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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第四十七幕「愚か者の選択」

 
「実際、見事なフェザーズ・フライだったよ」

 芝生に寝転び空を見上げながら、穏やかな声で静馬は呟く。
 吹き抜けていく草原の風に、静馬の耳元で小さく布のはためく音が聞こえる。
 
「それはどーも、先輩こっち向いたらグーで叩きますからね」

 じとっとした、完全に犯罪者か変質者を見るような目つきで睨みつけながら
 何処か不機嫌そうな声のフィオナがわずかに身動ぎすると、小さな金属音が鳴る。
 試合が終わり、子猫の恐怖から平静さを取り戻したにもかかわらず

 フィオナは未だ鎧を着たまま、芝生の上に座っていた。



 あの後、恐慌状態の一歩手前に有った彼女の翼を、まずは最悪の事態になっても誰も巻き込まないようにと、何もない草原へと走らせ
 予定通り最低限第三者の安全を確保した静馬は、普段の会話のようにのらりくらりと巧みな手綱さばきで、暴れようとする動きの機先を制し続け
 一度も暴れさせること無く、怯えきっていた馬の精神を落ち着かせてのけ・・・大げさではない、安堵の息を深く吐き出す。

 それがどれ程に集中が必要で、細心の注意を払って尚難しかったのかは
 普段通りの、飄々と何事もたなびく風の侭に揺れるような、静馬の緩い表情から測れない
 だがその額に、玉の汗が浮かんでいることまでは、流石に隠しようがなかった。
 でありながらも、まるでなんでもない事であるかのように、その顔からはいつも通りの余裕のある表情を消さずにいるのは、きっとそういうことなのだろう。

 馬鹿っ、格好つけ・・・でも、やっぱりこういう所は、ちゃんと騎士だこの人

 こういう時、普段は見せない真剣な表情なんて、絶対にしたりしないんだ、この先輩は

 私を・・・自分より年下の女の子を、怖がらせないために

 フィオナの後に飛び乗った時と同じく、どうにも慣れた軽い身ごなしで手綱から手を離して馬から飛び降りると、フィオナの名を呼びそっと手を差し伸べる。
 いつも通りの、全く似合わない気障ったらしい仕草で

 スィーリア先輩がファンだって言ってた『在り方』って、多分こういう事なんだ

 内心で一人納得したフィオナがその手を取り、上半身を抱きつくように預けると、今度は試合前とは違いすぐにその足は地におろしてもらえた。

「流石にいい陽気で、試合も無事に終わったのだし
 鎧は脱いでしまわないと少々暑いのではないかな?」

 言われて、たしかにそうだと静馬の言葉に従いかけたフィオナだが、はたと気づく・・・
 一体脱いだ鎧はどうやって運ぶのだろうか?と、当然だが鎧は服とは違い折畳む事など出来ない。
 腕は腕の太さで、胴は胴の太さのまま、それを運ぶことになる。
 それに対する静馬の答えは至極単純で

「もちろん私が抱えて帰る、鎧を抱えながら馬に乗れるほど君は器用なのかい?」

 物理的には至極まっとうで、実に合理的な答えであった。
 だが、乙女心的にはその提案は、正解の対極に位置していた。

 自分の汗の臭がする鎧を、異性に抱えて運ばれる・・・
 考えただけでも顔から火が出そうなことを、フィオナが承認などするはずもなく。
 ましてやそれをする異性が、静馬というフィオナからすれば最悪の相手

 自分の変態性を恥じること無く、胸を張る変態に自分の汗の匂いを嗅がれるなどと考えると怖気が走り、先程までの静馬の評価など何処か彼方へ消え失せる。
 何時もの如く散々罵詈雑言を並べ立てられた後、ガントレットとヘルムは流石に外したものの、他はそのままに芝生にぺたんと腰を下ろした。
 男としての静馬は、相変わらずフィオナの中では最低最悪の存在として、確固たる地位を築きあげ
 すでにそれは、容易くは崩し得ない堅牢な要塞とまでなっていた。



「・・・なんで、ベルティーユ先輩の側に行くって言わなかったんですか先輩は」

 ポツリと溢れるような呟きは、非難とも違う何処か悲しげな響きが滲む。
 なんだ、あんな状態でも聞こえていたのか、と寝転ばったまま器用に肩をすくめる静馬

「あんな大声で叫んでたら当然でしょ、馬鹿にしてるんですか?」

 視線を真上から更に頭上に傾けて、静馬がフィオナの目を真っ直ぐに見つめ片目をつぶってみせる。

「素晴らしい、正しく以心伝心というやつだねフィオナ。
 私が言いたいことをそのまま君が言葉にしてくれた」

 こっち見ないでっ!と、小さな握りこぶしで額を小突かれて静馬が空へと視線を戻す。
 叩かれた所は物理的にはほとんど痛くはない、何しろ寝っ転ばって居る静馬の頭の下は固い地面ではなく、しっとりと汗をかいた柔らかな乙女の太腿なのだから。

