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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第五十五幕「少女騎士には騎士王とて負ける」

 
 第五十五幕「少女騎士には騎士王とて負ける」

 静馬の言葉に、フィオナの引き結んだ唇が震え歪む。
 今のは、間違いようも無く、疑う事も出来ないほどに、真っ直ぐな『騎士としての言葉』だ。

 だから・・・つまり、それは・・・

 次の決闘が騎士・山県静馬の最後のジョストであると言うことで

 今まで騎士として静馬が積み重ねて来た、練習も情熱も研鑽も

 その何もかもを、フィオナの名誉を護る為の次の試合――否、決闘に捧げると言っているのだ。

 だがそれは、こんなに突然捧げられて良いものでも、こんな関係の相手に捧げて良いものでもない。
 フィオナが貴族の令嬢で、静馬がその騎士であったなら。あるいは、二人が将来を誓い合うような、恋人同士であったのなら、完全ではなくとも十分な理由となる。

 しかし、二人の関係と言えば良くて友人。
 ともすれば、ちょっと仲の良い先輩後輩の間柄。
 いや、フィオナを良く知らぬ第三者が任意の一瞬を切り取って見せられれば、その突慳貪な態度から、嫌がる後輩の少女に纏わり付く先輩の男、にしか見えないだろう。



 なにより、一年生の少女が受け止めるには、『今までジョストに掛けてきたもの全て』は大きすぎる。



 自身が騎士であり、ドラゴンになってでも強くなりたいと願うほどに、ひたすら努力を重ね。
 早朝に、屈辱で唇を噛み締め、独り悔し涙を流し。
 学園中の誰からも非難され、責められ、せせら嗤われ。

 お前など騎士ではないとまで貶された自分をただ一人庇い。

 その名誉を護る為に槍を持ってくれた騎士の『全て』である。

 昨年まではほんの子供で、今ようやく大人に、そして一人の女になろうとしている少女には、動揺し怖気づき、すぐに頷けないのも当然であろう。



「ノエル様に言伝をお願いなさっていたのは、そういう事だったのですね」



 すっと、ごく自然に差し挟まれた涼やかな声は、優しくその場を包み込みながら、静かに無理なく会話の流れを逸らしてのけた。
 笑みの中にあって、真摯に向けられた吸い込まれそうなほど深い蒼の瞳。
 込められた視線の引力に吸い寄せられて、静馬がフィオナからベルティーユへと視線を移す。

 そこに優しく嗜める様な色彩を認め、静馬は自らの胸に右掌を当て、小さくベルティーユへと頭を下げた。

「流石は我が麗しのベルティーユ嬢、御慧眼に脱帽いたします。
 ミレイユ姫は私を騎士だと言ってくれる数少ない御婦人でね、これをお知らせせねば不義理に口も利いて貰えなくなってしまう。
 いや、私が自らに口を利くことを禁じてしまうだろう。
 本当はブランクで錆付いた水野を相手に、余裕の勝利で格好良く一方的に勝つのが理想だったんだが」

 カウンターの奥にいる貴弘へ、片目を瞑って笑いかける静馬に、貴弘本人ではなく美桜がムッと眉を寄せる。

「貴弘君は負けませんからっ」

 美桜の可愛らしい抗議の声に、静馬は笑いながら肩をすくめて見る。

「実に惜しい、その台詞はぜひあの場で言って水野の退路を絶ち、槍を持たせて欲しかったな美桜嬢」

 いつもの通りに飄々と答える静馬の声に、ようやく落ち着きを取り戻したフィオナが、ちょっと恨めしそうにベルティーユを小さく睨む。
 ベルティーユがああ促したことにより、作り出された時間なのだと理解できないのではなく、そう理解していながらも、感謝より先にそのスマートな話術が羨ましいと羨望してしまうのが、フィオナと言う少女なのだ。

 それと解っているから、睨まれたベルティーユのほうも腹を立てるどころか、ことさら慈愛に満ちた笑みを向け、無言のままに『どうぞ貴女も身につけなさいな』と頷いてみせるものだから。
 余計にフィオナは、自分とベルティーユの差を自覚させられて唇を尖らせることになり、それを見たアンとエマの二人に笑われて頬に朱が差す。

