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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第四十一幕「騎士の視点、王の視点」

 
 夜風の背から身軽に地に降り立つと、静馬は正面から優美なその首に優しく腕を回しそっと抱きしめる。

「やはり君は素晴らしい。
 かくも美しく優雅な美女に出会えたことに、私は一体誰にどれだけ感謝しなくてはならないのか。
 そして、同じだけ君を皆の目から隠していることを、懺悔せねばならないのか」

 別段、何か特別なことをしてきたわけではなく
 ただその背に乗って、野を駆けてきただけ
 それも発汗具合を見るにそれ程距離を走ったという訳ではないようだ。

 だというのに、静馬はしばらく夜風を抱きしめたまま離そうとはせず
 夜風もその抱擁を嫌がるでなく、静馬の背を軽く鼻先で撫でるさまは
 まるで静馬を労り励ますかのように見えた。

「風邪でもひかせてしまっては大変だ。
 誠心誠意お世話をさせていただき、私の感謝をせめて君にだけは伝えねば」

 普段より何処か子供っぽい笑顔を浮かべながら、厩舎へと夜風とともに入り
 手慣れた様子で鞍をおろし、タオルで汗を拭き取り、水を新しい物に変え・・・と、全く言葉通り。
 まるでお姫様にでもするように、甲斐甲斐しく世話をしていく静馬は、見た目より遙かに過酷な重労働を、鼻歌でも歌い出しそうなくらい楽しげにこなしていく。

 厩舎の入り口でそれを見かけたジェイムスも、さすがに妙な表情を顔に浮かべたがそれも一瞬
 喉の奥で可笑しそうに笑いながら、そのまま踵を返した。

「あきれた、もしかして貴方・・・脚が四本ある女性が理想のタイプ、なのかしら?」

 ジェイムスに連れられてやってきたノエルの声は、わざとらしさの欠片もない
 心の底から、静馬の様子に驚き、戸惑っていた。
 だれだってそういう反応をするだろう、現に長く静馬を見て理解していたジェイムスとて、一瞬とはいえ顔をしかめたのだ。

「外見的特徴で、女性を差別しないタイプ、としておいてもらえると
 私としては、今後の学園生活に支障がなく嬉しいかな。
 貴女が美人で、素敵な女性であると言えるぐらい、判美眼には自信があるもので」

 夜風を丁寧にブラッシングし終えてから、ようやくノエルの方へ向き直り、軽く肩をすくめる

「私も騎士の端くれだ、女性に頼られれば・・・
 それが、君のような美女であれば五割増しで嬉しいのだが
 残念ながら、ご期待にそうことは出来そうにない」

 掌で胸を抑えながら、何処か芝居がかった表情を浮かべ
 片目だけを開いてノエルを見つめると、相手の表情が笑いに誘われていないことを認め
 小さく、ゆっくりと息をつく。

「私は騎士だ、ベグライターの真似はできない」

 ノエルが話を切りだす前に、先回りして答える静馬に
 まぁそうでしょうねと、別段驚くでもなく
 うぬぼれだと呆れ、或いは鼻で笑うでもなく、ノエルが頷いて返す。

「それは残念ね、ジェイムスさんにも組めば面白いと言っていただけたのだけれど。
 でも、それなら騎士である貴方は何故、此処に今いるのかしら?
 一年生の天才、リサ・エオストレの決闘・・・正確には練習試合を見に行きもせずに」

 本命の質問は此方の方か・・・

 どうにもこの美女は、会話の主導権を離そうとしないが

「大会に優勝すると言った貴女が、嘘つきにならない方法が一つある」

「それをしなければ、優勝できない、と?」

 悪戯っぽい目で見つめてくるその眼の奥に、真剣な光を認め静馬は頭を掻きながら
 一度視線をやや後方へと向けて、ノエルに無言で問いかける。

「そうね、こんな所に二人で突っ立ったまま話すことでもないでしょう。
 丁度いいわ、私も連れを一人テラスに待たせている所なの
 お茶に誘われていただけますかしら『無敗の騎士王』様?」

