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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第四十六幕「揺らぐ心歪まぬココロ」

 
 吹き抜ける春風に金の髪を揺らし
 碧の瞳は前方の少女騎士を射貫く

 ここで試合を止めさせる訳にはいかない

 中途半端なこんなところで、放り出したり出来ない

 徹底的に叩いて、完膚無き迄に打ちのめして

 リサを敗北と屈辱の泥に、叩き落とす

 覚悟を決めた瞳は凪いだ湖のように静かで、何処までも澄み切っていながらも、深い色合いによって少女の心を見通させない。
 フィオナは槍を掴む手を一度二度と握りしめた。
 すっかり手に馴染んだその握りを確かめるように、握ったベルティーユの手との違いを確認するように。

 薄く開いた小さな唇の隙間からゆっくりと息吐き出し、同じだけゆっくりと息を吸い込む。
 わざと少し大きめに、音が聞こえるように。
 深く力をため、逸る気持ちを腹に呑み、次の瞬間にも瞬時に飛び出せるように・・・
 自分自身と彼女の翼に言い聞かせる。

 大丈夫、勝てるよ私達。

 だって、予行演習通りだったじゃない。

 口元にかすかに浮かぶ笑みは、意識してか無意識のものか、浮かべたフィオナにすらそれはわからない。
 それでも彼女の翼は、土を掻くこと無く頭をもたげ、静かに開始の合図を待つ。
 ここに静馬がいればこういったに違いない。

 臆病と言える程に優しい君の相棒も、勝ちを相手に譲るつもりはないようだよフィオナ、と

 2本目開始の合図とともに、フィオナは彼女の翼を解き放ち羽ばたかせる。
 風が耳元を駆け抜け、雑音も声援も全てを置き去りにして
 地を蹴って翔ぶ彼女の翼の躍動に、フィオナの顔に笑みが浮かぶ。

 ストレスで逃げ出してしまうほどに繊細で優しいフィオナの翼

 だが今、地を蹴る力強い四肢、その背から伝わる覚悟は・・・

 完全に、彼女のやりたい事を理解していた。
 
「勝てるじゃないよね・・・完膚なきまで叩き潰して、勝つ!」

 気合の声とともに凄まじいまでの集中力を発揮するフィオナ
 瞬間、彼女の翼が抑えていた足を開放する。
 急激な加速は瞬間的なものではなく、そのまま速度を上げ続け

 相対速度は跳ね上がり、二人の少女騎士の距離を一気に削りとる。

 チェンジ・オブ・ペース――そう呼ばれるテクニックであり、スタイルの一種
 速攻に分類されることも有るそれは、基本的に腕力の不足を補うためと誤解されがちだが
 それではチェンジの部分を説明しきれていない。

 急加速による予想外の接近に相手を驚かせるためとも違う
 徐々に縮まる距離により、槍の届く距離までの間に、集中と覚悟を決める時間
 無意識に『有る』と思っていた相手の時間を奪うことにより

 焦燥にかられる事を狙った心理の綱引きこそが、真髄

 しかし、仕掛けられたリサは、完全に驚愕で心のバランスを崩していた
 いつも自分が一方的に相手に仕掛け、押し付けていた自分の都合を
 たった今、鏡写しのように動くフィオナに、押し付けられたのだ

 そんなことが、起こるなどと思っても見なかった事態に、一瞬心が空白に染まり。
 『自分のスタイル』をフィオナが使ってきたことのショックで揺れていた精神は・・・
 更なる驚愕と時間を失った焦りにより、冷静さを完全に消し去り

 リサは完全なパニック状態へと突き落とされる。

 そんな隙を、集中し神経を研ぎ澄ましていたフィオナが、見逃すはずがない。

 可愛らしい、女の子らしい声ではなく、腹の底に力がこもった気合の掛け声とともに、フィオナの槍が大気を灼いて翔ける。
 それは迷いなく真直ぐに駆け抜け、ベルティーユと静馬は一瞬にしてその軌道を、狙いを見抜く
 フィオナの声に我に返ったように、歯をかみしめて繰り出されたリサの槍は・・・心という土台の安定のない槍に鋭さも疾さも乗るはずがない。

