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歪んだパズルのつなげ方

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天使とダンス

天使とダンス 第五話「見る者の目により見えるものは変わる」

 
 第五話「見る者の目により見えるものは変わる」

 どうすれば良いの?と問うならば、まずどうしたいのかを自ら示さなければ、答えなど出る筈もない。

 殺してでも苦痛を止めたいのか
 苦しんででもそばに居て欲しいのか
 彼女を叫ばせているモノを取り除きたいのか

 それは投薬をした者か
 薬の製造者か
 彼女を生み出した研究所か
 そんな研究所を見つけられない管理局か

 現状に何もできないで居る、無力なルーテシア自身なのか。

 助けてと言うだけで、心に描いた理想形のままの未来を、ぽんと投げて渡してもらえるなど物語リの中だけ。
 あるいは視線の先で嗤う男にそれは可能なのかもしれない、生命の冒涜者と名高い次元犯罪者ではあるが、確かに男は凡百をはるかに凌駕する天才的頭脳の持ち主。
 しかし、それを成すのであれば、スカリエッティは今頃次元犯罪者などと呼ばれては居ないだろう。

 彼には可能であっても、彼がそれに興味を向けることは有りはしないのだから。

「たとえこの先もっと苦しんだとしても、私はインフに生きていて欲しい、ずっと一緒にいたい」

「例えばそれを優先した結果、君は母親を助けられず、心を取り戻すことが出来なくなってもかな?」

 スカリエッティのこの上なく嬉しそうな歪んだ笑みと共に返された問に、ルーテシアが目に見えて大きく一つ身体を震わせた瞬間、インフィニティを縛り付けていたバインドのチェーンは緩み、リングは砕かれ光の粒となって消える。
 
「ああ済まないね、今のはほんの冗談のつもりだったんだが、余り誉められた出来ではなかったようだ。
 君が母親の事を、何よりも大切に思っている良い子であることは、いまさら言うまでもないことだったね」

 一旦そこで言葉を切り、自分の言葉が充分にルーテシアの心に染みこむだけの時間を置いてから、片眉を跳ね上げ、胸の前で腕を組む。
 先程の言葉を裏返せば。
 彼の興味を向けさせれば、必ずしも望んだままとはいえないまでも、彼は良きアドバイザーであり協力者にも成り得る。
 ただし、それも彼の興味の分量だけ、その点を測り間違えなければ、ではあるが。

「インフの身体から一瞬で薬を抜いてしまうことは、実は出来る。
 だが、それをしてしまうと痛みは更に強く長く続き、彼女は発狂するかショック死をしてしまう。実際今インフが叫んでいるのは、痛みの余り狂わないためなんだよ。
 そう言う訳で我々に出来るのは、それ以上彼女が自分自身を傷つけないように縛り付け、発作が止むのを黙ってみていること、だけしかない」

 ルーテシアは、自分の体を抱き留めたままのチンクの両手に力がこもるのを感じた……つまりこれが答えである。
 常に冷静沈着なチンクが現場にいて、後からルーテシアが駆けつけた時点で何もしていなかったのは、突然の事態に驚き対応できなかったのではなく。
 自分に出来る事がなく、黙って見守っていたのだ。
 インフィニティが自身を傷つけるさまを、目に焼き付けるように
 何も出来ない事に奥歯が砕けんばかりに噛み締め、唇をきつく引き結びながら。

 ルーテシアに『出来る事』を一つ残しておいた。

 リングバインドが消し飛ばされた為に、チェーンバインドが緩み、僅かに身体の自由を得た結果
 鎖に繋がれた野獣そのものに暴れたインフィニティの、バインドと触れ合っていた各所で肌が裂け血が吹き出す
 それにも気付かぬのかなおも暴れるが、右腕のあたりで鈍く耳障りな音が鳴り響き、力なく垂れ下がった右腕が鎖の響きとともに、先ほどより一層強く絡めとられて動きを封じられ。
 その一瞬で再び多重バインドを重ねがけされて雁字搦めに動きを封じられる。
 それ以上は何も出来ず、二人は黙ってインフが苦しむ姿を見守り続け、一刻も早くその時間が終わってくれるようにただ祈るだけ。

 不意に滂沱の涙を零していた両目を見開き、強張っていた身体から一気に力が抜け落ちると
 幾重にも身体を縛るバインドによって、吊り下げられるような体勢で項垂れ
 インフィニティは動きを止めた。

