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歪んだパズルのつなげ方

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天使とダンス

天使とダンス 第十二話「水面に沈む月の静けさ」

 
 天使とダンス 第十二話「水面に沈む月の静けさ」

 巌のような男が自らの正体を語る前に、振り向いたルーテシアの背後から正解は告げられた。

「騎士ゼスト様、そんなに恐ろしい目で見ないでくださいな。私達はお仲間じゃありませんか」

 クアットロの声には、自分やインフィニティに向けられたのと同様の、蔑みの響きが混じっているのをルーテシアは聞き取った。
 言葉の内容と声色が正反対なクアットロに対し、ルーテシアは嫌悪感を抱くことは無く。

 ただ単純に、事実確認以外――相手の解釈の入る余地のある話を――する必要が無い。
 否、会話をする価値の無い、不正確な情報を流してくる存在へとカテゴリー分けを終了する。
 それは普通の者達が、スカリエッティに向ける結論と良く似ている。

 だが、そこには絶対的な差が存在した。

 ルーテシアは、スカリエッティとのこれまでの会話で、しばしば蔑まれていたことを敏感に感じ取ってはいたが、スカリエッティを『会話をする価値が無い相手』というカテゴライズしてはいない。

 彼がルーテシアを蔑んだ目で見るとき、クアットロのように『ルーテシアという存在』を蔑まず、ルーテシアがルーテシアであるからだと、解っているからで。
 
 別の言い方をするのであれば、閉鎖的で狭い世界で育ってきたルーテシアの、非常識なほど純粋で素直な子供の心には、スカリエッティという狂人は、それ程狂っては見えていないのに対し。
 クアットロの心と言葉の乖離は、スカリエッティよりもよほど異常なのだ。
 
 だが、ゼストと呼ばれた男は、クアットロの投げかけて来る言葉を、蔑みと一緒に斬って捨てた。

「仲間になったつもりは無い。
 お互いの利害が反目しない間だけ、利用しあっているだけだ」

 聞き流す、あるいは聞こえないかのように、相手の意思を素通りさせるのではなく。
 明確に相手の感情を押しのけられるだけの意思の重さは、クアットロをして突き崩せぬ存在量を見せ付けたが。クアットロにとってすれば、それすらもが蔑みへと転化する原料でもある。
 お互いへ向けられた視線は、決して意思の双方向化ではなく、あくまで一方通行の投げ掛け合い。

 ――否、侮蔑を含んだ斬り付け合い。

 互いに相容れぬ存在と、双方が認識していることは、きっとお互いにとって幸運であったろう。
 必要以上の意思交換をせずに、早々に視線をクアットロから切り、ルーテシアの姿に見知った相手の面影を認めたゼストの目が鋭さを増し、小さく口の中で何事かを呟く。
 誰の耳にも届かぬ低い唸りのような呟きが、呪いの言葉であることは、その表情が雄弁に物語っていた。

 何を言ったところで、所詮はこちらに牙を向けることは出来ない。
 なら吼えれば吼えるだけ惨めさが増す、負け犬の遠吠え。
 利用しあう?ええそうでしょうね、ただし・・・貴方にその子を見捨てることが出来るなら。

 自分自身のことでなら幾らでも苦痛を無視できる。
 でもその対象がか弱い女子供なら、貴方は無視できなくなる、そうでしょ騎士ゼスト様?

 だから、利用『しあう』なんて、有り得ないんですよ?

「お前達に倫理観など、求める方が馬鹿だということか」

 苦りきった表情を浮かべるゼスト、それを見て対照的に悪魔の笑みを浮かべるクアットロ。
 そう、言葉にして返すまでも無く、答えは双方の胸にあり。
 答えあわせなどする必要性もまた、双方が等しく認めていない。

 なぜならゼストの洩らしたそれが、疑問や問いかけではなく、敗北宣言なのだと共にわかっているのだから。

「この子は、俺が連れて行く」

 口を引き結び、無言のままに歩を踏み出し、巨躯を折り曲げて伸ばした手がルーテシアの腕を取った。
 言葉を操っての戦いでは、明らかに自分が不利だとゼスト自身も理解している。
 元々が無口で口の上手い方ではない、そして何より、クアットロとゼストでは立場は平等ではない。

 それでも、結論を変えねばならぬ為、出した答えが実力行使。

 こんな場所に長居すればするだけ、碌な事にならないと考えたゼストの思考は正しい。
 しかし、いかにも実直で女子供の扱いを知らない男の行動は、敵意こそ感じられなかったため攻撃を持って迎えられなかったものの
 ルーテシアの腕を掴んだ手首を、抑えられとめられる。

 クアットロによって?
 いや、いつの間にかそこに立っていた
 真紅の四眼をもつ、黒い長身の主によって。

「インフと一緒じゃなきゃ行かない。・・・約束したの」

 余りに素気ない言葉が、そこに込められた明確な拒絶を浮き彫りにする。
 仮に無理矢理に連れ出そうと、ゼストの腕にいま少し力が篭れば、その瞬間戦闘が開始されるのだと。
 
 ゼストの側はルーテシアを――自らの部下であった女性の娘を――救い出そうとしている以上防戦に徹するだろうが、ルーテシアは相手が諦めるまで拒絶を表明するだろう。
 それが相手の意識をとばしての腕の拘束からの解放でも、相手の生命活動を停止でも、ルーテシアにとっては誤差程度も違いが無い。
 静かに呟く声色も、向けられた瞳も、どちらもそれを肯定している。

 罪の意識はそこになく、倫理的制限もやはり無い。
 当然だろう、彼女はそう生活し、そうなるべく学ばされてきたのだから。
 そして何よりその上で、インフィニティに対する執着を、胸の奥底に握り締めているのだから。

