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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第二十六幕 「相対と絶対」

 
 「ほんと、バッカじゃないの?」

 朝靄の中に零れでたつぶやきは、ようやく登ってきた朝日に触れ淡く溶けゆく
 誰に伝えるためのものでもないそれは、頭に浮かんだ相手に向けられた
 行為、思想、どころか存在そのものすら否定する程の強い想いで・・・

 それなのに、フィオナの顔は今にも泣き出すかのような儚さが立ち込めていた



 あの後、静馬に手を引かれて保健室に行ったフィオナを迎えたのが
 額に手を当てた綾子の、理解できないといった表情で二人の顔を交互に数度なぞり
 静かに、しかし怒りを抑えているのを隠し切れていない声色で
 感情を排した、実に理性的で論理的な、正論でもって嫌味を並べ立てられた。

 普段であれば、黙ってそれを聞いているようなフィオナではないが

 てきぱきと静馬の、上着についでワイシャツを脱がせながらの問診の合間に
 目線を患部から離さない綾子が、独り言のように言って来るために
 下手に反論でもして、手を止められてはたまらないと、黙ってそれを聞き流し
 静かに、顕になった酷い内出血と裂傷の刻まれた静馬の両腕を見つめていた。

 幸い、骨折も脱臼もしていないことがすぐにわかり、綾子の表情がわずかに緩み
 張り詰めていた空気も、見守っていたフィオナの方からも力が抜けたが
 筋を痛めていることは流石の静馬も、専門家の綾子の目を騙し切ることは出来ず

 綾子は厳しい表情で、向こう一週間は安静にしていなさい、と厳命し

 返す刀でフィオナに向かって、静馬の上着を突きつけた。

「こんな状態の人を、すぐに連れてこなかった貴女には、はいこれ」

「クリーニング代を出せってことですか?
 私が連れてくるのが遅れたせいで、血で汚れたから」

 そんなの・・・

 格好つけの先輩が、断るに決まってるじゃない

 この人・・・好きな相手の事も解らないの?

 薄ら笑いを浮かべて、綾子を見ていたフィオナの目の前で
 綾子は大きく、呆れたため息を付いて見せながら
 すこし、意地の悪い笑みを浮かべた

「なに言ってるの、私の言うことを聞いていたのフィオナ
 静馬君は、両腕を怪我して安静なのよ?
 女の子の貴女が、破れた所を繕ってあげなさい。
 それとも、お裁縫を習わないのこの国の女の子は」

 * * *

 いま、フィオナの腕の中にある静馬の制服は、丁寧に染み抜きされ
 かぎ裂きに破れていた箇所も綺麗になおされ、アイロンまで掛けられていた。
 受け取った時の惨状からは信じられないほどに、綺麗な出来栄えである。

 綾子からの挑発・・・とフィオナは受け取った言葉に、返事こそ

「先生になおしてもらった方が、先輩も嬉しいと思いますよ。
 仕上がりの美しさは別としても」

 ・・・と嫌味混じりとはいえ、軽く受け流しただけのことはある
 素っ気無い言葉で、面倒だからどうにか綾子に押し付けられないか、と言わんばかりの態度であったが
 心のなかは全く逆で、どちらかと言えば・・・相手を見下してはいるものの
 妥協できるラインでの、綾子に対する協力であった。
 
 ・・・本当は、自分でなおしてあげたいんでしょ?

