FC2ブログ

歪んだパズルのつなげ方

スポンサー広告

スポンサーサイト

 
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第五十二幕「想いは宛ら槍の如く」

 
 第五十二幕「想いは宛ら槍の如く」

 ガチガチと小さく金属同士が触れ合う音が煩く耳に響く

 それはほんの小さな音であるのに
 大音量で押し寄せる遠くの歓声に消えることなく
 近くで話しかけてくる声すらも邪魔する事も阻むことも出来ず
 耳から飛び込んできて、心まで滑り落ちてくる。

 次第に『ガチガチ』が心に溜まっていき
 まるで出来の悪いブリキのオモチャの様に、間接がギクシャクとしか動かなくなっていく。
 その呪いをかけたのは、遠くに見える、冷たく嗤うエメラルドの瞳。

 言葉はない。
 声も届く距離ではないが、その瞳は確かに言っていた。
 いや、冷たく喉元に突きつけていた。



 よくもまぁ、出て来れたもんね、と。



 あの日からの試合内容を知っているのならば、当然そういわれるだろう。
 以前は相手にもならず、寄せ付けもしなかった騎士達に、ボロボロに負け、悪口も陰口も嫌になるほど聞かされた。
 本当は辛くて逃げ出したくなったけど、私は一人じゃなかった。
 ずっと隣で一緒にいて、支えてくれる人がいた・・・だから、歯を食い縛って、泥を嘗め、砂を噛んでも、逃げ出すことから耐えてこられた。
 信じて、励まして、ずっと隣にいてくれると、そういってくれた人を、もう二度と疑いも裏切りもしたくなかったから。

 だから怖い。

 フィオナは昔の私だ。
 独りで他には何もいらないと思い込んで、勝てるつもりになっている。
 もしそんなフィオナに勝ってしまったら・・・フィオナは独りで、悪口も陰口も、敗北の喪失感も無力感も何もかもを背負って立てるのか。
 その重さと辛さを知ってしまった今、自分がフィオナをそんな所へ突き落としてしまうのが、酷く怖い。
 
「本来の実力を出せば、勝ちは揺るが無いだろう」

 茜はそう言って肩を叩き、何も心配していないという笑みを向ける。
 リサの内心の葛藤など、知りようが無い。
 いや、むしろ茜どころか誰にしてみても、そんな葛藤をリサが今更しているなどと、想像だにしないだろう。
 それほどまでにリサは勝ちを積み過ぎていた

 そして、敗北に無関係であり・・・無頓着すぎた。

「本戦で戦おう」

 リサの小さな背にかけられた言葉は、重く冷たくリサの胃の腑の底に積み上げられる。



 * * *



 試合の歓声を背に受けながら、静馬は真剣な表情のスィーリアに、深く頭を下げられていた。

「済まないと思っている。だが、これは・・・」

「いえ、貴女が全力でそれを阻止しようとしてくれた事を疑ってはいませんし、その上で学生会の会長とはいえ、学園側の決定を覆せない事は、仕方が無いとも思っています」

 どこまでも穏やかな調子の静馬に、スィーリアの表情が一層陰る。
 この学園に来るように半ば強引に誘ったのは彼女で、だというのに今、静馬を守ってやることも出来ない事実に、自身の無力さを突きつけられたのだ。
 それなのに、静馬はただ穏やかにそれを受け入れる姿勢を崩さない。

 いっそ、感情に任せて怒鳴りつけ、罵られた方がどれだけ気持ちが楽だったことか。

 いや・・・そう考えることこそが、甘えだな。

 静馬は強い、私もここは歯を食い縛ってでも、事実を受け止めねば、対等に立てなくなってしまう。

「ジョストの出来ない騎士など、学園が金を出してまで騎士課に置いておく方がおかしい」

 何時ものように飄々とした物言いで、軽く肩をすくめる静馬の表情は笑顔、そこには僅かな苦味すらない。

「ちがうんだレッド、そうじゃないっ。それなら入学の時点で問題になっている筈だ。
 今回の件の真実は違う。学園が動くよう働きかけた者がいて、学園はその人物の発言を無視できなかった。
 卒業生の騎士達、そのレベルの低下というなんら君とは関係のない、具体性の無い印象での判断で・・・君は、その相手に対して、学園から生贄にされたんだ」

