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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第五十幕「価値も心も」

 
 第五十幕「価値も心も」

「本来ならば誰が相手であろうと、こういうことは話す訳にはいかない
 何故なら、誰かに肩入れする事も、どちらかに勝たせるような事もしちゃならん
 それを解って、その上で聞いてるんだな静馬?」

 強面の男に真正面から睨みつけられ、それでも静馬は目をそらさず頷き返した。
 ジェイムスの目の前にいる静馬は、全く普段通りに・・・フィオナが言うところのへらへらとした笑顔を浮かべ
 しかし、その目だけが真剣を通り越し、怖いくらいに鋭くジェイムスの瞳の奥に切り込んできていた

「わかった、リサ嬢ちゃんの馬は問題ない。
 貴弘がベグライターになって精神的にも安定している、何より二人の間の信頼関係は以前より強く結ばれている以上、その部分の脆さは乗り越えるだろう」

「準備期間の短さはどうでしょう?」

 静馬の問いかけに、ジェイムスが強く笑い飛ばした。
 問うまでもなくお互いがそこには同じ答えを持っている
 それを態々口にしたということは・・・つまりは、そういうことだ。

「今のリサ嬢ちゃんに勝てる騎士はそうそう居ない、ちゃんと騎士になったぜあのお嬢ちゃんは」

 * * *

 手にしたティーカップを空中で止め、迎え入れるために開けた口をそのままに
 じとーっと静馬を睨むのは、優雅に微笑む美女の両脇に控える二人。
 そんなマグマも一瞬で凍りつきそうな視線を前に、軽く肩をすくめ手にした紅茶の香りを楽しみながら、実におかしそうに静馬は破顔する。

 言うまでもないが、このテーブルに静馬がつく際に件の二人とは既に一悶着が有り。
 此方も言うまでもないが、親の仇を見るような視線と口調で噛み付いてくる二人の舌鋒を、飄々と練達のマタドールさながらに躱し
 まるでそれが何時もの挨拶であるかのように、視界からすんなりと外してその場の女主人であるベルティーユに、真紅の薔薇を一輪そっと差し出して微笑みかける。

「貴女は幾多の白バラをお持ちのようなので、此方をどうぞベルティーユ嬢」

 他の誰がやっても気障ったらしい仕草も、静馬に掛かれば苦笑する以外ない笑いにすり替わり
 二人が残念なものを見るような目をし、何かいう気力を根こそぎ折られた所を、ベルティーユに無言で席を勧められ今に至る。

「それで久しぶりに顔をお出しになって、一体静馬さんはどんな弁解を?」

 いたずらっぽく片目を瞑ってみせるベルティーユ
 大人びている美女が、たまに見せる子供っぽい仕草に、静馬は両の掌を向けてあっさり降伏してみせる

「これは手厳しい、ただし訂正を一つ、弁解はしません。
 弁解をするのなら勧められようとこの席に私は座らないし
 ・・・そんな男が貴女と同じテーブルに着く事を許しはしない」

「それなら結構です、お話をお続けになって」

 贈った薔薇のように微笑むベルティーユに、静馬も内心で困ったような溜息を付く。

 まったくベルティーユ嬢にはかなわないな。

 ベルティーユがそう問い掛け、静馬の返しにそう応える事により
 アンとエマの二人がこれ以降、静馬が『此処に居ること』に対して不平不満を口にするのを、前もって釘を差したのだ。
 多くを語らず、そっと水を向け必要な答えを静馬からごく自然に引き出した
 ベルティーユの上品で洗練された話術に、頭が下がるやら気恥ずかしいやら・・・全く以てかなわないと思い知らされる。

「最初に謝罪を、今度の大会において貴女が優勝をする芽は無くなってしまった
 その原因の幾ばくかを私は担ってしまったようで、その件に関しての非難は甘んじて受けます」

 大会を前にした騎士に向かい、面と向かって優勝できないと口にする。

 アンとエマが殺気立って立ち上がりかけるのも当然。
 よく知りもしない相手からであれば、下品で侮辱的な挑発であるが
 友人という立場に有る静馬からの言葉は、この上なく屈辱的で許されざるほどの侮辱的行為

