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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第二十九幕 「自己完結の罠」

 
「貴女が勘違いしてる事を、一年生ですから特別に、三つ指摘してあげます」

 促されるままに椅子に腰を下ろしたフィオナに声を掛けたのは
 フィオナが席に着かないことで静馬を睨んでいたアン・・・ではなくエマ。
 しかしその声は、アンが口にする軽口よりも尚鋭く、容赦がない。

 反論を寄せ付けない、冷たさがある。

「一つ目。
 ベルティーユ様は男爵家の御令嬢で、正真正銘のお姫様ですので、先程の様な挑発にはのりません」

 フィオナの正しく計算違いであった一点を、正確に穿ち抜く。
 言い換えるのであれば、エマは・・・フィオナが目をそらすことも、言い返すことも出来ぬ、鼻先に
 フィオナに向かって『お姫様』と呼びかけた静馬の言葉を真っ向から否定するように

 『お前とベルティーユ様は違う』とつきつけた。
 
「二つ目。
 私達はベルティーユ様の友人を自認しています。
 どんな目的で先程のような挑発に及んだのかは知りませんし、知る必要があるとも思いません・・・が
 ベルティーユ様本人が許しても、おおらかと言うよりはお花畑という脳みそが気付かなくとも
 私達は決して、ベルティーユ様への本気での侮辱を許しはしません」

 エマはアメジストを溶かしたような、深い澄んだ瞳で
 静馬に促されるままに椅子に座ったフィオナの瞳を、射抜くように見据えながら
 静かで穏やかな声を以って、言い聞かせる。

 否、最後通告を叩きつけたのだ。

 次は・・・ありませんから、覚悟をして発言するように。

 怒りを顔にも声にも見せることはなかったが、エマは心底激怒していた。

「そのように高圧的に上から押し付けては
 私には私の、彼女には彼女の意見や価値観があるというだけの・・・」

 やんわりと割って入るというより
 何故かフィオナを庇うように口を挟んだベルティーユに、アンとエマが同時に顔を向け、鋭い視線を向ける。

「ベルティーユ様は黙っていて下さい!」

「・・・はい」

 二人のあまりの真剣な眼と、完璧にハモった声に、ベルティーユがすごすごと引き下がる。

「三つ目
 山県静馬は、どうしようもない女ったらしのナンパ野郎な上に、腰抜けの凡人ですが
 女性の趣味だけは良いのと、自分の分を知っている、身の程をわきまえた気障野郎です。
 そして、嘘つきの詐欺師ですが・・・ベルティーユ様も仰っていた通り、誠実という点が唯一の救いです」

 深いため息をつく静馬に、エマがかすかな笑いを浮かべるも
 直ぐに真剣な表情に戻ると、再び視線をフィオナに戻した。

「そこで質問です。
 貴女は、その席に座って、食事を一緒にしていきますか?」

 * * *

 テーブルの下で握りしめたフィオナの手が・・・確りと握り返された。

 静馬に手を引かれ席に腰を下ろしたところで、いきなり切り出されたエマの言葉に
 手を放すという思考にまで行き着かなかった結果の現状
 
 手を握り返した主の方へ顔を向けるが

 向けられた視線に気づいていながらも、静馬はただ穏やかに前方・・・エマの様子を見ながら、笑みをうかべているだけで
 フィオナのほうに顔どころか目線すら向けることはなく
 エマの言葉からフィオナを庇うような素振りは、何もなかった。
 
 そうよね、こうなったら私よりベルティーユ先輩の方に静馬先輩はつくわよね

 だって、今回は私が一方的に悪いんだから、当然そうよね

 胸の痛みを握りしめ、顔を上げたフィオナがエマを睨み返す。
 知らずに八つ当たりした前回とは違う
 今回は、わかって相手の誇りを傷つけようとしたのだ
 だから、フィオナにもはっきりと解っている。

 静馬先輩は私を、庇ってなどくれるはずがないのだ

 それでも、と思ってしまうのは仕方がない
 フィオナはまだ、夢見がちなと冠される年頃の少女で・・・

 この上なくみっともなかったり、無様であったりはしたものの
 静馬はフィオナの危機を幾度も救い・・・

 フィオナがお姫様だと認めるベルティーユを、目の前で救って見せたのだから

 ・・・でも、と自分の甘えた思考を即座に否定する程にフィオナは聡かった
 それ故に、彼女は自己完結にまでいたり・・・彼女は救われない
 いや、答えに届いてしまうが故に、『救われよう』としようともしない。

 変態で、気障で、ナンパ男だけど、静馬先輩は騎士・・・なんだよね。

 だから、目の前の女の人が友達を侮辱された義憤に駆られているのを、止めるはずがない。

 こうなってしまったら、私よりベルティーユ先輩の方に静馬先輩はつく
 
 だって・・・今回は私が一方的に悪いんだから、静馬先輩は・・・騎士だから

 胸の痛みを握りしめ、泣き言を呑み込んだフィオナは
 顔を上げ、睨んでいるといえるほどに強い瞳で
 エマを真正面から見つめ返した。

 * * *

 それは、言うなれば彼女の、知性の高さと、誇り高さの裏返し

 もし、自分が相手の・・・
 この場合であれば、静馬の立場であったなら、どう判断し、どう答えるだろうかと思考した結果。
 最も合理的に判断し導き出したのが・・・
 自分ではなくベルティーユの側につき、ベルティーユを庇うと言う選択。