 それが異変から五分だったのか五時間だったのか、すっかり耳が馬鹿になっていた二人には静寂の耳の痛さに我に返り
 呆然と立ち尽くし、無意識に涙で頬を濡らすルーテシアを支えていた手を離して、チンクはインフィニティに駆け寄るなり、力任せにバインドを引きちぎり。
 糸の切れた操り人形のように、力なく床に倒れこむインフィニティの体を抱きとめると、その見た目からは想像できないほど軽々と抱き上げ。

 かすかに聞こえる呼吸音と、確かに伝わる心臓の鼓動に、腕の中にあるまだ細く熱っぽい小さな身体を強く抱きしめ。労るように、謝るように、愛おしそうに、何度も何度もその髪を撫で付けつ付けた。

 ☆ ☆ ☆

 寝苦しさに促されて目が覚めたのは、窓で小鳥が騒ぐ騒ぐ時間帯。
 だが小鳥たちがじゃれ合っているのだか、暴れているのだかの音で目が醒めた訳ではなく
 暑苦しいというか、どちらかと言えば……息苦しいと言った類のものによって、目覚めは半ば強制的に押し付けられた。

 朝まで目が醒めずにいたわりに、身体から疲れはほとんど抜けておらず
 喉は引っかかるような違和感を訴えかけ、頭がガンガンと鈍痛を響かせている。
 彼女が社会人であれば、今の自分の症状を飲み過ぎによる二日酔いと判断したかもしれない。

 目を擦ろうと上げたはずの手は全く動こうとせずに、ふにふにとした何かと布団の間に挟まれ動かせず
 逆の手をあげようとするも、此方も全く動こうとはせずに激痛を以って応えてきた。

 痛みで少し意識がはっきりとしたが、特に大騒ぎするほどではないなと、一人頷きあくびを一つ。
 そこでようやく視界いっぱいに広がる薄桃色が、はだけたシャツの隙間――と表現してしまうと、隙間に怒られそうな程、大きく開かれた
 率直にいってしまえば、羽織っただけでボタンひとつ留めていないシャツの間から覗く、しっとり汗ばんだ肌の色だと脳が理解する。

 緩やかでなだらかな曲線を描く胸元に、頭を抱え込まれるようにして押し付けられている現状に、安堵の吐息をもらす自分が不思議であった。
 欠伸のせいで大きく吸い込んだ空気に、いつもよりほんの少し強く感じる香りから、目の前の相手がチンクだと理解し。
 伝わってくる体温と抱きしめられた腕の強さに、相手が自分を護る対象として思っていてくれるのを、強く感じ取ったためなのかもしれない。

 しかし、眠っているからか頭を抱えて来る腕は、容赦なくぎゅうぎゅうと胸元に押し付けてくる。
 護られているのは嬉しいのだが、一度息苦しいと目覚めてしまったため、再び眠ることも出来ず。
 そーっとチンクが目を覚まさないように腕の中から抜け出し、代わりに枕を腕の中にそっと差し込んでから、悲鳴を上げる全身の痛みを他人事のように無視して、トコトコとごく普通に部屋を出て行く。

 取り敢えず、そーっと扉を閉めてから、動かそうとして激痛が走った方の腕を眺めると、ぶらんと力なく垂れ下がるばかりでやはり動こうとしない。
 試しに左手で叩いてみたところ、全身が震えるほど痛かったため、なるべく動かないように触らないようにと、慎重に歩いて階段を降りる。
 その際に漏れでた悲鳴が、自分の物ではなくまるで年寄りの魔女が出す悲鳴のようだったので、第一の目標として選んだのがキッチン。

 冷蔵庫の扉を片腕で引張り、中からジェリカンのような大きな容器を引っ張りだす。
 スクリューキャップをひねって開けた口に鼻を寄せ、目的のものだと確認すると直接口をつけて抱きかかえるようにして持ち上げ……当然支えられるはずもなくひっくり返す。

 慌てて強引に中身が溢れる中キャップを閉めて、何に対してか一人満足気に頷くと
 何を思いついたのか小さく目を見開き、満面の笑みを浮かべてジェリカンを冷蔵庫の前に引き摺り寄せ
 それを踏み台にして、上段の冷凍庫の取っ手に手をかけて引くも開かず。
 左手でしがみついてぶら下がり、冷蔵庫に両足をつけて仰け反るように力を込めると、なんとか冷凍庫の扉が開き、中から戦利品を取り出して、喜びの余り小さく飛び跳ねた足の下で、ジェリカンがあっさりと横に倒れた。

