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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第五十四幕「胸にありて輝ける光」

 
第五十四幕「胸にありて輝ける光」

「ねぇ先輩って、あの人と知り合いなんですか?」

 フィオナの何気ない問いかけに、珍しく静馬が一瞬だが言葉を失い、続いて大声で笑い出した。

「まさか、ユリアーヌスさんは公爵家の跡継ぎで、現役最強の騎士の一人だ、まさに雲の上の人だよ。ただ、水野の師匠だからね、大会の会場で見かけたことが有り、顔は知っている。
 流石の私も、数度それも一方的に見かけただけの相手を『知り合い』とは言いにくいね」

 肩を軽くすくめ片方の目を閉じてみせる静馬に、本当に?と疑わしげな顔をしていたフィオナが、あれ?っと表情を変えた。



「先輩って・・・ジョストの大会に出たことあったんですかっ!?」



 真っ正直にそう反応されてしまえば怒る事も出来ず。
 そも静馬がフィオナに怒った事など今まで一度も無く。
 当然ながら今回もやはり、怒るどころか、大笑いしだした。

「君は忘れているだろうが、私は一応騎士科の特待生なんだよフィオナ。如何に推薦者が比類なき美貌と発言権を持つスィーリア嬢とはいえ、公式記録の一つもないものをあっさり認めて受け入れるほど、ウィンフォード学園は特待生を安売りはしていないよ」

 自分で一応って・・・

 フィオナは半ば諦めの表情を浮かべながら、心の内で一人突っ込みつつ。失礼な上、行儀悪くも、手に持ったフォークで静馬を指し示し。
 端からまるで静馬の言葉を信じていないフィオナは、テーブルに身を乗り出すように顔を寄せ、声を潜める。

「で、本当のところはどうなんですか?」

 この人、嘘はつかないけど、本当のことを言うって訳じゃないのよね。

 わざとこっちが誤解するような言い方をしてみたり、さりげなく話題をすり替えたり。

 話の内容って言うより先輩の答える立場が、騎士か騎士じゃないかで信頼度が百八十度反転するから、その見極めを間違えないようにしないと。

 フィオナの見たところ、今回の質問はジョスト関連だし、まず間違いなく騎士として答えてくれるだろう、それ故に信頼できる。
 しかも、話の焦点をユリアーヌスとか言う名前の、スィーリア先輩のお兄さんのことから、さりげなくスィーリア先輩の賞賛を経て、ウィンフォード学園のことにずらして行った。

 嘘をつかない、その為に答えたくない問題から、しれっと話題をそらした。

 それってつまり、あたりってことだ。

「あら、それは私も聞きたいですわね」

 穏やかな笑みを、フィオナとは反対側から投げかけるベルティーユ。
 
 完全にねらったこのタイミングでの発言、もう騙されないぞという美少女二人を前に、静馬も両の掌を二人に見せるよう軽く手を挙げ、無条件の降伏を示して見せた。

「私ごときが麗しの乙女を前にしては、抗うすべも無い。それにもう隠していても意味の無いことだし正直に白状してしまうと、私はジョストを禁じられていてね。
 その禁を破らぬよう監視する為に、ウィンフォード学園は連盟の要請を受け、入学を許可したんだよ」

 言われて納得する。
 いやむしろ、それ以外の理由があるものかと。

 あの妙に悪目立ちする白制服も
 騎士科に属していながら、槍をもった姿を誰も見たことが無い事も
 それでありながらも、退学もさせられず、特待生であった事も
 静馬本人にたった今告げられるまで、気付きもしなかった。

 違う・・・そうではない・・・

 賢しい頭脳は気づいてしまう。
 届いてしまった答えは余りに薄汚れ、嫌悪感を呼び起こす。

 騎士であるなら、己が名誉の為にも『連盟からジョストを禁じられている』などとは、口が裂けてもいえない。
 そう、本人からはなんら理由を説明することが出来ず、それでも禁じられた以上、槍を持って答える事もまた出来ずに、風評被害に曝されてもただただひたすらに耐える事しか出来ない。
 だというのに、連盟もウィンフォード学園も、なすべき説明責任を果たさず、一人の騎士をその状態に追い詰め、置き続けた。

 ベルティーユは、こみ上げて来るものをひたすらに耐え、潤んでくる眼を見せまいと、震える唇の端を無理矢理にもあげ、笑みを浮かべる。

 此処で涙など零してはならない、それがたとえ友としての寂寥のものであろうとも。
 相手は――この目の前にいる騎士は、その状況にあっても泣き言一つ言わず、常に涼しげに微笑んでいたではないか――背筋を伸ばし張った胸に騎士の誇りを抱きながら。
 その騎士が、貴族の姫君ではなく騎士だと称えてくれた。

 そんな自分が、その信頼を、その賞賛を、その敬愛の念を、裏切ることなどして良いはずが無い!

