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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第二十一幕 「世界で一番お姫様」

 
 腕に抱き上げられた美女は、全くの予想外な展開に

 掛けられた言葉を理解することも出来ず、呆然とただただ目の前の男を見つめていた。
 
 落馬はジョストの負傷としての大半を占め
 落ち方如何によっては、死に至ることすらある。
 いっそ綺麗に背中から落ちてしまえば、衝撃を鎧が拡散してくれるのだが・・・

 今回のように、非力な女性同士の試合である場合
 攻撃に出て体勢が崩れた所にカウンターをもらい
 バランスを崩すというのが、実はかなり危険なのだ。

 ベルティーユは咄嗟に、掴んでいた手綱から手を離した。

 これは、賞賛されるべき判断力である

 女性の体重を明言することは避けるとしても・・・
 静馬が凝視する程のスタイルを誇るベルティーユが
 下半身は露出が多いデザインではあるものの、金属鎧を身に纏っているのである

 その全重量が、一点で手綱により首にかかれば、馬とて無事では済まない

 悪くすれば、首の骨が折れるだろうし、そうならずとも、バランスを崩し転倒する可能性が高い
 そして、言うまでもなくその場合、馬体は当然引っ張られた側へ
 すなわち・・・落馬した騎士の側へと倒れこむ。

 咄嗟の身体反射、あるいは経験による瞬間的判断によって、ベルティーユはそれを回避してのけた

 

 だが、咄嗟の身体反射が、別の面でベルティーユに悪く働く。
 人間は危険に直面した場合、手で遮ろうと庇う。
 あるいは・・・押し退けようと、手を伸ばし突き放そうとする。
 人は、躓けば地面に手を伸ばすのだ。

 それは怪我を避けるための、本能的な行動で・・・
 
 普通の落馬であれば、それに因って怪我は軽減されるかもしれない。
 だが、現状はジョストによる試合中での落馬
 その身を包んでいるのは、如何に軽量化されていようとも金属製の鎧である

 どれほど稼働がスムーズに出来るようにと、長年改造されてきたとしても
 鎧というものは、点でうけた攻撃に対し、一体となって面での衝撃拡散を狙ったものである以上
 本来人体の出来る動きを制限し、重さでもまたその動きを鈍らせる。
 
 如何にジョストのために鍛えているとはいえ
 全体重にくわえ、全身を鎧った金属の重量を
 左腕一本で受ければ、骨折、脱臼・・・良くても捻挫
 受け身を相当に修練していなければ、無傷や軽傷という訳にはいかない。

「私が試合前に言った言葉は、顔以外であれば怪我をしても構わない・・・と言う意味ではなかったんだが。
 貴女が此処で負傷しても、試合を投げないという事はわかっている
 故に、無粋ながら、こうして手を出してしまったことに対する文句は受け付けるよ」

 ベルティーユからの返事が来ないのをいいことに
 心配するアンとエマの方へとお姫様抱っこという、この上なく悪目立ちする体勢で歩を進める静馬に
 ベルティーユの愛馬が後を付いて来ながら、心配そうに肩越しに腕の中を覗き込む。

「お姫様扱いはしないと、先程言ってらしたのに・・・
 試合中にこうして手を貸されては、没収試合になってしまいますわ」

 咎めるような内容であるのに、腕に抱かれたベルティーユの声は非常に穏やかで
 どこか、幸せそうにすら見える微笑みをたたえ。
 直接感謝の言葉を口にするような、無粋な真似を私はしませんよと、静馬をからかってすらいた。

「公式の試合でもないこの決闘で、そんな事を相手が言って来たのなら、それこそ無粋というものだね
 仮に言って来たとすれば、こう言ってやることにしよう。
 『絶好の機会を与えてくれた美桜嬢には感謝している。
 同じ事が君にも訪れるよう、ベルティーユ嬢にも頼んでおくよ』とね」
 
 悪びれる風もなく片目をつぶって見せた静馬に
 彼女の愛馬バイズ・ローゼンが、あたかも賛同するかのように絶妙なタイミングで頷いて見せ。
 口元を抑えて上品に笑うベルティーユの楽しげな笑い声が響く

