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歪んだパズルのつなげ方

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天使とダンス

天使とダンス第十四話「伸ばした手にも、月は掴めず」

 
 天使とダンス第十四話「伸ばした手にも、月は掴めず」

 インフィニティがヒゲのオジさん事、レジアス・ゲイズ中将との接触をした頃、スカリエッティの周囲は、しんと静まり返っていた。
 というのも、ウーノを除く全ての娘の姿がその場にはなく。
 ラボにいた稼動状態に有るもの全てが、数時間前に蜂の巣をつついたような大騒ぎをして、飛び出していったのだ。
 
 事の発端は、眼を覚ましたルーテシアが、寝ぼけ眼で伸ばした手の先が、何も無いシーツに突き当たったことより発する。

 はたはたと気だるげな動きで、数度探るようにしていた腕が、終ぞ目的のものに行き当たらず。
 半ば覚醒したようなぼんやりした意識が、再びまどろみの底に沈みかけること数呼吸。
 一瞬にして血の気が引き、背筋をすさまじい悪寒が駆け上るとともに、心臓が冷たい恐怖の爪先で握りつぶされた。

 まだ頭の中央に蹲っていた眠気は、それにより瞬時に吹き飛び。
 布団を跳ね除け、寝間着姿で跳ね起きたルーテシアが、ベッドから飛び降りる姿は戦闘時を上回るほどに俊敏で。
 当然着替えることなく、トイレといわず風呂場といわずトレーニングルームといわず・・・ありとあらゆるドアというドアを、半狂乱になりながら駆けずり回って乱暴に開け放って行った。

 ナンバーズ姉妹は、こんなに必死に、こんなに感情剥き出しに行動するルーテシアの姿に唖然とし、声を掛ける事も出来ずに黙って見送ったのだが。
 ついにはガリューとインセクトを呼び出し、アジト中の空間を数の力押しで虱潰しに探査に出ようとしたところで、流石に正常な判断を逸していると止めに入り。
 理由を尋ねたところ、帰ってきたのは親の仇でも睨むような目と、短い誰何の声。

「インフはどこっ!」

 ヒステリックに叫ぶような声と、自分の行動を止めようとする手の主を斬りつけるような、底冷えのする視線の迫力は……いや必死さは、小さな女の子を前にして戦闘機人の面々が、気圧され数歩後ずさるほど。

 そんなナンバーズの様子など気にもとめず、ルーテシアが周りを囲む中から、標的に選んだのはクアットロ。

「クアットロ、インフをどこにやったの?」

 これはクアットロが、インフィニティを『欠陥品』と蔑んだ私怨というだけではない。

 ゼストやルーテシアと同様、インフィニティの世話や行動管理を、スカリエッティがクアットロに一任している事をルーテシアは知っている為だ。
 である以上、インフィニティが行方不明という事態には、当然クアットロの思惑や何らかの示唆が疑われるのは当然で。
 仮にそれが冤罪であったとしても、管理責任を問われる事態。

 『知りません』では済まさない。

 白刃のような眼光が、今にも振り落とされかねない剣呑さで向けられながらも、それを留め返答を促す。

 半狂乱に取り乱しながらも、ルーテシアは懸命に冷静さを握りしめていた。
 
 ルーテシアのすさまじい剣幕に、「あら、どこか行っちゃったんですか?」と何時もなら飄々と答えそうなクアットロも、流石に軽口を叩ける余裕がない。
 向けられる真紅の瞳の奥に、チラチラと殺気の炎が揺らめくのを認めたのだ。
 戦闘になろうと、まさか子供に負けることはないだろうが、それでも生まれて初めて向けられた殺気に戸惑い、ここで外して下手をしたら殺し合いという状況に、余裕の仮面は剥がれ落ちるのも当然。
 
 両手のひらを向けながら、真面目な表情で首を振る。

 そこに嘘がないことを幼い心が嗅ぎとり、ルーテシアの視線が切られ、知らずクアットロは安堵の息を漏らす。
 次いで向けられたのはウェンディ、先日来なにかとインフィニティとルーテシアのことを気にかけ、ちょくちょく顔を出していたのだが。
 それによってルーテシアには、クアットロと同じ監視役と誤解されていた。

