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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第十七幕「心模様」

 
 周りのざわめきが聞こえないほどに集中している訳でも
 緊張して周りが見えず、周囲の音が聞こえていないのでもなく
 日常の如き自然体で、艶然と微笑む眼の前の美女に

 静馬はしばし呆然と、見惚れていた。

 微塵も気負ったところのない、普段通りの優しい笑顔は
 ただ有りの侭を受け入れ・・・
 どころか、現状を何処か楽しんでいるようにも見えた。

 いや、実際に楽しんでいるのだろう。

 他人に注目されることの多い彼女にとって
 何より、分り易い程に何事も派手であることを好む彼女にとっては
 今回の決闘は、負けることの出来ない試合と言うよりも
 自身と相手を主役とした、晴れの舞台という意識のほうが強い。

 当然、負けることに対するプレッシャーは有るものの
 それすらも優雅に受け流し、彼女を美しく輝かせる装飾にして
 その笑みは、眩いばかりに輝きにあふれていた。

「貴女の勝利以外の未来を、私には想像できない。
 そして、仮に今此処でベグライター役を買って出ても
 ・・・貴女が断るだろう事も。
 違うかな?我が麗しのベルティーユ嬢」

 そっと一輪

 真紅の薔薇を差し出しながら、そう口にする静馬は

 ベルティーユの手を取り、その手の甲に口付けをしようとして・・・

 薔薇を渡すに留めた。

 気障ったらしい物言いに、鼻に皺を寄せていた女性陣の中で
 アンとエマの二人が、それに気付き、眉を顰める。

「なによ山県静馬、アンタらしくないわね。
 どーせやるなら、最期まで気障ったらしく、手の甲にキスまですればいいじゃないの」

 普通の人間であれば、想いはすれど決して口にだすことのない台詞だが
 アンは躊躇いなく、真正面から静馬に言ってのけた。
 それはアンの性格的な部分が大きく関わっていはするが、彼女とてウィンフォードの学生である
 相手の誇りを傷つけることを、狙ってするわけではなく
 侮辱と受け取るような相手に、そんな口の聞き方はしない。

 即ち、静馬とは何はばかる事無く言い合えると言う、二人の間に築かれた信頼関係による

 ・・・いわば、親愛の表現である。

 いつもであれば、余りにアンの直線的する物言いにエマがたしなめるのだが
 今回の件に関しては同意見なのか、あるいはベルティーユの決闘を前にして緊張しているのか
 緑の髪を僅かに揺らし、小さく頷くだけで敢えて口を挟もうとはしなかった。

 周りに人目が多すぎて躊躇った、というわけではないんだ

 そう肩を竦めながら言う静馬の説明に。
 そんな事、今更思うわけがないでしょう、とピシャリとエマが言い返したところを見るに
 緊張してという線は、どうも理由からは遠いらしい。

 感情をあまり表情に出さず、いつも真面目な表情であるエマだが
 ことさら『真面目な表情で』と付け加えるほどの顔を静馬向け、無言で理由の説明を促す
 ある意味において、エマの方がアンよりも更に容赦がない。

 それにも微笑み返しながら、静馬は小さく、だが確りと頷いた。

「ベルティーユ嬢は、確かに男爵家の令嬢だ。
 だが、今此処にいる彼女は貴族のお姫様としてではなく、一人の騎士として立っている。
 そんな相手に、如何に麗しく気品溢れるとはいえ、姫君扱いをしては
 戦場に赴く騎士に対して、礼を失すると、そう思ったんだ」

「その言葉・・・百万の賛辞、励ましに勝ります」

 そう言って、金属鎧に鎧われた手の中にある薔薇に顔を寄せ
 目を閉じて、ゆったりと香りを愛でるや
 ゆっくりを目を開き、目の前に立つ静馬をやや見上げるようにして、真っ直ぐに見つめ