 交差は一瞬

 金属を打つ鋭く重い音の響きは何処にもなく

 フィオナの一撃により、純白の羽が一瞬舞い上がり、ゆっくりと見せ付けるように散っていく。

 完全な敗北、正しくフィオナは言葉通りに、リサを敗北と屈辱の泥にたたき落とした。

 一瞬の静寂の後に、割れんばかりに湧き上がる会場
 驚愕の叫びと、まくし立てる放送部の女性の甲高い声
 それら勝利の証言を背に受けながら、フィオナは口角を吊り上げる。

「私の勝ちだね、リサ」

 バイザーを跳ね上げ、槍先を降ろし、無言で試合は終わったのだと告げ
 馬首を廻らし立ち尽くすリサに掛けたフィオナの声は、優しく労るようにすら聞こえた。

「フィ、フィオナ・・・今のは・・・」

 何故、フィオナが自分の技を使ったのか・・・使えたのかという問いかけ?
 
 いやそうではない、リサが口にした言葉に、多分意味など無いのだ。
 混乱し、動転し、現実をまだ受け入れられない少女が漏らした、泣き声なのだから。
 リサは一瞬にして奪われたのだ、自己のスタイルを、勝利の方程式を、自身の依って立つ場所を

「驚いた?まぁ自分の技で負けたんだから当たり前か」

 小さく笑いながらそう返すフィオナの声は何処か楽しげで、普段の誂うような明るい口調。
 故に、満面の笑みを浮かべたフィオナの続く言葉は・・・
 氷すらもが凍えるほどにうそ寒く、リサの心を完全に凍りつかせる。



「あーあ、それにしても残念。
 もうリサと一緒にいる必要が、無くなっちゃった」



 リサにだけ聴かせる声ではない、ごく普通のいつも通りの会話
 故に予想外の勝敗に、騒がしいほどに沸く観客席にまでは届かない
 だが、リサとフィオナの二人を見守っていた者達には、はっきりと届く程には大きい。

 言葉の意味は、誤解の挟み様が無い程、明白

 眉をひそめるベルティーユの横を、凄い剣幕で通りすぎ
 フィオナに怒鳴りかかろうとするアンとエマ
 その目の前に、静馬の腕が真っ直ぐに伸び、その行く手を阻む。

「ちょっとどきなさいよ山県静馬っ、あんの小娘の言葉が聞こえたんでしょ!」

「あの子は今、リサを利用するために近づいたと自白したんですよ
 正直見損ないました、彼女も・・・彼女を庇う貴方にも」

 エマの蔑むような、悔しそうな表情に静馬が片眉を上げる。

「それは嬉しい誤算だね、エマの私に対する評価は底の底ではなく
 まだ『見損なってもらえる』程には高い評価だったとは」

 二人の怒りの矛先を自分に向けさせながらも、それを飄々と受け流す
 しかし、『人を騙して利用した』という事に対する嫌悪感は、感情を容易に支配し
 静馬の飄々とした普段通りの態度も、不真面目な対応としか受け取られない為
 鎮火させるどころか、逆に火に油を注ぐだけという結果しかうまない。

「さすがに今回は弁解の余地はないわよ山県静馬。
 それでもあの子を庇おうって言うのなら・・・」

 決定打となる言葉をアンは口にしなかった。
 してしまえばそこで関係は固定化すると言う事は、態々口にするまでもなく双方が理解している。
 逆説的に、この期に及んでまだフィオナを庇おうとした静馬の行為を、アンは、今ならまだ流してもいいと言っているのだ。

「で、どうするんですか?」

 対照的に容赦なく結論を促すエマの言葉。
 言っている内容自体は、事実を前に静馬に迫っているアンと同じだが
 それは、答えを出さずに今まで通りなあなあで済ますことは出来ないという宣言であり。
 眼鏡の奥の怜悧な瞳は、つまりはこう問うているのだ

 もうフィオナとは共に過ごすことは出来ない

 此方とあちら、貴方はどちらに属するのだ、と。

 静馬が深い溜息をつきながら弱々しい笑みを浮かべ、ベルティーユの方に顔を向ける。
 アンとエマは、静馬が答えを出せばどちらをとったとしても、何も言わず納得するだろう。
 問いかけを以って、相手に答えを強く迫った以上、そこを曲げはすまい。

