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歪んだパズルのつなげ方

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天使とダンス

天使とダンス 第十五話「銀の橋立、金の月」

 
 天使とダンス第十五話「銀の橋立、金の月」

 ヒゲのおじさんと別れた後も、地図とにらめっこしながらアイスの店を探し求めて彷徨い。
 ゲームと言う言葉の意味を理解できぬまま、実に上手に見つからないよう街中を人混みに紛れ、時に路地裏をこっそりと進んで、インフィニティはアイスの店を次々と制覇していった。
 
 最初に渡されたスマートカードの中に、一体どれだけの金額が入っているのか。
 そして、アイス一個の金額がどれくらいなのか、というようなことにかけらも意識を向けず。
 『この変なカードを渡して食べたいのを言うとアイスになる』と学習したインフィニティは、最初の店で満足するまで延々とアイスを食べ続けるということを思いつかず。
 実に素直に、地図に描いてあるアイスの店を全て食い歩き、幸い頑健な腹を持っていたために腹痛を起こすこともなかった。

「ミッションクリアだね、ブルームーン」

《Is perfect, my lord》

 普段と違い、胸元から返ってくる相棒の返事も、どこか誇らしげに響く。
 はむっとコーンごとアイスを噛じり、そのままはむはむとリスのように頬張る。

「お空飛んだら直ぐに全部行けるのに、こんな事して何になるんだろうね?」

《I'm with you》

 二人して首をひねっているところに――と言っても、ブルームーンに首はないのだが――いつの間にか傍に立った人の影がインフィニティの顔にさす。
 別段驚くでも警戒するでもなく、そちらを見上げるインフィニティは、すでに相手の接近を知っていたのだろう。
 振り向けた顔に満面の笑みが浮かんでいるのをみると、相手の正体もすでに察知している事が知れた。

「先ずは無事で何よりだインフ、今日はここまでだ」

「ちー姉は、ウオッチャー?それともチェイサー?これってなんの訓練なの?」

 ここは突然行方をくらました事を叱ってやるべきか?と、チンクの掛けた声は微妙に硬くなっていたのだが。
 邪気のない目で見つめられ、そういうことかと、すぐにもチンクは事実を悟る。
 向けられた目にも表情にも誤魔化しの色はないし、そもそも嘘をついてラボから逃げ出す理由がインフィニティにはない。

 恩や親近感をはじめとする、繋がりを感じてしかるべきだがそこまでだ。
 それが拘束力をもつ代物でなし、そも彼女はスカリエッティの一味に与している訳でもない。
 協力の表明をした訳でもないため、協力者ですらないというのが実際の関係である以上、インフィニティの行動は自由で。

 スカリエッティのラボにいるのだって、言ってしまえばただの気まぐれの自由参加でしかない。 
 そんなインフィニティが『そう聞いた』ということは、訓練だと告げたものがいるのだ。
 そんなことを出来る相手は限られており、する相手はもっと限られている。

 クアットロならできるのだろうが、ドクターがインフィニティに興味を寄せているこの状況下で実行はしないだろう。
 第一やるにしても、わざわざクラナガンでやる筈がない。
 なによりインフィニティは素直過ぎる……この反応も、その発言者の予定通りなのだろう。

 ということは、インフを動かしたのはドクターか。

 そこまで行きつけばチンクにも見えてくる、今回の騒動の思惑が。
 つまりはこれはスカリエッティが、娘達であるナンバーズにかした、緊急対応の実地訓練であり、性能テスト――すなわち、現代で言い換えるなら防災訓練のようなもので有る。
 すぐにもその答えに行き着いたということは、チンクがすでにそれを可能性の一つと考えていたということであり。

 スカリエッティは、チンクがインフィニィを捕まえる事ができると確信しており。
 最終安全装置と試験終了の鐘として、チンクを据えていたということでも有る。

「その2つから選ぶのなら追跡者の方だが、もっと正しく言うのなら、迎えに来た姉だ」

 いくら大好物のアイスが食べられたとは言え、インフにしてみればまるまる一日、魔法や格闘と言った戦闘訓練をしていない事が、不安であり不満なのだろう。

 彼女たち戦闘機人にとって、訓練というものは比較的重要度が低い。
 データ集積やその分析による学習及び、フィードバックの最適化が能力の向上において主であるため、訓練というものは確認作業と慣らしという側面がつよい。
 であるが故に、ここに居るのがチンクではなく他の姉妹であったなら、インフィニティの言葉は違って捉えられた筈である。

