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歪んだパズルのつなげ方

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DR~少女竜騎士物語~

第五十三幕「騎士の在りよう」

 
 第五十三幕「騎士の在りよう」

「お前・・・本当に騎士なのかっ!」

 怒りと共に怒声を浴びせる貴弘、その手は握り締められ、今にも振り上げられんばかりに震えていた。

 ぶつかり合い、お互いを磨きあい高めあう
 試合においては戦術や騙し合いはあるが、それは試合の中だけでのこと
 貴弘にとってのジョストとは、そういうもので。

 いま、目の前で起きているような、試合後に相手に対して投げかけられる嘲りや
 侮辱をもっての挑発などという行為は、到底騎士のとるべき態度ではなく、貴弘には認められない。

 ましてや技を盗む為に、友達だと偽ってリサの傍へと擦り寄り
 目的を果たすなり掌を返して、裏切り傷付けたフィオナがそれをすることも
 トラウマを克服しようと、歯を食い縛って立ち上がるリサの努力をせせら笑うことも

 これまでのフィオナの全てが、貴弘にとってすれば受け入れることも、認めることも出来ない。

 そのフィオナが、嘲りながら『無様だからもうジョストを辞めろ』と口にした言葉に、リサのベグライターは、眩暈がするほど頭に血が上っていた。

「はぁ?何言ってんの?騎士ですよ。
 あなたみたいに途中で逃げ出した負け犬じゃないし、リサみたいに臆病者でもない、立派な一人前の騎士ですけど」

「まがい物の・・・偽物の癖にっ」

 今まで理性で抑えられていた拳が、重ねられる侮辱の言葉でついには怒りに震えながら振り上げられた。
 貴弘は自分を嘲笑われても、これほどには怒りをあらわにしなかっただろう。
 だがベグライターとして自分の騎士を、なにより愛する少女をこうまで侮辱され、笑って許せる腰抜けに成り下がってはいられなかった。

 目の前で嘲笑する少女へ、その拳が振り下ろされる寸前。
 背後に立つカイルの手が、慌ててそれを掴んで止める前に
 フィオナの前へ割って入った静馬は、振り下ろされた拳を掌で受け止め

 手加減無く、躊躇も無く、貴弘を力任せに殴り飛ばした。

 誰もが起こった事態に驚愕し、呆気に取られているさなか、胸のポケットからハンカチを抜き出し。
 別段怒った風も無く、静馬はそれを地に倒れた貴弘に投げつける。
 一体何が起こったのか解らず、呆然とそれを見上げて固まっている貴弘に、軽く肩をすくめて見せながら、その口から出た言葉は飄々とした何時もの口調。



「あいにく手袋は切らしていてね、申し訳ないがそれで代用させてもらう。
 自らの発言を取り下げ、今すぐフィオナに謝罪するならよし、そうでないなら・・・君に決闘を申し込む」



「まてレッド、いま学園で決闘は禁じられている事は解っている筈だ。そんな事をすれば即刻退学処分も・・・」

 言葉を口にしながら、スィーリアは絶望的な気分に陥っていた。
 水野は決して発言の取り下げも、フィオナに対しての謝罪もしはしない。
 何故なら、フィオナの複雑な心を彼は理解していない以上、その嘲りの態度が実はリサの克己心や反骨心を煽る為に、わざとフィオナが口にしたとはわからない。

 そして何より彼女の憧れである騎士は、たった今スィーリアが口にした言葉では、絶対に止まりはしないのだから。

「侮辱に対する決闘を、退学などという理由で私が取り下げるとでも?
 そんなことに屈することを甘んじて受け入れるくらいなら、私は騎士ではいられない。
 喜んで退学にしてもらう」

 はたして彼女の予想通り、胸を張り高らかに宣言する静馬を見て、スィーリアは片手で自分の顔を覆った。

 ああ、これはダメだ。

 静馬はもう、何を言っても止まらない。

 これが私が魅せられ、あこがれた姿だ、あれこそがレッドだ。

「なんで・・・」

「なんで?それを騎士に問うのかい、元騎士の君が?
 確かに、フィオナはレディとしてはどうかと思うほど口汚くリサを罵り、その上で水野、君を侮辱した」

 静馬の言葉に、立ち上がった貴弘が睨む様な目を向けながら、無言で頷く。
 それこそが貴弘が拳を振り上げた理由で、なぜ静馬がフィオナを庇うのかの理由どころか、そこまで理解していながら何故庇った?という、いわば貴弘の問いを補足し、補強しているに過ぎない。
 むしろ、静馬がフィオナを庇ったのは間違いだった、と独白しているようにすら聞こえ、強弁されるだろうと構えていた貴弘の眉をしかめさせた。

