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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第十六幕「汝、友人を選べよ」

 
 炎明かりに包まれた空間は、妙に優しく、暖かく見えた。

 いや、この言い方では嘘になる。
 実際に店内を照らしているのは電球で、アルコールランプなどの炎ではないのだから。
 今少し正確を期するのであれば、電球も白色や昼白色のものではなく
 所謂電球色と呼ばれるたぐいの橙がかった光を発している代物ではあるのだが・・・
 それ以上に柱や床、窓枠などに使われている木材の色調や、木目の味わいが、優しく暖かな雰囲気を作り出している。

 磨きぬかれた、綾子自慢のカウンターに肘をつきながら
 貴弘は学校とは異なるもう一つの自分の職場を眺めていた。

 メイド服・・・ウェイトレス姿の、髪の長い少女がきびきびと客に応対している・・・其様を。

 所作の所々に、匂うような女性らしい柔らかさが現れているのに
 それがちっとも下品にも、媚びているようにも映らないのは・・・
 背筋の伸びた美しい姿勢と、隠しようもないほどに纏っている品の良さ
 そして何より・・・自信と自覚に裏打ちされた、強い意志ある眼の光が故。

 そのくせ、耳に流れ込んでくる声は、時折背筋が震える程に色気があるのだから・・・

 ノエル・マーレス・アスコットと言う少女は、猫の目のように複雑で、魅力的である。

 アットホームなこの店、タルトタイムの一部としてその姿は妙にはまっていながら
 同時に、酷くその場にそぐわない様にも感じられる。
 もっとも、普段そこにいるのは美桜で有る為に感じられる違和感だと言われれば・・・
 それを否定は出来ない程には、貴弘も美桜もタルトタイムで長い時間を過ごしてきていた。



「可愛らしいウェイトレスが居る・・・と聞いていたのだが
 これは教えてくれた友人に、文句の一つも言ってやらなければならないな」

 注文の品を出しにテーブルに寄ったノエルに掛けられたのはそんな一言。

「あら、私ではご不満かしら?」

 コーヒーをテーブルの、男性客の前に置きながら、別段怒った風もなく
 何処か相手を誂うような、悪戯っぽい魅力的な笑みを浮かべ受け流すノエルに
 まさか、と男性客も笑って肩をすくめる。

「何故もっと早く教えてくれなかったのか、ともうひとつ
 こんな素敵な女性を、可愛らしいとしか表現できない語彙の貧困さは・・・
 文句の一つも言われるべきではないかな」

 片目をつぶってみせる相手に・・・

「まぁ、お上手。でも・・・褒めてもらえるのは嬉しいのだけれど
 私は臨時で、普段は可愛らしいウェイトレスが居るのだから、貴方の友人は文句を言われたら可哀想よ。
 それからもうひとつ。
 女性と一緒にいる時は、別の女性を褒めるのは心の中だけに留めたほうが良いのではないかしら?」

 応えるように片目をつぶって、悪戯っぽく笑うノエル。
 話しかけてきた相手が、ウィンフォード学園の制服姿で、話の内容が内容だけに
 随分とフランクな話し方、ノエルの素に近い口調に変わっていたが、むしろ店の雰囲気には、そちらのほうがあっていた。

 実際の所、ノエルの接客態度は丁寧で格調が高すぎた。
 タルトタイムの売りは、タルトの味もさることながら、アット・ホームな雰囲気による癒しで
 客に対して無礼ではいけないが、肩の力が抜けた・・・ざっくばらんな、友達感覚の様な今の口調は、店の方針との方向性も合っている。
 なにより、そうした砕けた態度をとっても、品を落とさず、なおかつ魅力も落とさない・・・ノエルは、チャーミングさを兼ね備えた美人であり、その上客との会話もいやいやではなく楽しんでいた。

「この人が気障ナンパ男なのは何時ものことですから
 店員さんも真面目に相手しない方が良いですよ」

 素っ気無い声で返す、同じテーブルの対面に座った女性客。

 普通に考えるのであれば、兄妹でもない男女がふたりきりで甘味処に来ているのだ。
 少なくともお互いが相手を異性として意識してはいるようだし、仲が悪いということもないのだろうが・・・
 女性客の態度は嫉妬しているようでも、怒っているようでもなく、完全にあきれ果てているを通り越し、諦めが大きく占めるのが隠す努力も放棄して現れていた。

 妙に肩の力の抜けた素の表情で、苦味を幾分含んではいるものの、笑ってすらいた。

「私の記憶が正しいのなら・・・
 今日は、とある可愛らしい女性が、うっかり口を滑らせておきた風評被害を謝る為、という趣旨だったような気がしたのだが。
 ここで更に口を滑らせるということは、私は告白されていると、そう自惚れるべきだろうか?」

 両手を軽く上げて、片目をつぶってみせる男性客は
 顔を真赤にして噛み付かんばかりに険しい目をむける女性客に睨みつけられながらも
 酷く優しい眼差しで、何処か眩しそうに目を細めながら、穏やかに相手を見つめる。

 * * *

 つと音もなく件のテーブルから離れ、後ろ向きのままカウンターに身を寄せたノエルは、軽く体重を掛けるようにカウンターに寄りかかりながら
 目だけで斜め後方の人物に視線を向け、潜めた声で問いかける。

