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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第五十六幕「馬鹿と煙と高い所」

 
 第五十六幕「馬鹿と煙と高い所」

「ねぇ先輩、私達こんな事やってていいんですか?」

 投げ掛けたその声は、怒っているのではなく、疑問に思っているのでもない。
 眉尻を下げて、深い溜息を付くフィオナの表情は、非常に珍しいもので。
 どちらかと言えば呆れているというより、どこか諦めたような色合いの強い声である。

 それに対して実に楽しそうな笑みを向けながら、手にした紙製の花飾りを静馬が手渡す。

「何故そう思うんだい?何の不思議も疑問もわかない所だと私は思うが。さて、他に何かこれ以上に優先すべきことがあったかな」

 片目をつぶりながら、軽い仕草で静馬が両腕を広げてみせる。
 そこには言葉の通り、何も疑問を持たないどころか、何故そんなことを?と問い掛けるような表情。
 フィオナのように深刻な、あるいは真剣な部分を、何処かに置き忘れたような、心の底から楽しんでいる様があるのみ。

 それにあてられ、はあっともう一度盛大にため息をつくとともに、フィオナは眉間を指で抑えて数度首を振りながら、心の内でそっとぼやいた。

 ダメだこの人、今は間違いなく腰抜けナンパ男だ。

 静馬の差し出す花飾りを受け取り、先輩もっと右、とぶっきらぼうに命令しながら、それでも真面目に手際よく飾り付けていく。
 言うまでもなく、フィオナのぶっきらぼうな物言いごときで腹を立てる静馬ではなく。
 それどころか、仰せのままにと、言われるがままごく従順に位置取りを変えていく。

 静馬はもとより学園でも割と有名な変わり者で、フィオナは新進気鋭の学園での嫌われ者だ。
 他に組んでくれそうな相手は、居なくはないのだろうが……
 気兼ねなく声をかける相手として、真っ先に思い浮かぶほどには仲はいい。

 もっとも、いまもってフィオナは静馬の騎士として以外の部分は、最低の唾棄すべき変態だという認識と態度では有るのだが。

「先輩、私に絶対に勝つって誓いましたよね?」

 腹立たしげに一度、腿の間にある静馬の頭を手の平で叩きながら、怒った声で問うフィオナ。
 自分の身の安全のためにか、その手には力は込められていないが、ここウィンフォード学園において、下級生の女子が上級生の男子の頭を叩く、などという一種屈辱的な行為が行われたのは、多分これが初めてだろう。

「ああ、フィオナ姫の為ならば、身命をなげうってでも必ずや勝利致します」

 だがその屈辱的な行為というものは、相手に伝わらなければただの身体接触で。
 『私は腹を立てている』との示唆も、相手が読み取ってくれなければ役には立たない。
 高度で上品な言い回しや態度というものは、馬鹿を相手に使うと踏み越えられるのだ。

 胸に手を当てて実に優雅に、この上なく気障ったらしく肯定する静馬に、声の聞こえたらしい近くの女子の一部が黄色い声を上げるが、フィオナは正反対にげんなりした顔になっていく。

「そう言うのいいです。と言うかやめてください、どんどん信じられなくなります」

 冷たく早口で、一刀両断に斬って捨てる。
 最初に出会った時は赤面させられ、すっかりペースをかき乱されたが、それなりに長い時間を付きまとわれてきたせいで、フィオナにもすっかり耐性ができたらしい。
 下から伺うように視線を上げる静馬の頭を、もう一度ぺしりと叩きながら、頭を動かさないっと鋭く叱責する。

「それ以上なんかやったら、本気で警察に突き出しますからね」

「ありがとう、と私は言うべきなのだろうね」

 は?また訳の分かんない事を言い出したわ、このナンパ男。

 表情に出すのを少しも控えようとしないフィオナ、とは言えその表情を静馬が見ることは難しい。
 というのも現在二人はお互いの顔を見るのに、多大な努力を要する位置関係に有る為だ。
 まあもっとも、仮に今のが真正面から向き合っての会話であっても、多分フィオナは控えなかったのだろうが。

 口をへの字に曲げ、藪睨みの目の上で眉間に深く縦皺が刻まれるほど、強く眉を寄せている。

 年頃の若い、それも学園でもかなり上位の美少女がするのは、さすがにどうかと思われる表情……

 絶対に煙にまかれてやるもんかっ!と言う決意のもと、完全に静馬を警戒し。
 最初から何も信じる気のない、この上なく胡散臭そうな表情が浮かぶのは、正しくフィオナが静馬と言う人間を理解した証であり。
 それを踏まえた上での、素晴らしい学習能力の高さの証でも有る。

 警察に突き出すって脅して、感謝の言葉を言うバカってなんなの!?

