FC2ブログ

歪んだパズルのつなげ方

スポンサー広告

スポンサーサイト

 
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第三十八幕「恋する乙女と」

 
 夜の帳が下りる頃、もう何度目かになる姉妹の秘密の夜会が開かれていた。
 幸いと言ってしまうのは少々可哀想なことではあるが、彼女達の父親は仕事が佳境らしく、今日も家には帰って来ない。
 それ故、ミレイユの訪問は夜中ではなく、夕食後そのまま二人でノエルの部屋へと入っていった。
 姉妹仲が良いのはもとよりであるし、ノエルが車椅子を押しながら談笑する姿も珍しいものではない為、食事の用意などをしてくれるお手伝いさんにも別段怪しまれることもなく。
 それでも、夕食の間にその手のことを話すような、迂闊な真似をするわけには行かず
 ミレイユは、何処かいつもよりも明るい表情で、二人ノエルの部屋へと姿を消した。
 
 部屋につくと、ノエルはテーブルの傍らまでミレイユを送り届けると、お茶の準備をしながらと言葉を紡ぎだす。

「学園の友人達にも、知恵を貸してもらったのだけど。
 残念ながら、正体を隠した魔法使いは居なかったわ」

 諦めては居ない、だが打開策が早々簡単に見つからないのも事実。
 そこから目を逸らし、楽天的になんとかなるさとは、考えることは出来ない。
 いや、そう考えては解決できる問題も、大問題にまで凝り固まり立ちふさがってくる。
 それ故に、事実は事実としてまずは明るみに出すこと。

 そも、最も問題を把握している姉妹二人で、顔を突き合わせて何度も話し合っているのだ。
 魔法のような解決法を誰かが示してくれる、などというのは実際の所・・・二人の心理的死角を突くような発想の転換、その一点だけでしか期待できない。
 それでも、ノエルの顔にはわずかに失望の陰りが落ちるのは、姉妹の重ねた夜会では最早手詰まり感を手応えとして受け取ってしまっているからなのだが・・・
 それでも、顔には余裕の笑みを浮かべ、ミレイユが不安になることが無いよう、気を使うのを忘れない。

 ノエルは貴族であり、騎士である。

 そして何より、ミレイユの姉なのだから。

「お姉様、この件に関してはもう御心を煩わせる必要はありません。
 大会まであまり時間のないのこの時期に、騎士様に会いに行ったとしても、ご迷惑になってしまいますから」

 明らかにノエルに気を使った言葉。
 しかし、そこにはノエルが納得してひくに十分な理由が理由が添えられている。
 だが・・・そこに事実は一つもなかった。

 ミレイユは静馬が告げた、『ジョストをすることを禁じられている』という言葉を疑っては居らず。
 以前よりノエルから聞いている、静馬が学園で槍を持った姿を見たことがない、と言う笑い話もまた疑っていない。
 どころか、直接話した今、妙な確信すら持っていた。

 軽やかな話術、絶えず手を引かれるような一々洗練された気遣い。

 そして何より、全く似合わないのに、妙に板についた気障な仕草。

 騎士様は・・・シズマ様はきっとそういう方なのだ。

 ミレイユの表情に気づいたノエルが、何かを言いすがろうとして口を噤む。
 眼の前にある諦観の表情に、一瞬だが・・・それでも良いのかもしれないと考えてしまったために。

 夢は夢のまま、これ以上踏み込んで現実を見ることはないのではないの?

 ミレイユ本人がそれでいいというのなら、周りが無理強いすることではないのでは?

 心に流れ込んでくる弱気に溺れかける。
 今までの実績として、ミレイユがこうなってしまえば退かない事を知っているから。
 練習の合間に、ちょっと考えて思いつくような解決法ではない、それは今日までの日数が示している。
 仮にちょっとした発想の転換で思いつくのであれば、既にどちらかが提案しているだろうから。

 自分の言い出したことのために、ノエルの練習がおろそかになっている、とまでは言わないが。
 集中力を欠いた代物になっていることは、容易に想像できる。
 それでは練習をいくらした所で身には成らないし、何より危険である。