 だが、ベルティーユはそんな二人を軽く手を上げるだけで抑え、柔らかい笑い声を上げながら小さく頷いて静馬に続けるように促す。
 その余裕と懐の深さこそベルティーユが、すぐに顔を真赤にして怒り出すような、安いプライドしか持たないそこらの三文貴族ではない証。
 
「実は私の口の悪く短気な勝利の女神が、リサを天才騎士に叩き上げてしまってね。
 今のリサなら、スィーリア嬢にもニ割ほど勝機が出てしまった・・・
 なにしろリサのベグライターはあの水野貴弘だ、はっきり言うともう少しバランスを考えてコンビを組め!と文句を言いたくなるレベルの凶悪さでね」

 肩をすくめ、苦っぽく笑ってみせる静馬に、ジト目の二人が突っかかる。

「フィオナに負けてから、リサって子は一回も勝ててないのアンタ知らないの?」

「今のリサは精彩に欠ける・・・と言うよりは、見る影もないという状態ですよ山県静馬」

 二人の反論に大きく頷き返し、紅茶を一口。
 ベルティーユのベグライターを務める二人だ、当然ベルティーユの勝利に影を指すような相手は、警戒し分析している。
 その二人が口をそろえて出した結論に、静馬も異論はない。
 最後の試合から土日を挟んだ今日、予選が始まる。
 たった二日で、泥沼に陥ったような不調が完全回復するなど有り得ない。
 確かに二人が言うとおり、あり得ないのだ・・・

「二人の意見は全く以て論理的で否定のしようもない。
 だからこそ、私は態々此処に来た甲斐があるとも言える。
 凡百の人間と同じ秤では測れない、天才という言葉の意味を思い知ることになる」

 リサと水野という、二人の天才が
 二人で勝利を目指すという・・・現実の残酷さを。

 酷いペテンだ

 生まれてきた時点で、覆せない

 本当に、酷いペテンなのだ

 片方だけであれば、なんとか油断や隙を突けば戦い様がある。
 とは言え隙があるというだけで、そこを突いて勝利をおさめるのは容易ではない
 だが、何をやっても全て相手のほうが上で、全く相手にならないというのとは違う。

 現にフィオナがやってみせたように、いくら天才とはいえリサはまだ子供で
 水野にしたってベグライターとしては、経験は浅いのだ付け入る隙はある
 そして、実際二人はフィオナが囁いた水野の過去で分断され、対立しリサは精神的な脆さを露呈した。
 フィオナは――本人は知らずにやったのだろうが、実に見事に二人の天才を各個撃破したといっていい。

 逆説的に、そこまでやらなければ勝てないのだ、天才というものには

 そんな天才が、二人で組んだという事実。
 二人で組んで尚、努力し続けたスィーリアという天才には
 今のリサの状態では二割程度しか勝機はないという静馬の判断

 それを聞いて

 ベルティーユは

 相変わらず、華のような笑みを浮かべていた。

「謝罪は受けました。
 あの日から随分と経って、改めてそれを言うというのは静馬さんらしい律儀さです。
 それで、今日は一体どんなお話を持って来てくださったのでしょう?」

 アンとエマの二人は、ベルティーユが口にした返答に、違和感を覚える。

 ベルティーユは以前静馬が言ったように、本物の貴族精神を持っている
 今回のように誠意を持って謝罪をするのなら、一見それが侮辱のような内容であろうと、その謝罪は受けるだろう。
 その上で、侮辱となる部分についてなにがしかのリアクションを起こす、そういう性格であることは付き合いの長い二人にも解っている。
 では、一体何処に違和感を覚えたのか

 侮辱となる部分にリアクションを示さない

 たしかにそれはおかしいが、実はおかしくはない。
 侮辱と感じたのはアンとエマのふたりであり、ベルティーユと静馬の二人は、それを侮辱とは考えていない。
 何故なら、ベルティーユは大会に優勝するという様な・・・
 否、試合の勝敗というような小さな部分において、ジョストと言うものを捉えていないから。

 戦う以上は最善を尽くし勝利を目指す。
 その部分は疑いようがないが、それより一回りも二回りも大きな視野で、ベルティーユはジョストというものを捉え
 試合の勝ちと負けと言う、たった二つの結果とは別次元で捉えているといってもいい。

 では、どこが?