 当然ながら犯人は、全く警戒しないまま後ろ向きに放り出され、後転の要領で一回転し
 流しにぶつけた頭を左手で抱えて転がっている所で、不審な物音に様子を見に来たルーテシアとばっちりと目が合った。

 床にぶちまけられた、大量の牛乳
 塞がりかけた腕の傷から、肌を伝い流れ落ちる紅のすじ
 交じり合うそこに敷き詰められた様に、浮かび広がる大量の金糸の髪
 開きっぱなしの冷凍庫の扉と、頭を派手にぶつけても離さなかったカップのアイスクリーム。

 ルーテシアは頬が小さく痙攣し、絶対零度の視線を浴びせかけていたのだが
 そんなことに全く気づかず、今にもカップアイスの蓋を開けだしそうなインフィニティの様子に、ルーテシアは怒るを通り越して、年齢に似合わない深い溜息を付く。
 その一瞬の内に、黒い旋風がインフィニティの手からアイスを奪い冷凍庫の中にしまうと、開きっぱなしの扉が小さく音を立てて閉まった。

「牛乳まみれのままでいたら臭くなるでしょ……アイスはお風呂から出たら出してあげる。
 こんな馬鹿なことお願いしたくないのだけど、後片付けしてもらっても良い、ガリュー?」

 黒い旋風の正体
 二対四眼を備えた長身の人型召喚獣は、静かに頷いて床に転がったままのインフィニティを引っ張り起こして立たせると、いつの間にか手に持っていたタオルで、牛乳に浸かっていた金髪をざっと拭い、軽く背を押してルーテシアの方へとインフィニティの身体を押し出す。
 嬉々としてやっているわけではないが、機械的に対応しているわけでもない。
 どちらかと言えば手のかかる子供を相手にした保護者のように、仕出かしたことの後始末はするが、怒っても解らないししょうがない、と諦めたような対応。

 召喚の契約を行なっているガリューは、もちろん召喚主たるルーテシアを主として命に従うが、一個の人格を持った生命体である。
 嫌なこともあれば、苦手なものもあるし、プライドだって勿論ある。
 主の護衛として呼ばれたというのに、結局やるのはキッチンの掃除では……
 如何に主従関係とはいえ、ルーテシアも命令として強制するのは心情的に出来ない為、申し訳なさそうに『お願い』をするしか無い。

 そもルーテシアは召喚師であるが、基本的に召喚した対象に高圧的に命じて何かをやらせるという行為自体、殆どしたことがない。
 相手をに力を貸してもらって助けてもらっている、というあくまで自分を下に置くような対応をするのだから、こんな雑事を本来は頼みたくはないのだ。
 それも、いかにも戦闘力の高いガリューにとなると、彼のプライドを慮って涙が出そうなほど申し訳ない。

 しかし、それは頼まれる側にも十分伝わっており。
 『インフィニティをお風呂に入れてきて』と『キッチンの掃除をお願い』というどちらが、少しでも失礼ではないかという二択を悩んだ末、掃除を頼んできたルーテシアの苦悩が解っているため
 ルーテシアに向けられたガリューの視線は、慰めるような優しさに溢れていた。

 ☆ ☆ ☆

 わしゃわしゃと目の前に有る金髪を容赦なく泡だらけにしながら、ルーテシアはインフィニティの身体をじっと見つめていた……と言っても、息を荒げていたり頬を染めていたりするわけではない。

 赤や青に染まったカラフルな肌はだいぶ肌色が領地を取り戻し。
 黒く焦げ付いていた――、火傷を通り越して一部炭化していた跡も、醜く腫れ上がっていた足もすっかり治っているのを、改めてインフィニティの一糸纏わぬ姿で見せつけられたのだ。
 
 だが、痩せすぎて肋が浮いている身体や
 注射を打ち過ぎて皮膚が硬化し別の場所へ、と延々繰り返された両腕の内側
 同じ場所に無針注射を打たれすぎて薬液の色素が定着してしまった首筋などは、出会った頃から全く変わることがなく、もっと長期での改善を祈る以外の手がない。