 ・・・が、静馬の背後に庇われるフィオナは、真っ赤な顔をして目を伏せた。

 どうして静馬先輩は、こう見ていて恥ずかしいんだろう。
 普通、自分を気遣ってくれる人を振り払ってまで叩き付けた決闘の相手になら、もっと喧嘩腰で話すでしょ。
 なのに、何でこの人は・・・相手が唖然としちゃうぐらい、相手の正当性を主張してるの?
 いいじゃない、年下の女の子に暴力を振るおうとしたからって理由で。

 胸の内で文句を並べ立てながらも、フィオナは心の奥底で、自分の言葉を全て否定していた。

 これが静馬先輩なんだ。
 自分が正しいから、相手が間違っている、じゃなくて。
 自分の正当性を立証する為に、相手の間違を粗探しする訳でもなく。

 この人は、ただ・・・

「だがその前に、か弱い下級生を上級生が囲み。よってたかって試合中の騎士に対し、掛けるべきではない侮辱の言葉を浴びせ、あまつさえ拳を振り上げた。
 騎士が動く理由は、他にまだ必要かな?
 私は並ぶ者の無い腰抜けだが、戦うべき時に愛想笑いで誤魔化す卑怯者ではないよ」

 恥ずかしいぐらいに、騎士なんだ。

 静馬の上着の裾をぎゅっと握ったフィオナの顔は、恥ずかしそうに赤く染まりながら、どこか微笑んで見えた。



 * * *



 握った手がスチールのデスクに振り下ろされ、肘を突いた逆の手で顔を覆い首を振る。

「なんで、こんな事に」

 洩れでた声は呟きのように小さく、怨嗟のように低く、泣き言のように震えていた。

 それは決して非難を目的として洩らした声ではなかったが、目の前でそれをぶつけられた相手の胸を、容赦なく貫きえぐる断罪の矢となり、その場に身動きも反論もさせずに貼り付けにする。

「本当に申し訳ない」

 普段の姿からは想像もつかないほどに、項垂れた美貌の学生会会長の懺悔の言葉に、自身も項垂れていた顔を上げ、自分以外の存在がこの空間にいたことを綾子は思い出す。

 たった今、目前の相手に伝えられた言葉によって、自らの内に呼び起こされた感情の禍が、余りに暗く大きすぎたために、一瞬にして自分以外の全てを認識できなくなっていたのだ。
 それ程の激情を呼び起こした原因は、言うまでも無く静馬が彼女の甥に、決闘を申し込んだという事実。

 しかし、それでもと綾子は自分の感情の爆発を恥じる。
 如何に公爵家の令嬢で学生会会長と言えど、目の前の相手は学生であり、自分は保険医とはいえ大人であり教師である。
 想定できる中でも最悪に近い事態を前にしようとも、感情を吐き出して良い場面でも相手でもない。瞬時にそう思えるほどには、綾子はまだ冷静さを欠ききってはいなかった。

「いいえスィーリアさん、貴女を責めた訳ではないの。
 まるで非難のように聞こえてしまったわね、ごめんなさい少し配慮が足りなくて」

 足りなかったのは、配慮じゃなく冷静さね。

 内心で独りごちる綾子の顔色は真っ青で、今にも倒れそうなほどどこか危うく見える。
 現在二人がいる場所が、保健室というのは冗談にしては笑えず、しかしこの上なく適していた。
 というのも、現在治療を終えた貴弘は友人連中に連れられ既にこの場を去っており、戻ってくる心配は無く。
 そんな騒ぎが有った以上、学園側もジョストの練習を初めとした馬場の使用を禁じ生徒に下校を促した為、これ以上けが人が運び込まれてくる事はまず無い。
 一つ深呼吸をして、綾子が頭をリセットし、現状を確認する。



 事実としては『静馬が貴弘と決闘』という事態は、回避された。



 先日のベルティーユと美桜の決闘騒ぎにより、学生会は決闘というものを全面的に禁止していたし、貴弘も元騎士とはいえ、いまはベグライターである。
 ジョストによる決闘などという事態にはならないと、スィーリアも高をくくっていた。
 スィーリアの懸念は、あくまで『決闘』という様式を静馬が使用し、それを学園側に突かれることに対してのもの。