 そこまで考えて、ようやく二人は気づく
 ベルティーユの口ぶりが、余りに静馬の言葉に対して軽いのだ。
 まるでどうでも良い事のように、いや・・・
 
 そう、まるで、そのやり取りには

 形式的な価値しか無いかのように。

 様に、では無く。
 ベルティーユに取っては、正しく形式的なやり取りなのだと、答えに至る。
 『改めて』とベルティーユは言ったのだ。
 つまりそれは、既に謝罪の意をベルティーユは静馬から受け取っているということで
 それが何時かというのも、その言葉のうちにある。

 即ち、ベルティーユはフィオナがリサを試合で負かしたあの日に、すでに今日の事態を知っていて。

 そして、静馬もまたそれを認識しており、その場でベルティーユに言葉によらぬ謝罪をしていたということ。

 アンとエマ、気づけなかった二人が愕然とする中、静馬とベルティーユは何事もないかのようにごく自然に会話を続ける。

「ああ、実は先日アスコット卿の御息女とお話をする機会があってね」

「まぁ、随分とおモテになりますのね
 それとも私をジェラシーで拗ねさせたいのかしら静馬さんは」

 まさか、と肩をすくめ片目を瞑ってみせながら、背凭れにゆったりと身を任せる。
 
「私は貴女に嫉妬をしてもらえるような、ハンサムでもなければ立派でもない男ですよ。
 それに、相手の女性も私では到底吊り合わない。
 ・・・が確かにミレイユ姫と、我が麗しのベルティーユ嬢でなら釣り合いは取れる
 どちらも目がさめるような美女で、頭が良く気品のある女性だ」

 静馬が口にしたミレイユと言う名を、ほっそりした指を唇に当てながら、小さく口の中で繰り返し記憶をたどるベルティーユ。
 ストロベリーとバニラがお好みの、小さなレディでと、小出しにヒントを提供する静馬だが、余り交流のない相手なのかベルティーユの記憶からはなかなか浮かび上がってこない。

「ジョストが好きで、姉上がこの学園にいるノエル嬢と言えば?」

「残念ながら、余り面識が無いですが、ノエルさんでしたら。
 それでミレイユさんとはどんなお話を?もしや今度の大会の優勝者と言ったお話ですか?」

 ふわりと空気が柔らかくなるような笑みに、静馬が眩しそうに目を細めながら頷き
 ティーカップを置いてから、ゆったりと両の手を組む。

「ジョストの方は、残念ながらミレイユ姫がノエル嬢の優勝を頑として譲らず
 では当日一緒に見学をしましょう、という約束をして事なきを得たのですが・・・
 実はもう一つの方でも意見はわかれてしまったので、その件に関して激励を」

 激励?と小さく首を傾げるベルティーユ。
 ジョストの大会――予選当日に、貴女は優勝できないと言った口で
 激励と告げる静馬に、思わず吹き出してしまいそうになりながら

「学園祭で、ウィンフォード1の美女を決めるコンテストの方では誰が優勝するのか、と聞かれたので
 我が麗しのベルティーユ嬢以外が優勝するなどという事はあり得ない、と
 もしそんなことがあり得たとしたら、きっと皆の目がおかしいのだから、来年は私が出ても優勝できるに違いないと返答してしまって」

 さすがに耐え切れずにベルティーユが吹き出し
 釣られるように、それまで真剣な顔をしていたアンとエマも、後を追って吹き出した。
 
「それは、ちょっと見てみたくもありますが・・・
 流石に来年、静馬さんと優勝争いをする訳には行きませんわね
 それに、スィーリア様がいらっしゃる今年に優勝してこそ価値も有りますもの
 頑張るというのはなにかおかしいですが、期待に応えてご覧に入れますわ」

 自信に笑みを輝かせ、ただでさえ存在感の有る胸を張り
 嫋やかに微笑むベルティーユの笑顔を見て
 静馬も安心したようにほっと息をつき、大きく頷く。

「どうやら私は嘘つきにならずに済みそうで安心した。
 やはり貴女は素敵だ、我が麗しのベルティーユ嬢」

「スィーリア様ではなく私の名を上げた、静馬さんの判美眼を証明して差し上げます」

 どこか子供っぽい仕草で、ベルティーユが片目を瞑ってみせた。

 2013.08.16


   

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