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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第四十四幕「大人と子供の境目で」

 
 放課後の空気は、普段であれば穏やかでどこか牧歌的ですらあるのに、妙にざわめき立ち浮き足立っているとすら言えた。
 ウィンフォード学園は、今更言うまでもなくジョストの騎士養成学校である。
 普通科やベグライター科は、もちろん正式なものではあるが、本質・・・或いは学園の成り立ちと言う意味において、その言葉に異は挟めない。
 となれば、自ずとその空気が変わる原因など知れるというもの。

 学園主催で開催されるジョストの大会が近いことと

 それが予想外な結果になるのではないかという要因

 大別すれば、その二つ以外にはない。

 学校中がざわついた空気に呑み込まれるなか、例外的に普段通りに穏やかな空気を保っている一つでは、確かに穏やかながらも、常変わらぬ姦しさに包まれていた。

「なにやら久々に、こうしてゆっくりお茶を楽しんだ気が致しますわね」

 たおやかに微笑みかけてくる美女に、目礼代わりに片目をつぶって見せながら、静馬は口をつけていたカップを皿の上に音もなく置く。
 ゆったりと深く腰を掛け、背筋をまっすぐに伸ばされた姿は、無駄な力が全く入っておらず、余りにフランク過ぎる直前の対応と相まって、リラックスし過ぎているかのようにも見えるのに・・・
 その実、文句をつけようと開いた口を、罵倒の言葉が飛び出していく前に、アンが顔をしかめながらも閉ざさざるをえないほどに、一分の隙もなかった。
 いや寧ろ、そこには目の前に腰掛けている美女と同種の、優雅さすらもが見受けられた。

「件の一年生の名前を最近良く耳にしますが」

 歯切れの悪い物言いで、鋭い目と言うよりは非難がましい視線を向けて来るエマに、静馬は軽く肩をすくめる。
 ベルティーユが割って入って――実際には実に優雅に――話題を変えるだろうかと、しばらく無言でエマを見返しながら様子をうかがっていたが
 そのつもりがないらしいことを早々に悟り、少々意外に感じながらも
 三人の表情を一巡り見やった静馬が、「なるほど」と小さな呟きとともに自分の内にある答えが間違っていないことを確信する。

「私には、今のところフィオナに何かを言うつもりはないが・・・君達には有るということか。
 本人に直接ではなく、私にと言う所で大体が所予想もつくというものだが、拝聴しよう」

 ベルティーユの名誉の為に言っておくのであれば、彼女は純粋なお茶の時間を楽しんでいた。
 それは僅かに揺れた美しい眉の反応と、小さく非難する様に漏らした吐息が証明しており
 それに呼応するように、バツの悪そうな顔をするアンとエマが全力で保証するであろう。

 とは言えこのお茶会のホストは、誰がどう考えてもベルティーユ以外におらず
 それを無視するように話の流れをねじ曲げるのは、本来であればアンとエマの二人が絶対にしはしない行為
 即ちそれは、ホスト役であるベルティーユの顔に泥を塗る行為・・・で有るにもかかわらず、今回はそれを強行した。

 そこに何らかの意図を見いだしたか、それとも純粋な・・・二人に対する信頼か
 ベルティーユは小さなため息1つだけで、そんな二人の行為を黙って呑み込んでみせた。

「予想がつくなら、こうなる前にあの子に言っときなさいよ山県静馬。
 今日だって試合後に、水野とカイルに突っかかってこられて、それを皆見ている前で突っぱねてたわよ
 アンタが女神だなんだって言いすぎて調子に乗らせたんでしょ?」

 アンにしては珍しく、静馬に対して口を開いたというのに、内容は文句というより心配の色合いが濃い。
 そのことについて静馬がなにか反論する間もなく、エマがアンの言葉を拾う。