 ミレイユがそこまで考えて、『もうここまででいい』と告げたのだと、理解してしまったから。

 ノエルがミレイユを思うのと同様、ミレイユも姉を大切に思っているのだ。

「それより、私は一度お姉さまがアルバイトをなさったと言うお店で
 絶品のタルトを御馳走になりたいのですけど」

 強引な話題転換は、ミレイユの笑顔が示す通り
 元の話を続けさせない絶対の壁として、静かにノエルの前に立てられた。


 * * *
 

 サンドイッチを呑み込んでから、潤いを求めてコーヒーを傾けつつ、傍らにおいておいた雑誌を手に取り紙面に目を落とす。
 無言のままページをめくる音だけを立てながら、まるで世界にたった一人存在するかのように、その内容に没頭していた静馬は、非常に珍しいことながら、何時に無く真剣な表情を浮かべていた。
 仮に此処にフィオナがいたとすれば、その表情を見て間違いなくこういうだろう。
 
「そんなに真剣に見ているのは、今度は誰の胸ですか?」

 静馬の上げた視線が、虫けらか汚物でも見るような、演技ではないその眼差しにぶつかり
 左右を見回し、自分が今いる場所を再確認する。
 と同時に集中が解かれ、周りの喧騒が耳から頭へと雪崩れ込んでくる。

「やあフィオナ、私も今来たところだ」

「・・・っ、デートの待ち合わせなんかしてません!
 だいたい、男の人が一人で来る場所じゃないでしょ此処」

 空のコーヒーカップを優雅に持ち上げ、おかわりを要求しながら、笑顔の美桜に問いかける。

「・・・と彼女はいっているが、実際のところはどうなのかな?」

 そんなことないよ、タルトだけをだす喫茶店じゃないからね。
 邪気のない笑顔を向けてそう答える美桜に、フィオナがさすがに毒気を抜かれてしまう。
 その隙を逃さず、だそうだよ?とコーヒーを注がれたカップをちょいっと持ち上げながら、静馬は片目をつぶってみせる。

「どーせまた胸の大きな女性の、グラビアか何か見てたんでしょ
 それとも、この間とは違う女性が店員さんをやっているから観察してたんですか?」
 
 まるで自分の発言がなかったかのように、豪快に話題を推し進めフィオナの伸ばした手が静馬の手から雑誌を奪い取る。
 たしかにそこには女性が写っていた、ただし鎧を着こみ馬上で槍を持つ姿で・・・
 フィオナの失礼な行為にも気分を害した風もなく、軽く肩をすくめながら小さく笑みを浮かべる。

「君が嫉妬深いのは今に始まったことではないからね
 しかし、雑誌の女性くらいは見ることを許してもらえると助かる」

 静馬のとんでもないあしらい方に、流石に美桜が吹き出し。
 フィオナが恥ずかしさを誤魔化すためか、普段以上に鋭い目を向けるのに気づいて
 静馬がすかさず、助け舟を出す。

「では彼女には、ウェイトレス嬢のオススメを、出来れば果物が多いもので。
 今日も椅子をお引きしましょうかフィオナ姫?」

 自分の分まで頼まれてしまえば、まさか別の席に座るわけにも行かず
 渋々フィオナが静馬と同じテーブル、それも珍しく隣り合った席に腰を下ろし
 取り上げたジョストの雑誌を、ぶっきらぼうに突きつける。

「この記事、随分真剣に見ていたみたいですけど・・・なにかあるんですか?」

 雑誌を受け取り、開いていたページを閉じて雑誌を脇に置いた。

「いや、最新のスタイル研究という言葉に惹かれてしまってね。
 たしかに女性らしい素晴らしいスタイルだった。
 チェンジ・オブ・ペースのことについて書かれていたんだが・・・」

 そこで一旦言葉を切り、フィオナの反応を伺う。
 確かにフィオナはジョストの騎士で、フィオナ自身が振った内容だが、オフの時にまで小難しいジョストの話をされるのを嫌がるかもしれない・・・そう懸念して。
 故に、此処でフィオナが嫌な顔をすれば、それ以上詳しい話をせずにこの話題は打ち切られる。

