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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第二十七幕 「決別は両者が手を放す事で成立する」

 
 早朝の肌寒さが嘘のように、暖かな空気に包まれた午後

 空は明蒼に高く抜け、窓から差し込む陽光は

 テラスの白いテーブルの上、はじけて光の粒を振りまく

 白磁のカップに当てていた、花びらのように可憐な唇をゆっくりと離し
 気品と満足さとを、浮かべた笑みにのせ
 紗の様な金色の長い髪は音もなく流れ揺れる

 対面に座り、笑顔を向けられた者は・・・

 金糸の髪から流れ出す、澄んだ音色を幻聴したかもしれない。

 或いはただ、その優雅で美しいさまに見惚れていただけであったか。

 ただ包み込むような優しい眼差しで、目の前の美女に微笑みかける

 真新しい白の開襟シャツはゆったりとしているが
 汗ばむほどに暖かい陽気となった午後には、少々暑すぎるのか
 襟元のボタンを二つ開けられていた。

 もっとも、ドレス・コードにはそれなりに煩い校風であるのか
 周りの生徒達は、男女ともに制服のジャケットのボタンを外すものが僅かにいるだけで
 上着そのものを脱いでしまっている生徒の姿は、回りにはない。

 完全に悪目立ちし、周りから浮いている・・・
 そんな砕けた服装であるのに、ラフな格好と見えないのは
 落ち着いた雰囲気と、背筋を伸ばし胸を張った、姿勢の良さに拠る処が大きい。

「どうにも落ち着かないものだね、いつもと違うというのは」

 悠々と紅茶を楽しみながら、その場の主であるように振る舞う男から掛けられた声は
 本当にわずかだが、言葉通りに、戸惑ったというより所在無げな色が滲んでいる事に
 ベルティーユは目を細めながら、華のような笑顔を向けた。

「お礼がしたいと言い出したのは、あの二人なのですから
 静馬さんは、ただ受け入れてあげれば良いのです。
 なにか特別なことをして上げる必要もなければ
 殊更感謝の言葉を、繰り返す必要もありません」

 楽しげな明るい笑みを浮かべるベルティーユに、頷いて返した静馬だったが
 その目には、まだ躊躇いがあり
 ベルティーユはそれを見逃すこと無く、小さく首を振ってみせた。

「大丈夫、あの二人はベグライターです」

 こっそりと秘密を打ち明けるような、心持ち抑えた声は
 なにも間違わずに静馬の懸念を見抜き
 心配する必要はないのだ、とその心に蟠る不安を拭い去る。

 即ち、ベルティーユというあの二人に最も近しい友人から
 二人は、静馬の腕が重症を負っている事に、気がついていないと保証されたのだ。
 逆説的に、私はそれに気がついていますと言う、ベルティーユの宣言でもある。

 それでいて、両者の間では、直接的な表現の一切は廃され
 あくまで上品に、流れていく談笑。

 貴族の自分を、静馬が助けるのは当然と驕っている訳ではなく
 静馬が勝手にやったことに対し、感謝する必要がないと考えているわけでもない
 彼女の心を・・・無粋なれど、敢えて言葉にするとするならば

 感謝の心を私が抱いていることを、貴方は知っている。

 私は貴方がそれを知っていることを、解っている

 ならば、私達二人の間でそれを口にするのは、逆に相手を疑っていることに成ってしまうでしょう?

 ですから、私は貴方に感謝の言葉を口にすることは致しません。

 故に、ベルティーユは華のように満面の笑みを浮かべた顔を真っ直ぐに静馬に向け
 春の日差しのように穏やかな声で、でありながらも何処か子供のように楽しげに
 そっと、片目をつぶってみせる。
 
「素敵ですわね、こういうのも」

 * * *

 朝の教室で静馬を迎えたのは、何時ものアンの罵声まがいの挨拶ではなく
 珍しく教室で待ち構えていたカイルからの、憮然とした表情と抗議の声で

「お前ん所の幸運の女神様から、ありがたい贈り物が今朝届いた」

 仏頂面で突き出された右の拳は、静馬の目の前で解かれ
 開かれた右手の平の上には、何処にでもある様な小石が鎮座在している。
 開いている左手の親指で示した、カイル自身の額は赤く腫れ、綺麗に瘤が出来ていた。

「流石はお前が目をつけただけの事はある。
 精密射撃と言うよりは、もはや狙撃といっていい腕前だ。
 だがな、早朝の男子寮の前で、大声で人をセクハラ男呼ばわりするなと、ちゃんと教育しておけよ静馬。
 幸い今日は、貴弘と美桜というもっと人目をひくネタが有ったからいいものの
 別の日であったなら、名誉毀損で訴えるところだ」

 口を開くなり、大仰な身振りもなくまくし立てるという、カイルにしては珍しい態度に
 その本気具合を悟った静馬が、両手を突き出し間を取ろうとした所で
 良く聞き慣れた声が背後から投げかけられる。

「なぁに人に罪なすりつけようとしてんのよ。
 アンタが変人でセクハラ野郎なのは、別に山県静馬のせいじゃないでしょ」

 珍しく静馬を貶す以外の目的で、アンが口汚く罵るのに、教室がざわめく。
 もっとも半分は、攻撃対象を横取りされた憂さ晴らしだな、と妙に説得力のある呟きで・・・

「類は友を呼ぶっていう言葉がアンタの国にはあるんだし
 半分はアンタのせいかもしれないけどね」

 あっけらかんと笑いながら静馬に向かって言うアンの言葉が、はからずもその呟きを強固に支持してしまい
 もしかして、静馬を庇ったのではないか、という少数意見は、あっさりと駆逐される。