「騎士を名乗った私が、麗しき女性の誘いを断るはずもありません」

 片目をつぶってみせてから、大仰に畏まった礼を返す静馬の仕草は、様になるほどに板についているというのに、全くこれっぽっちも似合わないという矛盾に、ノエルが小さく吹き出した。



 * * *



 ノエルと並び二人で向かったテラスには、小さな人影がポツリとあった。
 幸いにして、先程ノエルも言った通り、学生の大半はリサと玲奈の決闘のほうへと集まり
 日当たりの良い穏やかな風の流れるテラスには、子供のように手を振る相手の他には、他に人影もない。

 静馬が目をわずかに眇めて件の人物を遠くに眺め、視線をノエルに向ける。

「妹よ、家にこもっていても気が塞いでしまうでしょうから気晴らしに。
 リサの試合を見せてあげられないかと思ったのだけれど・・・」

 言外に、静馬を見つけるのに手間取って、それがかなわなかったと非難の色を滲ませるも
 それがまるっきり冗談でしか無い事を、向けてくる悪戯っぽい瞳が語っている。

「アスコット候に嫉妬と同情を。
 美人姉妹を娘に持って、どれ程の幸福と心労をお抱えの事か。
 私のような悪い虫に自ら近寄っていくのは、お父上のために控えた方が良い
 ・・・と、一応は忠告させていただこう」

 肩をすくめてノエルの誂いに応えながら、二人共に僅かに歩調を速める。
 近付くにつれ、次第に相手の姿も顔もはっきりとし始め
 ノエルに向かい笑いかけていたミレイユの表情が、驚きに止まり

 すぐにも、一層輝きを増した笑みを浮かべ
 両膝の上で手を合わせたまま、小さく会釈をした。
 怪訝な顔を向けるノエルにも気付かず、じっと静馬を見つめるミレイユの様子に
 説明を求めるように、怪訝な顔を静馬の方に向けるノエル

 その視線の先で、静馬はゆっくりと膝を折り

 片膝を地につけながら、ほっそりした小さなミレイユの手を取り

 その手の甲に、軽く唇を押し当てる・・・この上なく似合わない、気障な仕草

「またこうして出会えたことに、お元気そうで何よりですミレイユ姫」

「騎士シズマ様も、お変わりないご様子に安堵いたしました。
 今日はなんていい日なのでしょう、お姉様に感謝しなくては」

 目の前で穏やかに微笑み合う静馬とミレイユ
 完全に事態に取り残されたノエルは、数度瞬きをして・・・
 頭の中に渦巻きこんがらがる思考の糸を何とか解きほぐそうとして、諦める。

「ちょっと、どういうことなのミレイユ・・・
 貴女今、この人のことを、なんて?」

 珍しく混乱しうろたえるノエルに、満面の笑みを向けながら
 姉そっくりのイタズラっぽい笑みをその目に浮かべ
 ちらりと意味ありげに静馬の方へと視線を向け、ノエルに目線を戻す。



「流石はお姉様です。
 だって、あれだけのヒントで、お話していた騎士様を私のもとに連れてきてしまったのですから」



 お詫びに、と静馬がノエルの分の紅茶の代金を持ち
 言うまでもなく自分と、ミレイユの新しい飲み物を持って帰って来ても、ノエルはまだ拗ねたような目をミレイユに向けていた。

 完全にしてやられた、と言う姉の沽券に関わる問題に拗ねているのではなく
 そうやって拗ねたふりをして、必死にとりなそうとするミレイユの元気を引き出しているのだと
 二人共、いや・・・その場の三人ともがわかっていて、じゃれているだけ。

「貴女があれ程に執心して褒め称えるのだから、スィーリア並の騎士だと先入観を持って居たのが失敗ね。
 そんな騎士は他にはリサか茜くらいで、男性では思いつきもしなかった」