 騎士として、貴族として、なにより山県静馬の友として・・・

 ベルティーユ・アルチュセールには、それだけは出来ない。

 賢しい頭脳は気付いてしまう。
 静馬がそれを、今告げたと言うことの意味を。
 悔しくて悲しくて、そしてとても誇らしくて、テーブルの下でスカートを握り締める手が震える。

「あらダメですよベルティーユ様、そんなに我慢なさっちゃ」

「そうです、お体に触りますよ。と言うわけでベルティーユ様は、少々『お花を摘み』に行かれます」

 両脇に据わっていたアンとエマが、まるで台本でもあるかのように同時にすっくと立ち上がり、かがみ合わせのように息のあった動きのまま、ベルティーユの両腕を左右から抱き上げると。
 ちょっとあなた達!という、ベルティーユの慌てた抗議の声を無視して、相変わらずの姦しさを道中振りまきながら、三人連れ立って席を離れていった。

 レストルームの扉を閉じた所で、アンとエマが未だ両脇から腕をがっちり確保しながらも、無言でハイタッチを交わす。
 公衆の面前で年頃の娘が、トイレに行ってくると大々的に喧伝されると言う大恥をかかされたことに、顔を朱に染めたベルティーユが二人を睨み。
 何事か文句を言おうと口を開くが、二人はベルティーユのほうへと視線を向けてはいなかった。

「ダメですよベルティーユ様、相手はあの山県静馬です」

 短い冷静なエマの声は、何時もよりもほんの少しだけ、叱責の色を滲ませている。

「アイツが遠慮なんかしないのは、胸をガン見されたときに解ってるでしょ?眼が腫れたら絶対ばれます。
 だから落ち着くまでは、一時恥を掻いてでも距離と時間を」

 普段とは違うアンの落ち着いた声色と、腕に込められた温もりと力強さ。

 二人とも視線を合わせようとはせず、その横顔で――ベルティーユが半泣きになっている事には、自分達は気がついていないし、今はただ三人でトイレに行っただけだと、平気な顔をしてそう告げている。

「何でそこで、あなた達が私を泣かせるようなことをするのですか・・・全くもう」

 なんとか口に出来たベルティーユの震える抗議の声を、二人はうっすら笑みを浮かべながらも、礼儀正しく聞こえなかったフリをしつつ。
 両腕の動かないベルティーユに、エマがすっと差し出し当ててくれたハンカチで、遠慮なくちーんっと鼻をかむと、弱弱しく丸まりかけていた背筋が伸ばされた。

 今にも泣き出しそうなほど心は弱っている。
 頭の中は、足場の定まらないままにぐらぐらとゆれ、ネガティブな思考を必死に支えている
 何とかできたのは、表面をただ取り繕うことくらいで、本当に気持ちを切り替えることなど、日を跨いでも出来るかどうかわからない。

 だが、それで十分だった。

 二人はそこで強がる自分を非難はし無いし、見下しもしないと知っているから。

 私なら、意地を通すと信じてくれているから。

「咄嗟に連れ出す言い訳の腕前をもっと磨きなさいな、ここでは深呼吸も出来なくてよ二人とも」

「あ、そこで咄嗟に誤魔化さないで良いようになる、と言う発想にはいかないんですねベルティーユ様」

「流石ですベルティーユ様!ご自分が完璧とは程遠いことをしっかり自覚なさっているとは」

 エマの冷静なツッコミと、アンの馬鹿にしているんだか、心酔しての手放しの賞賛だか判断の困る、どちらにしろろくでもない返答に鷹揚に頷き返しながら。
 ベルティーユはいつもの艶やかで、華やいだ笑みを二人に向けて浮かべる。

「当然です。
 貴女達二人は私の大親友なのですから、今後とも私に足りないところはフォローしてくれると、大いに期待しておりますわよ」



 ☆ ☆ ☆



 遠くのほうからくぐもった声色で、『おーっほっほ』と妙に聞き覚えのある笑い声が聞こえてくるのに苦笑いを浮かべながら、フィオナはちょっと羨望に染まった目線を、そちらのほうへと向ける自分に気付いたが・・・それを誤魔化そうとはしなかった。

 一般には、貴族の御令嬢とその取り巻き、としか見られていないあの三人だが。
 何度か顔を合わせ、何故だかベルティーユに気に入られその回数が増えていくうちに、三人が世間一般で言われているような関係ではないのだと自然と気付かされる。

 呼称こそ様をつけてはいるものの、二人が本当の取り巻きであるのなら、あんな風に一歩間違えば侮辱とも取れ、相手の怒りを買うような冗談や軽口は絶対に口に出来ない。
 ただひたすらに相手のご機嫌を取り、相手の身分や権力を後ろ盾に『虎の威を借る』はずだ。
 あの二人は、横柄でつっけんどんな態度をとっているように見えるから、皆がそう誤解するが。
 あの人達は誰に対してでもそういう態度で・・・一番そういう態度を取られているのが、実はベルティーユなのだ。

 ってことは、あの二人の先輩が取り巻きだって見えてる原因は・・・ベルティーユ先輩が、いつもそれを笑って流しちゃってるから?

 横柄でつっけんどんな態度って言えば、あのスィーリア先輩のお兄さん?も結構酷かった。もうなんか、典型的なイジワル貴族って感じ?