 幸いといっていいのか、インフィニティ自身は自分の外見に全く頓着しておらず。
 ひよこ色の髪も、今日に至るまで一度として自分で洗ったことがないという、女の子としては甚だ不名誉な記録を樹立し、未だ更新中の日々である。

 ちゃんとしていれば可愛いのに……

 目を閉じるように声を掛けて、ぬるめのシャワーで泡を洗い流しながら、ルーテシアは溜息をそっともらした。
 ルーテシアはその無表情と平淡な口調に、インフィニティと同じく自らの外見に頓着しない様に思われがちだが、同年代の子供と比べてもかなりな美的感覚の持ち主であり、ガリューを含めても四人以外見かけないこの生活でも、印象とは真逆にちゃんと自分が納得するお洒落を心がけている。

 ガリューはと言えば、言葉を話すことがないため本人に確認しようがないが、一見黒尽くめで戦闘機能に全てを傾けた様なフォルムに、落ち着いた佇まいであるのに、その首元にはワンポイントで赤いマフラーが巻かれており
 一種独特ながらも、美意識が無いわけではない事と同時に、それが高いことも示している。

 残るはチンクだが、彼女は信じられないことだが、普段着はいつも同じ姿であった。

 何が信じられないかといえば、『同じ服』をいつも着ているのではなく、『同じデザインの服』を何着も持っていて、それだけを着ているという事実がだ。
 インフィニティの様に髪を洗わないだとか言うレベルではないものの、服装を変えて楽しむとか、気分を変えるという女性特有の意識を真っ向否定。
 それでいてきちんとした服装を隙なく着ている上に、その服装がチンクのキッチリした性格によく似合っている為に、誰も正面から反対意見を言えないという点が問題でも有る。

 流石に訓練時は動きやすさ優先で、カーゴパンツにTシャツ姿ではあるが……何あろう、先程インフィニティの目の前に展開された光景で、チンクが羽織っていたシャツは、普段通りのYシャツであった。
 ただ、たしかに美人ではあるし、背筋の伸びた姿勢に身に纏う雰囲気はその服装と合っているのだが、インフィニティやルーテシアと二つ三つ程度しか違わないように見える外見で、きっちりしすぎた服装は就労年齢の低いミッドチルダであれば、一種溶けこむ迷彩としての機能を求めてなのかもしれない。

「ルーティ、まだ目開けちゃダメ?」

「まだダメ、髪長いんだからもう少しかかる」

 いつの間にか思考が頭の中で渦を巻き、遠心分離された結果
 『可愛い』だけがぐるぐると頭を巡っていたルーテシアは、不意に話しかけられ顔が紅いまま、誤魔化しになっていない誤魔化しを口にする。
 そっかーと、そこに別段疑問も反論も挟まず、インフィニティはあっさり誤魔化され。
 髪の先を洗い流すのに、目を瞑っている必要もないのに、素直に言われた通りぎゅっと目をつぶり直した。

 インフは不思議だ……大体が素直に言われたことを守るのに、時に頑なに自分の意見を曲げない。

 魔法の練習もそうだし、最初に会った時の約束もそうだ。

 どっちも普通に考えれば無理だとすぐにわかる。
 『魔力がないから魔法が使えない』『心がないから笑えない』
 誰だって理解できる。

 そこには『でも』も『それじゃあ』も入らない、『仕方がない』としか答えがないのは、子供だってわかる。
 でも、インフはそこで『仕方がない』で立ち止まらない、嫌だと駄々をこねるわけでもなくて
 全然別の答えをどこかから持ってきて、あっさり手渡してくるのだ。

「目、もう開けて平気」

 シャワーを止めて、ふんわり良い香りが漂うインフィニティの髪にタオルを掛け、上から抑えるように水気を吸わせると、手早く髪を纏めあげて風呂場から押し出す。
 本当はそのまま風呂に入れればよかったのだが、こんな早朝からお湯を張っているはずもなく。
 昨晩は昨晩で、そんなことにまで気を回せるような状態ではなかった。
 なにより牛乳を洗い落とすという目的が、時が経てば立つほど匂いが強くなる為、のんびり浴槽に湯が張られるのを待っているわけにも行かなかったのだ。

