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歪んだパズルのつなげ方

悲恋姫†無双

第二十九話 春恋し朱の桃の香、愛し星花

 
 ・・・私やるよ。

 ちゃんと、やってみせる。

 もう恐いものなんて何も無い

 後は此処を生き残るだけ

 皆で、生き残るだけ・・・

 雛里ちゃんも、星さんもいないけど

 私のせいで、いなくなっちゃったけど・・・

 桃香様がまだそこにいる

 私の理想の王
 
 絶対に、桃香様だけは守り抜いてみせる。

 大陸の王に押し上げてみせる。

 親友も、仲間も切り捨てて来た

 だから

 私は、こんな所で立ち止まらない

 立ち止まっちゃいけない

 まだ、疲れちゃいけない


「桃香様、愛紗さん」
 二人は私の呼びかけにも、浮かない顔をして見せた。
「お二人の理想は、まだ胸に・・・折れずにありますか」
 私の問いかけに、桃香様は目の光を取り戻し、小さいが強く頷いた。
 愛紗さんは、私を胡散臭そうな目で見ていたが、桃香様の様子が変わると、鋭く此方を睨みつける。
「朱里、一体何をしようというのだ」
 声の調子から、睨んだのではないと判った。
 桃香様をどうすれば守りきれるか、どうやって此処を切り抜けるか、思いついたのか。
 その目は切羽詰ったものが、希望に縋っていいのか悩んでいるものの眼だった。
「二つ、一つはこのまま曹操さんと戦って追い返し、董卓軍について天子様のところにいって謝罪する方法。
 その後は、独立勢力にはなれないものと考えてください。
 私も、反逆者として多分、死罪になります。
 その時は雛里ちゃんに謝罪して、説得すれば戻ってきてくれると思います」
 桃香と愛紗が何か言いかかるのを、首を振って止める。
 今は時間が無いのだ。
「二つ目は、混戦になった所で、曹操軍に保護を申し入れて、連合軍に連れ帰ってもらう方法。
 これなら独立勢力としてはいられます。
 ですが、兵を集め体制を整える時間を、あの人がくれるかどうか・・・
 反董卓連合は、このまま行けば間違いなく負けます。
 裏切った私達をあの人は許さないでしょう」
 いったん言葉を切って、桃香、愛紗と順番にその目を見つめる。
「どっちを選んでも、道は厳しいです。
 私のせいで、順調な道から外れてしまって・・・すみませんでした。
 星さんや、雛里ちゃん・・・鈴々ちゃんまで」
 目を伏せる朱里の体を、桃香が優しく抱きしめる。
「違うよ朱里ちゃん。
 責任は全て王である私のもの。それを朱里ちゃんが感じるなんて、私の仕事を取っちゃ駄目だよ。
 それに、朱里ちゃんがいなかったら、ここまでこれていなかった。でしょ愛紗ちゃん」
 にこやかに桃香に笑いかけられては、愛紗も苦笑いを返す以上の苦言を呈する事もできない。
「まったく、貴女と言うお人は。
 それにな朱里よ、鈴々がそう簡単にやられてしまうようなヤツか。
 例え相手が呂布だとしても、易々と死にはせんよ。鈴々の強さは私が一番良く知っている」
 愛紗がそういいながら朱里の頭を軽く撫でる。
「では我らが王に、その仕事をして頂こう。どちらを選びますか桃香様」
 冗談めかしてそういう愛紗の目は、笑っていない。
 此処が運命の分かれ道だとわかっているのだ。
 しかし、桃香がどちらを選んでも、自分はそれに従う、その事だけは決めていた。
「答えは決まっているよ」
 そう言って桃香は空を指差した。
「お天道様に顔向けできない、そう言う道は選んじゃダメってね」



