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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第三十二幕「意地を張るのは独りで」

 
 通りがかった廊下で、見知った後ろ姿を見つけ、フィオナは無意識に手を上げ声をかける。

 昨日のリサの試合が、何も問題なく勝利を収めたことに気をよくして、という部分は
 今にも鼻歌でも流れだしそうな程に上機嫌な理由の、大きな位置を占めている訳ではない。

 はっきり言ってしまえば、今回の相手は茜より数段腕が落ち
 フィオナにとっては、それほどリサの試合を見ていても得るものはなく、再確認程度
 逆に細かい部分を注視できたと言えなくもないが、気付かされるものも多くはなかった。
 極端な評価をしてしまえば、フィオナにとっては無駄な試合と言ってもいい。

 では何がフィオナの機嫌をよくしているのかといえば

 リサにつきまとって居る・・・とフィオナは思っている貴弘を、リサが拒否したという事実。

 玲奈が半ば強引に、今回だけでも貴弘にベグライターをお願いしたらどうかと推し進めるのに
 流される形でリサは、本当に不承不承だがそれを半ば受け入れかかった。
 
 ベルティーユ先輩と美桜先輩の試合前の練習を見に行った時も感じた。

 リサは、誰かに受け入れられたがっている。

 誰かに、護ってもらいたがっている・・・

 それは悪いこと、とは言い切れない。
 でも・・・此処で、こんな中途半端な所で曲げたら
 甘えて、ぬるま湯につかってしまったら、リサはもうまっすぐには立てなくなってしまう
 自分が曲げたという事実に押しつぶされて、スィーリア先輩には勝てない
 勝つどころか、その足元にたどり着くことも出来ないだろう

 玲奈先輩も、水野とかいう先輩も、間違ってる

 二人に悪意があるとは思わない、いやむしろ善意で動いているんだろう。
 二人は挫折を経験して乗り越えた経験者だ、それがどれほど辛く苦しいのかを知っている。
 知っているからこそ、今のリサにそれが乗り越えられるのか、心配して手を出しているんだ

 天才のリサは、今まで挫折らしい挫折を味わって来なかった
 才にあかせて突き進んで来たリサが・・・危なっかしく見えて。
 なんとかその苦い思いから回避させる
 回避は無理でも、せめて軟着陸させるようにとアドバイスしているのだ
 挫折で折れても、誰かが支えられるように。

 だから・・・経験者だから、判ってない

 いや、解ったつもりになって、勘違いしている。

 自分たちの経験から、『自分の物差しで』リサの限界を測っている事に
 此処で支えを得てしまったら、リサが独りで行き着ける限界まで
 その才を伸ばしきってから折れることが出来ないということに気がつけない。
 リサの・・・天才の伸びしろが、まだまだ有ることが理解できていない



 そしてもうひとつ、挫折から得られる物が、結局は自分一人で掴み取らなければならないということも



 現在進行形で、挫折の苦さを噛み締めているフィオナだから解る

 その時に必要なのは、庇ってくれる味方や逃げ場じゃなくて

 本当は・・・ライバルや敵だってことに。

 フィオナは玲奈に敵対するような危険を犯してまで
 強い言葉を使い、突発的な暴力に訴えられることすら覚悟して、貴弘の神経を逆撫でし
 リサに話しかける機会を潰し・・・貴弘がリサに踏み込もうとするタイミングを、可能な限り潰した。
 リサを護るという、ただそれだけのために。

 そんなフィオナの思いを知ってか知らずか、リサは貴弘を拒絶した

 はっきりと、面と向かって、ベグライターはいらないと

 * * *

「先輩、そんなところで何やってるんですか?
 もしかして次のナンパ相手の物色とか、下調べとかですか」

 背後から掛けられた声に右へと顔を向け
 右の肩越しに後方を確認した静馬は、フィオナの姿を見つけ
 右目をつぶって人差し指を自分の口の前に立てて見せる。

「やあフィオナ、そんなトップシークレットを公衆の面前で口にしないでくれ
 でないと私は、明日から変装をして学園へ通わなければ成らなくなってしまうからね」

 言いながらも開けた窓に肘をついたまま、身体の向きを変えようとせず、静かに微笑みかける静馬
 フィオナの表情を確認すると、何も言わず身体をずらし横に並べるようにスペースを開ける。
 やや憮然とした表情のまま、しかし文句を言わずフィオナは黙って空いたスペースに身体を滑りこませ
 静馬の向いていたであろう視線の先を探る。

 このナンパ男が、こうしてあからさまな話題そらしをしたってことは

 教える気はないが隠す気もないから、自分で探せってことでしょ、どうせ。

 程なくフィオナは静馬が見ていたであろう対象を見つけ
 先程までとは違う、振りではない不機嫌そうな声をあげる。

「水野、先輩?」

 呟くようにもれた無意識の問い掛けに、静馬は肩を軽くすくめると
 態とらしい溜息をついてみせた。

「まったく、困った男だよ。
 誰よりも・・・三度の飯よりジョストが好きで
 騎士を廃業し、ベグライターになった今もそれは変わらない。
 それなのに、黙って隣にいるだけで勝利が転がり込んでくるほどに強い騎士
 誰もが隣にいたいと願うほどに美しい女性からの、誘いを断ったそうだ。
 彼は一体何を求めてその手を振り払ったのだろうね」