「バインドで拘束されてるのに暴れたから、またこんな風になってる」

 チェーンで絡め取られた手首と足首、リングで力が入らないよう纏めて縛り付けられた上腕や太腿
 半ば意識がなかったとはいえ、そんな状態でリミッターが外れた力で暴れた結果、赤や青の打ち身や打撲跡の上を、赤黒い帯状の内出血の跡がはしっていた。
 その上を、ルーテシアが白い指先で触れるか触れないかという微かな接触でなぞっていくのを、インフィニティはくすぐったさに身をよじって避ける。

「まだ続けるの?」

 何をと言わないのは、ルーテシアの優しさか、弱さか。
 バインドで拘束されてしまえば手も足も出ないのに、全ての努力がたった一つの魔法でなかったコトにされるのに。

「続けるよ!だって最強の魔導師だって証明するんだから
 練習いっぱいして強くなって、廃棄処分にだってされない!」

 インフィニティが何気なく口にした言葉に、ルーテシアの顔から血の気が引く。

 廃棄処分、まるで当たり前のように口から出てきた言葉を、恐ろしいと感じるよりも悲しかった。
 インフィニティはルーテシアにより名前をもらって、実験体から人間になったのだと思っていたのが、それがただの自分の楽観で
 インフィニティのいる世界と、ルーテシアの住む世界は、実はまだまだ遠いのだと見せつけられて。

 生まれてからこれまで、インフィニティはそんな世界の中で、そうして生きてきた。
 彼女を取り巻く世界――、研究所という狭い世界では、それは当たり前
 いや、それ以外がなかったのだから、インフィニティがそれ以外の価値観や、行動理念で動けるはずもなかった。

 ドクターも言っていたではないか、管理する者達は失敗作を切り捨てると

 インフが今まで生きてきたのは、比喩でもなんでもなく言葉通りに

 失敗したら切り捨てられて、処分される場所だった……ということ。

 そこでルーテシアははたと気付き、インフィニティを後ろから強く抱きしめ、湿った髪に顔を埋める。

「わっ、ルーティ何?ぬれちゃうよ?」

 驚きはすれどもルーテシアの腕を振りほどこうとはせず、もそもそと身を捩るインフィニティの身体を、一層力を込めて腕の中に閉じ込めるルーテシアは、耳まで真っ赤に染まっていた。



 軽く聞き流していた言葉が、どれ程重いのかを、今ようやく悟ったのだ。



 自分以外は全て生存競争の相手だと認識している筈のインフィニティが

 最初に会った時に告げた『何かしてあげたいと思った』の意味と、あり得なさを。

「バカ、もうインフを廃棄処分する人なんか居ない。
 ここは研究所なんかじゃなくて、私たちの家だもの」

 髪に顔を埋めたまま、ぶっきらぼうとも取れる口調で言い返すルーテシアに、何やら悩んだ顔をしていたインフィニティだったが、考えがまとまったのか
 小さく、うん決めた、とつぶやいて、ふんわりと笑みを浮かべる。

「練習止めないよ、ルーティとちー姉を守ってあげる。
 その為に、今よりもっと強くならないとね」

 天と地ほども実力差の有る二人を護る。
 ともすれば失笑や嘲笑を返されても、何らおかしくはない宣言であった。
 だが、不思議と嗤うものはおらず、床にへたり込んだルーテシアが、赤い顔を逸らしながら

「それじゃ練習、手伝ってあげる」

 そう言って、両手を伸ばし

「だから、まずリビングまでおぶって行って」

 言われて直ぐに、うんわかったー、と返事をするなり
 バスタオルを巻いただけの姿で、右腕がぶらぶらなのも気にせず
 しゃがんで素直に背を向けるインフィニティを

 ルーテシアは、背中から力一杯抱きしめた。

 2013.08.06
 


☆☆☆☆☆

お盆休みも終わり、久々にたくさん更新出来たのもどうやらここまでのようです。
目にとめていただけた、どなたか一人でも楽しんでくれたなら、嬉しい限り。

2013.08.19


   

~ Comment ~

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このコメントは管理人のみ閲覧できます

Re: 鍵付きコメントさん 

コメントに感謝を。

楽しんでいただけたのでしたら嬉しい限りです。

一応、私的には『天使とダンス』は、ほのぼの系のつもりでかいているのですが。
読んでくださった方がどんな風に読んで、楽しんでくれるかというのも、書き手としては楽しみな所

リリなのSSというカテゴリーであるのに、なのはさんの出番が何時になるのか、かいている私にもさっぱりです。
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