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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第二十八幕 「嘘と真」

 
『女の子は皆お姫様だなんて、ウソ。
 私はベルティーユ先輩のように・・・お姫様になんてなれない』

 口に出してそう言えればよかった。
 いっそ泣くのを我慢できなければ
 素直にすがりつければ、気持ちは楽になっただろう。

 だが、それが出来ないのがフィオナだ。

 頭の回転は良く、勝ち気で、相手の気持を逆なでするのが異常に上手い
 酷く口の悪い・・・不器用で、誇り高い少女

 誇りに傷を負い、まだ傷口の塞がっていないフィオナには、ベルティーユはまぶし過ぎた。
 立ったままのフィオナの手を軽くひき、意識と目を自分に向けさせながら
 ベルティーユは優しく微笑みかける。

 促されるままにひかれた椅子に腰を下ろすフィオナに、満足そうに一つ頷いてみせ
 輝くような笑みを浮かべたベルティーユが、小首をかしげて静馬に無言で尋ねる。

 それで、こちらの可愛らしい方を、私に紹介はしてくれないのですか?

「彼女はフィオナ・ベックフォード嬢、騎士科の一年生にして
 私の、勝利の女神だというのは、カイルが今朝言っていた通り」

 ありがとう、とお礼を口にしながら
 突き出し続けるフィオナの手から制服の上着を受け取り袖を通したところで・・・
 いつもの罵声が飛んでこない事に、静馬が怪訝な表情を浮かべながら
 俯いたフィオナの表情を伺うように、控えめにそっとその表情を盗み見る。

「・・・うそつきっ」

 零れ落ちた言葉は途中で砕け散り

 椅子をひっくり返しそうなほど勢い良く立ち上がった音は、周りの注目を惹き付け

 場には、沈黙の幕が下りる

 そのまま俯いてしまったフィオナは、すっかり普段の負けん気の強さを失い
 何処か捨てられた子犬の様に、弱々しく震えていた。
 唇を強く噛み締めていないと、今にも嗚咽が漏れ出てしまうのではないかと思えるほどに



 つい先程までは、普段通りの態度だった。
 上着を突き出した時の声もいつも通りで・・・
 ベルティーユ相手だというのに、突っかかるような物言いも変えようとせず

 それが、いつの間にか一変していた。

 違う、それでは勝手に一人で彼女が変わったと、無責任に切り捨てる思考
 いつの間にか、と言わざるをえない程に、彼女が態度を急変させる何かがあったのだ
 それが、フィオナ以外には態度が急変するほどのものだとは、解らなかっただけで。

 ヒントは・・・『嘘』と、『ベルティーユ』の二つだけ。

 謎を解き明かすには、時間がほしいところだが・・・

 細く柔らかな金髪に隠れたフィオナの表情を、短く気付かれぬように盗み見た静馬が、内心でそっとため息をつく。
 許されるのであれば、頭でも掻いて、盛大にため息をつきたい所。
 
 フィオナの態度は、普段の誂って居るのでもなければ、拗ねているのとも違う。
 自分に騙された、或いは、信じていたのに裏切られたと・・・深く傷ついているもの。
 だというのに、フィオナのなにを裏切ったのかを、見当もつかないのだ。

 どうにも、弱ったなこれは・・・

 そんな思いが顔に滲んだのだろう、小さくベルティーユが笑い
 視線をフィオナに戻すと、優しく微笑みかける。

「静馬さんは、不誠実な正直者と、誠実な詐欺師のどちらかと言われれば、誠実な詐欺師ですから。
 うそつきなのは仕方のない事なのですよ、フィオナさん」

 ベルティーユの発言に、完全に虚を突かれたフィオナは、一瞬だが完全に思考が停止した。
 そのほんの一瞬だけ出来た思考の間隙に滑り込んだのは、静馬の困った顔で漏らす言葉・・・ではなく
 あけっぴろげとしかいい様のない、遠慮も容赦もない笑い声。

「上手いこと言い過ぎですってベルティーユ様
 エマなんて・・・ほら、笑い転げるのに耐えるのに必死で
 危うく運んできた料理、ひっくり返しそうになってますし」

 上に湯気の立ち上る料理を満載した皿をいくつも載せた、銀の大振りなトレイをテーブルの上に置くと
 肩を細かく震わせて必死に笑い出すのを耐えているエマの手から、同じような状態のトレイを受け取ってやり
 上品・・・とは言いがたいが、手慣れた様子で素早く皿をテーブルの上に並べていき
 そこでようやくフィオナの存在に気付く。

「あら、見掛けない顔ね、一年生?
 まぁいいわ、どうせ山県静馬の被害者でしょ?
 どんどん言いたい事言ってやりなさい、此処には味方が三人もいるんだから
 アンタ、相っ変わらず見境なしの手当たり次第口説き回ってるわね山県静馬
 そのくせ、身の程だけは知ってるのが、逆に小賢しくって腹が立つわ」