 ・・・なんだあの無様な陣形は。

 春蘭の頭に浮かんだのは、そんな感想だった。
 ごちゃごちゃと中央部分に歩兵を並べ、両端に騎兵が集まっている。

 わかった、そう言うことか。

 つまり、こいつらは歩兵の使い方が解っていないのだ。
 董卓と言うのは涼州の太守だと、馬騰の名代で来ていた馬超が言っていた。
 涼州騎兵の優秀さは、西涼連合の馬超が率いてきた騎馬軍を見れば判る。
 南船北馬とはよく言ったものだ。
 幽州の公孫賛が率いる騎馬軍も見事ではある。
 もっとも、あそこには取り立てて注目するような将がいない。

 要するに、騎馬の扱いは優れているが、歩兵と騎馬の混合軍での戦いは知らんのだ。
 事此処に至れば、策もへったくれもあるものか。
 肩すかしをする呂布でもないだろう。
 ならば・・・

 今まさに突撃の号令を下そうとしていた春蘭の元に、焦った声で制止する桂花が馬で駆けつけた。
「ちょっとまちなさい春蘭。
 貴女、今『突撃』なんて、叫ぼうと、したんじゃ、ないでしょうね」
 全速力で馬を駆ってきたのだろう、桂花は肩で息をしながら、途切れ途切れに苦しそうな声を上げる。
 猫耳フードも心なしか耳が下がり、仲の悪い春蘭をして、何だかちょっと愛らしいなと感じさせる、桂花の苦しそうな姿。

「あたりまえだ、此処まで来て今更策だの計略だのは不要、突撃して蹂躙する」
 あの陣形を見ろ、とあからさまに馬鹿にしたように顎をしゃくって董卓軍の方を示す。
 深呼吸をしてその陣容を見た桂花の目が鋭く光る。
「アンタ馬鹿ぁ、バカでしょ、絶対バカよ。
 一応何処に突撃しようとしてたか聞いてあげるわ。
 ・・・止めた。
 いわなくていい、どーせ『中央に決まっている』とか何とかいうんでしょ。
 中央に突撃なんかしたら、全滅するわよ」
 はぁ、何を言っているんだこいつは、という顔をする春蘭に、桂花はわざとらしく大きな溜息をついて肩をすくめる。
「中央は縦深陣形、こっちを引きずり込むつもりよ。
 いい、相手には呂布がいるの、その上あの男が無策でいるはず無いでしょ」
 いいながら桂花の頭の中を、目まぐるしく思考が飛び交う。
 ・・・呂布の戦闘能力が未知数すぎる。
 過小評価をするくらいなら、過大評価をしたほうがいいわね。
 凪と真桜と春蘭で、倒す事は出来ない。
 華琳様が何も言わず後曲に向かった・・・と言う事は、あの男は此方にはいない
 青州兵を混乱させる策を、あの男は絶対に仕掛けてくる。それをどう破る。
「春蘭ちょっと」
 そう言って春蘭の耳に口を寄せ、ひそひそと小声で話しかける。
「呂布にまともに当たって、三人で勝てないでしょ。
 でも、貴女以外の二人じゃ、まともに打ち合うことも出来ない。違う」
 そういわれて、むむむ、と唸りながらも春蘭は黙って頷く。
 桂花に言われるまでもなく、春蘭もそう思っていたのだ。
「だから、春蘭は呂布と当たらないで。
 二人のうちどっちかが絡まれたら助けるように動いて」
 それは、これから混戦になるのに無茶だ。
 反射的に反論しかけた春蘭が、桂花の目を見て言葉を飲み込む。
「あと、敵の策を潰す為に、筆頭将軍の貴女に言ってもらいたい事があるの・・・」
 ごにょごにょと、桂花が耳打ちすると、春蘭は眉を顰め。
 真面目な顔をして、桂花を真正面から見据える。


「・・・もっと短くしてくれ」



「聞け、曹の旗の下に集いし勇者達よ。
 敵は愚かにも我らに歯向かい、勝とうなどと思いあがっている。
 更には我が軍の精兵を『黄巾党』と同一視し、くだらん策を討ってくるだろう。
 私が保証しよう、お前達は曹孟徳様の精兵だ、下らん言い草に耳を貸すな。
 何も考えずに我に続け、全員抜刀。
 敵左翼に向け突撃」
 桂花が考えた原文を三度簡略化した文章を、あっさり更に簡略化して叫んだ春蘭が、大剣を振り下ろすなり突撃を開始する。
 桂花は真紅の呂旗のある右翼を避け、旗の無い左翼を目標にした。