「それって、リサの必殺技ですよね?」

 フィオナが苦い顔をしながらも、話題には食いつき、静馬をして続けるかどうかの判断に迷う。

「ああ、確かにリサなら使っていそうだ。
 チェンジ・オブ・ペースと言ってもやり方は色々あって
 残念ながら私はリサが試合をしている所を、未だ見たことがなくてね」

「はっ!?だってリサの試合ですよ?スィーリア先輩にも勝つかもしれないって言われてる。
 この間、先輩はスィーリア先輩の練習を見てましたよね?
 それが、なんでリサの試合を見ようとしないんですか」

 困ったな、と小さく呟きながら静馬が頭を掻き、フィオナに向き直って両の手を差し出す。
 
「今から私は君の親友について、侮辱と取れることを言う。
 どうしても許せなければ、硬い顔ではなく患部である腕を叩くようして欲しい。
 そうすれば、与える苦痛は同じで、フィオナは怪我をしないだろう」

 訳がわからない為、納得もよく出来ないままに、フィオナが曖昧に頷くのに。
 静馬も、当然そうだろうとわずかに笑を浮かべながら頷き返す。



「リサは、絶対にスィーリア嬢に勝てない」
 


 静かに流れる優しく柔らかい静馬の声に、フィオナは最初、何を言われたのか理解できなかった。
 すぐ近くで美桜が息を呑む気配に振り向き、銀のトレーにのったタルトと紅茶をみて、静馬がそっと手振りでフィオナの方へそれを置くように促す。

「それは・・・ベルティーユ先輩が、試合に負けても勝利者だって言ったのと、同じ詭弁じゃないんですよね?」

 やや低くひそめられたフィオナの声に、首肯する静馬の顔には笑が浮かんでいるが
 誤魔化しや言い訳をする様な緩い表情ではなく、何を言われようと・・・
 たとえフィオナが激発して、怒鳴ろうと、手を打ちつけようと、自分の発言は撤回しないという、ある意味で言えば諦観のような表情。

「先輩だってリサのことすごく褒めていたのに。
 スィーリア先輩に負けない才能の持ち主だって、認めていたはずじゃないですか」

 それにも何も答えず、静馬は黙って頷いた。

「だったらっ、どうして断言できるんですか!
 リサは天才ですよ、リサだったらスィーリア先輩に対抗できるかもしれないでしょ」

 顔を突き出すようにして詰め寄るフィオナから目を逸らさず
 それでも、静馬はきっぱりと首を振った。

「才能が、騎士の強さの全てではないよフィオナ。
 リサが勝てない理由は、リサは一人でジョストをしているからなんだ」

 静馬の言葉が、フィオナの胸に突き刺さる。

 その痛みは、フィオナが静馬の言葉が正しいと認めている証。
 それでもフィオナはなおも食い下がった。
 いや・・・ただ認められなかった。

「でも、今は水野先輩がベグライターを引き受けたから!」

 そっと、その両肩に手を置き、フィオナの身体を優しく椅子に座らせると
 白いベレー帽の上から、静馬がその頭を撫で付ける。

「リサは君に、こういったたぐいの物言いをした事が無いかいフィオナ。
 相手が何かをしてくる前に、倒してしまえばいいのだから、と」

 見開いた眼を向けられ、やはりそうか、と静馬がつぶやきをもらす。

「以前フィオナは私にこう尋ねた、『リサにベグライターがいると思いますか』と
 ベグライターが居たほうがベターだが、マストではないので私はそれに答えられなかった。
 リサは確かに天才だ、もしかすればスィーリア嬢より才に溢れているかもしれない」

 一旦言葉を切って、フィオナに言葉が染みこむのを待ってから、静馬が再び口を開く。
 優しく、何処かいたわるように。

「それ故に、自分の都合を相手に押し付け、押し通すことで今まで勝ってきた。
 今までの相手にはそれが出来たかもしれない、だがスィーリア嬢はリサの都合を一方的に押し付けられるほど甘い相手ではない。
 その時リサは、初めてジョストは騎士同士戦うものだと、本当の意味で理解できるのかもしれない」
 
 相手は、自分を倒すことの出来る槍を持っているのだという恐れを

 リサは天才ゆえに持っておらず・・・それ故に負けるのだ

 恐れを知り、敗北の辛酸から立ち上がって尚、胸を張る騎士に。



「勝利の女神は君だフィオナ、どちらに微笑むかは、君が決めればいい」



 2012.12.15


   

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
無料アクセス解析
現在の閲覧者数:
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。