 私には出来ませんって言わせて、しかたがないからって形にしたかったんでしょうけど

 最初っから、素直に自分でやるって言えばいいじゃない

 内心で毒つきながらも、フィオナは綾子に手を差し伸べ。
 その手が、一向に握り返されず・・・
 結果的には綾子の挑発に、予定とは違う形ではあるものの、フィオナがのせられてしまった。

 もっとも、フィオナの沈み込んだ表情から、心に抱えているだろう罪悪感を軽減するために
 綾子がフィオナを挑発して押し付けた、と気付けるほどに大人ではなく
 相手が静馬とはいえ、異性の目を意識せずに居られる程子供でもないという
 綾子の思惑に、今回は完全に手玉に取られたわけではある。

 早朝も早朝、まだ朝靄の明けやらぬ中で、フィオナはこっそりと男子寮の方に歩いていた
 昨日の決闘で、全くもって不本意ではあるものの、フィオナはかなり目立っていた。

 思い出すのも嫌な、悪夢のような事態であることに
 人の目を引きつけた際には、必ず静馬が隣におり・・・
 その静馬が、フィオナに輪をかけて目立っていた

 言うまでもない事ながら、静馬は静馬であるが故に、気障ったらしい物言いであり
 その点に、男女どちらが過剰に反応するかといえば・・・
 やはり当然ながら、噂話が好きな方である。

 そんな決闘の翌日に、フィオナが静馬に上着を渡しているところを見られれば

 周りはどう思うだろう?

 ボタンでも取れて、それを彼女につけてもらった、という誤解であれば
 フィオナとしては絶対にお断りながらも、まだマシなほうで
 下手をすれば・・・いや、ほぼ間違いなく
 うわさ好きな者達は好き勝手に、無責任に尾ヒレを幾つもつけ
 学生会どころか、学園長室で非ぬ罪の釈明をする羽目に成りかねない。

 冗談じゃないっ、あんな変態気障ナンパ男と、そんな噂をたてられたら

 これからの3年間は、灰色どころか・・・白い目で見られて過ごすことに成る

 背筋に冷たい汗を感じたフィオナは、日課である早朝訓練を止めてまで
 他人に見られぬ早朝に、静馬に手渡しに向かったのだが
 男子寮を目の前にして、どうやって男子寮の中にいる静馬に渡せばいいのか

 全く考えていなかった自分に、やっと気がついた。

 誰かに静馬を呼び出してもらえば、それは自分で噂をして欲しいと宣伝している様なもの
 かと言って、入口の前に放置していく訳にはいかない
 だが、静馬と連絡をとれる手段があるわけでなく・・・

 肩を落とし、しばし呆然と、誰の部屋ともしれない男子寮の窓を見上げながら

 自分が周りの目を気に出来るほどに冷静だ、と考えていたのは勘違いで

 本当は、遠足前の子供のように、興奮して平静さを失っていることに

 その根幹に息づく存在に、気付かされた。

 直後、視界の中で勢い良くカーテンが開き、制服姿の男子生徒が下げた視線と、力なく見上げていたフィオナの視線が、真正面からぶつかった。

 

「静馬に夜這いでもしに来たのか、生意気な後輩2号」



 ニヤリと底意地の悪い顔で笑うと、殊更に胸をそらし
 高度的にも、心情的にも、完璧な上から目線でフィオナを見下ろすカイル。
 普段から身振りが大げさで、芝居がかっているせいか・・・
 フィオナは、カイルの高笑いが聞こえるような錯覚を覚えた。

「暴力男。そんな事ばっかり言ってるから、パートナーも見つからないんじゃないんですか
 あ、念の為に言っておきますけど・・・
 泣いて縋り付いて来ても、貴方のパートナーなんて私はお断りです」

 べーっ、と舌を出して大声で返すフィオナに
 なんだその程度かと、何処か拍子抜けした顔を向け
 カイルが両腕を広げ、大げさに肩をすくめてみせる。

「こっちも騎士としてのお前には興味はない。
 いや、誤解無いように言っておけば、女としてのお前にも興味はない。
 お互い組むのなんて真っ平御免と、良好な赤の他人な関係だ
 顔を背け合って終わりと行きたい所だが、非常に不本意ながら、オレにはお前に一つ借りがある」