「・・・羨ましいんですか?」

 ジトッとした目で薮睨みに、下から見上げてくるエメラルドの瞳は
 窓際に居るというのに、普段の明るさと比べ物にならないほどに暗く深い。
 その向けられた先で、静馬の口の端が微かに上がる。

「まさか・・・
 私の勝利の女神であるフィオナ相手だから正直に白状してしまうが
 実は、困った男は此処にもう一人いてね
 学園最強騎士さま直々の誘いを
 『勝利の女神は気まぐれで気分屋だが、不誠実を最も嫌うので嫌われるようなことは御免被る』
 と断ったそうだよ」

 喉を噛み千切られるのではないか、というほどの速さと剣幕で向き直るフィオナに
 静馬は落ち着かせるように、降伏するように両の掌を向ける。

「念の為に誤解の無いように言っておくと、スィーリア嬢の提案は彼女なりの私への気遣いで
 言うまでもなく、腕の負傷はあっさりと彼女に見破られてしまった。
 そして、当然ながら私が断ることも織り込み済みの提案だよ。
 『無敗の騎士王』などと呼ばれ物笑いの種にされてはいるが私も騎士だ
 ベグライターの真似は・・・出来ない」

 笑いながらそういう静馬。
 静馬を腰抜けと評するフィオナや、馬鹿にする多くの者たち
 或いはただ変わり者としか静馬を見ようとしない者たちには
 それは普段と同じ態度に見えたかもしれない。

「はぁ・・・わかってましたけど、先輩ってやっぱり馬鹿なんですね」

 本当に、何処まで馬鹿なんだろう。

 あきれて物が言えないっていう言葉は、多分この人のために、誰かが創っておいたに違いない。

 負傷を理由に今年の大会はベグライターとして参加したいって言えば
 綾子先生だって大喜びで診断書を学園に提出するだろうし
 学園側も多分それを認めない訳にはいかない。

 何しろ負傷したのが、ベルティーユ先輩を落馬から助けた為なのだ。

 下世話な話になるが、ベルティーユ先輩は貴族の令嬢だ。
 スィーリア先輩のような大貴族とは家格は並ばないが、かなり羽振りのいい
 となれば、当然此処ウィンフォード学園にも多額の寄付金を収めていることに成る。

 その御令嬢を、我が身をなげうっても助けたとなれば・・・進級のために多少の無理は効くだろう。
 騎士がベグライターとして、学園最強の騎士と組んだ成績であろうと
 明らかに筋違いなそれを以って、進級するに十分とすることに、学園から物言いを付けられない程度には。

 変態で、気障で、ナンパ男だけど

 スィーリア先輩は、弱いって断言していたけど

 静馬先輩は、腰抜けなんかじゃない。

 フル装備の落馬した騎士を、下手をすれば自分が下敷きになって死んじゃうかもしれないのに
 迷わず飛び出して助けちゃうくらい・・・嫌になるくらい騎士、なんだよね
 かっこつけて断っちゃって・・・ほんと、馬鹿

 だから、ベグライターの真似をしてまで進級するような
 そんな恥知らずなことを、この人が・・・受け入れるはずなんて無いんだ。
 
「ねぇ静馬先輩、一年私よりも長く生きてる分、経験があるって言い張っているから
 一応、顔を立てて参考までに聞いてあげます。
 リサにベグライターは要ると思いますか?」

 フィオナの問いかけを聞いて、妙に納得した表情で静馬は頷く。

「なるほど、そういう事か。
 これはますますもって困った男だ、まるで花園か何かのようだね彼の周りは」

「・・・羨ましいんですか」

 下から睨みつけるフィオナに、仕方がないなと肩を竦めながら、はっきりと頷いてみせる。

「此処で羨ましくないと答えれば、私の美意識が疑われるか、不誠実の烙印を押されるだろうね。
 ただ、彼と立場を入れ替えたいかと聞かれれば、答えはNOだ。
 なにより私は彼のような二枚目ではないから・・・
 彼のように、皆から好意を向けられる、ということにはならない自信がある」

 胸を張って笑いながら自信満々に言い切る静馬
 幾つかの失笑が周りから漏れているのも気にした風もなく
 窓枠に肘をかけたまま、貴弘を眺めやり言葉を続ける。

「となると、皆が私に好意を向けている状態で、私があの立場に成るという事は有り得ないので
 冷静になって考えれば、羨ましいとは余り思わない、かな」

 断言というには余りに柔らかい口調で言い切った静馬が、笑いを堪えているフィオナにそっと視線を向け

「何より彼には勝利の女神がいないが、私にはいるからね」

 そう言いながら、唇の端を笑いに歪め
 全く様にならないままに、片目をつぶってみせた。

2012.08.07


   

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