 だが、稼働時間の長さに加え、インフィニティと共に過ごした経験が誰よりも長いチンクだけは、誤解なく捉えられる。
 インフィニティがどんな思いから、そう問いかけてきたのかを。
 どう答えれば、納得するのかも。

「戦闘はなにもない空間で、お互いに相手を視認した状態から必ずしも始まるものではない。地形、環境、その他多くの要因が複雑に絡んでくる。それを考慮に入れねば、簡単に足元をすくわれるぞ」

 ツンっと人差し指でおでこを突かれながら、そう言われてしまえば、インフィニティは目を見開いてチンクを見上げたかと思うや、ポムっと胸の前で手を合わせ、おお~と妙に感心した声を上げる。

「これで強くなる?」

 バカっ正直にそんなことを聞いてくるところは、まったくもって見た目通りの子供だな。

 見た目通りなら、まだまだ親に甘えて纏わりついている年頃で。
 強くなるだの誰かを倒すだのと、本気で聞いたり目指したりはしないのだが。
 その辺りは、チンクも一般的というものが知識にしかないために、微妙にズレた感想を抱いていた。

「強くなるかはインフ次第だ。
 同じ武器を持っても、強くなる者もいれば、それで自分を傷つけてしまう者も居るだろう?」

 言いながらインフィニティの手を取り歩き出すチンクに、そっかーそうだねーと、ちょっと残念そうな返事をしつつも、地面に落ちている影を跳んで行く。

「インフ、それは?」

「ん?影のところだけ歩いて行くの」

 短い手足でぴょこたんぴょこたんと、一生懸命に影を跳び渡る姿に、チンクも思わず笑みが漏れでた。

 潜入任務中に緊急回線で呼び出しが掛かった時には、こちらの任務を理解しているのかや、いったい他の連中は何をしているのかと、苛立ちもしたチンクだが。
 こうして久しぶりにインフィニティにあって、健康そのものに飛び跳ねている姿を見れば、思わずほっと肩の力が抜ける。
 何しろチンクが最後に見たインフィニティの姿といえば、半分死体になって生体ポッドのなかで揺らめいているという、およそ安心とはかけ離れた姿で。
 いくらドクター自らが処置を行ったと言っても、すぐさま安心に心が切り替わるには凄惨すぎる姿だったのだ。

 とは言えチンクも戦闘機人であり、スカリエッティの最高傑作であり、なにより戦士である。
 任務だと言われれば、如何にインフィニティを溺愛していようが、そこには言葉を挟まず、切り替えて任務を遂行するのは言うまでもない。
 だが、それがイコール心配しないということにはならないのも、当り前のことである。

 クラナガンで任務についていた為に、連絡を貰って早々に保護できた今となれば、何故もっと早く自分に連絡をしなかったのだと、別の感情も湧いてくる。
 スカリエッティの思惑があり、自分への連絡は意図的に遅らされたのだと理解してなお、その感想を抱かずにはいられないのが溺愛の証。

 なにもナンバーズの稼動状態に有る全員で、クラナガンを――敵の本拠地を――ふらふら人探しなどしなくても良かったのだ。

 八つ当たりに近い物思いに耽っていたチンクの思考を、インフィニティの一言が一閃で断ち切る。

「日向にいる時とやっぱり違って見える?ちー姉達って魔力と体温見えるんでしょ?」

 魔力なら見つからないんだけどなぁと、ぼやくインフィニティの肩を、立ち止まったチンクが掴んで自分の正面を向ける。

「それは、ドクターに言われたのか?」

 顔を寄せられ、潜めた声での問いかけに、んん?と首を傾げ、ぶんぶんと首を振り金色の髪が大きく揺れる。

 そう、インフィニティは今、ツインテールにしていない。
 見つからないように自分で出来る範囲で、ちゃんと変装をしていたのだ。
 それ故に、ブルームーンはその長いリボンで、襟元に飾られている。

 そして、二つの意味で言うまでもないことだが、インフィニティに自分で髪を、ツインテールにまとめるようなスキルは無い。

「ドクターのおもちゃが、レンズで変な動き方したんだよ。三台目が追い切れてなかったでしょ最後、ロックしてたのは頭だったのに、変なところ攻撃してきたから」

 言われてチンクが記憶を辿る、ギリギリで手を伸ばしたチンクが弾いた攻撃は、インフィニティの胸へと向けられた即死攻撃だった。
 そして、最初にインフィニティがのけぞって――前髪は燃えたが――躱したのは、確かに三つとも頭部への攻撃だ。

 だから……二撃目を頭を振って躱せた?

