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歪んだパズルのつなげ方

悲恋姫†無双

第三十話 華刀の影衣流る、そは奸雄の秋

 
 さぁこれからが舞台の本番だ。

 主演女優になれるか、斬られ役になるのか・・・背後の書割りにされるのかは、自分次第、相手次第。

 願わくば、自分が納得する舞台にならん事を。

 口元が緩むのを抑えることが出来ず、それでも必死に笑い顔を引締めようとする・・・結果それは不敵な笑みに配下の兵達には見えた。
 我らが将はまた笑っている。
 いつもの通り、いつものごとく・・・

 『魔王』様の様に知略縦横でも、不気味とすらいえる恐ろしさも無い

 呂布様の様な人外魔境の境地まで辿り着いた、と言うほどの武力でも無い

 張遼様の様に神出鬼没や神速と言われるほどの速さは無い

 だが、我らの将は・・・やはり董卓軍で最高の将。
 策も武も速も、他の将に一番手は譲るが。
 決して折れない忠義の心。
 それを現すかのように、ただひたすらに前進制圧。
 罠があろうが、矢が降ろうが、怯まずに。
 口元に笑みすら浮かべながら。
 決して折れることの無い、我らの支柱。
 そのお方についていき、共に戦える事こそ我が誇り。
 
 華雄の兵達は詠う。
 自らを率いる将を讃え
 其れにつき従う軍を讃え
 忠誠を誓う我らの王、董卓を讃える為。



 砂塵が舞い、この期に及んで陣形を変えているらしい、曹操軍の慌しさが伝わってくる。
 うろたえたか、乱世の奸雄・曹孟徳。
 華雄の目が鋭く、猛禽の其れに変わる。
 整然と一群を為していた陣容が、小集団に別れ、そこかしこに穴が見える。

 挨拶代わりに一撃をくれて水関に戻るつもりだったが・・・
 何処までできるか、見てくれようか。

 笑みを深くする華雄の視界に、目立つ赤髪を靡かせて、単騎でかけてくる少女が飛び込んでくる。
「華さーん、突っ込んじゃダメー」
 両手をブンブン振り、頭上で×を示しながら、器用に馬を操ってくる。
「なんだ、幽ではないか。どうしたそんなに慌てて。突撃してはいかんとは作戦変更か」
 近寄ってくる幽を、行軍速度を落としながら受け入れると、いい機会だとばかりに、数人の部下に四方を偵察にはしらせる。
「うっわー流石は『魔王』様・・・
 華さん、その目。
 絶っ対『くくく、曹操恐るるに足らず。粉砕してくれるわ』
 ・・・って思ってたでしょ」
 ずばり図星を突かれ、動揺して思わず目を逸らしてしまう。
「そ、そんな事は無いぞ。一当てして水関に向かう、予定通りの行動だ」
 ウソをつくのが、此処まで芸術的に下手な人がいるのか・・・この人『魔王』様の敵じゃなくて、ホントに幸運だったよね・・・。
 ある意味驚愕させられて、幽も思わず目を逸らす。
「そ、それよりどうした、一影の懐刀の幽が、態々伝令の真似事でもあるまい」
 一影の懐刀、という言葉に反応して幽が恐ろしい速度で華雄に向き直る。
 その目が『この人はいい人だ』と、すっかり華雄の評価が上がってしまっている事を示していた。

「『魔王』様より伝言です。
 深入り禁止、掠めるように削ったら水関に向かえ。
 どうも、曹操自身が指揮取るらしくて。華さんが囲まれるかも、とか。
 『魔王』様が少し考え込んでましたから、この命令聞かないと結構不味いですよ」
 少し心配そうな顔をして、顔を覗き込んでくる幽。
 こいつは一影とは違った意味で、あっさり人の心に入り込んでくるな。
 華雄は小さく溜息をついて、苦笑いを返す。
「解った。掠めるように際を進んで、敵の目を此方にも向けさせればいいのだろう。
 折角の知略秀でる友よりの忠告だ、無駄にするような真似はしない」
 その答えに、ほっと安堵の息をついた幽が、ニコニコしたまま一向に戻ろうとしないので、華雄が眉を寄せる。
「付いていなくても約束は守るぞ、幽」
 思わず吹き出した幽が、手を小さく振る。
「そんな心配してないですよー。
 『お前は華の戦いを見て勉強して、そのまま一緒に関に帰ってろ』って『魔王』様に言われてるんですって」