 ベルティーユ先輩は、相っ変わらずおせっかいだわ。

 態と憎まれ口を心の中で呟いて見せる、フィオナもやはり相変わらずなのだが、その『相変わらず』を取り戻して落ち着かせることも、ベルティーユの狙いであった為に――頬を膨らませることは堪えたが――その分余計に唇をとがらせる。
 だが、今はまず先程自分の中で引っかかった事案を優先させるべきと、気持ちを切り替える。

 ブランク、そうブランクだ。
 少なくとも一年間、先輩はジョストをしていない。いや、それどころか練習だってしていないはずだ。
 入学の理由を聞く限りだと、入学前からそうみたいだし、一体何年槍を持っていないのか。
 すっかり錆付いたそんな状態で、先輩曰く現役最強の一角と目される相手と戦うなんて、いくらなんでも無茶・・・いや無謀で、勝つなんて無理だ。
 先輩にだってわかっているはず、いやきっと誰よりも一番解っている。

 奇跡や偶然での幸運で、実力差が覆ることなんて、お話の上でのことだけだなんて。

 誰よりも冷静に騎士の実力を測り、誰よりも冷徹に騎士を評し

 きっと誰よりもジョストが好きで、ジョストを愛して止まないこの人に解らない訳がない。

 気障で腰抜けで変態で――
 誰よりも騎士であろうとする静馬先輩が、ユリアーヌスさんの実力を見誤って楽観して見せたり。
 戦う前から勝利を諦めるなんてこと、するはずも、出来るはずも無い。

「ベルティーユ先輩みたいな、精神の話って訳じゃないですよね」

 不機嫌そうな表情を作って向けながら、フィオナは心の内で苦い呟きを洩らす。

 第一、ブランクどころか・・・完治していないその腕で、本当に槍を振るえるの?

「勿論だとも、今回の決闘は先のベルティーユ嬢と美桜嬢が行ったものとは、全く状況も意味合いも違う。
 前にも私は君に告げたが、フィオナが誰よりも高潔な騎士であることを、私は誰にも否定させないし、侮辱するのなら、その全てを打ち倒してでも取り下げさせる。
 たとえそれが他のどんな騎士だろうと、国王だろうと、君自身であろうとも。
 そのために必要となるならば、私は相手が誰だろうと必ず勝利するだろう」

 勝たねばならない

 負けられない

 ・・・いや、そうではない。

 絶対に勝利すると誓ったのだ、騎士が。

 実力差がある  ―― 相手はトッププロで、先輩は養成学校の学生だ。
 ブランクがある ―― 相手は現役で、先輩は半分引退した様にろくに実戦も練習もしていない。
 負傷がある   ―― 外傷はふさがっているだろう、でも傷を庇った生活で筋力も落ちているはずだ。



 いくつもある困難を、全て踏み越えて勝利して見せると言ったのだ、私の名誉のために。



 知らず震える体を、フィオナは無意識のうちにきつく抱きしめた。

 貴女はどうするのフィオナ?
 頬を赤らめて感謝の言葉を口にする?
 どうやって勝つつもりか胡散臭げに尋ねる?
 呆れた表情を浮かべて、いつも通りに悪口を言う?

「静馬先輩が負けるような事があれば、私もウィンフォードを辞めます。
 でも、負けなかったら・・・謝罪は勿論ですけど、貴方にはリサのベグライターを降りてもらいます!」

 立ち上がり、胸の前で組んでいた腕を解いて勢い良くテーブルに両手を着いて、ぐっと身を乗り出し
 顔を突き出し、真正面の一点、カウンターの後ろにいる水野貴弘をエメラルドの瞳で強く睨みつけ。
 右腕を伸ばして、決して逃がさないとばかりに指を差して示し、周りの客も気にせずにはっきりとそう断言してみせる。

 その姿が、恐ろしさよりも可愛らしさを引き出してしまうと見えるのは、はたして静馬の贔屓目だろうか。

 余りに一方的で勝手なフィオナの言い分に、拒否を口に仕掛ける貴弘の言葉は、あっさり出鼻を挫かれてしまう。



「その答えは、騎士としては満点ですけれど・・・さすがに静馬さんが気の毒ですわよフィオナ」



 僅かに首をかしげ、こめかみを上品におさえながら、小さく首を振るベルティーユ。
 豪奢な金の巻き毛が優美にゆれ、かすかに花の香りの混じった甘い香りが振りまかれる。

 へっ?と思わぬ横槍を受けたフィオナが、ベルティーユの方へ首を向けると、眉をひそめたなんとも情けないような、残念なものを見るような顔を見つけた。

 ベルティーユにしては珍しく隠そうともしない、はっきりとしたため息と共に苦笑をされてしまい。
 一体自分の何が、ベルティーユにそんな反応をさせているのかが全く解らずに、すぐ隣のアンとエマにも視線を向けるが二人にも視線を合わせてもらえず、黙って首を振られる。