 静馬とミレイユの目が合い、お互いがなにか言いたげに無言で目線だけで遣り取りをして、ゆっくりと静馬が頷いた。

「心外だね、と言い切れないのが辛いところだが。
 私は一人スィーリア嬢に比肩する程の、男の騎士を知っている。
 言うまでもないことで、ミレイユ姫のご期待には添えず申し訳ないが、それは私のことではないよ」

「いいえ騎士様、それは違います。
 お姉様が名を上げた二人の少女騎士の方が、どれ程に立派でどれほどに強いのか、私は知りません。
 それでも私は断言できるのです、貴方程の騎士はいませんと」

 二人のやり取りにノエルは何処か呆れたように肩をすくめ、やや強引に話を引き戻した。

「それで、ミレイユがそこまで執心している理由は大体の所把握しているのだけれど
 貴方が練習もせずに馬の世話をして、リサの試合に興味を向けていない理由
 それを話してもらうために場所を移動したのを、忘れていないでしょうね?」

 もちろん、と軽快に答えながらティーカップを手にした静馬が、椅子の背凭れに体重をかける。

 フィオナ相手であれば、此処で何か一言
 誤魔化されないような警戒の言葉が、とんでもなく棘棘しく飛んでくるのだが今はなく
 ミレイユを前にしては、そんな警戒も必要ない

「試合は見るまでもなく、リサが負ける。
 いや、勝てないというべきか。
 ちょっと考えれば解ることだが、手持ちのカードが相手に知られているポーカーで
 一体どうやって勝つつもりなのか、私にはさっぱりわからない」

「手の内が知られていようと、勝てる相手だとリサが踏んだということでしょう?」

 だろうね、あっさりとそう肯定しながら双眸を閉ざし、ゆっくりと深く息を吸う。
 なにか言いたげなミレイユの気配に、右目だけを開けてその姿を確認し
 どうぞ、と穏やかで深い声が発言を促す。

「シズマ様が断言なさる根拠は、何なのですか」

 ミレイユの問い掛けに、静馬は大きくひとつ頷くと
 内情に詳しくはないであろうミレイユにも解るように、一つ一つ紐解いていく。

「リサは、十年に一人といえるほどに才溢れる騎士です。
 貴女の姉上はその才を目の当たりにして、正当にそのジョストの実力を評価しています。
 それ故、過大評価してしまっている、相手をその実力で捻じ伏せるのではないかと
 言ってしまえば、リサの才を信仰する、リサ教徒なわけです」

 眉をひそめるノエルに両の掌を向け、言い争いをするつもりはないと示しながら、小さく息をついて微笑みかける。

「故に、ごく初歩的な見逃しをする・・・
 その才能が、まだ一年生の少女という、酷く不安定な土台の上にあることを。
 そして、リサ以外にも、その場に天才が居るということを」

 指先がテーブルを数度軽く叩き、二人の令嬢の視線が自分に集まったのを確認すると

 まるで真理を語るかのように、静かに静馬は言葉を紡ぎだす。

「先程貴女には告げたはずだ、大会に優勝するという言葉を嘘にしない方法があると」

 静馬が何を言っているのかを理解した、ノエルの顔に浮かんだ表情に、静馬が黙って首肯する。
 まるで、ようやく答えにたどり着いた生徒を見守る教師のように、何処か嬉しそうに、何処か満足気に



「冷静な第三者視点で試合を見ることのできる、ベグライターという立場で
 天才騎士である水野貴弘を、自分の側に引き入れること」



 それだけで、貴女の優勝はほぼ確定するはずです。
 何故なら、貴女はカイルがベグライターに名乗りを上げないほどの
 完成された、一流の騎士なのだから。

 酷く穏やかな笑みを浮かべ
 酷く優しい声色で
 付け加えられた静馬の言葉

 だが、静馬はそれとは別の根拠が・・・確信が、あった。

 水野がリサの元を離れた今、リサが独りになったこのタイミングを、彼女は見逃しはしない

 必ずリサを叩き折り・・・地の底へ突き落とすだろう、と。

 2013.01.06


   

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