 だいたい年下の女子から、バカにされて素っ気なくあしらわれたのよ?

 それで何嬉しそうに『ありがとうというべきなのだろう』とか言っちゃってんのよ

 ほんっと、騎士やってるときと変態やってる時は別人だわこの人。

 心のなかでグチグチと文句を並べ立て
 静馬の続く言葉を待つ間、自分の愚痴に更に腹を立て
 その腹立ちで、更に愚痴るという不機嫌スパイラルを加速させていくフィオナ。

 一度大きく息を吸い込みながら、静馬は軽々と肩をすくめてみせる。
 その態度から、見ずとも今のフィオナがどんな表情を顔に浮かべているのか、静馬には伝わっているらしい。

「フィオナは今、私の勝利を信じて疑わないっと言い切ってくれたのだからね。それに、ほんの少し頭を動かすだけで、警察に突出される状態においてくれても居る。
 騎士が勝利を誓った姫から向けられる信頼として、これ以上のものはない」

 あ?……あっ……ああああーっ!

 やられたっ、またやられたっ!

 変態ナンパ男なんかじゃなくて、先輩最初っから騎士として答えてたんだ。

 でもそれじゃあ先輩は、決闘間近のこの時期なのに、今こうしていることのほうが練習より大事だって、本気で思っているってこと?

 そんなの、普通は騎士がそんなふうに答えるはずないって思うじゃない。

 だって、先輩にとっては、最後のジョストなんでしょ!?

「先輩はズルいですっ!」

 頭上から飛んでくるフィオナの非難に、少しも悪びれる風もなく。
 相変わらずの飄々とした態度で、フィオナを肩車したまま、人一人分の体重がかかっているとは思えないほど、やはりいつも通りに肩をすくめる。
 
「それは心外な意見だね、確かに決闘まで時間のない今、寸暇を惜しんで練習に励むべきという意見はわかる。
 なにしろ私はフィオナに、必ず勝つと言う誓を立て、フィオナはその勝敗によって将来の進路すら左右されるのだからね」

 少しもフィオナの『ズルい』という非難の意味を取り違えず。
 さりとて紙の花飾りを手渡す手を止めることなく。
 内容の重さに似合わぬ軽やかな声と話術でもって、静馬はフィオナの意見を肯定する。
 つまり、フィオナはあれほど警戒していたにも関わらず、いつも通りすっかり静馬のペースに巻き込まれてしまっていた。

 あーもうっ、この人はっ!

 ほんとに、正真正銘悔しいくらいにいつも通りだ

 静馬は相手の意見が、間違っていると断定出来る状況でない限り、深く斟酌し基本的に肯定する。
 その上で相手の意見に軽々しく迎合せず、その価値を認めながらも、私はこう思うと自分の意見を提示するのだ。

 これはやられると非常に苦しい。
 何が苦しいかといえば、理詰めの正論押しで有るというのに。
 相手に認められているために、感情的に反発することがなし難いのだ。

「だが我々は学生で、学園祭準備の手伝いを学生会会長直々に頼まれれば、それを助けるというのはかなり優先度の高いものだと思う。
 なによりその学生会のうら若い美貌の女性から、本義的に我々には回って来ない仕事を、申し訳無さそうに頼まれたとあれば、騎士であると自認するこの身には断ると言う選択肢がない」

 頭上のフィオナにもよく見えるように手の平を上に向け、それでも先ほど言われたように、頭を動かすことなく正面を向いたまま告げるさまは、さながら観客のいない舞台で一人演じる道化。
 それでも静馬は、演じきることに僅かも躊躇わず、観客のいないことにも痛痒を感じておらず。

 どこか微笑みながら、さて君はどう思う?と、静かに問いかけた。

「わかった、わかりましたっもう。スィーリア先輩の最後の学園祭なんだから、成功させてあげたいのはわかります。私だって手伝うのが嫌だって言ってるんじゃないです」

 昨日突然のにわか雨に振られ、事前に用意してあった部分に修繕が必要になったのだ。
 校舎内の飾り付けや、校舎外であっても機能という点ではほとんどが無事であったが、素材が紙の部分には大きく被害が出た。
 それは主に、看板の装飾や飾り付けという、力はいらないが手間のかかる部分。

 一度やった部分の戻り作業というものは、『本来やらなくても良かったもの』『やっても進捗状況は進まず、ただ前の状態にまで戻す』という精神的な枷があり、普通にそれをやるよりも一層時間がかかるもので。
 学生会の呼びかけにより、脚立が全員に回り切らないほど多くの学生が修繕作業に参加したというのは、瞠目すべき動員力であり。
 学生会が生徒により支持されていることの、これ以上ない程に目で見ることのできる証明であり、それだけのことをしてきた実績による結果でもある。
 現にフィオナもこうして今まさに、脚立の代わりに静馬に乗って手伝っているのだ。