「そうやって押し付けて、私を虜にするつもりなら無駄なことだ。
 愛らしい乙女が、恥じらいながらしてくれる膝枕の虜にならない男など居ないのだから
 今更押し付けて、その柔らかさを教えてくれるまでもない」

 したり顔で言う静馬に、一瞬で真っ赤な顔をしたフィオナが振り上げた拳は、今にも振り下ろさんばかりに握りしめ過ぎて震えるが
 それを振り下ろしてしまえば、自分の太腿に静馬を押し付けているのだと言われてしまった今、まるで自分が押し付けたいと言っているかのようにとられるために、意志の力でゆっくりと握り拳を身体の脇に下ろす。

「馬鹿、変態、スケベ、卑怯者」

 ご尤もだね、と羞恥心から並べ立てられた、いつものフィオナとは比べ物にならないほどに弱々しい罵倒に頷いて肯定しつつ
 しかし、フィオナの太腿に頭を預けて寝転ばったまま、静馬は人差し指を顔の前に立て、ゆっくりそれを振り
 片目をつぶって、そっぽを向きながらもこちらを盗み見るフィオナの碧の瞳を真っ直ぐに捉える。

「だが、君ほど馬鹿ではない。
 これは言わなかったが、私は以前スィーリア嬢と勝負をしてね
 つい先程証明されたのだが、勝負は私の勝ちだった」

 流石に恥ずかしさに耳まで赤くなっているフィオナにも、そこまで言われればその勝負が自分に関わる内容、それもジョストの事であるのはわかる。
 自分のジョストに関する事で、スィーリアと静馬が勝負をしたことを、心の何処かで嬉しいと感じ
 その上で静馬が勝ったことを、何処か当然とも受け止めていた。

 何しろ、フィオナがこうして黙って静馬に膝枕していることこそが、静馬がフィオナに仕掛けた勝負の報酬なのだから。

「それで、どんな内容だったんですその賭け。
 まさかそこまで言っておいて、内容は話せないなんて言わないでしょうね?」

「君が、誇り高い騎士なのか、それとも卑しいドラゴンなのか」

 指を立てながら説明する静馬に、フィオナが息を呑むと
 そっぽを向けていた顔に、真剣な表情を浮かべてまっすぐに静馬を見下ろし、小さく喉を鳴らす。
 唇が戦慄くのを隠すことも出来ず、フィオナの視線は、静馬の黒曜石のように深い色合いの瞳を真直ぐに射抜き続け
 先程までの軽口の言い合いをしていた空気を、一瞬で周りから追い散らして退けた。

 聞きたい

 だが聞いてしまえば、後戻りはできない。

 それが、酷く怖い・・・

 自分の心が弱気に流れるのを、歯を食いしばって耐え。
 目を逸らすことも自分に許さず、睨みつけるような強い瞳で
 ゆっくりと、噛み締めるように、フィオナの唇が言葉を紡ぎだす。

「どっち、なんですか」

 静馬はフィオナの真剣な様とは対照的に、普段通りのまま軽く肩をすくめ
 それを私に聞くのかい?と、言葉にせず表情だけで問い返す。

 静馬にしてみれば先程から・・・いや、今まで一緒にいた間中もずっと答えを言い続けて来たことだ。
 何より、たった今逃げずに自分に答えを求めたフィオナの態度こそが、そのまま答えでもある

 それでも尚、フィオナがそう言ってくるのは

 フィオナの強気な態度は、実は自分に自信がない現れであると言う事であり
 騎士としての静馬の言葉に対する絶大といえるほどの信頼の現れであり
 その上で、自分が望む答えを・・・静馬が口にしてくれるのではないかという、ほんの僅かな甘えで。

 フィオナは意識しては居ないが、無意識での救済の叫び

「わかった、言葉にして欲しいと言うのなら、ちゃんと答えよう。
 君はどうしようもなく愚かな選択をした誇り高い騎士で、我が愛すべき勝利の女神だ。
 そのことについて、誰のどんな意見も私は受け入れない。
 相手がたとえ騎士であっても、ベグライターであっても・・・この国の王であったとしても」

 静馬の頬で、温かい雫が弾け散り。
 
 小さな手で頭を押さえ付けられる。

「やっぱり先輩は・・・騙されてくれない・・・ですか。
 水野先輩だって、ベルティーユ先輩達だって、周りの誰だって!
 私のことを、リサを利用して踏み台にした、酷いやつだって思ってる。
 先輩がそう思ってくれれば、それで離れていってくれれば・・・
 私はそういう酷い奴になれた!そのままドラゴンになれたのにっ!
 これじゃ・・・スィーリア先輩に、勝てないじゃない・・・」

 少女の悲痛な叫びは、たった一人目の前にいる男にしか届かず

 しかしそれで充分だった。

 両の手で顔を覆いながら泣き伏すフィオナに、静馬は下から手を伸ばし
 短く切りそろえられた柔らかな金髪を、労るように、謝るように優しく撫で付ける。

「それは違うよフィオナ。
 君は自分が思っているほどドラゴンになんて成りたくはないんだ。
 フィオナは、リサの事をただの敵とは思いたくないし
 ベルティーユ嬢の在り方を美しいと感じ、自分もそうなりたいと思っているし
 スィーリア嬢のことも、もっと知りたいと思っている。
 ドラゴンに成るには、フィオナは優しすぎる」