 引きつった顔を向けながら、クアットロと同じリアクションをウェンデイが返したところで、不意にルーテシアの視線の高さにホロ・スクリーンが展開する。
 
「やあ、おはようルーテシア。そんなに慌ててどうしたのかな?」

 歪みきった楽しげな笑みに、それを上回るような楽しげな声色が耳に届いた瞬間

 ルーテシアは現況が、誰が仕組んだものなのかを理解した。
 
「ドクター、インフをどうしたの」

「インフィニティならついさっき、散歩に行ってくると行って出て行ったよ。あまり遅くならないうちに帰ってくるように伝えておいたが、なにか約束でもしていたのかね?」

 君とチンクの二人から空戦の許可をもぎ取ったのだし、彼女は自由なのだから私は止めたりはしないよ。

 言葉にはしないスカリエッティの声に、ルーテシアは唇を引き結び、無言で胸の前に構える両手の甲で、アスクレピオスが輝き出す。
 わざわざスカリエッティに言われるまでもなく、インフィニティの行動を束縛する事が自分にはできないのは、すでにチンクに言われ理解していた。
 何より、ナンバー11のレリックを探索し母親を目覚めさせるという、インフィニティより優先すべき事がある事も頭ではわかっている。

 だが、心は恐怖で塗りつぶされ、頭で理解しても体が止まれないのだ。

「ああルーテシア、そんなことをする必要はないよ、行き先は聞いている」

 やけに優しげな声にルーテシアの動きが止まり、スクリーンの向こうで実に楽しげな様子の男へ向け、先を促す視線を強めた。
 いつの間にか直ぐ傍に、支えるように立って肩に置かれたゼストの手から伝わってくるまでもなく、ルーテシアにもわかっている。
 スカリエッティがこれから口にする行き先が、碌でもないところなのだと。

 だが、そう覚悟して聞いたルーテシアですら、告げられた場所は素直に受け入れがたいものだった。
 
「彼女は今、クラナガンにいる。何人かは任務遂行中だし、まだ調整中で外に出せないのもいるので全員とはいかないが、インフィニティを探すなら娘たちに手伝わせよう」

 よりにもよって、管理局の地上拠点のある場所にインフィニティが向かうのを、スカリエッティは黙認した。
 いや、肩に置かれた手に込められた力が、ルーテシアに正解を教えている。

 そんな場所に、インフィニティを送り込んだのだ……目の前にいるスカリエッティが、と。



 ☆ ☆ ☆



 手渡された、今時珍しい手書きの地図と一枚のスマートマネー。

 インフィニティが、スカリエッティに送り出される際に受け取ったのは、たったそれだけ。

 それを手渡す際、『仮に通信が来ても、決してそれを繋がないように』と、インフィニティにではなくブルームーンに言い含め。
 スマートカードの使い方をごく簡単に説明すると、クラナガン廃棄区画の一点まであっさり送り出し。
 その直後、インフィニティを送り出した、クラナガンへの直通転送ゲートを、まるで使い捨てのティッシュペーパーのようにあっさり破棄した。

 言うまでもない事だが、転送ゲートは使い捨てるようなシロモノではない。
 ルーテシアのような召喚士というレアな存在がいれば、前準備は転送先の安全確保だけで済むが、今回はそうではなく。
 機材が高価なのはもちろんのこと、それを運びこむ手間も、設置、調整をするにも専門の知識をもった技術者がいる。

 のみならず、使って使い捨てればいいというわけでもない。
 そこに残されたデータが管理局の技官の手に渡り、微に入り細に入り調べつくされては、いかに完璧にデータを消去しようと、転送元の座標を割り出される可能性は当然ゼロとは行かない。
 つまり、それを解体撤収、あるいは完全破壊をする必要性があり、実際問題そんな手間と金を考えれば、ありえない手段と言っていい。

 それ故、スカリエッティはそんな手段でインフィニティを送ったのだ。
 これであれば、移動中にインフィニティが管理局に見つかり、クラナガンに行き着く前に身柄を確保されることはないと。
 金や手間を掛けることで、インフィニティの安全を買ったと言ってもいい。

 今回のためだけに設置されたそれこそが、インフィニティへの非常に高価なプレゼントなのである。



 『これは上手に隠れて全てのアイスを食べれるか、というゲームだよ』

 見つかったらそこでおしまい、と言われたインフィニティは、実にあっさりとその提案に頷いた。
 目を覚ましたルーテシアが、半狂乱になって自分を探し。
 ナンバーズを巻き込んで、ラボ中が戦場のような慌ただしさに包まれたことなど知るはずもない。