 ゼストの手から力が抜け、ゆっくりと無骨な五指からルーテシアの腕が解放される。

「この娘が、インフ……」

 視線を生体ポッドの中に浮かぶ少女に向けたゼストの言葉は途切れ、この無表情な男に何度目かの驚愕の表情に歪ませることを強いた。

 インフィニティの顔に、ゼストは見覚えが有った。
 ルーテシアに対した時のように、個人的に良く見知った人物というものではないが、相手の素性も、背後関係も、大まかな経歴もが知識にはあり。
 インフィニティの存在が、一体どう言う物なのかを、瞬時に悟らせるに十分だった。

 それを知り得るほどには、ゼストは非公開情報に触れられる地位と、勤勉さをもっていたと言い換えてもいい。

 この出会いが、偶然であり、必然であり、仕組まれたものであると悟れるほどには、明晰でもあった。



 ☆ ☆ ☆



「良いか悪いかで言えば、『悪い』の側だ。それは間違いなくね」

 映し出されるゼストとルーテシアの二人に向けていた視線を、背後に振り向けながら。
 あっさりと相手が心に抱いたまま、口には出していない問いかけに答える。
 そこには面白がる様子も、歪んだ笑みも無く。

 ただ静かに神託を告げる、厳かで静かな語りのみがあった。

「だがそれは、私にとってではない、例えばゼストだ。
 彼にしてみれば、彼はただの行方不明者として振舞えば、目的を明日にも果たせただろう。だが今、彼はインフィニティと言う違法実験体を抱えてしまった。
 管理局員それも権力構造の上位に居れば居るほど、彼女が違法実験体だと疑わしく見えるジョーカーだと知りながら、ゼストはインフィニティを手放せない」

 ウーノがはっきりと頷き返し、言葉を引き継ぐ。

「ルーテシア様が手放さない。そしてルーテシア様が『アルピーノ』である以上、ゼスト様はルーテシア様からインフを遠ざけることができない」

 二つの意味で

 最後に付け加えられた愛娘の一言に、満足げな笑みとは対照的な小さな頷きで返し。
 背筋の震えるような怪異な瞳を、ウーノに向ける。

「ルーテシアは、味方だが仲間ではない。
 だが、インフィニティは、ルーテシアとは違う。
 良いかい、彼女は味方ではないが、仲間なんだよ」

 優しいとさえいえる、穏やかで楽しげなスカリエッティの声に、ウーノはただ頷き返し、それを見てスカリエッティは軽やかにその場で半回転し、スクリーンに映る生体ポッドの中に浮かぶ、彼の女神に視線を向ける。



 笑みが歪んだ。



 そこにはマイナスの感情が渦巻きながらも、怒りは無い。

 そうだ、当然だと、ただ現状を当たり前だと再認識して、『わかりきった答え』を手渡された

 ――つまらなさそうな少年の貌が一瞬、垣間見える。

 ウーノは完璧だ、当然だろう彼の作品であるのだから、完璧でない筈が無い。
 であるが故に、彼は『味方』にしたのだから。
 事実を正確に積み上げ、分析し、理解し、続く説明を省かせられるだけの明晰さと、認識を共有している。
 
 完璧であるが故に、理解できないのだ、スカリエッティがインフィニティに向ける渇望を。

 インフィニティの存在が、永遠に失われかけたと知った時の恐怖を。

 求めれど決して手に入るはずの無かったものを、与えられ、それを奪われることへの――狂乱を。

 スカリエッテが言うところの『インフィニティの仲間』が、『スカリエッティ側』ではなく、『スカリエッティ個人』にとってであり。
 つまり、『ウーノの仲間』である保障が何も無いどころか、敵であるかもしれないという事実に。
 そして、たとえそうであったとしても構わないと、スカリエッティが容認しているどころか、そうなるであろうと半ば予想しているというのに

 護衛役に、Sランクという破格の魔導士をつける過保護っぷりをもって、インフィニティの安全を図った狂愛を、理解できないが故に気付き得ない。

 彼が一体、何をしようと考えているのかを。

 それが、何の目的でなされようとしているのかを。

「それで、どうしますか」

 控えめに掛けられたウーノの声に、スカリエッティは珍しく怪訝な表情を浮かべた。
 彼女には大まかながらも、今後の予定を伝えている。
 だというのに、この問いかけは本来的にありえない、細部においてウーノには決定権も、詳細をつめるだけの頭脳も能力も、全て与えているのだから。

「どう、とは?」

 その返しに、ようやくウーノの唇の端が僅かにほころび、柔らかな笑みを浮かべる。
 控えめな彼女をして、そこまであからさまな感情の表明は珍しく。
 『スカリエッティ第二の頭脳』とまで目されているウーノでも、スカリエッティの意表をつけたことが珍しいことが解る。

「プレゼントです」

 ウーノの切れ長で涼しげな眼が、ちらりとほんの一瞬だけ巨大スクリーンの方を示し。
 そこに大写しになった、インフィニティの収まっている生体ポッドの電光表示を、さしていることを理解したスカリエッティが、口角を吊り上げる。

「一般行動に支障が出ないよう、衣料品は一式此方で揃えるつもりですが」

「あぁ……ああ、そうだったね。
 彼女が望むプレゼントを、私は当てて用意しておかなければなければならなかった」

 言いながら、溢れてくる新たな発想の雪崩に、スカリエッティの眼が輝く。
 はたして、この凶悪で狂ったサンタクロースは、無邪気で幼い少女へどんなプレゼントを思いついたのか。

 完璧だと彼自身に評されるウーノをして、この時全く予想も出来なかった。

 2014.12.22


   

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