FC2ブログ

歪んだパズルのつなげ方

スポンサー広告

スポンサーサイト

 
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第四十五幕「天才と変態と意地を張る少女」

 
 窓から青空を見上げ、そこを行く白い雲の流れを何もせず眺めている。
 その日のフィオナは何時に無く上機嫌で、何処か浮かれているよう見えた。
 黙って背後に立つ静馬は声を掛けること無く、その背中を静かに見守っている。

 それは余りに小さく細く、触れるだけでも折れてしまいそうなほど華奢で
 声を掛けた瞬間に淡く消えてしまうのではないかと不安になるほど儚げで
 背後に居る自分の存在に気づいていながら、一瞬を切り取った写真の様に動かなかった。

 どれほどの時間を、二人が互いを意識しながらも無言で過ごしたか
 不意に可憐な唇から細い吐息を漏らし
 照らす真昼の日差しに金糸の髪を綺羅綺羅と輝かせながら振り向いた少女は、静馬に小さく微笑みかけ

 桜色の唇が言葉を紡ぎだす。

「静馬先輩、今日の試合見に来てください」

 言葉の後もフィオナは微笑んだまま静馬を見つめ
 必ずですよ、と僅かにトーンの落ちた声で念を押す。

 今まで一度としてなかった
 試合を見に来て欲しいなどと静馬に願う事も
 話があるからと静馬を呼び出すことも
 静馬に向かい、ずっと微笑みかけるなどということも

 今朝方フィオナが半ば無理矢理に、練習試合を相手に承認させたことを静馬は知らない。
 当然のことながら、その場でフィオナと貴弘が殴り合いでも始めそうなほど険悪な
 互いが互いを憎悪しあう視線と言葉で切り結んだなどということも、知りようがない。
 そして今の今まで、フィオナが今日試合をする事を知らなかった静馬には、彼女が誰と戦うのかなどという情報を、持っているはずもない。

「わかった、君が彼女を泥に沈める様を、必ずこの目で見ると誓おう」

 どこか諦めたような、木洩れ陽の如き笑みを浮かべ静馬はそれに頷き返す。
 解ったのだ・・・態々自分を呼び出して、試合を見に来いと言われたことで
 前回の騒ぎからようやく相手の謹慎が解かれ・・・

 フィオナは今日、リサと戦うのだと。

 * * *

 すっかり見慣れた鎧姿のフィオナは、うっすらと汗を肌に浮かばせ
 大きく息を吐きだして槍を立て、胸を張った凛とした姿勢のままに
 静馬がゆっくり歩み寄ってくるのを、見つめていた。

「約束、ちゃんと守って来てくれたって事は
 この場で『静馬先輩にだけ予想外じゃない』結果に成る、と思っていてくれるんですね」

 意地悪気に唇の端を吊り上げて笑うフィオナ。
 それが緊張感から来ている軽口であることは、双方ともに理解しているが
 どちらもその事には触れない。

 これから相手にするのは天才少女騎士だ

 周りの皆がリサをそう評し、フィオナもそう信じている。
 静馬にいたっては、その天稟はスィーリアに勝るとも劣らない、才能の塊みたいな子だとまで言い
 長年ジョストに携わり、多くの騎士を見てきたジェイムスをして、十年に一人の天才と言わしめる。

 誰もが無名の、『リサのコピーでしかない』フィオナが、手も足も出ずに負ける。
 『コピーは所詮、オリジナルには勝てない』と言う、エマが告げ静馬が否定した考えのもとに、リサの前に立つフィオナを見ている。
 いや、あんなのはどうせ『試合の勘を取り戻すための噛ませ犬』だと、フィオナ本人を見ようともせず、貶める。

 大衆などという、世間の風潮に価値基準を置く人達は・・・まぁそんなものだろう

 それこそが、自分が人目につかぬよう早朝独りで練習して来た理由であり、期待通りの反応

 フィオナの意地悪な笑みは、そういった意味であり・・・
 絶対負けられないと言う、断崖絶壁の淵へ自分を追い込む所業
 即ち、そこまで研ぎ澄まさねば、リサという天才少女騎士に自分は勝てないという冷静な現状認識と
 
 それでも、自分が勝つという決意と覚悟の表れ

 故に、静馬はそれを流さない
 聞こえなかった事にも、軽口にも逃げず
 ただただ、己を視線でもって捉える少女を見つめ、小さくはない溜息を一つ。

「本来の実力であれば、リサの勝ちは揺るがない・・・誰もがそう思っているはずだよ
 リサの事を気にかけるあまり、あの水野ですらもだ・・・実に愚かなことにね。
 彼はベグライターでありながら、ベグライターの存在意義を己で否定してしまった
 その『本来の実力』を出させるのが、ベグライターのいる意味であるのに」

 一度軽く肩をすくめる様にして、静馬が手を差し出すと
 フィオナが邪気の抜けた笑みを返し、馬上からその手をとる
 別段力を入れた風もなく、ごく自然な動きで鎧姿のフィオナを抱き上げ
 その耳元に掠めるように、そっと囁く