 ・・・私の戦いを見て、勉強。

 その言葉が華雄の思考を廻ったのが、一目見てわかるほどにすっかり上機嫌になった華雄が、満面の笑みを浮かべ部下を振り返る。
「行くぞ我が精鋭たちよ。敵に引きずり込まれるな、一当りして離れる。
 その後、まだ攻め込むぞと思わせるように距離を取りながら、水関方面に移動して関に戻るぞ」
 すっかり幽に載せられた華雄だったが、その命令を聞いた幽はふと思った。

 この人、イノシシ癖がないと・・・えらく優秀な将なんじゃないの。



 乱戦。
 秋蘭の予想通り、董卓軍は一当てしてそのまま掠めるように離脱を計った。
 だが・・・華琳がそれを許さなかった。

 左右からの張遼・華雄両軍は、なる程張梁が、呂布に次ぐ脅威と言うだけのことはある精鋭ぞろいだ。
 まさに一糸乱れぬ騎馬隊の突撃に、華琳も思わず「なる程」と呟きを洩らすほどだった。
 これだけの騎馬隊であるなら、あの男が篭城戦など選ぶはずが無い。
 此方の士気を崩し、自らの軍の有利な戦場を作り出し、相手の心のうちに傷跡と楔を刻んでいく。
 天の理、地の利、人の裏・・・兵法書の注釈に名前を入れて書きたいほどだ。
 機会があったら、言葉を交わしましょう。
 でも、今は刃を交わす時・・・
 すばやく頭の中で状況図を描き出す。
 張遼隊か、華雄隊か・・・どっちに貴方がいるか判らない、なんて思ってないわよね『魔王』。
「四隊は斜形陣、華雄の隊を弾き返せ。三隊は一隊の右翼に、二隊は左翼に展開、張遼隊を囲い込みなさい。
 本隊は一隊に合流、敵の足を止める。我に続け」
 巧みに伝令を使い、将を指揮し張遼隊を受け止め、囲い込む。
 本来起こる筈の無い乱戦に持ち込んだ華琳は、動機こそ違えど、朱里と思惑的には大差ない拘りに、自分が突き動かされた、そう知ったなら、果たして笑うのか、怒るのか・・・。



 雛里を抱えて尚、他の追従を許さぬ霞の馬術。
 あまりに巧みな手綱さばきに、戦場でなければ見惚れていただろう。
 まさに人馬一体、いざとなったら身を挺してでも、霞の前に立ちはだかる敵を排除し、逃がさなければ・・・などと考えていた自分の思い上がりに、少し可笑しくもなる。
 此方は一人、名馬に乗っていながら付いて行くのがやっとだ。
 それでも、身を起こし張遼隊の兵達を確認し、漆黒の華旗が離脱していくのを見送ったその目の端に、一瞬だけその少女の姿が目に飛び込んできた。

 背筋を冷たい汗が流れ、体がその殺気に反応して動く。

 咄嗟に馬上から転がり落ちるようにして身をかわすと、悲しげに泣くような音を弾きながら、髪を掠めるように矢が疾り抜けて行く。
「一影っ」
 霞がこちらを振り向いて声を掛ける・・・こっちを気にする余裕まであるのか、流石は霞。
「構うな行け、雛里を頼む」
 一影は、弓と言う武器の恐ろしさを、今まざまざと思い知らされていた。
 混戦での、弓の不意の一撃・・・目の端に姿を捉え、相手が弓の名手だと知らなければ、確実に今やられていた。
「ちっ・・・良くかわした」
 本気で殺しに来ている、あの秋蘭が・・・このオレを。
 暴走しそうになる感情を一瞬で凍結し、当然来るべき巨大ヨーヨーの追撃を探る。

 焦るな、焦ったら負けだ。

 北郷一刀をやめたのだろう。

 人をやめたのだろう。

 『魔王』を、演るのだろう。

 自己暗示じみた思考に頭の中が、いつもの冴え渡った状態に戻っていく。

 予想に違わず、巨大なヨーヨー、そして此方は予想外の巨大鉄球が左右から、鈍い唸りを引き摺って一直線に迫ってくる。
 すかさず、地に張り付くかのように、体勢を低くしてそれらをやり過ごしたところに、とどめの矢が打ち込まれる・・・
 ヨーヨーと鉄球をかわすのに飛び退いていれば、胸を貫かれる所へと。