「この真紅の薔薇に誓って、必ずや勝利を」

 静馬のベグライター役への申し出を、直接的な言葉を一切使うこと無く断るベルティーユ

 当然貴女はそう言うだろう、と静馬は肯き

 もちろんそう答えます、とベルティーユが頷き返す。

 これで静馬がカイル並に外見が良ければ、美男美女として絵になりもするのだが
 ベルティーユの美貌に比ぶべくもない凡庸な外見の為
 姫とその騎士、とすらなりえず・・・
 贔屓目に見ても、姫とその従者となってしまうのが、残念でもあり、全く静馬らしくもあった。

 では私は会場へ戻るとしよう、そういって片手を軽く上げながら踵を返し。
 ああ、一ついい忘れていた、と歩みだした足を止め、ベルティーユに振り向く。



「貴女の美貌は、この国の・・・いや、世界の宝だ
 くれぐれも、傷など付けないように」



 片目をつぶって、それだけ言い残して去る静馬。
 その背中に、僅かに頬に朱の差したベルティーユと
 砂でも吐きそうな表情のアンとエマの視線が向けられる。

「・・・最後の最後に、やられましたわ」

 知らず緊張していた身体から、強張りがすっかり抜け落ちているのを感じたベルティーユが、薄く苦味の混じったため息をつく。

「あいつは隙を見せたら口説いてきますから
 ベルティーユ様も十分気を引き締めて、隙を見せないように気をつけて下さい」

「自分のではないとは言え、決闘前の緊迫した空気で
 ああもマイペースを崩さない気障っぷりは、一種大物ではありますね」

 別々の感想を漏らす二人
 だが、ベルティーユもまた、全く別の感想を胸に抱いていた。

 まったく、これでは不公平ギリギリですわよ静馬さん

 相手の方・・・希咲美桜さんと公平になるように、貴方の申し出も断りましたのに

 そばに居て欲しくなってしまうではありませんか、もう・・・憎らしい。

 心の中で少しだけ拗ねてみせ
 ベルティーユは先程凛々しく勝利を誓った薔薇を、そっと両手で握りしめ
 目を閉じてもう一度その香りを、胸いっぱいに閉じ込めた。

 * * *

 今まで一言も喋らず、それでも黙ってついて来ていたフィオナ

 タルトタイムでの口論・・・と言うよりも一方的にフィオナが食って掛かり
 静馬がそれをのらりくらりと、言葉巧みに躱していった様は
 熟練のマタドールの、練達の技の冴えを思わせる巧みさと優雅さで

 あの場にいたノエル、貴弘のみ成らず、店中の客全員を感心させ、あるいは呆れさせ
 ・・・一部の酔客には拍手さえさせ
 終いには、何がどうなったのか見知らぬ客に、注文した品まで奢ってもらう事になり

 もっと訳のわからないことに・・・
 ベルティーユの決闘を、一緒に観戦する事をいつの間にか決められていた
 我に返り、周りにすっかり注目されていたことに、羞恥に頬を染めていたフィオナは
 その場で反論をすればよかったことに、機を逸した時点になってようやく思い至ったがもはや後の祭りで

 騎士である彼女は、欠片も納得できないとはいえ・・・約束を反故にすることも出来ず

 不機嫌そうな表情を隠そうともせず
 それでも文句ひとつ言うでなく、静馬の隣に立ち
 そっぽでも向くように、視線をあらぬ方へと向けながら・・・
 ほんの小さく、静馬の上着の裾を、手で摘んでいた。

 まったく、ちょっと目を離すと根無し草みたいにフラフラ女の人に寄って行って
 相手構わず、ところ構わず、歯の浮くような台詞を息を吸うみたいに当たり前に口にするんだから。
 なんだって、こんなわかりやすい気障ナンパ男に皆引っかかるのかしら
 そりゃぁ面と向かって、褒められれば嬉しいのはわかるけど・・・
 女と見れば端から褒めていく様な先輩に言われても、普通は聞き流してまともに取り合わないだろうに