「それでもっ、私は勝ちたい!
 他の何を代償にしても、戦うからには勝ちたいっ
 私は強いんだって、独りでも大丈夫なんだって、ちゃんと証明したいんです」

 血を吐くような、魂を削るようなフィオナの告白に、静馬はゆっくりと大きく息をつき・・・



 それも、違うんだフィオナ、首を振りながら静かにそう告げた。



 両の手を顔に当てながら、フィオナは否定するように顔を振る。
 だが言葉はそこに無く、それはまるで小さな子供が、見たくはない現実を前に
 目を閉じて拒絶する様そのもの。

「皆が目先のことや、感情に支配されて理性的な判断が出来ないでいるが・・・
 本当にフィオナが勝利だけを望んでいるのなら、リサを泥に叩き落とすのは今ではない
 私がその立場なら間違い無く、立ち直れる時間のない大会予選でする
 だが、君はそれが解らない程に愚かではなく、そう出来るほど残酷ではない」

 それをしてしまえば、リサは大会の予選すら突破できず
 今より尚深く傷つき、心の拠り所を何もかも失って、ジョストを捨ててしまうかもしれないが
 勝利だけを望むドラゴンであるのなら、リサの将来など気にかけはしない。
 そこでリサを気にかけてしまうフィオナは、ドラゴン足り得ない。

 いや、そうではない。
 そうではないのだ、真実はそんな物ではない
 静馬は優しい目をフィオナに向けながら、篠突く雨のような微笑みを浮かべる。

「今日ここでリサを叩き潰した意味は・・・
 自分がドラゴンになるために友達を切り捨てたのではなく、リサの将来を案じた訳でもない
 何故なら、君はリサが大会までに復活すると信じているのだから。
 だから謹慎あけ直後の今日、リサに『相手の騎士も槍を持っている』ということを刻み込んだ」

 どうしようもなく愚かな選択だ

 この上なく誇り高き決断だ

 比ぶべきもの無き程に堅固な意地だ

「君はリサを天才『騎士』に引き上げ、スィーリア嬢に勝てる可能性を与え
 その上で二人を倒そうと、誰にもその誇り高さを知られない無謀な戦いを、自ら望んで目の前に据えた
 負ければ『所詮は』と嘲笑され、勝っても『薄汚い』と蔑まれる
 君ほどの馬鹿は居ない、流石の私とて足元にも及ばない」

 呆れ、嘲り、貶める。
 およそこれ以上はないほどの罵詈雑言の塊とも取れる静馬の言葉に、フィオナの顔を覆っていた両手が離れ
 そこに有るのは、情けない子供のような泣き顔ではなく
 いつもの見慣れた、泣き虫だが勝気で負けん気の強い、覚悟を決めたエメラルドの瞳。

 フィオナは得てしまった、理解者を

 自分がどれだけ馬鹿な選択をしたのか
 何を思ってそれを成したのか
 何もかもを全て理解したその上で、尚自分のことを騎士だと認めてくれる相手を

 ならば騎士である彼女はどうするのか?

「失礼なこと、言わないでください。
 私、負けませんから・・・
 ドラゴンじゃなきゃ最強の騎士に勝てないなら、そのドラゴンを倒せる騎士になって
 二人を倒して、静馬先輩が馬鹿世界一だって証明して見せます」

 そう、フィオナの出した答えはそれだ

 泣いている子供はそこには居ない。
 自らは騎士であると認めてくれた相手を前に
 槍を持ち戦う事を・・・戦い勝利することを、胸を張って宣言した
 
 そんなフィオナを前に、底抜けに明るい笑い声が静馬の口を突いてでる
 それはこの上なく楽しげで、馬鹿にしたところが欠片もなく、何より嬉しそうで
 


「やはり君は短気で口が悪いのがチャームポイントの・・・私の勝利の女神だ」

 2013.06.18


   

~ Comment ~

更新御疲れ様です 

んん・・・静馬が羨ましい・・・
フィオナの膝枕だと!?
なんとも羨ましい状態に・・・

自分を高みに登らせる困難を馬鹿というのか
ただの平坦な道を捨てたことを馬鹿というのか

叶えれるられないは別として、気高く在ってほしいですね~

改めて、更新御疲れ様です

Re: NoNameさん 

コメントに感謝を。

四十五幕の賭けの『勝ったほうのいうことを一つ聞く』が今回の膝枕というわけで
フィオナは賭けを持ちかけた時には卑怯者と罵りつつも、約束を反故にはしなかった
というのが前半のほのぼぼ?部分

後半部分が三十八幕での静馬の言葉を聞いてから、フィオナがずっと考えていた
『自分がリサのために出来る事』の答で
フィオナがリサのことを大好き過ぎて困る、と静馬が呆れつつも
それでこそフィオナだ、と大笑いしているお話だったりします。

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