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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第三十七幕「戦乙女と女神の夜会」

 
 夜もふけ、夕食も余り喉を通らずに終え。
 手にした本も目が文字の上を滑るだけで、内容がさっぱり頭に入ってこない。

 年齢に似合わぬ深い溜息をひとつついて、本を閉じ
 机の上にそっと置くと、膝の上にたたんでおいたストールを肩に掛け
 少女はその小さな手で、自らが小さな体を前へと押し出した。

 小さく控えめなノックの音で、室内の相手には誰が訪れたのかが伝わったのだろう
 すぐにも、入っていらっしゃいなと、砕けた口調の返事と
 間を置かずにドアが開き、室内の光が廊下に漏れ出る。

「そろそろ尋ねてくる頃だと思って、実はドアの前で待っていたの」

 小さく舌を出した、悪戯っ子のような笑顔で迎え入れてくれる相手の、開けてくれたドアから
 ミレイユは音を立てぬよう、静かに車椅子を中へと進めた。
 正面にあるテーブルの上で、湯気を立ち昇らせているカップ二つが、相手の返事がからかいや冗談ではなくほんとうのことなのだと、静かに告げている。

「それで、天使のように可愛い私の妹は、今日はどんな用で尋ねて来てくれたの。
 館を抜けだしたことの懺悔?美味しいお菓子やさんの秘密の情報?
 それとも、恋の悩みの相談かしら?」

 しっとりと色気のある声で告げられたミレイユは、驚いた顔で眼をしぱたかせる。
 まるで先日あったことを全て見ていたかのような姉の言葉に、知らず頬が上気していく。
 だが、ミレイユのその反応に、むしろ問いかけたほうが驚愕させられた。

 というのも、ミレイユが夕食を残したことを、姉は見逃さす
 冗談交じりにカマをかけて理由を探りに来たのだが・・・
 よもや冗談の方が正解だったのは、全くの予想外。

「ま、まだ早いわよ・・・と頭ごなしに否定しては姉失格ね。
 それで、お相手は?
 貴女のことだから、それは素敵な殿方なのでしょう?」

 ややひきつってはいたものの、なんとか笑みを浮かべることに成功し
 車椅子をテーブルの側にまで押して、ティーカップを渡してから、自分はすぐ側の椅子に腰を下ろす。

「ええ、それはもう、とても素敵な騎士様です。
 その方にご迷惑をかけてはいけないので、御名前を明かすわけには行きませんが
 優しくて、優雅で、とても紳士で・・・」

 つい先日、眼をキラキラさせながら、白馬の王子様が――、などと語っていた女の子が

 頬を染めすっかり乙女の顔をしているのだから・・・

 外野がどうこういった所で、ミレイユの耳には届かないでしょうしね。

「ミレイユ、念の為に聞いておくのだけれど
 まさか、ウィンフォードの学生、ということはないのでしょう?」

 言いながらも、まず間違い無くそうであろうとノエルは頭の中ではかっている。

 それですら、実際は随分と年齢差があるのだが・・・
 それ以下の年齢の騎士となれば、優しいはともかく、優雅と言う形容は想像しづらい。
 しかし、逆にそれ以上の年齢となると、いくらなんでもミレイユが恋愛対象とするには・・・少々無理がありすぎる。

 今少し、精密にノエルの思考を辿るのであれば。
 話を聞いた直後に、ノエルは即座にとある人物のことを思い浮かべ
 その自分の考えを、すぐに否定した。

 確かに貴弘は、受け答えもしっかりしていて優しく、紳士的ではある。
 身ごなしもだらけたところがなく、それを優雅と言えなくもない。
 だが、自分を騎士だとは言わないだろうし

 ミレイユにそう呼ばれれば、否定するだろう。
 なにより、そこにはノエルの願望が含まれていた。

 恋にライバルはつきものだけど・・・

 姉妹で一人の男性を取り合うなんて、スノップ記事も真っ青な事

 お父様が知ったら、卒倒してしまうのではないかしら。

「いえ、ウィンフォード学園に在籍されていらっしゃる方です。
 制服姿でしたので、それは間違いありませんが・・・どなたか心当たりでも?」

 ミレイユは、ノエルの妹である。
 故に、姉の声色が変わったことを、聞き逃したりはしなかった。

 眉をひそめるようにして、下から見上げるミレイユ。
 汚れなく無垢な天使のようにしか見えない姿に、ノエルはすっかり騙され
 と言うよりは、自らの思考にとらわれ過ぎ、視線はミレイユの方を向きながら