 ・・・それが、一影の策とも知らずに。

「ほほう。どうやら敵は一影殿の策どおり此方に向かってきたか。
 皆のもの、油断するな。例の旗を掲げろ」
 星はなおも可笑しそうに、突撃してくる騎馬を眺めていた。

 春蘭は背後に続く兵達が、動揺するのを敏感に感じ取り、速度を出す為に伏せ気味であった身を起こし、敵陣を見る。
「・・・なんだと」
 そこに翻る旗を見て、あまりのありえなさに思わず手綱を緩める。
 お陰で、単騎で突出してしまう事はなかったが、流石の桂花にも相手の策は読みきれていなかった。
 敵陣前面で翻る旗達にはこう書いてあった。


 蒼天已死 黄天当立 歳有甲子 天下大吉


「ふっ、足を止めたな。旗に火を掛けろ」
 すっかり悪役が板についた星が、ニヤリと笑み零し。『魔王の軍』に命じる。
 炎がそこかしこで旗を焼き、半分ほど焼けた旗は地に打ち捨てられ、くすぶりながらも黒煙を上げる。
 地を埋め尽くす兵士の屍、燃え尽きる見慣れた、自らが集った旗・・・青州兵の心の中で、頑丈な檻の中に閉じ込めていた恐怖が、その爪を扉に突き立て、こじ開けようとしている。
「とどめと行こうか。『魔王の軍』・・・突撃」
 槍を振り下ろした白衣の魔王の友の号令に、物言わず戦う騎馬達から低い唸るような声が復唱する。

『突撃』

 軍団が怯んだ。
 そのまま崩壊、敗走・・・
 それを圧し留めたのは、一人の少女の大声。
「怯むな馬鹿者、奴等とて所詮はただの人間だ」
 叫ぶなり単騎で突出し、最初の一人を一撃で切り伏せる。
 元青州兵は直ぐには動けなかった、しかし、他の将兵は直ぐに後を追った。
「夏侯惇将軍に遅れるな」
 凪の叫び声に近い大声が、青州兵の耳を打ち。
「ごちゃごちゃかんがえんと、突撃しかえしたり」
 唸る槍を持った真桜の命令に背中を押され。
 仲間の兵達が突撃していく様に我に返り、全速力、足も千切れよとばかりに突撃する。
 その様を遊撃隊を率いた桂花がみて、ほっと安堵の息を洩らした。
「絶対、バカを通してくれると信じてたわよ、春蘭」



「星ちゃんを助けに行かないと」
 桃香の焦った声に、朱里が首を振る。
「はわわ・・・ダメです桃香様、今行っても騎馬隊の邪魔になります。
 星さんは絶対に敵の先鋒を此方に逸らしてきます、だから今はこのままでいなくちゃダメです」
 愛紗が二人のやり取りを見て、小さく笑った。
 それはとても大事なものを見つけたような、そんな笑みだった。
「愛紗ちゃん、どうしたの」
 桃香が何故笑われたのかわからず、不思議そうに首を傾げる。
 朱里にも愛紗の笑いの原因がわからなかったらしい、同じように首を傾げて愛紗を見つめる。
「いやなに、久しぶりの朱里の『はわわ』だな、と」
 クスクス笑いながら、その頭を撫でる。
「お帰り朱里、生き残ろう・・・皆で」

