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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第三十六幕「品と格」

 
 私がリサに恋をしていると、あの変態男は断言した。

 自分が変態だからって、人を同性愛者呼ばわり・・・

 馬鹿じゃないの、そんな事ある訳無い

 私はリサを倒して、唯私を認めさせたいだけ

 それだって、目的の通過点にすぎない

 幾つ否定を重ねても、フィオナの心は一向に晴れる様子はない。
 何故なら、フィオナは知っているから。
 静馬の言葉は、フィオナを馬鹿にする意図はなく
 非難の意志など其処には介在しないのだということを。

 そんな事をする男ではなく、不確実な・・・
 少なくとも一面でも真実の側面がなければ、断言などする男ではない
 ・・・この上なく誠実な、詐欺師なのだから。

 しかし、だからといって素直にその言葉を受け入れることが、フィオナには出来ないのもまた事実。

 いくら静馬が恋愛感情ではないといった所で、『恋』と言う言葉には
 年頃の少女には特別な響きを持つ魔法であり、呪いでもある。
 そんな思春期真っ盛りの少女が、君は同性に恋をしていると、異性から指摘されたのだ。

 頷けない、頷けるはずがない。

 フィオナであれば、間違いなく・・・真っ向から否定する。
 
「結局・・・誰かの力を借りなきゃダメなんだ?」

 それは失望であり、嘲笑であり・・・裏切り者への痛烈な非難であった。
 投げかけられたリサの動きが、その一言で強張り凍りつくほどの

 さんざんベグライターは必要ないって言っておいて

 なんだ、やっぱり他の騎士と同じじゃない

 なら・・・もうリサなんて恐くもない。



 『ただの騎士』なら、ドラゴンの私に噛み殺されればいい。



 リサは、何も言い返すことも出来ず、フィオナの言葉に黙って俯いた。
 確かにフィオナからすれば、リサの変心は裏切りでしか無く
 フィオナは今も、ベグライターを受け入れていないのだから。

「まぁどうでもいいけどね。
 それよりリサ、あの人の何を信用してベグライターにしたの?
 この前の決闘でもてはやされてるけど、アレって結局は騎士の先輩が頑張っただけで、あの先輩のタクティクスは失敗だったし
 情報収集も、暴力男・・・カイル先輩だよりでしょ?」

 冷静な指摘を一つ一つ指を折りながら重ねていく。
 別段フィオナが貴弘を感情的に嫌っているわけではなく、相手の能力が本当に必要なのか、という問い掛けだけに
 リサも正論で返そうと口を閉じ、思考を内に向ける。

「好きになっちゃったから、隣にいて欲しい・・・
 なんて理由なら、ベグライターじゃなくても良いんだし
 やっぱり、リサの成績であの人を進級させてあげるってことなの?」

「ちがっ・・・」

 反射的に否定を口走るリサに、フィオナがふ~んと、おざなりに相槌を打つ。
 完全に誰が見ても信じていないことが解るその姿に、なおも言い返そうとしたリサの機を制して
 フィオナは笑いながら、解っているとばかりに、小さく頷き返す。



「そうだよね、やっぱり愛する先輩の代わりに、騎士としての成功をリサがしてあげようってことでしょ?
 優しいよねリサは、自分の主義を曲げても、騎士として挫折した先輩に寄り添う方を選んだんだから。
 一人じゃ何も出来ない先輩を、見捨てられないよね」



 リサの顔から表情が抜け落ち

 まったく感情の乗らない人形のような問いが

 口の端からこぼれ落ちていく。

「・・・なに・・・それ」

 ん?とフィオナが首を小さくかしげ
 それってどれ?と、目に笑いを浮かべながら、からかうように問い返す。
 それは、完全に相手の問いを理解した・・・捕食者の笑み。

「挫折した騎士って、一体何のことなの、フィオナ」

 続く問いを発したリサの声は、暗く低く歪められた代物。
 眇めた双眸から、射抜くような視線を向けられたフィオナはといえば
 涼しい顔でせせら笑いながら・・・えっ?聞いてないの?と、誂うように問い返す。

「てっきり、そっちの実績で採用したんだと思ってたんだけど
 好きになっちゃった、っていうほうが正解だったとはねぇ」

「そんな事はどうでも良い、貴弘先輩が・・・挫折した騎士って」

 掴みかからんばかりに詰め寄るリサに、フィオナは肩をすくめながら

 ・・・そっぽを向いて唇を歪めてみせる。

「どういうことも何も、本当に聞いてないの?
 聞いての通り、そのままだけど?
 昔は結構凄かったらしいよ、静馬先輩が羨ましがってたくらい。
 騎士を廃業しても、顔がいい男は得だって」

 当然だが、静馬はフィオナにそんな事はいっていない。
 あくまで、自分の言葉に真実味を加え、嫌味を苦くするためだけに、フィオナがでっち上げたものだが
 貴弘が元騎士であることは、実際フィオナは静馬の口から聞いたのも事実であれば
 静馬が貴弘が二枚目であることを、羨ましがるような事を言ったのも事実。