「あんなことをしていれば、リサのベグライターだった水野の神経を逆撫でしているのと同じです。
 第一、コピーは所詮コピー、オリジナルには勝てません」

 断言という形で途切れた会話は、沈黙を呼び込む

 ・・・筈だった。

「これはまた、エマとは思えない不見識な意見だね」

 はぁ?と、異口同音にアンとエマ二人の声が上がる。
 アンのものは言うまでもなく、不満と反発であり
 エマの上げた声は、疑問と誰何のものである。

「そう不思議そうにしないでくれないかな、勝負に絶対などというものはないよエマ。
 もしそれが有ると思っているのなら、君は勝負というものを誤って認識している」

「絶対などと言う言葉を、私は使っていませんが?」

 眇めた眼の奥から、冷たい瞳が鋭く斬りつけてくるのを、静馬は軽く手を上げ軽やかに受け止めるように嫌味のない笑みを浮かべる。

「『所詮』という言葉は、絶対的な位置から対象を見下ろす上からの言葉、私はそう理解している。
 それに、内容の方も残念ながら賛同は出来ない。
 オリジナルがコピーに負けないというが、それでは各流派の始祖を弟子達は越えることが出来ない。
 つまりは、人は劣化させることしか出来ないと言っているのだと気が付いているかな?」

 静馬にそう言われてしまえば、アンもエマもすぐに反論することは出来ず

「それに、『身につけたその上に』フィオナが積み上げれば、それはもうオリジナルですわ」

 ホスト役が豪奢な金髪を揺らしながら、たおやかに上品に極上の笑みを向けられては、二人もそれ以上言い募ることも言い返すことも出来るはずがない。

 ベルティーユが二人にとどめを刺した・・・のではなく
 そう言うことによって二人を会話の場から降ろし、それ以上静馬に責めさせることを止める為に
 べルティーユと静馬を、階層的に一段上のステージへと持ち上げてしまう。
 静馬も流石にベルティーユの意図に気づき、なんとも言えない妙な表情を浮かべ頭を掻いた。

 フィオナのことになると、少々冷静さを欠くことが有るのを

 御自身でちゃんと、わかっていらっしゃいますか?

「貴女には、いつもかなわないと思い知らされてばかりだ、我が麗しのベルティーユ嬢」

 片目をつぶって肩をすくめる、いつも通りの静馬の態度に
 ベルティーユは何も言わず、華のような笑みを浮かべていた。

 * * *



 言っていい事と悪いことが有るぞ、か・・・



 無機質の塊であるロッカールームに独り座り込む少女は、その見掛けほどには心を守る鎧は強くも硬くもなかった。
 そして、身体を護るための――彼女の母からもらった鎧も
 試合を終えた今、外からの攻撃より少女を護ると言う役ではなく、完全なる錘
 今少し詩的に形容するのならば、疲労に力の入らない四肢を、地に繋ぎ止める鎖として重力と絡み合い
 肉体とともに精神をも繋ぎ止め、縛り付ける術式の一分として作用していた。

「自分のこと棚に上げて、良く言うわよ・・・
 責める相手が違うんじゃないの?なんて言っても
 何も考えずにあんなこと言い出す恥知らずには効果ないか」

 こういう反応が返って来るのは解っていた。

 今まで好かれていたとは思っていないし
 これからも好かれようとは思っていない
 そして、正しく相手は予想通りの反応をフィオナに返してきたのだ

 だというのに、それで自分が立ち上がれずにいるほど疲労していることに
 我ながら、呆れと苛立ちを感じている。

 思った通りの反応を引き出せたっていうのに、なんだって私は・・・

 瞬間、フィオナの思考が、完全に停止した。

 自分が相手の素直過ぎる反応に、強い不快感を覚えるほど、静馬やベルティーユの、どこか人とチャンネルがずれたような反応に慣れ親しんでいる現状にすっかり適応していて
 貴弘の返してきた、直線的で感情的な反応に・・・そう、反論の内容ではなく反応そのものに強い反発心を持っており。
 何より、まるでそれを知っていたかのように、以前静馬に釘を差されていたことに気がついたのだ。