 学園祭の翌日がジョストの大会で、練習をフィオナ自身が出来ないことに対して文句を言っているわけではない。
 静馬とユリアーヌスとの決闘が、学内ジョストの大会において、エキシビジョンとして正式に告知されたことについての文句であり。
 学園祭当日に練習など出来るはずがない、出来るとすれば学園祭を明日に控えた今日が最後なのだ、という聡さから出る焦りである。



 今日が最後だというのに、フィオナは未だ静馬が鎧をまとっている姿どころか、槍を構えた姿すら見ていない。



 これではフィオナが不安になり、静馬に食って掛かるのも当然だろう。
 たしかにちょっとは、自分のために戦うと言ったジョストより、スィーリアを助ける為に修繕を優先したことに対する、過敏な乙女心の作用も有る。
 
「すまないなレッド、短期間で最終調整をしなければならないお前まで駆り出す羽目になって」

 にこやかではあるが晴れやかではない表情の、スィーリア本人がこうして会いに来てしまえば。
 知らずと唇が尖りだしてしまうほどには、心に引っかかってはいるのだ。

「公爵家としては、どこの馬の骨とも知れない、ジョストを禁止されている様な騎士に負ける訳にはいかないでしょうし、使える手は全部使えばいいんじゃないですか?」

 スィーリアは自分に対してフィオナから初めて、こんな嫌味を向けられたことに驚きを隠せず、一瞬言葉を失ったが。
 そこで激発することもなく、どころか涼やかな笑みを浮かべると、銀鈴を転がしたような美しい笑い声を上げはじめる。

「そうだなフィオナ、お前の言う通りどんな手を使ってでも、守らねばならない体面というものは確かにある、だがそれは今ではないよ。
 私の兄は言葉が少々冷たく聞こえがちで、お前の反感を買ったのだろうが、どこに出しても何ら恥ずべきところのない立派な騎士だ。
 そうでない者がレッドの最後の相手として立つなどといえば、たとえそれが兄であろうと私が反対していた」

 スィーリアはフィオナをイタズラっぽい目で見上げながら、わずかに首を傾げると金糸の長い髪が沙のように流れ。
 その姿は同性のフィオナをして見惚れさせ、頬を赤らめるほどに美しかった。

「前に言っただろう?私はレッドの熱狂的なファンなんだ。正直兄には聞かせられないが、どちらを応援しているのかと聞かれれば、レッドだ」

 嫌味を言った相手にさらりと言い切られてしまい、今度は逆にフィオナが驚きのあまり言葉を失わされた。

 だが我に返ったフィオナは、震える唇を噛み締め、ごめんなさいという言葉を飲み下した。
 言えない、言わない、言ってはならない。
 それはフィオナがフィオナでなくなってしまうから。
 フィオナという少女を守ろうとしている、静馬の誓いを地に投げ捨てることになってしまうから。

「なら、私がスィーリア先輩に勝っても構わないってことですよねっ」

 言った、言ってしまった。

 頭の何処かでそんな声が聞こえた気もするが、そんなことに気を取られている余裕はフィオナにはなく。
 ただただ必死に、目の前の美女、学生会会長、公爵家令嬢から視線を逸らさぬ、それだけに全力を注ぐ。
 挑戦でも挑発でもなく、フィオナがやったのは、真正面からバカっ正直に喧嘩を売ったということ。

 口角が優雅な曲線をもって、ゆっくりと吊り上がり。

 青く澄み切った瞳を収めた目が僅かに細められ、獰猛で冷酷な光を放つ。

 彼女スィーリアは、確かに大貴族である公爵家の御令嬢だが、ただのお嬢様ではない。
 ジョストの天才、神に選ばれし少女騎士、学園最強騎士の称号を冠する戦女神。
 そんな少女に、フィオナの一言は、威嚇ではない笑みを浮かばせた。

「それこそ、望むところだフィオナ」

 ふっと表情を緩ませ、スィーリアは一度静馬に視線を向けると、踵を返し背を向ける。

「だが、そろそろレッドの首を締め付けている太腿をゆるめてやれ。その馬鹿者はたとえそのまま失神しても、決して自分から苦しいなどと言いはしない」

 ひらひらと柔らかく手を振りながら、おかしそうに口を手で抑えながら立ち去る、スィーリアの背後に取り残された二人は……

 全く別の理由ながら、赤い顔をしてしばらくその背を見送って居た。

 2015.01.14


   

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