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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

 第三十四幕「透き通る刃は避け難い」

 
 小春日和というものが、この地にあるのかはさておき

 厚手の上着を必要としていた昨日とは打って変わって
 上着を脱いでも汗ばむほどの良い陽気に恵まれたことを喜びつつも
 その急激過ぎる変化に、人々は少しぐったりとした顔をしていた。

 額の汗を拭い、日陰を伝い歩くようにして歩む流れの中では
 注意力は、当然ながら普段の水準を大きく下回り。
 反応も気だるさに悪くなるのは、仕方がないのかもしれない。

 寒さに縮こまった昨日

 暑さに緩んだ今日

 この急激な落差は心の準備はもちろんの事、肉体の順応は年齢に反比例して、低下する。
 そんな中にあって、街中でも目立つ小さな女の子の姿に
 普段通りの注意が払われなかったとしても、誰が非難されることでもない。

 むしろ、近づいてくればめんどくさそうに無気力な動きながら
 その少女が通れるようにと道を譲るため、僅かばかり端による
 それだけの対応をしたことが・・・

 基本的にこの国の人々が、大らかで親切な人が多いことの証だといっていい。

 こんな陽気でさえなければ、笑顔とともに路は譲られ
 幾人かは、女の子に明るく声を掛けただろう。



 炎天下の下、赤い顔をした少女が石畳の上を進むのが・・・自分の足ではなく車椅子で、なのだから。



 どう見ても、元々が体力があるようには見えず
 ・・・どころか上品で儚げな、小さな女の子が
 見た目通りの細腕で、一人大冒険を敢行していたが

 人々の善意が、小さな段差に行く手を阻まれた女の子の
 困った表情に気付けるほどの、ほんの小さな余裕を
 この陽気は奪ってしまっていた。

 無理矢理に乗り越えようと幾度か挑戦したものの、その悉くを段差に跳ね除けられ
 強い日差しに当てられ、ひたいに汗をかいた顔は、一層赤みを増して
 一瞬の目眩とともに、車椅子を操っていた小さな手から力が抜け

 後ろ向きに車道へと進み始めた瞬間、大きな手が車輪を掴み止めた。

「気をつけないと、危ないよお嬢さん」

 軽い調子の声と同様、片手で軽く掴まれただけであったが、あっさりと車椅子は動きを止め
 暑さに朦朧としていた女の子の視界が、掛けられた声と小さな反動に我に返って焦点を結ぶ。
 現実に取り残されかけていた女の子は、視線をゆっくりと上げて手の主を見つけ。

「すみません。それと、ありがとうございます」

 丁寧にお辞儀するその姿に、僅かに驚いた目を向けつつも
 手の主は小さく微笑みながら頷き返し・・・
 車椅子の車輪を掴んだまま、片膝を着いて女の子に目線を合わせる。

「大変失礼しました、私もまだ修行中の身故、平にご容赦を」

 突然改まった相手の言葉に、女の子は怪訝そうに見つめ返してくる。
 いくつか思い当たるフシはあるものの・・・そのどれもが、余り嬉しくはない
 相手の態度の急変ということに、女の子の表情は曇りゆく。

 だが、女の子の思い浮かべたどの可能性からも
 掛けられた続く言葉は、ひょうひょうと身を躱し
 軽やかに女の子の耳へと流れこんでくる。

「貴女が子供ではなく淑女だったとは。
 名誉挽回の機会を是非この私に。
 エスコートさせていただけましたら、無上の喜びです姫君」

 ・・・えっ

 目をぱちくりさせながら、まじまじと相手を見てしまい
 直ぐ様、自分がとったその不躾な行為に頬を染め、目を伏せる。

 見知らぬ人について行ってはいけないと言われているし。

 お姉さまには、口のうまい男に気をつけるようにも言われている。

 でも、助けてもらった相手の申し出に、無下に断るわけにも・・・

 女の子が逡巡している様子に、自身が疑われている事に思い至った男が
 その小さくほっそりとした、白く柔らかい手をとり
 手の甲に唇を押し当て微笑み返す。

「ウィンフォード学園騎士科二年、山県静馬と言います。
 騎士の誇りに掛けて、他意はないことを誓います」

 言われてようやく男の身に着けている服が、ウィンフォード学園のものだと気づき
 名乗った名前に聞き覚えがあることを思い出す。

 ヤマガタ・・・ヤマガタシズマ・・・何処かで聞いたような気がするのだけど

 一体、いつ誰に聞いた名前だったのか・・・

「あっ・・・もしかして、『無敗の騎士王』さん、ですか?」

 口に出してしまってから、その時の姉が苦笑いを浮かべながら
 そんなあだ名が付いた由来を説明してくれた内容を思い出し・・・
 慌てて両手で口を押さえながら、ばつが悪そうな表情を浮かべ
 女の子が下から伺うように見上げる。

 再度、女の子の予想は静馬に覆された。

「いかにも、少々雅に過ぎる異名ですが。
 それを知っているということは・・・
 姫に親しい方がウィンフォードに在学中、或いは教鞭をとっているということですね」

 怒って立ち上がるどころか、全く気分を害した風もなく
 むしろ、それならば話が早い、とばかりに静馬は笑いだした。

「さて、しかし困った・・・その異名を知られているとなると
 先程私の掛けた『騎士の誇り』に、姫が価値を見いだせなくなってしまう」

 それ以前には『騎士モドキ』『槍持たずの騎士』などと呼ばれていたことは
 静馬の予想通り、女の子も姉から聞いている・・・
 だが、目の前の静馬はそこから想像していた姿と、全くといっていいほど違っていた。