 それが引き金となり、実況の東雲嬢を筆頭に、あっけにとられていた会場の全員が、止めていた思考、動きを取り戻す。

 東雲嬢はインカムにむかい、有らん限りの語彙を詰め込んで、ベルティーユと静馬の現状をまくし立て
 それに触発された女生徒達の、黄色い悲鳴の合唱
 男子生徒達の、ベルティーユという学園屈指の美女を腕に抱えた、静馬に対するやっかみの声

 その派手な部分に隠されるような、低いざわめきは、騎士科の面々から漏れた。



「お姫様気分も十分堪能させて頂きましたから、これからは騎士の時間ですわ静馬さん」

 アンとエマを前にして、流石に少々気恥ずかしさを感じたのか
 頬をわずかに上気させながら、ベルティーユが下ろしてくれるようにと婉曲的に静馬に告げる。

「出来る事なら麗しのベルティーユ嬢を抱き上げてのナイト気分
 私は、このまま一生続けていたいくらいなんだが・・・
 名残惜しいが、姫君を手放すことにしよう」

 わざとらしいため息とともに、ベルティーユを地に立たせ

 真正面に立ち、ゆっくりと右手を上げ、敬礼をする。

「では、アン、エマの二人に騎士様をお返しして
 騎士同士の決闘の場から、騎士モドキは退散するとしよう」
 
「アンタねぇ、一本取られて大ピンチの友人に向かって、他になにか言うことはないの?」

 今にも物理的に噛み付きそうなほどに、目を吊り上げたアンの剣幕に
 腰の退けた体勢で、両掌を前にして困ったような笑顔を浮かべながら

「それは君達ベグライターの仕事で見せ場だ。
 私から願うことは、君達三人がこの晴れの舞台で
 存分に楽しんで欲しい、ただそれだけだよ」

 あぁそれから、と
 さり際に、さも今気がついたとばかりな表情を浮かべ

「メガネをする程、目が悪かったとは知らなかったが
 君の知的なイメージにピッタリだと思うよ、エマ」

 * * *

「帰って来ないで、ずっとあっちで愛しのベルティーユ先輩の側にいればよかったんじゃないですか?」

 元の場所に戻ってくるなり、開口一番フィオナの口から投げかけられたのは
 低く不機嫌な声での、そんな嫌味で・・・
 静馬は思わず、これ以上ないというほどに楽しげな笑いを漏らした。

 フィオナが、拗ねて当て付けに嫌味を言っているのだ、などと都合のいいように勘違いしたわけではなく

 迷惑そうな表情が演技ではなく、心底嫌悪感の現れだと確りと理解して

 あいも変わらず、そういった部分が子供のままのフィオナに・・・
 ちょっと、安心したと言う事なのだが、本人を前にそれを悟られるわけにも行かず
 なんですかもうっ!、といきなり笑い飛ばされて、憮然とした表情を浮かべる様に
 静馬の笑いはさらに楽しげになっていく・・・と言う悪循環は
 ついには根負けしたフィオナが、ふいっとそっぽを向いてしまうまで続いた。

「君は、この試合で何に気がついたかなフィオナ」

 柵に肘をのせた姿勢で、謝るでもなく掛けられた静馬の声には
 普段の誂うような響きよりも、ちょっとだけ真面目な色合いが強かった
 フィオナはそれを正確に理解したわけではなく

 で、ありながらも、感覚的に何かを感じ取ったのか
 それとも、ジョストに関することに対しては、流石に茶化す気にならないのか
 不機嫌な声のままではあるものの、回答の内容自体は至って真面目に

「なんですか、今のベルティーユ先輩の落馬が、決して偶然なんかではなく
 どころか、ちゃんと狙ってじゃなきゃ出来ないってことですか
 それとも、その前に美桜先輩が綺麗にベルティーユ先輩の突きを見切ってよけたことですか?」