 しかし、ベルティーユ本人は特にフィオナの行動になにか言うでなく
 静馬の行為にもまた、なにか不満を口にした訳でもない。
 であるのにアンとエマの二人は、静馬の答え次第でベルティーユと静馬の関係を決定しようとするだろう。

「貴女はそれでいいのかな、我が麗しのベルティーユ嬢」

「そんな事、良い訳がありません、私の友人は・・・」

 ベルティーユの返事をかき消すように突然響いたのは
 獣の威嚇する声と、先程までとは打って変わって弱々しいフィオナの怯えた声。

「やだ・・・こっち来ないで・・・ひゃぁ!」

 弾かれたように振り向いた視線の先には・・・

 リサを庇うようにフィオナの前に立ち、全身の毛を逆立て威嚇する何時かの子猫。
 ごく普通に考えれば、静馬が頭の上に載せていられたほどの小さな子猫なのだから、騎乗中のフィオナには近寄ることすら出来ない。
 どんなに子猫が頑張って跳び上がっても、鐙に掛けた鎧の足先にも届かないだろう

 だというのにフィオナの怯えは本物で
 顔面は蒼白になり、とてもそんな冷静に物事を見ることの出来る状態にあるとは思えない。
 先程上げた声からもわかるが、普段の誂うよな調子ではなく
 顔を見ずとも、既に半泣きになっているのが如実に伝わってくる。 

 そう、悪い事にフィオナは未だ騎乗したままで・・・

 フィオナの怯えは、繊細で臆病な頭の良い、彼女の馬に伝わる。

 そして、怖いものを知らぬ子猫は、延々と威嚇の声を上げ続け

 パニックにまで陥ったフィオナに感化され、馬が暴れる寸前
 まさに間一髪のタイミングで、フィオナが跨っている鞍の後に飛び乗った静馬が
 涙目で顔をひきつらせ恐怖に固まっているフィオナの手から手綱を取り上げる。

 ロデオの如く前脚を持ち上げかけていた馬を、片腕一本での巧みな手綱さばきで宥め
 それでも右腕で落馬しないよう抱きとめていたフィオナが、パニックから落ち着きを取り戻しそうにないと見るや
 
「申し訳ないが、怯えた女性を放って置くわけには行かないのでね
 この場から連れ去らせていただく」

 妙に板についているのに全く似合わない、片目をつぶる仕草をリサとその周りの人物に向け
 相手の反論を聞くまもなく、踵で軽く馬の腹を挟むように蹴り・・・
 突然のことに周りの人間が我に返った頃には、その姿は既に視界の何処にも見つからなかった。

 2013.05.09


   

~ Comment ~

NoTitle 

まさかのお早い更新御疲れ様です!

基本は勝負の決着回と見ることもできますが・・・
フィオナは友人と離れる、静馬はベルティーユと離される状況なのかな?
静馬は飄々と会いに来そうですがw

約三人、周りの人とは違う感想を出しそうで楽しみですw

追記
 チェンジ・オブ・ペース――そう呼ばれるテクニックであり、スタイルの一種
 速攻に分類されることも有るそれは、基本的に腕力の不測を補うためと誤解されがちだが
 それではチェンジの部分を説明しきれていない。

の「腕力の不測」が「腕力の不足」ではないかと

またの更新楽しみにしてます!

Re: NoNameさん 

コメントに感謝を。

ご指摘箇所、訂正いたしました。

とりあえずはフィオナVSリサの決着というお話です。
静馬の予想通り、フィオナは弱ったリサを見逃さず、容赦なく徹底的にたたきにいって
予定通り、本当に叩いたうえで、精神的な追い打ちまで掛けてしまいました。

静馬は静馬で、良い訳の余地があるものの、アン&エマの言葉の直後に
フィオナをチビ猫から庇うようにその場を離れ・・・間違いなく二人にとってはそう判断されたと思います。
それによってどういった方向にお話が進んでいくのかは、妄想の翼をひろげて楽しんでいただけたら
書き手としては嬉しい限りです。
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