 だから、三撃目は魔力をケチった手の平大のシールドで防げた?

 いや、それではおかしい、狙う場所がわかっても防げるはずがない。
 何故ならインフィニティの魔法は、発動時間が一瞬でしかないのだから。

「だいたい2.2秒で攻撃してくるでしょ?だからその前に動いて再照準させたと思ったのに、そのまま射たれちゃったから。あれって、二台がショートした熱でセンサーがターゲット見失ったんでしょ?」

「攻撃の、インターバルを測ったのか……あの状況で?」

 再びインフィニティが首を傾げる。

「カウンティングで普通、攻撃が来るタイミングのあたりをつけるでしょ?あてにしすぎて引っ掛けに騙されたり、引っ掛けようとして失敗したりは気をつけるけど。
 あれ?みんなやらないの?」

 最初は不思議そうだった表情が、いつまでも返って来ないチンクからの返事に次第に不安そうになっていき、難しい顔をしているチンクを下から伺うようにそーっと見つめる。
 気づいたチンクが、普段よりも少し強めにインフィニティの頭をなで、そんな顔をするなとインフィニティの不安を笑い飛ばすと、ようやくインフィニティにも笑顔が戻った。

 多分皆がやっている、だがインフのように意識してではなくもっと感覚的にだ。

 魔力による強化で、筋力や耐久力、反応反射、全てが底上げされるために、瞬発力と動作選択を重視して、予測や戦闘の組み立てという部分を軽視している。

 いや、違うな。

 軽視ではなく『それでも対応できるから、訓練が必要な方を選ばない』、つまりは手を抜いているのだ。

 ……命のかかった戦闘だというのに。

 統計データにより最適解を割り出す類の予想はする、だがそれはあくまで戦術行動の上のもので、戦闘行動においては軽視どころか無視されている現状に、チンクは改めて気付かされた。
 反応速度の早さと、優秀なデバイスあるいはセンサーに頼りきって、考えることを放棄している今の戦闘は、なんと機械的で非人間的なのだろう。
 だがそれが戦闘において、最も効率的であることもまた否定出来ないのだ。
 何も持たないインフィニティが、『それ』を相手に戦闘をするとなると、常にこれだけの努力が強いられるのが効果の程を実証している。

 皆が無駄と切り捨てたものを、インフは大事な宝物のように拾い上げ。
 一人それを一生懸命磨き、ピカピカに磨き上げてここまで来たのだ。
 才能も有る、努力を惜しまずできる直向きさも。

 ただ、リンカーコアの性能が要求に満たないというその一点だけで、彼女はどの努力も認められずに、欠陥品と廃棄される。

 大事に磨き上げた宝物も、つまらないガラクタか、必要もないくだらない物扱いされるだけ。
 その判断には、外見の可愛らしさも、懐っこい物おじしない性格も、一顧だにされない。
 ただ一言、性能不足という理由に、外見も性格もあっさり無視される。
 チンクもそれには不満はあるが、不平はない。

 なぜなら彼女は人ではなく、兵器だから。
 
「見てからでも避けられるもんねちー姉は、だからやらなくていいのかぁ、いいなぁ」

「同じことが出来るなら、手段はどうでもいい。長所と短所を把握して、如何に上手く使うかだ」

 どこか冷たい様な言葉を口にし、目の前でそーだねーと無邪気に笑う少女を見下ろしながら。
 チンクは心のうちで、目の前の少女を絶対に守ることを一人心に誓う。
 それが兵器としての自身の心に矛盾を生み出し、判断や思考をロックし、最悪の場合はフリーズを起こす危険は理解している。



 ……だが、それが何だというのだ?



 性能や合理性だけを突き詰めるなら、自分は右目を直している。

 感傷や憐憫だというなら、大いに結構、望むところだ。

 私は戦闘機人だが機械ではない、兵器ではあるが武器ではない。

「インフはそれを上手に使いこなし、姉を守ってくれるのだろう?」

「最強の魔導士になって、ぜっっったい守るから!」

 力のこもった返事に、そうか頼りにしている、と朗らかに返すチンクと、それに元気よく頷き返すインフィニィの姿は、どちらも兵器として生み出された少女であるのに。
 微笑みながら通り過ぎる周りの者達には、仲の良い小さな姉妹にしか見えなかった。

 2015.01.03


   

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