 フィオナは、それが静馬にとって正しいのだと認識したと言うこと。

 感情的に、道理や論理も無視して
 どうして自分の味方をしないの!っと当たり散らすような
 理不尽な文句や、暴力をもって静馬を攻撃すること無く

 間違っていようが、正しかろうが、自分の味方をしろ・・・という
 恥知らずな主張をすることを呑み込んで
 真剣に静馬の・・・男性の思考回路をなぞって、口をつぐんだ。

 ・・・心のなかの葛藤も、弱さもなにも見せぬままに。
 小生意気で、腹立たしい馬鹿な少女との誤解を解かずに
 唇を噛み締めて、うっすらと目に涙をにじませながら
 それでも俯くことを拒絶して、エマを睨みつける

 不器用で、勝ち気で、子供っぽく・・・誇り高い

 静馬の、勝利の女神が、そこにはいた。



「美女どうしのにらみ合いは、その辺りで一旦止めてもらえれば助かるかな。
 何しろ折角の御馳走が冷めてしまうし
 何より、私の愛らしい女神様の口が悪いのは・・・チャームポイントなので」



 肩をすくめ、しれっとした顔で言ってのける静馬

 たった一言でその場の時を止め

 張り詰めていた、一触即発の空気を完全に破壊した

 今にも零れそうだったフィオナの涙は、引っ込んだのか消し飛んだのか
 一体どこから怒ればいいのか、はたまた恥ずかしがるべきなのか
 それとも・・・

「またそういう恥ずかしいことを、こんな人前でさらっと言って
 ほんと、静馬先輩はいつでもどこでも変態気障なのだけは変わらないですよね」

 眉間に皺を寄せて、頭痛でもするのかこめかみを抑えながら小さく首を振り
 考えがまとまる前に、混乱していたフィオナの口からは、ごく自然に呆れた口調の罵りが溢れ出る。

 不幸というならこれこそが不幸
 彼女の心の中と、口にする言葉は等号では結ばれない
 故に、彼女は誰からも理解を得ずに、評価をなされる。

「一年生、エマは三つしか教えてあげないみたいだから、アタシが教えてあげるけど。
 アンタ無礼者だけど馬鹿じゃないんでしょ。
 ならさっきベルティーユ様になに言われたのか覚えてんでしょ?
 山県静馬は女ったらしの気障野郎で詐欺師だけど、不誠実じゃない」

 私は静馬さんのそんな悪口はいってません、というベルティーユの弱々しい抗議を
 睨むようにしてアンが抑えつけてから、視線をフィオナにもどす。
 
「だから・・・
 さっさと両手をテーブルの上にだして組みなさいよ
 山県静馬の言う通りせっかくの御馳走が冷めて台無しになっちゃうでしょ
 料理が冷めたら、顔合わす度に嫌味言い続けるわよ!」

 フィオナは確かに聡く、相手の立場になって考えることが出来た。
 それは、相手の心情を慮って・・・或いは相手の立場を配慮してという
 能動においてはとても重要で、繊細な優しさである。

 しかし、同時にそれは相手が自分であったならという、所詮は置き換えでしか無く
 相手はフィオナではないのだという、極々単純な事実を見逃した。
 それが、フィオナの誤算・・・

 ベルティーユ、アン、エマの三人組は、対静馬という関係においてフィオナの数倍ものキャリアがあり
 女神だ、姫だという静馬の言葉に対する照れが、必死に平静を装うフィオナとは違い
 ごく自然に聞き流す『いつもの事』のレベルにまで、精神的耐性を備えていた。

 故に、フィオナの中で巻起こっていたような混乱は、彼女たちには無縁で
 理性的なエマとは違い、感情的と言うよりは感覚的なアンが、ベルティーユを侮辱にされたというこの状態において、一体どんな行動に出るのかなど、フィオナには予測しようもなかった。

 アンが静馬に対するお礼として、エマと二人で用意した食事が冷めるのに焦り
 テーブルに手をついて身を乗り出して腕を伸ばし
 まだテーブルの下にあったフィオナの手を、強引に引っ張りだすなどという実力行使に出るとは
 これっぽっちも思っていなかった。

 完全に居を突かれたフィオナは、咄嗟に抗うことも出来ず
 未だ静馬に握られたままの手を、テーブルの上に引きずり出され
 にやにやした目と、見守る様な温かい目に晒されて

 逃げ出すことも、暴れることも出来ず・・・

 味の分からない拷問のような会食を、その後三十分以上耐え続けた。

2012.06.24


   

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