「・・・なんてヤツだ。あんな避し方をするとは」
 秋蘭の唖然とした声に、音も無く身を起こす。
 さも何でも無いとばかりに平然と、わざとゆっくりと立ち上がり、羽織の裾に付いた土を軽く払ってから、方天画戟を肩に背負う。
 秋蘭と流琉は抑え役、だから常識に傾倒せざるを得ない。
 故に、今のような不可思議な動きに幻惑される。
 ・・・そうか、流琉はこれが初陣だったな。
 少し青ざめ、化物でも見るようなめで此方を見つめている少女に、凍結したはずの心がチクリと痛んだ。
 季衣の方は日ごろ春蘭を見慣れているせいか、余りショックも受けたようには見えず、素直に避けられた事に驚いたような顔をしている。

 ごめんな、季衣、流琉。
 兄ちゃん・・・今さ・・・『魔王』なんだ。

 季衣や流琉のように力で押してくるタイプは、余り恐くない。
 攻撃の起こりを見逃さなければ、即ち『目付け』が確り出来ているならば、質量兵器をかわす事は難しくないのだ・・・ただし、異なる二方向からでなければ。
 さらに、今回のように此方が体勢を崩されていなければ、という条件が付く。
 秋蘭の狙いの正確な、必殺の矢をかわすのに、ただでさえ集中力が必要である。
 そう、矢は近接武器と違い、線でとめることが出来ない、点での攻撃なのだ。
 必然的に受けるのではなくかわす事になり、その崩れた体勢に、掠めるだけでも重大な被害を被る質量兵器を、二方向から打ち込まれ続ければ・・・そのうち集中力が切れて当たる。
 このままではジリ貧だ、ただ先延ばしにしているだけでは、好転する事は無い上に、季衣と流琉は中距離、秋蘭は遠距離武器の為、走らせて敵の体で死角を作る事もできない。
 つまり、回避し続けていれば負ける、しかし質量兵器を受止められるほど、自分の腕力は無い事も知っている。
 何しろ季衣は小山を一撃でぶっ飛ばしてのけたのだ、互角に遣り合う流琉の一撃も、同じ強さ重さを持っていると見て間違いあるまい。


 あれが、『魔王』か。


 北郷一刀は一影の姿を見て・・・僅かに見とれた。
 どう見ても化物じみて滅茶苦茶な動きなのだが、その流れるような動きは淀みなく、流水のごとき滑らかさで、この世界の将の動きとは違う、自分の元居た世界の、静かな武の動き。

 ・・・なんだ、アレは。

 緩急をつけ
 呼吸と間合いを、計り、外す・・・
 そこには、不気味に歪みながらも
 一つの完成系があった。

 気色悪く

 不気味で

 薄気味悪く

 嫌悪感を催す・・・美しさ。

 相当に鍛え込んだと自負する『目付け』で、初動を捉えながらも、完全に呼吸を外され、意識の外にある攻撃を繰り出すその姿。
 相手の心理を掻き乱し、後手後手に追いやり、心理的にも体勢的にも不利に追いやっていく。

 たった一つの、その武器だけで・・・
 秋蘭、季衣、流琉という曹操軍でも屈指の将三人を相手に、退かずに相手する。
 まともに戦えば、沙和よりも武力自体は低いような相手が・・・その三人を手玉に取っている。

 ・・・化物だ。

 その化物の他に、敵には怪物・呂布がいる。
 怪物と化物・・・こんなバケモノ二人を、どうやって押さえ込むんだ。
 連合を組んでも抑えられなかったら、董卓を誰が抑えられるんだ。

 ・・・誰が、じゃ無い。
 俺が、俺達が、抑えて勝つ。
 華琳の覇道をともに歩むと決めた
 それは華琳に手を引いてもらって、歩くんじゃないだろう。
 今の俺じゃ、『魔王』の知にも武にも、悔しいが遠く及ばない。
 だから、華琳の影に隠れて、倒してくれるのを待つのか。
 好きな女の、スカートの影に隠れて・・・震えているつもりか、北郷一刀。
 追いつけそうに無いから
 適いそうに無いから
 黙って後ろで見ている・・・
 そんな負け犬になって生きていくつもりか。