「まぁ、自惚れて勘違いしたナンパ男よりは随分とマシですが
 変な勘違いをしないで下さい、私は別に褒めているわけではありません。
 比較対象が低俗過ぎるのでわかると思いますが、そんな者に劣るのであればもうお終いだと、嫌味を言っているだけです」

 嵐のように罵詈雑言をまくし立てるアンに呆気にとられている隙に復活してきたエマが、絶妙のタイミングで言葉を拾い、畳み掛けるように嫌味を口にしながらグラスを並べ
 フィオナを包み込むようにしていた、深刻で暗い雰囲気を何処かに吹き飛ばしてしまう。
 ようやく現実に追いついたフィオナの頭に、最初に浮かんだのが

 もしかして、静馬先輩がいつもヘラヘラしてるのって、この人達のせい?

 ・・・というものだったのも無理からぬ事。
 だが、直ぐにも我に返り、ベルティーユ一味に流されそうになる心が、再び沈み込む。

 私はあんなに明るく脳天気に笑えない

 あんなに穏やかに、嫌味を聞き流せない

 あんなに上品に、向けられた悪意を受け止められない

 私は全然・・・お姫様なんかじゃない。

 静馬先輩は、ベルティーユ先輩の言うとおり、嘘つきだ。

 

 普段の様子とは全く違う反応をする今日のフィオナ。
 何時もどおりだと思っていたが、同じなのは声と態度だけ
 口にした言葉は、何時もどおりではなかった。

 上着をつきだしてきた時から、何処か何時もとは違っていた。
 嫌そうな顔と、突っ慳貪な態度は、いつものとおりだが・・・
 何時ものフィオナなら、何も言わずに黙って上着など突き出しはしない

 誂うような、と静馬が評する・・・
 他の人間からすれば、気持ちを逆なでする様な事を言って来たはず。
 だが、その矛先は静馬ではなく、ベルティーユに向いた

 黙っていれば美少女・・・

 だがそれは、ちっともフィオナらしく無く
 綺麗で、大人しく、物静かな・・・まるでよく出来た人形のようで
 静馬の『勝利の女神』ではなかった。

 ・・・そういうことだったのか。

 我ながら鈍感過ぎる、これは呆れられても、非難されても

 否定どころか、言い訳も出来ないな・・・

 自分で自分の頭の回転の悪さに呆れた静馬だったが
 そこで悩みこんだり、後悔をしたりという、時間の贅沢な浪費を選択することもなく
 瞬時に思考のチャンネルを切り替える。

 つまりは、さっきまで演じていた姿が、フィオナにとっての『お姫様』で

 フィオナは、ベルティーユにそれを見て・・・俯いたのだ。

 自分のそれは偽物で、ベルティーユのこそが本物だと。
 お前は、本物にはなれないと、つきつけられたように感じて。

 だから、咄嗟にベルティーユ嬢に突っかかって行った

 それも真正面から、意識してか無意識かは解らないが

 ベルティーユ嬢がそれを躱さずに、受けて立ってくれると信頼して

 フィオナの計算違いは、ベルティーユがフィオナが信じている以上に
 嫌味を嫌味として取らず、心底『真正面』からそれを受け止めてしまったこと。

 言い返されて決別すれば自分に言い訳が出来たし
 そも自分を傷つけて距離を取るのが目的だった
 しかし、そう受け止められて包み込まれてしまっては・・・

 フィオナは避けることも、さらに押すことも出来ない。

 逃げ場を失った心が、助けを求めた悲鳴が・・・『うそつき』だった

 責任転嫁といえば、責任転嫁でしか無い
 だが、どうしてか静馬には
 フィオナが自分に助けを求めて来たことが、無性に嬉しかった。

 それが、口が悪くて不器用で・・・意地っ張りな少女の
 口に出来ない、素直な心の吐露であったのだから。

 これを救わずにいて・・・何が騎士か

 静馬は気付かない、自分が何時もとは違う笑みを浮かべていることを。

 俯いて悩み込むフィオナの傍らに、いつの間にか静馬は寄り添うように立っていた。
 肩に手を置くわけでなく
 支えるように背に手を添えるでなく
 頭を撫でるわけでもなく
 ただ静かに、そばに立っているだけ。

 その子が席に座ってくれないと、食事前のお祈りが出来ないでしょ

 向けられるアンの目が、空腹故かいつもの五割増で鋭く睨みつけ
 アンタが何とかしなさい、と無言のままに静馬に命じてくる
 うつむいたフィオナには、視線だけのやり取りは伝わるはずもなく

 静馬は肩を軽くすくめると、フィオナの後ろにある椅子を気持ち引いて見せ
 フィオナの右手を恭しく取ると・・・そっと、柔らかくその手を引く
 強制ではなく、あくまでエスコート

 そして、掛けるべき言葉も、静馬は間違えなかった。

「さあ、席へどうぞ、お姫様」

2012.05.27


   

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