 あっさりと、今の一瞬の攻防での出来事
 その要点をピンポイントで抑えてみせ・・・
 少し意地の悪い笑みを浮かべるフィオナ

 どうせ私に、お節介な忠告でもするような真似をしたかったんでしょうけど・・・

 腰抜けな先輩に気付ける様なことが、私にわからない訳無いじゃない

 まえもって静馬が言いそうな部分を並べて抑え

 心のなかで、べーっと舌を出して小さく笑う。

「まぁ、そこに気が付かないとは思っていなかったんだが・・・やっぱり、フィオナは見逃していたか。
 これは、文句を言われながらも帰って来て正解と言う事かな」

 軽く肩をすくめる静馬に・・・フィオナが向き直って、ぐいっと上着の裾を引っ張った。

「それじゃぁ先輩は、一体何に気がついたっていうんですかっ」

 そこで初めてフィオナは、静馬の制服の両腕が
 引き裂かれてかぎ裂きになり、ところどころ赤く滲んでいることに気がついた。

 なんで気付かないのよ、馬鹿・・・

 静馬先輩が、馬鹿で気障で格好つけなのは、わかってたはずでしょ

 さっきスィーリア先輩にも、言われてたばっかりでしょ!

「馬鹿っ!なんで怪我したら怪我した、痛いなら痛いって、ちゃんと言わないんですか
 もう・・・馬鹿、変態、気障!私は先輩のお母さんじゃないんだから
 ちゃんと言ってくれなきゃ、わかりません」

「いや、その・・・すまない。
 心が痛いから、罵倒は少々手加減してくれると、嬉しいんだが。
 私が気がついたのは、美桜嬢が本気で勝つつもりだということだよ」

 両手を上げた降参のポーズから、情けない表情のまま
 視線と指先を美桜のいる方向へ向けて、示してみせる。

「なに馬鹿なこと言ってるんですかっ
 負けるつもりで試合なんて、やるはず無いじゃないですか」

 怒鳴るような自分の声に、フィオナが固まる。

 『出るからには勝ちを目指す・・・どんな事をしても。そうじゃないんですか?』

 『勝つつもりもないのに、遊び半分でジョストをされるのって・・・すごく不愉快です』

 フィオナが貴弘につきつけた言葉
 あの時、貴弘はそれを否定した・・・試合に出て、無事に終わることが重要なんだよ、と。
 だが、そうではないと美桜が示していると、静馬は何かに気が付き

 本当は、貴弘先輩だって・・・

 本気で勝つつもりで、勝てるように全力を注いでいるのだと

 自分は、言われないから気がつけなかった

 いや・・・わかろうとすらしていなかったのだ、と。

「私の知る限りでは、希咲美桜嬢はヘルムに収まらないほどに
 髪の長い、一般科の女性であるのだが・・・どうみても、その髪を纏めているようには見えない
 つまりは、このたった一度の試合のために、彼女はその髪を切ったということだ」

 少しでも、動きを制限しないためにと
 自ら髪を伸ばすことを止めたフィオナは
 同じ思いで髪を切った美桜の、この試合に掛けた決意を知り

 彼女を馬鹿にした自分の態度に

 美桜と貴弘に投げかけた暴言に

 自己嫌悪に苛まれ、顔を俯ける。

「勝利の女神がそんな沈んだ表情をしていては、勝てるものも勝てなくなってしまうよフィオナ。
 私は我が麗しのベルティーユ嬢を応援するが、君が応援するのはどちらかな
 願わくば、どちらも公平に応援して欲しいところだが・・・」

 片目をつぶりながら、楽しそうに笑う静馬

「人間、出来ないことや失敗することなど山ほどある。
 恥ずべきは、それを恐れて挑まないことだよ
 勝利の女神は何時だって、イタズラ好きで、チャーミングだと相場が決まっている」

「どうせ、出会った女の人皆にそう言ってるんでしょ」

 べーっと、今度は正真正銘舌を出しながらそう言うと
 先程までとは違った真剣な目を、今まさに二本目が始まらんとする
 試合の会場へ、二人の騎士へとフィオナは向けた。

2012.04.30


   

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