 スィーリア先輩や、ベルティーユ先輩なんかは、貴族のお姫様だし、世間ずれしているのかもしれないけど
 この間の、綾子先生のお店で先輩と会うように意欲的に説得してきたのはリサだったし・・・さっぱり訳がわからない。
 リサと一体何処で会ったのだろう。
 第一にして、その前に先輩と会った時のリサは・・・
 珍しく嫌悪感を面に出して、先輩の悪口を言っていたのに

 ・・・弱みでも握られたのだろうか

 不意に浮かんだ考えを、頭を振って追いやる。
 静馬は、変態だがそういうことは絶対にしない。
 そう信じてもらえる程には、フィオナの中にある静馬の人間的な信用は高い

「やぁリサ、今日も子猫のように愛らしいね」

「こっ、公衆の面前でいきなり何を言い出すんですか先輩はっ!」

 上気させた頬、きつく瞑った目、怒鳴るのではなく、焦りに調子の外れた大声
 ・・・それら全てが示している。
 リサは、本気で嫌がっているのではない、この反応は照れ隠しなのだと。

 チクンッと、フィオナの胸が痛む・・・

 胸に刺さった針の名は、嫉妬
 
「真に受けちゃダメだよリサ。
 先輩は、女の人なら誰にでも見境なく・・・
 息をするのと同じくらい自然に口説き文句を並べるから」

 静馬を睨みつけ、深いため息をつきながら、言うフィオナの表情に違わず
 フィオナの静馬に対する男としての評価は、人間的な評価とは真逆に最低である。
 そして、文句・・・嫌味を向けた矛先からもわかるように

 フィオナの嫉妬の対象は、静馬。

 腰抜けで、一度も試合をしたことのない静馬が、ジョストの天才であるリサに
 フィオナを積極的に説得しようと、自発的に考えるまでに影響を与えた
 時間的に見て・・・ほんの二三日の間で
 つまりは、多くても数度、もしかしたら一度の接触で
 評価を百八十度変えるほどに、静馬がリサに認められたということ。

 そうでなければ、リサはあんなことを言われても、怒ってなど見せず
 ただ、つまらなさそうに、冷たく対応する
 まるで、道端に落ちている、取るに足らない石ころを見るような



 ・・・かつて、自分に向けたような、そんな目で。



「私は、思った通りのことを素直に口にしているだけだよ、フィオナ。
 リサが愛らしいのも、ベルティーユ嬢が麗しいのも、フィオナが勝利の女が・・・」

 顔を真赤にしたフィオナが、飛びつくように手を伸ばし、静馬の口を手で塞ぐ。
 あまり観客が多くはないとは言え、自分が通っている学園で、それなりに人目がある場所で
 自分の事を、女神だなんだと恥ずかしい言葉を並べ立てられては、公開処刑のようなもの
 ・・・明日からどんな顔をして学園に来ればいいのか、いかに強気なフィオナでも流石に、平然としてはいられない

「ちょっとっ、いきなり変なこと言い出さないで下さいっ!
 だいたい先輩はいつもそうやって人を誂って
 真面目な顔してれば騙されると思ってるんですか」

 口を手で塞がれたまま、静馬は肩をすくめ、心外だと言う表情を浮かべてみせる。
 そのままフィオナの手を剥がそうともせず、賛同を求めるように、リサに視線を向ける。

「あのっ、私・・・そ、そうだ、応援っ、美桜先輩の応援なんで
 先輩はベルティーユ先輩の応援ですよね、だから・・・おじゃましたした!」

 顔を真赤にして、足早に・・・と言うよりは、小走りに離れていくリサの姿に
 ようやくフィオナは今の自分が、抱きついているようにしか見えない体勢で
 
 自分が、逃げていったリサに負けぬほど赤面していくのを、感じていた。


 2012.04.07


   

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