 貴弘はジョストで戦うことに関し素人でもなければ、決して戦えないわけではない。
 だが、槍を此処一年以上持っていないとはいえ、静馬は現役の騎士である。
 決闘法としてジョストを指定する様な卑怯な真似は、静馬が騎士であれば出来ない。
 静馬はスィーリアにとって、憧れるほどの『騎士』なのだから。

 そして、静馬はやはりスィーリアやフィオナが思っていた通り、決闘の方法は貴弘が決めろと宣言した・・・までは良かった。

 だが、そこに全くの予定外で予想外の異物が混入し、事態は予測の出来ない結末へと導かれる。
 奥歯を噛み締めたリサが、顔を上げて静馬を睨み

「私が貴弘先輩の代わりに、その決闘を受けます!」

 覚悟を決めてそう叫び出す為に、小さく口を開き息を吸い込んだところで、その場に新たな登場人物が現れたのだ。



「ならば私が、その決闘を代理の騎士として受けてやろう。学園を追放される貴様への手向けだ」



 剣帯にサーベルを吊るした金髪の美丈夫が、氷のように鋭く冷たい視線を静馬に投げつけ、口元を僅かに歪めていた。
 「兄上!」「師匠!」という驚愕の言葉が上がった通り、割り込んできたのはスィーリアの兄であり、水野貴弘の元師匠で、現役最強の騎士とも目されるユリアーヌスその人。
 周りで上がる驚きの声も聞こえぬかのように、突然の――ジョストをするものなら知らぬ者の無い有名人である――第三者の出現にも驚いた様子も見せず。
 静馬は相手の視線を難無く受け止めてみせながら、常変わらずに飄々と軽く肩をすくめて見せた。

「なるほど、弟子の負いきれない重責を師匠が代わる、というのは筋が通っている。
 が、良いのですか?無名の学生ならまだしも、高名な騎士の貴方が私と槍を交えても。
 連盟は黙っておりますまい、何しろ貴方は高潔すぎる上に強すぎる、ほんの少しの傷も彼らは抉じ開けようとするでしょう、ユリアーヌス卿」

 その場に居る人間の表情は、二つに分かれた。
 静馬が言っている意味が、解らぬ大多数の者は困惑し、解る少数の者は苦々しげに鼻に皺を寄せる。

「そのような心配は無用だ、卒業した学園の後輩に稽古を付けてやるだけの事に、連盟が何を言おうが関係ない。何より貴様には個人的に思うところが有る」

「それは奇遇ですね、実は私にも貴方には思うところが有る。しかし、残念ながら口下手なので、言葉でどう伝えたものかと思っていたところです」

 穏やかな声と口調であるのに、周りで聞いているもの全ての背筋が震える。
 わざわざ言葉にしなくとも二人はお互い知っているのだ。

 ウィンフォードから追放する生贄になったものと

 その追放劇の原因を作ったものだと

 だが、それにしてはユリアーヌスの静馬へ向ける眼光は、同情や哀れみにしては鋭すぎ。
 静馬の迎え撃つべき言葉は、相手の言葉に迎合しすぎていた。

「ドクターストップが掛かっていると聞くが?」

「それが騎士が戦わない、何かの言い訳に?」

 静馬の言葉にユリアーヌスが、口角を吊り上げ無言で頷く。

「では、後は槍で語るしかないな」

 皆が固唾を呑んで見守る中、ユリアーヌスは当然とばかりに静かに告げ、それに静馬が黙って頷き返す。
 もはや言葉を交わすべき時は終わったのだ、戦うべき理由の説明も、戦う意志の確認も。

「日時の指定は私から、場所はここウィンフォードで」

 それもまた当然とばかりに、ユリアーヌスが頷き返すだけで踵を返す。
 別れの挨拶も、再会を約す言葉もまたそこには無いままに、ユリアーヌスはその場を立ち去った。
 その後姿が見えなくなるまで、誰一人として口を開くことは無く、虚脱感に染まった空間に立ち尽くす。

 ただ独り、静馬のみが穏やかな表情にありながらも、僅かに目を細めて

 決闘はもう取り下げられない。
 二人の騎士が戦うと口にし、お互いにその意志を相手の中に認めたのだ。
 もう誰にも止められはしない。
 たとえ諍いの突端となった少女達でも、学生会会長でも、決闘を申し込まれた水野貴弘であっても。

 2014.09.16

 


   

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