 朱里の予想通り、星の騎馬軍は真正面からぶつかる事はせず、お互いわき腹をこすり合わせた大蛇のようにぶつかり合い、攻撃の衝撃を逸らしあった。
 春蘭はいまだ先頭を駆け抜けつつ、そのままの衝撃力を持って劉備軍残党越しに、もう一つの騎馬隊、真紅の呂旗のわき腹を狙って突き進む。
「進め、足を止めれば狙い打たれるぞ」
 雨のように降りかかってくる矢を打ち払いながら、槍襖のような敵陣を切り払ってゆく。
 一枚、二枚、三枚・・・あっさり抜いた勢いのまま、目の前の騎馬隊に突き進む・・・その後方でどうと大きな音が鳴り、馬がばたばたと転倒していく。
 騎上で首だけめぐらすと、百騎ばかりが転倒したようだ。
 死体でも踏んで足を滑らせたか。
「凪、真桜は無事か」
 前を向いたまま声を掛けると、短く「はっ」「無事やー」の声が返ってくるのに、少しだけ安堵する。
 呂布相手では三人でも厳しい、これが二人になったら、足止めも出来ん。



「上手く行ったな朱里」
 愛紗が曹操軍から分捕った馬を引き連れ、桃香と朱里の待つ場所へと戻ってくる。
 突破されたのではなく、突破させたのだ。自ら左右に別れ、突撃していく騎馬隊の、最後尾が通り過ぎるところに
コッソリ縄を張って。
「星ちゃんの騎馬隊が挟撃に行くよ、縄から手を離して」
 桃香の命令で、兵が張っていた縄から手を離し、縦列陣に姿を変えた劉備軍残党の間を『魔王の』軍が通り過ぎていく。
「今なら逃げられますぞ、桃香様」
 愛紗が馬の手綱を手渡しながら、真剣な目で問いかける。
「逃げないよ、夢を・・・語った責任が私にはある。
 だから、もう逃げるのはやめたの愛紗ちゃん
 決めたの、私ねバカで甘くて、何も出来ないから・・・バカを貫くって」



 戦況を見定めていた恋が、劉備軍残党から目を切った。
 雰囲気が変わった・・・あそこは、もう裏切らないから・・・見て無くていい。
 星が敵の初撃を惹き付けたときは恋が、逆に恋に突っ込んできたときは星が、劉備軍残党を監視する。
 それが一影が最初に口にした言葉だった。
 流石に一影でも劉備軍残党は信用も、予測もつかなかったと言うことか。
「敵・・・くる。・・・準備」
 恋の短い命令になれた配下の兵達が一斉に武器を構える。
 春蘭の騎馬隊が、流れるように勢いを消さず、此方に向かってくるのが見えたのはその直後。
「・・・突撃」
 恋に張飛とやりあったときの殺気は無い。
 配下の騎兵が弾かれるように飛び出し、恋も其れに遅れずに突撃する。

 騎兵は突破力だ。
 その機動力を衝撃力に変え、敵を突き破る。
 当たる直前まで馬足を押さえ、一気に爆発させる。
 その恋の騎馬隊が春蘭の騎馬隊目指して、最終加速を仕掛けるその瞬間。
 上空から無数の矢が飛来した。
「突っ込む・・・」
 恋は迷わなかった。
 しかし、配下の何割かは迷った・・・
「貴様が呂布か」
 それは誰何ではなく、確認ですらなかった。
 春蘭の武人としての嗅覚が、恋を強者として一瞬でかぎ分けた。
「・・・来い」
 お互いが先頭に立った春蘭と恋が真正面からぶち当たる、交差は一瞬。
 お互いの武器の軌跡が交錯し、妙に済んだ涼やかな音が戦場に響き渡った。
 恋の持つ方天画戟が、春蘭の持つ七星餓狼を打ち砕いた・・・否、断ち切った。
 それは春蘭の強さの証でもあった。
 他のものであったなら、武器を合わせることも出来ず、よしんば合わせたとしても、武器を弾き飛ばされるか、体ごと跳ね飛ばされる。
 打ち合い、武器を合わせたお互いの衝撃を押さえ込み、振り切ったその力に、春蘭の大剣が耐えられなかったのだ。
「ちょっと・・・強い」
 恋にしては最大級の賛辞を後に、そのまま駆け抜け、春蘭の背後に続く騎馬隊を薙ぎ払っていく。
 一閃で馬の首が折れ、その後ろにいた騎手が切り裂かれる。
 返す一閃で馬ごと兵が両断され、振り払った柄に巻き込まれた馬が横倒しに倒れ伏す。
 騎馬のひしめき合う騎馬軍の中央を、方天画戟が届く範囲で人馬が刈り取られていく。