「朝から教室で何を馬鹿騒ぎしているんですか。
 変人自慢なら他所でやって下さい、やめないつもりなら・・・私も切り札を投入しますよ?」

 素っ気無いと言っていいほどに落ち着いたエマの声は、三人を平等に諌めているのだか
 火に油を注いで居るのだか判断に迷うところだが、一つだけはっきりとしていることは
 彼女がいっている『切り札』が、三人を圧倒するほどの変人、と言う意味で

 呆れたため息をつき、胸の前で腕を組みながらジト目で見ているエマの・・・
 背後に控えた、人物のことであるということ。

 それを悟ったカイルが、睨み合っていたアンから目を切り、静馬に向き直り

「とにかくだ、お前の女神だか疫病神なんだろ、何とかしろ!」

 理不尽極まりないことを言い捨てて、そそくさと教室を後にする。
 戦略的撤退をするカイルの背に、苦笑を浮かべながら軽く手を上げる静馬
 まだ文句を言い足りなさそうなアンと、やれやれと肩をすくめて息をつくエマ

「さて、やかましいのがいなくなって、ようやく話ができる環境になりましたが・・・
 まずは、おはようございます山県静馬。
 ところで、少々唐突ですが今日の昼に時間は取れますか?」

 おはようと返事をしながら、エマの後ろで微笑んでいるベルティーユにそっと視線を向ける。
 これから何が起きるのか、君は知っているのかな、と。
 その視線を受け、ゆったりと頷いて見せながら、ベルティーユは上品に笑うだけ
 その口から答えを言うつもりはない、と無言の内に静馬に答えてみせる。

 視線をエマに戻し、両腕を広げながら・・・仕方がないと
 まるで隠していた秘密を、白状するかのような顔をむける。

「エマは知らないかもしれないが
 美人の誘いは、基本的に断れないように男というものは出来ているんだ、実は」

「応用的には?」

 何処か鋭さを増すエマの眼光には、さんざんこの手の会話で煙に巻かれた経験からの、警戒の色が色濃く浮かんでいる。
 手の内のバレている手品師のように、早手回しに、しかも極短い言葉でポイントを抑えられた静馬は、掌を相手に向けるようにたて、即座に全面降伏の意思を伝えた。

「喜んでお伴します」

「大変結構、では正午にベルティーユ様と二人で、いつものテラスで待っていて下さい。
 念の為に言っておきますが、なにも持ってくる必要はありません。
 気遣いも、疑問も、騒動のタネも、いいですね?」

 * * *

「・・・んっ」

 不機嫌そうな声に振り向いた、静馬の目の前に突き出されていたのは
 どう見ても湯気を上げる出来たての料理・・・なんかではなく、布の塊。

 そっぽを向きながら、片手で突きつけてくる相手の顔は声以上に不機嫌さに溢れ
 何時までも受け取ろうとしない相手に、焦りと苛立ちが急上昇して行くのが目に見えてわかる。

 今すぐにでも怒鳴りつけたいのだろう、口を開いては閉じるを繰り返し
 なんとか声を出すのを我慢しているのは、此処で大声を上げてしまえば衆目を集めてしまうからで
 その表情から、割と限界が近いことを物語っている。

「上着・・・」

 漏れでた呟きは、突き出している少女のものではなく、静馬の正面から流れきた。
 眉を顰めたのも束の間、ベルティーユの顔には、全て合点がいったと言わんばかりの笑みが浮かび上がる。

「お座りになったら、昼食がまだでしたら御一緒にいかが?」

 突然、見知らぬ筈の自分に掛けるには、あまりに無警戒過ぎる事を言い出した相手に
 驚きと呆れと言う表情の仮面を被り、その下に本当の感情を隠した。
 不器用に本心を見せられないのではなく、隠した本心を知られることを恐れて
 
「流石、試合に負けた直後に相手と笑って握手が出来るだけあって
 随分と心が広いんですね、ベルティーユ先輩は」

 嫌味と言うよりは、もはや侮辱に近いフィオナの物言い
 相手は騎士で、此処はウィンフォード学園である。

 カイルとの件で理解できなかったのか・・・

 それとも、理解した故なのか

 フィオナは口の聞き方を改めること無く
 相手の心をひっかき、自分を孤独へと追いやっていく。

 静馬とベルティーユの仲が良い事は十分に知っていて
 静馬がベルティーユを、本心から評価していることを十分に理解して
 静馬の眼の前で、ベルティーユを侮辱するという
 決定的な決別の引き金を引く

 今度は、間違わずに、自分を悪者にして。

 故に、返って来た返事にフィオナは呆気にとられ、立ち尽くす事になる。

 そこには引きつけられる華があった
 自分と静馬の間にある椅子を手で示しながら、小首を傾げるようにして
 どうぞお座りなさいと促しながら

「それほどでも、ありますわよ」

 純粋で柔らかく優しい笑みと共に、明るいベルティーユの声が
 フィオナの嫌味を毒気ごと、あっさりと洗い流してしまい。
 はじめてフィオナは、ベルティーユ・アルチュセールという女性を、真っ直ぐに見つめた。

2012.05.24


   

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