 もしかしたら、君の探している相手を見つけられるかもしれないね。

 そう嘯くスカリエッティが、スマートカードと一緒に手渡してきたのは、杖のような武器。
 行く先はクラナガン、管理局のお膝元であり、地上のまもりの要である。そして、インフィニティが探し求めている相手が、居たとしてもおかしくない場所。
 そこへ一人で赴く少女に渡すには、如何にスカリエッティ謹製とは言え、杖一つではあまりに頼りない。

 つまりは、渡された杖に何らかの仕掛けがあるのか、インフィニティが捕まってもいい、あるいは捕まる事こそ望ましいと、スカリエッティが考えているのかだ。
 手渡されたそれをしげしげと眺め、数度スカリエッティと杖の間を視線が往復し。

 インフィニティは、全くスカリエッティの望む通り

 彼の想定の範囲を、容赦なく超える。

「ドクター、これいらない」

 それが何で、どんな性能なのかも尋ねもせずに、あっさりと突き返してみせた。
 さすがのスカリエッティも、インフィニティのその反応に、一瞬あっけにとられ。
 まじまじと見つめながらも、口元が笑いに歪むのを隠せなかった。
 
「何故だいインフィニティ、君が必要としているのはオリジナルを倒すための武器だろう?」

 この男にしては珍しくも、僅かな焦りを声ににじませて問い掛ける。
 下から見上げた小さな少女は、金色のしっぽを二条なびかせながらブンブンと首を振り。
 ごくあっさりと、天才の思考を踏み越えた答えを返す。



「だって、魔法で倒すから」



 スカリエッティは――この不世出の天才は――生まれてこの方初めて、相手が何を言っているのか全く理解できない、という経験をした。

 魔法で倒すから

 バリアジャケットすら生成維持出来ず
 デバイスを起動する魔力も捻出できず
 防御魔法は一瞬で消滅する欠陥品の人造魔導士が

 まともに使える魔法が一つもない、痩せっぽちの子供が

 ランクが空戦S+の現役執務官を相手に
 手段を選ばずとも勝てるはずがないというのに
 武器一つ持たずに、勝つのだという

 どころか、言うに事欠いて『魔法で倒す』?

 一体……どうやって?

 瞬時に思考回路をはしるパルスは、正解のない迷路を彷徨い
 天才の頭脳をもってしても、どうやっても道筋の見えない結末を
 まるでなんでもない事のように

 出来ないなどと、欠片も思い浮かばない表情で答えたのだ。

 武器を使って、その性能で勝ってもインフィニティがオリジナルに勝ったとはいえない。
 だから、魔導士として魔法で勝つ、それによって証明するのだ、とインフィニティは主張した。
 言っている意味はわかる、だがそれは現実との乖離がひどすぎて、断絶した2つの事象を繋げることが、スカリエッティには出来ない。

 『どうやって?』という言葉を、スカリエッティはすんでのところで呑み込む。

 まるで予想もできない、いや想像もできないやり方を、口で説明されるなど、そんな勿体無いことは出来ない。

 インフィニティは、一度やってのけたのだ、ルーテシアとチンクという彼の作品相手に。
 ならば二度目がないとは、誰にも言えない。
 否、見えているのだきっと、彼女にだけはそれが。

 スカリエッティは、笑い声が口をついて出るのを止められず
 どころか、自分が声を出して笑っていることにも、しばらく気付かなかった。
 興奮と好奇心、無理に奮い起こさねば起こらないそれの、きのままの爆発がただただ心地よく、自分の生を実感させられる。



 ……見てみたい。

 この天辺バカの、非常識な発想を、行動を、結末を。



「楽しんでくるといい、可愛いインフィニティ。君が倒すべき相手に出会えることを祈っているよ、心から」

 最初から行動を束縛するつもりなどなかった
 思考の誘導をして利用、言葉を飾らず言うのなら、使い捨てることなど出来なかった。
 スカリエッティは柔らかな眼差しで、インフィニティをそっと送り出す。

 何者にもとらわれない少女を前に、如何な天才の彼でも
 いや天才だからこそ、彼にはそれしか出来ないのだ。

 2014.12.31




   

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