 ・・・なんなのだ、あれは。

 その様は凪には悪夢に見えた。
「春蘭様ぁ、はよう撤退せんと、このままやったら、皆あいつにやられてまう」
 真桜の焦った叫びに我に返り、手に残った大剣を握り締め、配下に振り返って叫ぶ。
「総員撤退。
 呂布、勝負は預けるぞ」
 馬首をめぐらし、馬の腹を蹴って一気に加速する。
 騎上で春蘭は歯を噛み締めていた。
 負けた・・・それはいい、やつのほうが上なのはわかっていた。
 だが、その後の様は何だ・・・
 私が・・・恐怖を感じるとは、何と言う無様・・・
「次は・・・こうは、行かんぞ。だが呂奉先よ、見事」
 強い決意の光を目に宿し、そういい捨てて退く春蘭の騎馬軍。
 殿に喰らい突くようにじわじわ削っていた、星の指揮する『魔王の軍』を引き剥がすような、絶妙の矢の雨の援護もあり、その被害は二割強で済んでいた。



「どうやらお互い無事なようだな恋」
 負傷者の手当てや、捕虜の収容など、一通りの処理をし終わった星が、恋の姿を見かけて片手を上げながら声を掛ける。
 しかし、恋からの返事が一向に無い事に、怪訝な顔をして覗き込むと。
 なにやら難しい顔をして、悩んでいるようだった。
「どうした、そんな豚が飛んだのを、見つけてしまったような顔をして」
 微妙に難しく、適切なのか判らない表現をする星に、恋はクスリともせずに答える。
「敵・・・一寸だけ強かった。・・・だから、お兄ぃ・・・借りるの・・・なやみちゅう」
 流石に内情を知らない星には、恋の言葉だけでは伝わらない。
 ふむ、とあれこれ恋の言葉を繋ぎ合わせ、言葉を足して考えているところに、馬に乗った桃香と愛紗、朱里の三人がやってくる。
「生き残りました」
 短くそう言って微笑む桃香を見て、星が小さく笑う。
「つい今朝方までは主従であったのに、いまでは敵同士とは、まっこと儘なりませんな、運命とは」
 逃げなかったのか、と少しだけ意外そうな顔をして。
 いつもながらの軽口を叩く。
「三人が戦っているところは、しかと見届けた。それは一影殿にもそう伝える。
 それで、一体何の御用ですかな」
 星が笑顔のままそう言うが、その目は笑わず、油断無く三人を見据える。
「実は、呂布殿にも関係あるのだが。
 我が義妹、張飛と戦った場所まで連れて行ってはもらえないだろうか」
 星が僅かに険しい表情を浮かべ、何か言う前に。
 恋が馬に飛び乗る。
「・・・こっち」
 それだけ言って走り出すのを、愛紗だけが後を追い残りの二人が馬から下りた。
「まったく、董卓軍と言うのは解らん。
 一影殿のように容赦が無いかと思えば、恋のように疑いもせずに捕虜の願いを聞き入れる」
 溜息をつく星に、苦笑を返すしかない桃香と朱里。

 命を狙ったものと、狙われたもの。
 そんな話しの弾まない三人の待つところに恋と愛紗が帰ってきたのは、しばらくした後だった。
「お帰り恋、そんなに遠いのか」
 恋が首を振って答える。
 つまりは・・・そういうことか。
「・・・愛紗ちゃん」
 桃香も同じ答えに行き着いたのか、顔を青ざめさせながら、答えを聞きたいような聞きたくないような、複雑な表情で声を掛ける。
「違います桃香様。鈴々は誰かに助けられたようで、姿がありませんでした」
 愛紗の答えに、ほっと胸を撫で下ろす桃香と朱里。
 そんな三人の様子に全く頓着せず、恋が遠くの戦場を見やる。
「お兄ぃ・・・」
 その一言は、一体どれだけの気持ちがこもっているのか、誰にもわからなかった。

 



   

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