FC2ブログ

歪んだパズルのつなげ方

スポンサー広告

スポンサーサイト

 
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第四十二幕「後悔なき決断」

 
 星が今にも降ってきそうな夜空を見上げ、少女は小さく心を零す。

「玲奈先輩が怪我をしました、落馬したリサを庇おうとして、自分が下敷きになって。
 私聞いちゃったんです、玲奈先輩は・・・次の大会にはでられないだろうって」

 寮の前に一人座り込んで、膝を抱えるフィオナ。
 何も言わずにその横、体温が伝わる程近くに腰を下ろした静馬に
 視線を向けるでもなく、文句を言うでもなく。
 ただ、夜空を見上げている。

 フィオナが試合前に、玲奈が負けた場合に大会出場の停止を求めていたことを静馬は知らない。
 そして、試合が没収になったことは知っていても、その詳細が玲奈の負傷――それも、リサをかばって起きた事故だということは、たった今フィオナの口から聞くまで、耳に入ってきた噂程度でしか知らなかった。

「玲奈先輩は、ちゃんと鎧を着て居たのに・・・」

 星を見上げていたフィオナが顔を伏せ、抱えていた膝に額を押し付けるようにすると、短い金髪が柔らかく舞う。
 
 「ジョストが怖くなった?」

 静馬の声には、誂う調子も非難の色もなく。
 ただひたすらに優しく、心に染み入ってくる。
 フィオナの肩は、小さく震えていた。

 フィオナはこの短期間に二人、目の前で落馬した騎士を見た
 その片方が、後遺症を残しはしないものの、担架で運ばれる程の大騒ぎになった
 フィオナは以前、カイルに殴られた静馬の鼻血が止まらなかったことに、蒼白になったのだ
 ツンケンした態度とは違い、中身はごく普通の・・・以上に女の子である。
 怖くなったとして、誰も笑うことは出来ない。
 たしかに危険は常に付きまとってくるのだ、ジョストの騎士というものは。



「ウソ、だったんですね」



 嘘?と聞き返す静馬に、フィオナは膝に顔を埋めたまま、言葉を続ける。

「先輩、その腕が大会までに治るって・・・
 今年も大会にでなかったら、やめさせられちゃうのに」

 細く息をつきながら、苦っぽい笑を受けべ頭をかく
 
「まだそうと決まったわけではないよ、フィオナにとっては残念な事なのだろうけど。
 それに、大会に出た所で予選で負けるのは解っていた、それならばベルティーユ嬢を負傷から守り、本戦へと駒を進める手伝いをしたかった。
 ・・・なんて、あの時は考える余裕もなかった。気がついた時にはお姫様は腕の中にいたからね。
 我ながら、上出来過ぎて怖いほどだ、あの時の私を褒めてやりたいね」

 その声には後悔はなく、無念さも微塵も感じられない。
 ただ、ほんの僅かな照れくささのみをフィオナに伝えてくる。
 
「なに、笑ってるんですか」

 深く沈んだ声には、非難とは別のもっと暗い感情が底に流れていた。
 そうと気付いた静馬が見上げた視線を戻すより前に、強く肩を突き飛ばされ
 完全な不意打ちで背を打った衝撃に、息をつまらせる。

 その腹の上に、フィオナは馬乗りになって

 月光に、世界から切り取られたように縁を輝かせ
 同じ分だけ、影に沈んだ表情を隠しながら

 斬りつけるような眼で睨んでいた。

「・・・なんで後悔しないのよ
 騎士なんでしょっ!ジョストが好きなんでしょ!?
 大会に、出たくないんじゃないんでしょ!!
 学園に居られ無くなっちゃうのにっ
 それなのに、どうしてそんな他人事みたいに涼しい顔をして・・・」

「後悔はしている。
 もっと上手くやれたのではないか
 もっと速く動けたのではないか
 もっと鍛えておけばよかった、もっと、もっと・・・
 だが、結果に後悔がないのは本当だよ。
 私はただ、やるべき事、やらなければならない事ではなく、やりたい事をやりたいようにやっただけ。
 その上、幸運にも上手くやり遂げた、目的は達成したんだ後悔の入り込む隙はないよ」

 小さな握りこぶしが、地に横たわる静馬の胸を叩く。

 そこには力がこもっていない
 憎しみもこもっていない
 そして、多分叩いているフィオナも、その事を意識していない。

「もっと、弱くてもいいじゃない
 みっともなく取り乱して、悩んで苦しんでもいいじゃないっ
 完璧じゃないんでしょ、一年しか差が無いんでしょっ」

 自分の言葉を、必死に訴えかけ
 相手の心へ伝えようと
 小さな手は、何度も何度も静馬の胸を叩く
 
「どうして先輩は、いつもいつもそんな綺麗なまま上から見下ろして
 キライ・・・そうやって受け入れちゃう先輩がキライッ!
 受け入れたくなくて、必死に足掻いてる私はそんなにみっともないですかっ
 才能のない人間が、諦めきれなくて
 才能のある相手に勝とうとするのは、そんなにバカみたいですかっ!」