 フィオナにしてみれば、静馬への全幅信頼――いわば運命共同体として自分自身の進退すら全て預けたと表明したのだ。
 誰よりもジョストで勝つことに拘り、ジョストを辞めるとなれば鎧を贈ってくれた母への裏切りともなりかねない、そんな決死の決断をしたというのに。
 それが、言葉では半分は肯定していると言いながらも、態度では完全否定されるようなことになっている。

 えっ?あれ?と、焦って他の面々の顔を視線でめぐらせる

 貴弘は、はっと何かに気付いて、慌てて右下方へと視線を逸らして、眼を合わせようとせず。
 ノエルは、ベルティーユとは違い明るい悪戯っぽい笑みを浮かべ、家の妹が喜ぶわ~などと態とらしく独り言を言ってみせる。
 美桜の反応がフィオナにとっては一番意外だった。
 彼女は、何故かフィオナに怒った顔を向けて、どこか羨ましそうに、頬を膨らませて睨んでいた。

 なんで私がアンタに睨まれるのよ・・・

 訳がわからない状況に混乱するフィオナの耳に、少なくとも敵対的ではない言葉が届く。

「完全に、山県静馬の自業自得です、ベルティーユ様」

 しれっとした口調と声で告げられたエマの断定に、当の本人である静馬が笑い出したせいで、やや硬化しかかっていた空気が緩む。
 でも・・・と、なおも言い募ろうとするベルティーユに、今度はアンがきっぱりと首を横に振ってみせる。

「似合わない真面目な顔なんてしないで、いつも通り口説いときゃよかったのよアンタは」

 アンに鼻で笑われて、いや全くその通りだね、と軽く肩を竦めて見せる静馬。
 アンとエマが軽口を叩き、静馬がそれに乗ったせいで、場の空気とあいまってベルティーユの台詞も『その一種』だと軽く流されてしまう。

 いや、静馬がそうなるように、あえてエマの言葉を掴まえたのだが。
 それが解るベルティーユとしては、なんというか梯子を外されたような、どこか腰のすわりの悪い気分になり、ついつい静馬を小さく睨みつけてみせる。

 貴女に言われたように、フィオナに答えを強要しなかったと言うのに。

 私は睨まれなければならないのですか?

 小さく唇の端を上げて見せながら、静馬も横目でベルティーユに笑いかけ。
 仕方ありませんわね静馬さんはと、誰にも気付かれないよう、ベルティーユも小さくため息をついてみせる

 ・・・といういつも通りには、ならなかった。

 大輪の薔薇のように、華やかで艶やかな笑みを浮かべ。
 いまだに問題点のわかっていない――少なくとも本人は意識していない――フィオナに真っ直ぐにその笑みを向けて。
 穏やかな透き通る声は、静かに緩んだ空気を流れ行く。

「騎士が生涯を掛けて貴女の名誉を護ると誓ったのですよ?
 でしたらフィオナ、その誓いを受ける貴女は騎士ではなく、お姫様であるべきなのです。
 いいえ、お姫様でなければいけませんわ」

 ベルティーユに促され、ようやくフィオナが事実へと辿り着く。

 珍しく真面目な表情で、騎士としての誓いを口にしたのと。
 学園の退学やジョストを禁じられていた、などという衝撃の事実にばかり頭が回り。
 そのことばかりに気を向けすぎて、その発言の内容にまで頭が追いついていなかった。

 ・・・生涯を掛けて名誉を護るって。

 それって・・・

 一気に耳まで真っ赤にし、体勢が固まって変えられぬほどに動揺しながら、それでも首を捻って静馬を睨みつけ。

「なっ・・・なななっ、なにこんな、こんな時にいってるんですかっ!バカっ!変態っ!」

 思い切り大声で怒鳴りつけたつもりが、上ずった声でかすれる様に響くのが精一杯。
 耳の奥でやけに鼓動が大きく聞こえる中、フィオナは急速に視界が狭まり、暗く沈んでいくことに何の抵抗も出来ず、素直に意識を手放した。

 2014.11.16


   

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