 たった一年だけ長い人生経験で、完璧を求められても困る、と。

 次の瞬間、フィオナは我に返るやいなや羞恥に顔を真っ赤に染め
 放課後の人の居ない時間帯だと理性が判断する前に後ろ向きに床へと倒れこみ
 そのまま右へ左へと床の上を転がりながら、無意識の内に、大声で、言葉にならない奇声を漏らす
 
 静馬先輩に言われてたのに、今回もまた同じ失敗を繰り返した・・・

 これじゃ、まるで・・・子供じゃない

 彼女の上げた奇声は全く以て皮肉なことに、彼女が大嫌いな獣の鳴き声に酷似しており
 間の悪いことに、ロッカールームに彼女を尋ねてきた人物は・・・
 彼女がその獣を、怯えるほどに嫌い恐れていることを、良く知っていた。

「無事かっフィオナ!」

 壊れるのでは無いかという程、力一杯開け放たれたドアから、極めて珍しい真剣な表情を浮かべ飛び込んできた
 彼女の今最も会いたかった、それでいて今最も会いたくなかった男は・・・
 
「うにゃぁっ!?みっ、見るなバカァ!」

 恥ずかしさと混乱の余り、必死に真っ赤になった腕で顔を庇うようにしながら
 偶々手近に有った為に、何も考えずに勢いで投げつけられたヘルムを綺麗にカウンターで顔面にくらい
 左側面についていた羽根が、倒れる静馬の後を追うように、軽やかに散った。



 完全に意識を飛ばされ気絶していた静馬が目を覚ましたのは、残念ながらフィオナの膝枕などということもなく、床の上に半身のように捻じれ横たわった姿勢。
 頭の下にあてがわれていた丸めたタオルから、ほんのりと流れてくる柑橘系の香りが、意識をはっきりとさせ現状に対する把握を促した。
 身を起こし頭を振って、ぐわんぐわんと頭の中で鳴り響く様な痛みと目眩に思わず動きが止まる。
 その身を抱きかかえるように支えた、申し訳無さそうな・・・泣き出しそうなフィオナの表情に、ようやくはっきりと何が起きたのかを正確に理解した。

 何かを口にしかけ、何も言わぬままに口を閉じる。

 塩菜のようにしょぼくれていながらも、自分は落ち込んでなんか居ない!と強がって
 睨むような視線を向けてくるフィオナに、慰めるようなことを言えば
 端からどう見え様とも、フィオナは意固地になって素直になるチャンスを失うだろう事は疑いようもない。
 故に、再び開いた静馬の口から溢れだしたのは、こんな言葉だった。



「・・・私は最近思うのだが。
 もしかして、フィオナは私の事が好きなのではないかな?と」



「・・・・・・はぁっ!?」

 誤解の余地のない程、完全に予想外の内容に思考が追いつけずに居るフィオナが、しおらしさを投げ捨て
 呆れるような、何処か憐れむようなそんな感情で、顔の表情を塗り替えていく。

「この際だからはっきり言っておきますけど、先輩のそれは完全に誤解です、勘違いです。
 確かに最初に会った頃の私は、先輩のことを結構誤解してキツイ態度をとってましたし
 そんな訳で最近は、少し以前よりはましな対応になってますけど・・・
 先輩が気障ナンパ男だって思ってるのは、今も全然変わってませんから!」

 フィオナの火が着いたような反発に、どういう訳か静馬が当然とばかりに深くはっきりと頷き返す。

「・・・・・・なんで、今の答えで勝ち誇った顔してるんですか先輩」

 ジトッとした目以上に怪訝な声と態度で、不機嫌そうに尋ねるフィオナ
 対する静馬はといえば、まるでその態度が見えないかのようにこの上なく上機嫌で、変わらず余裕の表情を浮かべている。

「何故って、フィオナは知り合ってこれだけの間で、私から『変態』と『腰抜け』とう言う二つの点を否定して、評価に訂正を加えたのだよ?
 どころか、とっさの事とはいえ先程私に向けられたのは、馬鹿という一つだけだ。
 少なくとも他の男子生徒で、私ほどに低い評価をこれほどの短期間で覆してもらえた位に、フィオナと仲が良くなれた者は居ないと、勝ち誇っているのだが」