「そんな事ありませんっ、確かに、貴方のジョストの騎士としてのお話は知っています
 でも、見ず知らずの私が困っているのに、手を貸してくださいました。
 私は、貴方を他のどんな騎士よりも、その誇りに重きを置きます」

 身を乗り出すようにして、熱弁を振るい・・・
 女の子は、不意に思い出したかのように慌て出す。
 
「申し遅れました、私はミレイユといいます。『無敗の騎士王』さんのことは・・・」

 ミレイユに掌を向け、静馬は軽く首を振り言葉を遮る。

「お名前だけで十分、私に詮索する気はありません。
 なにより、どうやらミレイユ姫はお忍びのご様子。
 それ以上を聞いてしまうと、私も騎士としてお家の方に連絡を取らねばなりませんが・・・
 知らなければ、そんな義務は発生しない」

 悪戯っぽい笑みを浮かべ、片目をつぶってみせながら立ち上がると
 車椅子ごとミレイユを抱え上げ、段差を踏み越えてゆっくりと下ろす。

「では参りますか姫・・・と言いたいところですが。
 私の点数取りに付き合っていただけるのであれば・・・
 そこのオープンカフェで、冷たいもので一息つくのはどうでしょう?」

 * * *

 出されたアイスクリームを掬いながら、ミレイユが振った話題のほとんどがジョストの事。
 相手が騎士科の学生ではあるが、『無敗の騎士王』の悪名を知っていた為
 最初はジョスト関連のことを話題に出す事を、ミレイユは意識して避けていた。

 しかし、先程静馬にミレイユの家に関する話題を、先んじて止められており
 かといって、男性相手にお花の話をする、という賭けに出るのは躊躇われ・・・
 ミレイユのなかでは、妥協案という形で馬についての話を切り出したのだが。

 ジョストの相棒にする馬は、実は負けん気の強い気性の荒い馬よりも、乗り手を気遣う優しい馬が良い

 などと、ミレイユの気遣いを、静馬は当然ながらあっさり看破した上で返し
 見ぬかれてしまう下手な気遣いは、逆に静馬に気を使わせるだけだと早々に悟ったミレイユが
 かなり突っ込んだ、一部においては専門的過ぎる、或いは素人故に抽象的過ぎる内容をぶつけても

 それこそ、馬銜の素材についてから、スィーリアがなぜ強いのかということまで。

 静馬は飄々としたいつもの調子で、それに丁寧に答えていった。

 並の騎士では答えられないほど、各方面に豊富な知識量
 どう考えても、実体験から来る重みのある言葉
 それを、素人のミレイユにもわかりやすく、噛み砕いて

 その内容に興奮し、実体験ならでわの現実感に感心し、多彩な表現に引きこまれ・・・
 当初の目的も懸念もをすっかり忘れ、ミレイユは静馬との会話にのめり込んだ。
 静馬のカップをコーヒーが三度満たした頃、ミレイユは、当然ながらひとつの疑問に行き当たる



 何故、戦わないのだろうか?



 もちろんミレイユも、知識が豊富で、実体験があっても
 それがそのまま騎士の強さにならない、と言う事くらいはわかる。
 頭で理論がどれほどわかっていても、フィジカルがそれについていかないことなど
 誰かに言われなくとも・・・一番良く解っている。

 それでもミレイユには、静馬が弱いとはどうしても思えなかった。

 それは即ち、弱いから戦うのが嫌で戦わないのではない、ということで・・・
 逆説的に、強いのに戦わない程の理由があるということでもある。
 だが、それを聞くのは余りに無神経で・・・
 今日会ったばかりの自分が、口にしていい言葉ではないことも、わかっていた。

「さても、愛らしい顔を曇らせる理由に思い当たるフシは一つだけですが
 そこは口先だけの腰抜け男だから・・・と納得してもらえれば、私としては大助かりなのですが」

 肩をすくめ、片目をつぶってみせる静馬の左手をミレイユが掴み
 真直ぐに、それこそ睨み殺さんばかりの真剣な目で見つめ・・・
 ゆっくりと、首を横に振った。

「残念ですが、その願いは聞けません。
 騎士シズマ様、私は車椅子での生活をしているのです。
 貴方が無意識でも、両腕を庇う様にしていることにはすぐに気づきます。
 そんな腕で、見ず知らずの私を助けて下さった方が、口先だけの人であるなんて、絶対にありません!」

 必死に訴えてくるミレイユの瞳は澄み切り過ぎて・・・真っ直ぐ過ぎて
 普段口にするような軽口で煙に巻くことも出来ない。
 してしまえば、その行為は肩透かしではなく、不誠実となる。

 静馬は、自分を騎士と呼んでくれた小さなお姫様に・・・

 向けられた素直な心を、裏切ることは出来なかった。

 故に、彼のミレイユに掛けた言葉は誠実で
 ミレイユの言葉は感謝の念と悪意のない心からの言葉である為に
 子供故の素直さと・・・悪意の無さが、静馬の逃げ足を絡めとった。

 仕方がないと静馬は小さく困ったように笑い

「戦わないのではなく、私はジョストをすることを禁じられているのです姫」

 穏やかに流れる優しい声
 その内容が余りに予想外なもので有り過ぎて
 ミレイユの口から零れ落ちたのは、呆然とした言葉にはならない声



「・・・え?」



 2012.09.29


   

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