 なにより、いかにも静馬らしい言い草に、リサはフィオナの言葉の正誤を疑いもせず
 フィオナの狙い通りに、苦い表情を深めいていく。
 だが、そんなリサ以上に、フィオナの心は苦味の泥に沈み込んでいた。

 フィオナには明確に、リサがこの話を貴弘本人ではなくフィオナから聞かされ
 苦くくるしむということを、わかっていて言葉を投げかけた。
 それでも、リサのように心のままに苦い表情を浮かべることも禁じ

 顔には薄ら笑いを浮かべて居なければならない・・・

 そういう立ち位置に、自分を置くことを選んでいた。

 * * *

「きまりだな」

 そっと置かれたその言葉は、会話の終止符ではなく、基点であった。
 異論はないと、無言でうなずき返されることまでが、まるで定められた事象であるかのように
 その場の二人は一切視線を合わせずに、会話をテーブルの上に配していく。

 静かに手を離された振り子

 或いは決壊寸前の堤防

 もはや止めることの出来ない事象を確認しているかのように



「フィオナは、竜に堕ちた」「フィオナは竜には堕ちない」



 相反する断言は、申し合わせが有ったかのように
 二つの口から同時に音となり、二人の中間で完全に重なり

 窓辺に立って外を眺めていた女性が、金色の紗幕を広げ振り向くサファイヤブルーの瞳と
 豪奢な肘掛け椅子にゆったりと座る、凡庸な男の僅かに笑うような黒瞳がぶつかったのも
 やはり同じ位置であった。

 額に細く白い指を当て、軽く首を振りながら別の手を抑えるように軽く前に出すスィーリア。

「否定したいのはわかるが、彼女は唯一の友人であるリサを傷つけ遠ざけた。
 これは竜堕ちをしたものの初期行動そのままだ」

 スィーリアの言う遠おり、竜に堕ちた・・・即ち『強さのみを求めた』者は、親しいものを遠ざける。
 それが平常への決別なのか、自身の内の暗い炎を消さぬためか
 ・・・親しいものを突き放すことだけは間違いない。
 であるのに、静馬の答えは真逆・・・道理に合わない。

「それとも、否定出来るだけの決定的な材料を握っているのかレッド」

 静馬は軽く肩をすくめてみせた。

 そんな物はなく、ただの勘だと言っているのか。
 口では説明できない、あるいは・・・説明してもスィーリアを納得させられない
 そんな根拠でしか無いのか、ともかく静馬はスィーリアの反論に
 自分の意見を取り下げる気はない、という意志だけを示した。

「お互い意見に根拠と自信があると・・・
 そうである以上、話し合って意見が変わることもないだろう。
 では、話合いではなく、戦いの時間というわけだなレッド」

 そこまで言ってから、スィーリアが急にイタズラっぽい笑みを浮かべ
 気品を落とさないままに、何処か挑むような目を向けてくる。

「いや・・・『無敗の騎士王』に、初めての敗北を刻んでやろう」

 何時に無く好戦的な調子のスィーリアに、僅かに面食らってすぐには反応できなかった静馬で有ったが
 違和感を覚える相手の態度、その根底を悟り小さく苦笑う。

 それは少しおかしな感覚で・・・
 しかし、スィーリアには不思議と似合ってもいた。

 つまり、彼女は自分の冷静な思考の結果たどり着いてしまった、フィオナの竜堕ちという結論を
 自身が確信を抱いたその答えを、静馬に否定してもらいたいのだ。
 フィオナという、未熟で、生意気で、繊細な・・・この上なく難解で複雑な少女を
 本当に、妹のように心配しているのだと言い換えてもいい。

 そこに、すぐ気付けぬ私は・・・

 女性の扱いというものがまったくわかっていない、朴念仁ということか・・・

 密かにため息をつくのを、目ざとくスィーリアに見つけられ
 お手上げとばかりに両手を上げてみせてから、前髪を珍しく乱暴に掻き上げる。
 一つ大きめなため息を付いて見せながら、はっきりと頷き返し

「さても、その異名を出してまで勝負の場に引きずり出したいと、貴女が思う程のなにものかを私が持っている・・・などと自惚れていたいところだが。
 古い友人として、まずは忠告をしなければならないかな。
 学生会会長が、賭けの真似事というのは些か不味いのではないかな、スィーリア嬢」

 スィーリアがその言葉を耳にして、小さく笑みをこぼした。

 静馬が『気付かないふり』をして、彼女の望みを叶えることを選んだのだと気づいた
 その目は静かにそう告げながら、口にしたのは感謝の言葉ではなく
 まったく別物の・・・わずかに笑いを含んだ、何処か楽しげな声。

「何を言っている、賭け事などはしない。
 私は勝負といったのだぞレッド
 私達二人が掛けるものなど、互いの騎士の誇り以外の何がある」

 2012.11,10
 


   

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