 ・・・また、やられた。

 この人はどうしてこうも怒らないで、人の悪口をプラス思考に変換するんだろ。
 気障なナンパ男だと非難したのが、こんなにポジティブな事を言われた風に
 最初の評価が不当に低すぎたのだと文句を言うでなく
 ・・・よく知りもしない内に、勝手にレッテルを張ったと怒るでなく

「本当、相変わらず変な人ですね先輩は。
 その上微妙に失礼です、私に静馬先輩以外の男友達が居ないみたいに
 ・・・ええそうですよ、どーせ私には同級生に男友達なんていませんから、ふんだっ」

 いわばそれは当然の結果だ、静馬でなければフィオナの毒舌を前に踏み込んで来られるはずもなく
 そもリサに悪い虫がつかないように、毛を逆立てて常に威嚇している猫のようなフィオナに、態々踏み込んで声をかけようとする相手なら・・・
 こう言っては失礼だが、狙いはフィオナではなくリサであるべきなのだ、リスクとリターンを公平にするのなら。

 誰だってリサを選ぶ、否・・・リサを選ぶ以外で、フィオナに近寄る選択はない。

 何故なら、リサはただ無関心なままフィオナによって周りから護られているだけだが
 フィオナは敵意を持って周りに対する、いわば自意識を持った火炎の防壁。
 近寄るものにひりつく様な痛みを与えるのはフィオナである以上、二人への周囲の感情は大きく違う。

 リサは孤高の天才として、一人綺麗なまま周囲より浮き上がるのに対し

 フィオナはその天才に纏わり付く邪魔なデブリ、腰巾着として疎まれる

 事実関係などの正確さはどうでもいいのだ
 なぜならこれは心の・・・感情の問題で有るから。

 妬み、嫉み、恨みや反発などの悪感情を、自己を正当化しながらぶつける対象として、実に便利な位置にフィオナがいる。

 そこに畳み掛けるような、今回の『リサの戦い方のコピー』

 たったそれだけの理由で充分、事実としての強度や客観性など・・・
 主観でしか無いそれら悪感情の前には、ただのノイズ。
 未熟な経験、理性の学生たちに、それ以上を求めるほうが酷。

 なにより、被害者であるフィオナ本人がそれを利用している以上、歯車は加速する。

 望むままに、悪感情を根底にした不当な評価を隠れ蓑にした、フィオナのやり口が上手い

 計算違いは、『触ればひりつく痛みを与える防壁』の方に興味を向けて来る者が、いるなどと考えもしなかった事。

 いや、それは計算違いではない。
 計算違いということは、計算式の何処かに間違いが有ったということ。
 今のこの状況に何か間違いが有ったというのなら、フィオナの計算ではなく・・・

「本当・・・静馬先輩って、ヘンタイですよね」

「いや、それ程でも」

 呆れた溜息を付くフィオナを前に、静馬は全く似合わない
 でありながら妙に板についた仕草で、片目を瞑ってみせた。

 2013.04.21


   

~ Comment ~

更新御疲れ様です 

相変わらず、ヘンタイと言われて堂々と肯き返す静馬がカッコいいと思ってしまう
仕事の関係上更新時間にはコメントできませんでしたが・・・
やはり面白いですね、また一話から読んでみようかとw

Re: NoNameさん 

コメントに感謝を。

何かと忙しい昨今、こうしてコメントをいただけてもすぐに返信できないこと、大変申し訳なく思っております。
今話は、ベルティーユ嬢はやはり美人で優雅ですよね?というのと
原作でリサがヒロイン枠で、フィオナがヒロイン枠外であるのは、私のフィルターを通してみるとこんな理由にみえますというお話でした。

今回ちょっと、床を転がるフィオナが可愛いと、書いた本人的には満足してもおります。
GW期間ということも有り、時間を見つけてup出来ればと思っております。
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