 両手で包むようにして持つティーカップの影で、小さくイタズラっぽい笑みが浮かぶのを見逃した。

 何しろミレイユが静馬のことを知ったのは、本人にであった先日よりはるか昔
 姉であるノエルの口から、茶飲み話としてでたのが最初だ。
 
 その時の姉から伝わってきた、静馬への印象と
 今、ミレイユがノエルに語った、静馬への賞賛とには大きな隔たりがあり
 決して当たるはずのない、意地悪なぞなぞを出しているような気分になったのだ。

 ミレイユは美人の姉の困り顔をこっそり見つめ、無邪気な笑みを浮かべる。
 とは言え、既にもう夜もふけ、あまり長い時間をこうしていては
 肝心の相談もままならぬと悟ったミレイユは、話しをすすめるべく
 手にしたティーカップに口をつけ、紅茶を一口呑み込んでからテーブルにカップを置いた。

「それで、騎士様ともう一度と言わず、もっとお話がしたいのですが
 どうするのが一番良いかと、お姉様に相談したくて」

 度々お忍びで屋敷を抜け出す訳にはいかない。

 もしそれで何か問題が起これば・・・
 一体何処に行こうとしていたのかが、当然ながら詮索され
 そうなってしまえば、当然静馬にたどり着き、相手に迷惑がかかる。

 ミレイユはノエルの贔屓目を差し引いても、頭の良い子だ。

 そんな危ない橋は、一度だけの緊急避難的な切り札で
 回数を重ねれば、結果は必ずそうなるのだということを、ちゃんと理解していた。

 会いたいという気持ちを優先して、自分の都合の良い現実・・・
 『多分』だの『きっと』だのという甘えた言い訳を、自分にすることを止め
 もっとリスクの少ない方法はないものかと思い悩むんだ。

 だが、いくら頭が良いとは言え、まだまだ子供である。

 その視界は狭く、視点は低く、答えを見つけ出すことは出来なかった。

 それでも、考えることを放棄して、感情のままに行動することを唯一の答えとせず
 賢明にも、姉に相談するということを選び、人目を避けて夜半に尋ねてきたのだ。
 そこには姉が絶対に自分の味方になってくれるという信用と
 自分より、この手の悪戯やお転婆と呼ばれるたぐいの代物に、造詣が深い・・・

 即ち、自分より遙かにその手のことを経験してきた、という実績がある

 なにより、姉一人妹一人の姉妹である。
 立場が入れ替わったとしたら・・・
 ミレイユは絶対に味方になると、断言できる自信がある。

「とは言え、相手の事がなにも分からないでは・・・
 どうやって会うかと、言う事までは助言できそうにはないのだけれど。
 ともかく屋敷を抜け出す理由や手段を考えましょう
 此処にいては、相手が尋ねてくる以外に、会いようがないのだから」

 言いながら、チラリと伺うもミレイユの小さな唇は、結ばれたまま解かれることはなく、ノエルもそれに無言で頷き返す。
 相手の事を告げねば、ノエルがそう言うしか無いことはミレイユにも解っており。
 そう言われたからといって、それではと話すくらいならば、最初から話している。

 ノエルにまで秘密にしている理由は、ノエルから父に情報が流れることを懸念して・・・では当然無い。
 恥ずかしいから、ノエルを驚かせたいから、と言う部分は無くはないが
 一番の理由は、ノエルを言い逃れ出来ぬほど深く巻き込みたくない
 そして何より・・・

 騎士様・・・シズマ様を、お姉様と取り合うようなことはしたくない

 子供といえど、ミレイユとて女性である。
 先ほどノエルが貴弘を思い浮かべ、全く同じようなことを考えていたとしれば
 ミレイユは一体どんな顔をするのだろうか?

 思い浮かべた相手は、天と地ほども違いはすれど

 そういった点で、確かにノエルとミレイユは姉妹であった。



「でも、困ったわね。
 ミレイユの会いたい相手は騎士なのでしょう?
 それも会って話を聞きたいほどに、頭の回転の早い、立派な。
 となると学園でなければ、練習後の短い時間、ほんの少し会うだけになってしまう
 でも、ミレイユはそれでは満足できない、でしょう?」

 こくりと小さく同意の印に頷きながら・・・
 ミレイユは胸の内でだけ自分に問いかける。

 頭の回転は早く、立派な騎士様ではあるのだけれど

 果たしてシズマ様は、普段遅くまで練習などしていらっしゃるのかしら?