 胸の前で一人腕を組み、しかつめらしい表情をしてみせ

 面倒な男の世話を押し付けてしまったからな、と数度頷いてみせる。

「お前の責任感の強さには、素直に頭が下がる
 何しろ、今もまだオレの言葉通りに、アイツの面倒を見ているのだからな」

 言葉をつまらせるフィオナ

 反発してカイルの言葉に噛み付けば、フィオナが静馬に関わっているのは自主的にということになり
 まるでフィオナが静馬に、積極的に関わりたがっているように受け取られ、絶対に避けたいのだが・・・

 それを回避するために肯定してしまえば、カイルの言いなりになっている・・・
 即ち、カイルより自分を下に置くことを認めている様で、これも腹立たしい。

「見張ってるだけですよ、性悪暴力男に良い様に利用されないように。
 静馬先輩は、お節介馬鹿だから騙されやすそうですし」

 フィオナが出した結論は、カイルへの反発。
 直ぐ目の前にいる相手への反発心が勝ったのか
 それとも、カイルとはとことん咬み合わないのか

 しかし、フィオナの予想していた追撃の誂う言葉はカイルからは来ず
 カイルは何処か悩んだような顔で、フィオナをじっと見つめる

 口は悪いが、確かにコイツは頭の回転もいいし、こんな早朝から動ける実行力もある

 なるほど静馬が目をつけただけはある、と言いたいところだが・・・

 生意気な後輩と評するカイルに、フィオナは正面から文句を言って来た。
 それは子供故の感情的な反応ではあるが、話題の焦点に対する自信の現れでもある
 今で言うのであれば、騎士としての自分への自信

 もっとも、その自己評価でさえも
 子供故に視野狭量であり、自信過剰であるのは否めないが
 逆を返せば、彼女の狭い世界の中では、絶対的な自信と実績が有るのだ。

 そうでなければ、一度殴られかかった先輩相手に、いくら安全な距離が現状あろうとも
 真正面から憎まれ口を叩く、などということは出来ない、そうカイルは見抜く

 しかし、その根底には何処かでばったり出くわしたとしても
 出会い頭に相手に、感情的に暴力を振るわれない等という
 自分が、まるで何かに護られているのだ、とでもいう様な何の根拠もない甘え

 聡いが故に、正しいことを・・・いや、自分が正しいと判断した事を言っているのだから相手が間違っている
 相手が間違っているのだから、自分は何を言っても、どんな言い方をしても
 相手が怒るのも、暴力を振るうのも、間違っていると決めつけた
 誤解と、勘違い

 静馬はそんな子供の部分は、相手が子供故に受け入れているのだろうが・・・

 それであるのなら何故、静馬は生意気な後輩二人・・・リサとフィオナを前にして

 天才と称されるリサではなく、フィオナをより気に掛けている?

 背も低く小さく未成熟な体躯、強気で相手を馬鹿にしたような態度、回転の悪くはない頭
 自信過剰で天狗になっている子供、と二人に共通する部分は意外にも多い
 その上で、リサはあのジョストを長年見てきた、気難しいジェイムズを唸らせる程の才を有している

 正直に言ってしまえば、フィオナを選ぶ理由が無い。
 しかし静馬は、明確にフィオナの方を気にしている。

 オレには見えない何かを、フィオナは持っているのか?それとも別の理由が・・・

「・・・あるのか無いか・・・わからんな」

 額に手を当て、肩をすくめながら漏れでたカイルのため息と呟きは、距離のあるにも関わらず、風の気まぐれかフィオナの耳にまで届き・・・
 
 一瞬にして顔を真赤にしたフィオナは、歯を噛み締め
 腕に持っていた静馬の上着を抱きしめるようにして、胸を庇いながらその場に蹲り・・・

 おもむろに、勢い良く立ち上がるや、眦に小さな涙の粒を浮かべた深翠の瞳でカイルを睨みつけ

 大きく振りかぶった右手から、放り投げられた小石は、狙い違わずカイルの額に命中した。

「このっセクハラ男ーっ!」

2012.05.15


   

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