「心が揺らぎ、本来の実力が出せない今だからこそ、フィオナが仕掛けたのだと言う事に気づきもせずに」

 ゾクリとフィオナの背筋が震える。

 やっぱり静馬先輩は解っていた、いや解っているのも当然だ
 だって散々私に『たった一年の差でしかない』って繰り返し
 『完璧を求めても困る』って言い続け

 謹慎の解けたその日にリサに挑もうと思わせたのは・・・静馬先輩なんだから。

「アンタ達、何時までそうやって抱きしめ合ってんの?羞恥心を持ちなさいよ、全く」

 いつの間にか二人の傍に来ていたベルティーユ一行、その中のアンによる容赦の無い口撃に晒され
 フィオナはいつかの如く、所謂『お姫様抱っこ』という物を自分がされている事にようやく気づかされる。

「なっ、なんで静馬先輩はまたこんな恥ずかしいことしてるんですか!」

「いや、槍を受け取ろうかと思った手をにぎられたものだから、つい」

 悪びれもせず、フィオナを抱き上げたまま余裕の笑みを浮かべ、肩をすくめる静馬
 そりゃ、こいつの前で油断したアンタが悪いわ、というアンのボヤキに
 エマもベルティーユも、黙って賛同を示す頷きをもって、フィオナに諦めを促す。

 っいいから、はやく下ろしてください!と言うフィオナの抗議に重なるように、審判が選手へ開始位置に着くようにという指示が届き
 結局フィオナは一度も足を地につけること無く、そのまま馬上へとその身を戻し、愛馬を操って開始位置へと歩を進める。
 
「馬鹿っ、変態っ、信じらんないっ!
 つい、で女の子抱きしめるとか一体何を考えてるの!?
 バッカじゃないの!バッカじゃないの!!バッカじゃないの!!!」

 顔を真赤にし、肩を怒らせながら、独り言というには大きな声で文句を並べ立てるフィオナは、今にも誰彼かまわず噛み付きそうな表情をして開始位置につき
 真正面にリサの姿を見つけ、すっと冷静さを取り戻しながら・・・その唇を尖らせる。
 心に浮かんだのはほんの一言・・・またやられた
 たった今我に返るまで、周りの雑音どころかリサのことまですっかり忘れ
 お陰で、緊張も弱気も悲壮な覚悟も、全部どこかに置き忘れてしまっていた自分に気付かされたのだ。

 そこにはただ、いつものちょっと短気で負けん気の強い・・・静馬の女神だけが立っていた。
 
 その姿を遠くに見ながら満足気に頷く静馬に、ベルティーユは柔らかく笑いかけながら視線をフィオナに戻し
 
「あまりフィオナが可愛いからといって、そんなやり方ばかりでは嫌われてしまいますわよ静馬さん」

 笑顔のまま、小さく静馬の太ももを抓った。



 1ラウンドの1本目、開始の合図とともに飛び出した二人の少女騎士の明暗は、その直後にはっきりと別れる。
 謹慎中のブランクのせいだけとは思えない、明らかに精彩を欠いたリサに対し
 フィオナはそんなリサの、かつての自分を思わせるほどに、思い切りの良い加速を得てリサへと襲いかかる。

 何かに怯え迷うリサに、更に追い打ちを掛けるように、フィオナの姿は、鏡写しの如き『リサのコピー』
 驚愕に一瞬固まるリサの思考と身体
 その隙を嘲笑うかのように、突き出されたフィオナの槍は、恐ろしいほどに鋭く

 狼狽えて繰り出されたリサの槍になど、かすらせもせず
 一方的に捉えたフィオナの槍は鎧を突き抜け、リサの芯まで衝撃を与えるほどに重い
 完全に胴を捉えた一撃に審判は2ポイントの宣言をしたが・・・

「フィオナの勝ち、ですわね」

 実力を備えた騎士達の目には、その一撃で勝敗が決したと見て取れた。

「いや、リサの負け、ということだよベルティーユ嬢」

 視線の先で、フィオナがリサを誂うように声をかけている姿を見ながら、静馬が目を細める。

 今の一撃で終わったと思ったのに、とフィオナはリサにそう告げた
 さっさと落ちていれば、楽になれたのに、と終わらなかったことを喜ぶように。
 やはり、フィオナは完膚なきまでリサを叩くつもりなのだ・・・

 その視界の中で、フィオナに貴弘が何か言っている姿が見える
 二言三言遣り取りをしている中で、内容までは流石にわからないが、明らかにフィオナの苛立った声色が流れてくる。

