち過ぎだろう、もっと単純に信じたかっただけなのだ、目の前の幼なじみによく似た少女の幸せを。

「なのは、高町なのはっていうの、よろしくねインフィニティちゃん」

 言いながらインフィニティの小さな手を握り、優しい笑みを浮かべた。
 ナナハ、ナナハと、小さく繰り返し覚えようとしているインフィニティに、なのはは少し慌てて待ったをかける。
 内心では、そんなになのはと言う名前は覚えにくいのだろうかと、ちょっとため息をつきつつ。
 
「なのはだよ?な・の・は」

「ナノ?」

 こてんと首を傾げて尋ねるインフィニティに

「なの」

 わざとらしく神妙に頷くなのは。

「ナノッ!」

 ぴょんととびつくインフィニティの小さな体を、屈みこんだ不安定な体勢で難なく抱きとめ、困ったようなそれでもデレデレな笑みを浮かべる。
 いや浮かべるのではなく、浮かんでしまう。

「あははは、なんでとびつくの?」

 元々が人との関わりというものに対しとても大切にし、対応もとても繊細な気遣いをするなのは。
 それはすなわち裏を返せば、対人関係において一歩距離を置く癖ということでもある。
 初対面の相手に、いきなりゼロ距離まで踏み込むような不用意な真似をしない、と言うごく当り前の話でもない。

 もちろん誰にでも、何時迄もということではないが、頑固とも強引とも取れるような踏み込みの強さに反し、最後の一歩は絶対に踏み込まず踏み込ませない、なのはにはそんなところがある。
 相手を受け止め包み込んでしまう、なのはのそんな傾向は非難されるべきものではない。
 ただ、相手によっては歯がゆく感じ、態とぶつかりにいって其処になのはの心があるかを、確かめないと不安になる、そう感じるものも出るほどに慈愛に満ち溢れ過ぎてもいる。

 だがインフィニティの異常なまでの直線的行動によってか
 あるいはよく見知った気のおけない相手とそっくりな容貌によってか
 はたまた無条件に向けられるあけすけな笑顔の所為か



 感情のままの表情を、なのはは引き出されていた。

 2015.01.12




   

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