「そんな事は、俺の矜持が許さない・・・」

 強い決意を湛えた目が、静かに一影に向けられる。
 そこには憎悪も嫌悪も、敵意さえなく・・・確かな決意だけが宿っていた。


 『魔王』を見ていた一刀の雰囲気が変わったのに、華琳だけが気付いていた。
 そう、貴方も変わると言うのね、一刀。
 『魔王』・・・あの男は、関わるものをみな変えていく。
 私の世界認識を打ち砕き。
 麗羽の自信を崩し。
 劉備の軍を討ち倒し。
 そして今、一刀の思いを、決意に変えた。

 ・・・あの男が欲しい。

 敵方にあってさえ、これほどの影響力を持つ存在だ。
 配下として・・・いや、あの男は誰かの下につく器ではない。
 味方として、傍にあったなら。
 友として隣に居たならば。
 一体、世界はどう見えるのだろう・・・
 
 華琳はそう思いつつも、秋蘭達三人には手加減するようには言わない。
 どれが当たってもほぼ即死するであろう攻撃を、舞うように紙一重でかわし続ける『魔王』の姿を、静かに眺め遣りながら、薄く笑みを浮かべる。
「・・・何だか凄く綺麗なのー」
 沙和の見とれたような呟きに、フッと鼻で笑う。
 あれはね沙和
 自分の命を賭けたろくでもない『死線上の舞』
 だから儚く
 切なく
 美しいの。
 何故なら、その舞の最後には・・・命の華が散る事を、見ているものが皆予見しているのだから。
 二律背反な華琳の心は、『魔王』を求め、『魔王』の死を待ち望む。



 ようやく固まっていた頬の傷跡から、血の雫が顎を伝い、赤黒く染まっていたマフラーに、紅いしみを広げていく。
 季衣や流琉は、あんな重量物を振り回しているのに、疲労の色は少ないが、秋蘭の息が上がり掛けている。
 額に流れる汗で、その蒼い髪が張り付き、細く吐く息には疲労の色が隠しきれずにいる。
 戦う四人の中で秋蘭一人だけが、異常な疲労に襲われていた。
 霞も逃げ切っただろう、霞の軍も散々かき回してくれているが
 そろそろ頃合・・・だな。
 これ以上長期戦に持ち込まれると、それこそ敵陣で孤立する

 ・・・次で決める。

 周囲を目だけで確認していく。

 沙和・・・結局この世界でも、戦場に立ってしまったか。
 お前は優しすぎて、戦場は似合わないのに。

 ・・・北郷一刀。
 そう、それでいい。
 北郷一刀は二人要らない。
 一影もまた、二人は要らない。
 お前は北郷一刀を遣り遂げろ。

 華琳・・・

 その目を見た瞬間、一影の動きが止まる。

 凍結したはずの心を、愛しさが一気に押し流していく。
 張り詰めていた空気が緩む。
 それは、完全に味方に見せる隙だらけの姿。
 緩んだ心を一影が瞬時に戒める。
 だが、それを秋蘭が見逃すはずもない。
 だから・・・一影は覚悟を決めた

 この隙を

 ・・・誘いにしよう、と。

 一息で矢を三つ射てくる秋蘭、それを倒れ込むように踏み込んで、紙一重でかわした

 瞬間、地を蹴って二歩分後方に飛び退る。
 巨大なヨーヨーと、凶悪な鉄球が唸りを上げて疾り、一影のもとの位置・・・
 残像でもあればそれを押し潰す様に、恐るべき速度で駆け抜ける。
 目の前で交差する鎖とヨーヨーの紐
 投擲型の質量兵器の急所
 そこを、一閃で断ち切る。

 あまりに鋭い一撃は、垂直方向にベクトルを与えず
 ヨーヨーと鉄球は、その速さのまま、慣性に従い曹操軍の兵達に襲い掛かった。
 湧き上がる怒号と悲鳴。
 その騒がしい空間にあって、静かにそっと告げるような声が流れる。


「夏侯妙才、覚悟」
 


   

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NoTitle 

 それを現すかのように、ただひたすらに前進制圧。
 罠があろうが、矢が降ろうが、怯まずに。
 口元に笑みすら浮かべながら。
 消して折れることの無い、我らの支柱。
 そのお方についていき、共に戦える事こそ我が誇り。

の「消して」が「決して」ではないかと

Re: 通りすがりさん 

コメントに感謝を。

ご指摘箇所、訂正いたしました。
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