「うるさいな、部外者は黙ってそこで見てればいいんです」

 試合中の騎士に対し、外野が声援以上の声を掛けることですら非常識なのに
 騎士を苛立たせるなど、公式の大会であれば場外戦術としてリサの反則負けを宣言されてもおかしくはない。
 審判の目が貴弘をちらりと確認し、無効試合かリサの反則負けかと悩んでいる
 その姿を横目にみとめ、フィオナは小さく舌打ちすると
 不機嫌そうな表情から満面の笑顔に表情を変え、はっきりと貴弘に向け拒絶を宣言した。

「何時だって強い方が正しいんです、そうでしょ?」
 
 リサが謹慎の原因となった、貴弘と玲奈先輩が力尽くでリサに言う事を聞かせようとした決闘を、笑顔のまま皮肉で返しながら。
 内心で、アンタみたいな最低な裏切り者が何言ってるの?と嘲り、激怒しながら。
 スィーリアやリサ、玲奈や静馬が認めようとも、フィオナは貴弘を認めようとはしなかった。
 一瞬だけ殺気とも取れるような敵意を向け

「貴方と話し込んでる暇なんて無いんです、試合の邪魔しないでくれますか?」

 ぴしゃりとそれ以上の会話の意志がないことを伝え、なおも言い募る貴弘に背を向ける。
 ゆっくり馬の調子を確かめるように試合開始位置まで歩ませながら、その首筋をそっと撫で付ける。

 もう私は怒ってない、苛立っても居ない、だからちゃんと風を捕まえて

 勝利はすぐそこだから、二人で倒すの・・・あの天才騎士を
 
「少々危うくは有ったが、いい切り上げ時だったよフィオナ。
 あのままであれば、審判の判断で没収試合になっていただろうね
 所で、一つ尋ねたいのだがいいかな?」

「はあ?なんですか試合中に、今じゃなきゃダメなんですか?」

 妙に真剣な表情をして、ゆっくりと頷き返す静馬に、フィオナも真面目な顔をして黙って頷き返す。

「賭けを、勝負を受けて欲しい。
 もしフィオナがリサに勝ったのなら、私は君の言うことをなんでも一つ聞く
 だがフィオナがリサに勝たなかったら、君が私の言うことを一つ聞く」

「っな・・・」

 アンとエマ、ベルティーユに至るまで、静馬の言葉を聞いて驚くフィオナに怪訝な表情を向ける。
 先程ベルティーユが言った通り、試合はどう見てもフィオナの勝ちは揺るがない。
 リサの動きには迷いが有り、対してフィオナの集中力や体のキレは、仕上がっている。

 勝ったら何か、お願いを一つ叶えてあげるから、頑張れという
 誰がどう聞いても、静馬の不器用な声援でしか無いはずの台詞。
 しかし、フィオナは顔をひきつらせ・・・まじまじと静馬を凝視し深い溜息を一つつくと

 拗ねたような、睨むような顔を静馬に向け小さく舌をだした。

「卑怯者って罵ってもいいですか先輩・・・
 わかりました、すぐに終わらせてきますから、何をさせるか考えていてください。
 あ、エッチなのは禁止ですからね・・・まったく。
 あの、ベルティーユ先輩、その・・・手、握らせてもらっていいですか」

 そっぽを向く様にして、赤い顔を左に向けながら、槍を小脇に抱え鎧われた右手を差し出す

「試合に負けた騎士と握手なんかしても、幸運はその身につきませんわよ?フィオナ」

 いつもとは違い、誂う様に悪戯っ子の笑みを浮かべながら
 それでもフィオナの差し伸ばした手を、ベルティーユは優しく握り締める。
 ベルティーユにしては珍しいことだが、以前フィオナがベルティーユを挑発した言葉をからかってみせたのだ。

「幸運なんて貰わなくても、勝つのは私ですから。
 ただちょっと、ベルティーユ先輩の勇気を分けて欲しかっただけです」

 審判の、両者位置についてと言う声に急かされるように
 真正面からフィオナがベルティーユの目を真っ直ぐに見つめ返し、ぎゅっと一度握り返すと身を起こし
 開始位置へと馬を進め、顔を上げその目はリサに向けられる。

「いい子ですわね、少々素直ではありませんけど」

 ああ、そうだね、静馬の深く穏やかな声は静かにその場を流れた。

 2013.05.06


   

~ Comment ~

NoTitle 

更新御疲れ様です

虚をつく静馬の言葉が深いなぁと思いつつ
続きをマッタリ本作で謹慎がどこだったのかを探しながら楽しみにしてます!

Re: NoNameさん 

コメントに感謝を。

フィオナは割りと一面的な正論で押して、相手の反論のハードルを上げて封じ込める論法ですが
静馬にはそれがせず、逆に突拍子もない事を言われてやり込められる
その突拍子もない事を、真面目に分析してしまって反論もできないのが
フィオナの根が真面目で、頭が良くて、不器用なところだと思っております。
コメントにやる気を頂いたので、四十六幕は最近では珍しく短いスパンで更新出来ました。
重ねて感謝いたします。
管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
無料アクセス解析
現在の閲覧者数:
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。