 いつになく辛辣な物言いをするスィーリアに、今回の事の発端となった人物を静馬はようやく悟る。

「この学園の誰よりもジョストを愛し、誰よりも努力を惜しまず、誰よりも研究熱心な騎士を、学園は手放そうと・・・いや、追い出そうとしている。
 騎士養成のための、このウィンフォード学園がだっ!」

 間接が白むほどに強く拳を握り締め、血を吐くように苦しげに、言葉を吐き捨てるように呻くスィーリア。
 それが今回の裁定を下した――即ち、学園をそう動くように促した者の意見を、突き放さずに唯々諾々と受け入れた、学園理事達への侮蔑なのか、問題提起を行った人物への怒りなのか。
 あるいは、そこまで理解していながらも、何も出来ない自分自身への怒りなのか。

「それは根も葉もない買い被りだねスィーリア嬢。
 むしろその賞賛は全て、貴女へこそ向けられるべきだ。私には重過ぎる」

 軽く肩をすくめながら、静馬は踵を返し、優しげな眼差しをスィーリアに向ける。

「そろそろフィオナの試合を見て応援しないと。
 試合には何も心配はないが、フェザーズフライで決めでもしたら、約束を破ることになってしまう」

 穏やかにそう促されてしまえば、スィーリアも当の被害者本人に向けて、それ以上加害者の愚痴を並べ立てることなどできるはずも無く。普段は凛と張られた背を、少し丸めながらその隣に立って、今まさにフィオナが戦っている戦場へと歩を進める。

「貴女がそう気に病む必要は無い。いや、むしろ気に病まれては困る。
 この一件のせいで貴女が実力を発揮できないままに勝ったら、私はフィオナに一生恨まれてしまう」

 直ぐ隣から流れてくる小さな声、そこにはからかう様な笑いの成分は一欠片も無く、反射的にスィーリアが静馬の表情を伺う為に、首を捻って顔を向けた。
 スィーリアのその反応をみて、静馬は酷く自然に片目を瞑ってみせるが、やはりその仕草は全く似合わない。

「どうやら、遅過ぎはしなかったようだね、私の忠告は。
 確かに、フィオナが今まで戦ってきた相手は同じ一年生ばかりで、唯一実力が学園内で通じるだろうリサとの試合は、リサの心が不安定な状態での奇襲だ。
 そこから、フィオナの実力は龍造寺女史やリサにも及ばないと判断し、その上早朝以外では練習している姿を見ないことに、圧倒的な練習時間の不足と自力不足との判断もあるかな?」

「待てレッド、それ以上は忠告ではなくフィオナに対する背信だ」

「残念だがスィーリア嬢、そのたった今言ったフィオナというのは、先程の判断をくだした『貴女の中のフィオナ』だ。
 私の勝利の女神はそうは言わない、慢心し実力を出し切れない騎士と戦うなど、恥ずべきどころか唾棄すべき事だと――そんな相手と戦って勝っても、自らの名に、勝利に泥を塗るだけ、とそう言うだろう」

 胸を張り、声も高らかに宣言する静馬の姿に、スィーリアがしばし動きを止め、知らず見惚れる。

 近づいて大きくなっている筈の、試合の歓声すらも完全に耳に流れ込んでこず。

 周りの木々も建物も、その目に映りながらも、見えることは無い。

「いいかなスィーリア嬢、我が親愛なる友人殿。
 貴女は独り高みに立ち、並ぶ者の無い騎士だ。リサにノエル嬢、龍造寺女史、そして我が麗しのベルティーユ嬢、彼女らの実力を持ってしても貴女の牙城は崩せまい。
 だが、私の勝利の女神は違うぞ。
 彼女は正々堂々誇りをかけて、バカッ正直に全力で優勝に向かっている」

 そんなことは、言われるまでも無くわかっている、スィーリアの鋭い眼光が潜めた目から大気を翔け静馬を射抜くが・・・それにも静馬は一つ、大げさに肩をすくめて見せた。

「残念だが、貴女はまだ良く解っていない。
 フィオナは貴女が考えているより、遥かに大馬鹿で気高い騎士だ。全力で自身の勝ちにマイナスとなる事を行いながら、同時に本気で勝利を求めている」