 答えは悩むまでもなく出ている、NOだ。
 何故ならノエルは静馬のことを話した時に、槍を持った姿を見たことがないと、はっきりといった。
 
 ノエルは時に相手が勝手に勘違いするような言い方をして、話を面白おかしく誇張したり
 或いは相手の注意深さを測ったりはするが・・・嘘は言わない。
 見たことがないと言った以上、少なくともノエル本人は見たことがないのだ。

 でも、あまり練習熱心な方ではない、と言ってしまったら・・・

 お姉様相手に、それは答えを言っているのと同じ事。

「では学園に来るしか無いのだけれど・・・」

 ノエルの声がはっきりと沈む。

 ミレイユは、それこそ半日静馬と話して居られる程
 下手をすれば、騎士であるノエルより、ジョスト好きである。
 では学園でジョストの練習を見学していれば、多少長く待っていても退屈はしない。

 ウィンフォードは姉であるノエルが通っている学園で、アスコット家は貴族なのだから多少の融通は効く。
 姉の姿を見に来たのだと言えば、造作もなく学園には入れるだろう。
 ・・・だが、その選択肢は姉妹にとっては、有り得ない

 むしろ、ミレイユがウィンフォードに居たことが知れれば
 それがたとえ静馬に会いに行ったのだとしても、そんな事は問題に成らず
 ノエルが今もジョストを続けていることに、問題がずらされることになる。

 彼女達の父であるアスコット侯が、ノエルがジョストをすることを・・・
 いや、ジョストそのものを嫌悪しており
 ノエルはそれを聞かずに今も続けている事に、ただでさえくすぶっている火種である。
 
 何か言われれば、言い返さなければ有無をいわさず決定事項になってしまう。
 しかし、ノエルにはジョストを止める訳にはいかない理由があり・・・結果、二人は言い争うことが少なくない。
 普段はそこへ話題の焦点が移ることを躱して、なるべく穏便に過ごしているが
 この件が発覚すれば、それは避け様がなく・・・

 そんな危険な不発弾を掘り返すような真似は、正直避けたいと言うのが姉妹二人の共通した本音。

「せっかくこうして頼ってくれたのに、魔法のような解決策を・・・という訳にはいかなくてごめんなさいね」

「いいえ、魔法のように解決されてしまったら、そんな事も気がつけない愚か者と自己嫌悪してしまいます。
 それに騎士様は言われました、私は淑女で子供ではないと。
 ですから、子供のように泣き喚くことも、すぐに放り出すこともしません。
 ・・・私は、戦うことを禁じられているわけではないのですから」

 余りに穏やかで、気品溢れた笑顔をミレイユに向けられて
 ノエルが驚きのあまり、数度瞬きをしてミレイユを真っ直ぐに見つめ
 たしかにそこに、子供ではない淑女を見出し・・・

 一体誰なのかはしらないけれど

 これはなんとしてもミレイユの意中の殿方を、自分の目で見てみなくてはならないわね

「貴女を相手の騎士様に絶対に会わせてみせるわミレイユ。
 その時は、是非とも貴女の姉として紹介して欲しいのだけれど・・・」

「お姉様は勇敢な方だとは前から思っていましたけど
 ジョストの騎士をなさっているのですから
 それ以上馬に蹴られるの機会を増やすのは、おすすめしません」

 顔を見合わせたミレイユ、少し遅れてノエルの口から
 抑えられてはいるが、夕食の時にはなかった楽しげな笑い声が部屋に流れだした。

 2012.12.09


   

~ Comment ~

誤字発見しましたのでとりあえず 

こちらの作品はまだ読んでる途中ですが、誤字と思われる部分を見つけましたので
恋にライバルはつきものだけど・・・

 終いで一人の男性を取り合うなんて、スノップ記事も真っ青な事

 音尾様が知ったら、卒倒してしまうのではないかしら。
の文章の「終い」→姉妹 「音尾様」→お父様 では無いかと

 そこには姉が絶対に自分の見方になってくれるという信用と

の文章の「見方」→味方 じゃないかな~と

いつも作品楽しく読ませていただいてます

Re: 通りすがりさん 

コメントに感謝を。
正直な所、悲恋姫以外を誰かが読んでいるとは思ってもみなかったので
下書きをキーボードで打ち込んでupしなくてもいいのでは?と思っていた所に
こうしてコメントいただけたので、やる気を頂きました。

そして、大変丁寧な御指摘に重ねて感謝を。
誤字・誤変換の指摘は、指摘された箇所を探すのが一番大変なので、大変ありがたいです。

iPhoneから修正すると、汜水関が文字化けして逆に手間が増えるという誤字・誤変換潰しですが
なんというか、こうも丁寧な御指摘をいただけて救われた気持ちです。ありがとう御座います。
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