「あれ?でも先輩、ユリアーヌスさんと決闘するんですよね?」

 二人は騎士だ、って昔のあたしだったら認めなかっただろうけど、その二人が決闘をするとなると、それはジョストでって言うことになるんじゃないの?
 それってさっきの静馬先輩が言ってた事と矛盾しない?
 だって、ジョストをさせないためにこの学校に連盟が入れさせたんでしょ?

 それなのに、決闘だからってジョストなんてして平気なの?

 行きほどには姦しくなく帰ってくる三人組にちらっと笑みを向けてから、静馬はゆったりと大きくフィオナに頷き返す。

「フィオナの名誉は必ず守って見せるよ」

「じゃなくてっ!それってつまり・・・」

 言葉に出来ずフィオナは、静馬の右腕を掴んだまま小さく震えだす。

 腕を掴んでいなくとも解るほど、眼に見えて震えているフィオナ。
 戻ってきたばかりで何の事情もわからないベルティーユは、それでもそっと後ろから寄り添って支え。優しくその髪を手で梳くように撫で付けた。

 ベルティーユはもとよりエマも、そしてアンまでもが、軽口であろうと静馬を非難するなどと言うような真似をせず。

 それでも、妹のような少女をこのままに、誤魔化しを口にするような真似はし無いでしょうね?と無言で先を促してくるのにも、静馬はやはりゆったりと頷き返した。

「それは違うよフィオナ、君が私に負い目を感じることなど何一つ無い。
 何しろ今回の件に関わらず、私は本年度でウィンフォードを除籍処分にされる事は、既に決まっているのだからね」

 同じテーブルに着いたフィオナとベルティーユ、アン、エマのみならず、ウェイトレス姿の美桜とノエル、カウンターの奥にいた貴弘に至るまで、余りに軽い口調の静馬の告白に絶句させられた。

 自主退学と除籍処分とでは、大きく違う。

 学園へ参加しない、出来ないという事実は同じだが、除籍処分は文字通り『学籍を強制的に処分される』と言うこと。
 経歴には大きく傷が付き、それが名誉を重んじる騎士なら尚のこと大きく響く。
 今後の進退に、致命的な傷を残すのだ。

「スィーリア嬢からつい最近伝えられたことでね、秘密にしていたわけではない。だからそんなに皆、無言で睨まないでくれ、逃げても無駄と解っていても、思わず逃げ出したくなる」

 空になったコーヒーカップを、相変わらず顔に似合わぬ優美とすら言っていい仕草でちょっと持ち上げて。
 お代わりが欲しい旨を、ウェイトレスの二人に口に出さずに示しながらも、静馬はフィオナからは視線を外さない。
 誤魔化す気は無いのだと、真っ直ぐに向けられた瞳から、フィオナも意思を読み取って頷くが、それでも寄せた眉と、ちいさく尖らせた唇が、納得できないと言う思いを明確に示している。

「弱ったな、むしろ私は感謝して居るのだが・・・ウィンフォードを辞めても別の養成学校は受け入れてはくれないからね。
 つまり、私は除籍によって一生ジョストは出来ない。だから、今回の事は本当にユリアーヌスさんからの手向けなんだ」

 黙っていてもいずれは追い出され、放校処分にされればジョストは一生する事が出来ない。

 騎士になる道が閉ざされ、どう考えても絶望し、取り乱して八つ当たりで喚き散らしても、誰もそれには非難できないような悲惨な状況。
 どころか痛ましそうにまわりも同情の眼を持って受け入れるような状況でありながら、誰も静馬がそれをするとは思っていない。

 どころかやはり静馬は相変わらずキザったらしく笑いながら、なんでも無い事であるかのように。
 いつも通りの飄々とした空気を身にまとったまま、飼い殺された上に処分されると言う、ひどく残酷で残虐な相手の行為に対して、まるで他人事のようにどこ吹く風といった表情である。

「そんなんで・・・そんなんで良いんですかっ、こんな終わりなんて、あんまりじゃないっ!」

 掴む腕が痛いほどに力を込め、悲痛な叫びを上げるフィオナに、あぁ全く持ってその通りだね、と笑みを浮かべながら静馬は頷き返し。



「だからどうか最後に騎士として、貴女の名誉を守らせていただけますか、フィオナ姫」

2014.10.28


   

~ Comment ~

更新御疲れ様です 

もう書かれないのかな?と思っていたので復帰されて嬉しいです。
静馬の決闘どうなるのか、無配の王のまま去る事になるのか?
フィオナは失った後どうするのかすごく楽しみです。
そして実にいい味出してるベルティーユさんですw

Re: ナナフシさん 

コメントに感謝を。

終わりまでの筋道どころか、終わりのシーンまでもが、書き始めるときには、大抵頭の中に出来ております。
それ故に、ご心配されているように文章に起こしてと言う手間が、やる気に左右されて最近は不定期更新に
ただ、此処まで続けてきたものですので、じかんはかかれど最後まで書きたいと思っております。

新しいお話の構想が湧き上がっておりますので、そちらを頭の中から文章に追い出す作業に追われ
少し妄想スペースを確保しつつ、DRも一層面白い発想が盛り込めたら良いなと思っております。
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