 いったん言葉を切った静馬が、指を一本顔の前に立て、スィーリアの視線を真っ直ぐに射貫く。



「いいかね、フィオナにとっての貴女は――憧れの先輩であり、尊敬する偉大な騎士であり――優勝への道に転がっている、ただの石ころに過ぎない」



 そこまで言われて、ようやくスィーリアも静馬の言葉通り、自分がフィオナを誤って認識・・・いや、危機感が足りなかったのだと気付かされた。

「多少毛色の変わった無名のBクラス騎士、などと彼女を見ているなら、羽根を散らして地に堕ちる事になる。
 ごく普通に勝利を重ねて来た天才を、彼女は既に一人フェザーズフライで沈めているのだからね」



 * * *



 一言で言ってしまえば、見るべき所のない試合だった。

 シーソーゲームでもなければ、フェザーズフライのような華もない、逆転劇と言うドラマチックな展開も無い、という意味でも・・・それ以外の意味でも。
 リサはジェイムスの言葉通り、確かにちゃんと騎士になってはいたが、フィオナというトラウマ本人を前にし、その動きは無意識に縮こまり。
 静馬の予測通り、最初から最後まで一方的な流れのままに、フィオナの勝利が確定した。

 天才であり、この短期間で騎士としての心構えが出来たとはいえ、まだ一年生の少女である。
 姉のように慕っていた女性を、試合中の事故とはいえ怪我をさせ
 その上さらに親友に裏切られ、自身の拠ってたつ場所をこそげとられた

 信じられない程に、負った心の傷は深く、この短期間で塞ぎきる事は出来ようはずも無い。

 勇気が足りないのではなく、覚悟が足りないのでもない。
 敢然と自らのトラウマに立ち向かい、戦いを挑んだリサをそう評する者がいたのなら、それは勇気も覚悟も持った事のない臆病者だということだ。
 しかし、心情を鑑みず、現象的な事実だけを、ただ事実のままに評するに、とある魔王の言葉を借りて済ますのであれば

 ・・・無様、とほんの一言で切り捨てられるのも、また事実。

「もうやめたら?かつての天才が落ちぶれた姿を曝すのって、見てて痛々しいし」

 優しげな声を、笑みと共に投げかけるフィオナ。
 勝者が敗者にかけるべき言葉などというものは無い、故にこれは言葉をかけたのではなく、事実を客観視した現状を、目の前にわかりやすく突きつけただけ。
 あるいは、嘲笑とされるに相応しい代物だが、それはフィオナの心情を知らぬ者にのみ見える虚像。

 だが、それ故に『嘲笑』は一般解とされる。
 冷静に判断すれば、此処でフィオナがリサを嘲笑することに、なんらプラスの要因が無いとわかるのに。
 いや、むしろ試合中の言葉のやり取りから、リサが反発し奮起するだろう事が、誰にでも容易に理解できるというのに。

 彼女は、フィオナはそうとしかリサに声を掛けられないのだ。

 自らの心を見せられぬほど、不器用で意地っ張りな、静馬の勝利の女神であるのだから。

 唇を噛み締め俯くリサの周りには、ベグライターである貴弘の他にもカイル、茜、美桜が集まり、口々にフィオナの言葉を否定していく。
 
「む・・・なによ、わらわらと集まって来て」

 口では呆れたように装いながら、フィオナが苦々しい顔をする。
 それを多勢に圧倒された為と、リサ側の面々は見て、気を緩めた。
 だが、事実は全くの逆である。

 ああ、これが静馬先輩が言っていたことなんだ。

 だから、ベルティーユ先輩も『ここにいない』んだ。

 それなのに、どうしてベグライターのこの人は、そんなことがわからないの?

 それなら、静馬先輩がリサのベグライターをやったほうが・・・

 ジクリと胸が痛むのを、フィオナははっきりと自覚した。
 自分も、ベグライターである水野貴弘にも解らないリサのことに、静馬とベルティーユが届いていた事に、フィオナは今酷く嫉妬していることを。

「そうやって、殻の中で怯える雛のままなら、もうジョストなんて辞めちゃいなよリサ」

 2014.09.15


   

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
無料アクセス解析
現在の閲覧者数:
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。