 俯いてかすれる声で訴え続けるフィオナ

 静馬の頬で熱い雫が散り、光の粒となって消える。
 
「きっと、今は何を言われても受け入れられないと思う。
 それでも、私は今伝えることにするよフィオナ。
 君は君のやりたいことを曲げずにやればいい。
 みっともなくとも、馬鹿みたいでも、周りの誰が非難しようと、未来の自分に非難されないように」

 そこで言葉を切り、馬乗りになられたままの姿勢で器用に肩をすくめ。

「だから、私に乗っていたいというのなら、いつまでもどうぞ」



 * * *



 鼻歌でも歌い出しそうな静馬と、眉間にタテジワを刻み込んだフィオナ
 早朝ではなく、放課後に二人が一緒にいることは、無いわけではないがそれなりに珍しい。
 とは言え、年頃の男女である二人が一緒に居れば火のないところにも煙はたつのだが・・・
 周りがそれをどうこうと邪推しないのは、偏に演技や照れ隠しではない一方からの明確な嫌悪。

「なんでわざわざ放課後に、厩舎に居残りして馬の世話なんかさせられるのよ」

 フィオナの不機嫌そうな呟きも、二人の他に人の気配のない厩舎では、馬たちの立てる自然の音のみで、紛れること無く容易に静馬の耳まで届いてしまう。
 しかし、静馬はその呟きに、いつもの苦笑いではなく、少しわざとらしい程のため息を返した。

「・・・なにか言いたいことがあるなら、はっきり言ったらどうですか?」

 隠すつもりというよりも、当て付けや、気付かせるための態度に気付かぬはずもなく
 藪睨みに睨みつけてくるフィオナに、彼女の馬をブラッシングしていた手を止め、向き直る。

「そんな事を言っていては、予選突破すら怪しいね」
「なっ・・・」

 初めて、静馬の口から出たフィオナに対する否定的な意見にフィオナが固まる。

 今まで一度として静馬はフィオナを否定しなかった
 他の誰が非難し、時には罵り、或いは暴力に訴えようとした時でも、いつでも静馬はフィオナの側に立っていた。それこそ、フィオナが態と否定されようとしたことまで含めて
 対応をたしなめることはあるが、今回のように真っ向から否定と言うことは一度もなく、ましてやこうまで真っ直ぐに見つめて、何処か呆れたようになどということは

 反射的に噛み付きかかるも・・・

 反論を口にすることを許さぬ、厳しくも穏やかな瞳にフィオナが息を呑む。

「君は今、とても愚かな事を言ったんだよフィオナ。
 それでは勝利など決して出来ない、いや・・・試合にすらならない
 ジョストは騎士と騎士が戦うものだ、ベグライターが必ずしも必要ないという君の意見に・・・その通りだと以前私は答えたね」

 一旦言葉を切った静馬が、フィオナの瞳の奥を静かに見据える。

「馬は道具ではなく、君を飛翔させてくれる翼だよ。
 誰よりも速く高く翔ぶためには、労り日々己自身の手で世話をするなんて苦労のうちにも入らない
 借り物の翼で勝利したとしても、それは勝利とはいえないという意地
 それがベグライターが要らないということだ・・・と、私はそう思って答えたのだが、間違っているかな?」

 唇を噛み締め睨みつけてくるフィオナに、目を逸らさずに見つめ返し
 根負けしたフィオナが小さく鼻を鳴らし、視線をそらすも静馬はその目を外すことはなく
 ついには、むっつりした表情のまま小さくフィオナが頷くと、ようやく笑み返して頷いた。

「フィオナが賛同してくれてよかった。
 何しろこの子はフィオナのことが大好きで、無茶な願いを無茶と解って受け入れてしまい兼ねない。
 そうなってしまえば、君は翼もなしに空を飛ばなければならなかったのだからね。
 それでは、いかに相手の翼が傷ついていようと飛び越えることは難しい」

 白ベレーの上から軽く抑えるように手を置き、頭をなでる。

「子供扱いしないでください」

 下から恨めしそうに睨み上げながらも、静馬の手を払いのけようとはせず
 黙って撫でられ続けたということが、素直ではない賛同と言うよりは、照れ隠しの反発以外の何でもない。
 いや、最初からそうなのだ。
 厩舎での馬の世話を、嫌な顔をしながらも黙って従っている事自体が

 静馬の手は止まること無くフィオナの頭を撫で続け
 撫ですぎですっ!と文句を言われるまで、その手は止まること無く
 労るように、勇気づけるように、優しく力強く、無言のままにフィオナを肯定する。

 何を決断し、何をしようとしているのか

 それを成すということが、どれほど勇気が必要で

 どれだけ辛いことなのか

 全て解っていると、言わんばかりに。

「・・・お節介変態気障男」

 フィオナが子供のように唇を尖らせて、呟くようにつけてきた文句に
 静馬は肩をすくめながら笑顔を向けると、目線を合わせるように屈み込んで顔を寄せる。
 不意に近づかれ、頬を真っ赤に染めるフィオナのそれほど高くはない鼻先を、指で軽くつつき

「勝利を誰よりも望みながら・・・
 恋するあまり、最大の障害になり得る相手の手助けをしようという君には、言われたくない」

 満面の笑みを浮かべた静馬に、フィオナの顔は一層赤く染まった。

 2013.01.18


   

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
無料アクセス解析
現在の閲覧者数:
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。