「なんだか面白い二人ね、あのテーブル。
 ねぇ貴弘、貴方はそうは思わない?」

 ノエルも女の子なんだな、と思わず口を滑らせかけるのを、仏頂面で無理にも誤魔化す。

 万人が声も仕草も容姿も、どれをとっても魅力的な美女と評する程の相手に掛ける言葉としては、貴弘の言葉はあまりにもおかしいのだが
 普段のさっぱりした態度や、騎士姿を知っている者にとっては
 言い換えるのなら、彼女に近しい者であれば有るほど、これほど魅力的な美女であるのに・・・ノエルの印象からは性別と言う概念が薄れる。

「気障ナンパ男呼ばわりされて、笑って相手を誂う男と
 謝るために相手を呼んだのに、また気障ナンパ男呼ばわりする女の子
 一体どっちに呆れるべきか困ってる」

「両方に平等に呆れるべきではないかしら、もっとも軍配は男性の方に上がりそうよ。
 あの人、あの娘にああ言わせる為に、態と私を口説いていたみたいだし」

 それを聞いた貴弘の溜息がいっそう深くなる。

 好きな女の子をからかって、相手の意識を自分に向けさせるなんて、発想が小学生並みだ
 その上、見たところ東洋人のようだが・・・
 よくもまぁあそこまで歯の浮くような台詞が、平気で言えるものだ。

「好きな子にはつい意地悪しちゃうなんて、口が上手くてもまぁ子供ってことかしら」

 ノエルも同じ感想を抱いたらしく、小さく笑いながらつぶやく
 しかし、そう考えてみればなりは大きくとも小さな子供のじゃれあい
 なんともほほえましい限りの光景に、貴弘も知らず呆れ顔が笑みに変わっていく。

 リサに相談されたこともあり、カイルから聞いた話にも後押しされて、手を尽くしたのだが
 問題の二人が、喧嘩まがいとはいえ会話の席についているのだから、義理は果たせたといえるだろう。
 この先がどうなるのかは、後は二人の問題でしかない。
 一介の学生や、アルバイト店員にどうこうできる代物ではないし
 他人のプライベートに訳知り顔で土足で踏み込むような事は、貴弘にとっても望む所ではなかった。

 プライドなんてものは、他人からどうこう言われて持つものでもないしなぁ・・・

 本人が気にしていないというのに、年下の女の子から罵倒されているのだから怒れ、と強要するのも馬鹿らしく、それこそ余計なお世話でしかない。
 大体、あの二人がやっているのは、喧嘩じゃなくて不器用なコミュニケーションだ
 外野が余計な口をだしても、拗れるだけ。
 そして、自分は先日それをこじれさせた罪滅しを、かってにしているだけだ、と。

 なんだ、呆れられるべき人間は、もうひとり此処に居るんじゃないか。

 一人自問自答しながら、苦笑いを浮かべる貴弘に、ノエルが無言のまま問いかけるような目を向け、言葉を促すように眉を開いて小首をかしげてみせる。
 酷くチャーミングなその仕草に、小さく首を振り何でもないと示しながら。

「此処に来るのを猛反対していたとリサから聞いていた割に、あの子の反応が刺がないなってさ」

 思っていたこととは別の内容を告げながら、微かに顎でノエルの意識を前に戻すように促す。
 今回のことを仕組んだ一人とは言え、今はまだ仕事中である以上、それを蔑ろにしない。
 無言の態度でそう示しながら、貴弘は自分の言葉に気付かされる。

 貴弘にとってのフィオナの印象は、決して良いものではない。
 何しろ出会いは最悪で、無礼不遜な態度でいきなり此方を不快にさせるようなことを言って来た相手だ。
 いい印象を持てと言う方が、割りと無理がある。

 その上、先日は美桜の努力を笑う行為で絡んできた・・・
 少なくとも、貴弘にはそう感じられて、余り関わりたくないたぐいの相手である。
 リサも突慳貪な態度をとるが、明らかに二人は違った。

 リサの態度は、過信した子供の強がりで
 フィオナには、そんな微笑ましい感想を抱けずに居るのは
 彼女が此方の神経を、狙って逆なでしてくるからだ。

 そんなフィオナから、自分に対するような刺を感じない。
 いや、フィオナは変わらず噛み付いている
 ・・・と言うより、自分に対している時より、明らかに酷いことを言っているのに
 今のフィオナのほうが、どうしてかトゲがないように見える。

「刺がないって・・・随分と心が広いのね貴弘は
 私には、遠慮なしの言いたい放題を言っているように聞こえるのだけれど
 もしかして、男性には可愛い女の子の言葉は、違って聞こえるのかしら?」

 まるで、ノエルの声が聞こえたかのように、罵詈雑言を並べ立てるフィオナに

「ウェイトレスの女性を褒めたことは、もちろん本心からの言葉なので、その点に対する不平不満は素直に受けるつもりだが・・・ナンパ男扱いで私の言葉を軽いものとはしないで欲しい。
 誤解の無いように言っておくと、私は今もって君が勝利の女神ではないかと疑っている」

「なっ・・・なぁっ・・・」

 前回のように周りに誰もいない場所ではなく、リサの知り合いが居る店内という閉鎖空間で
 その上、フィオナの容赦ない毒舌に、周りの視線が集まっているというこの状況で
 臆面も無く、何でもないことのように、とんでもないことを・・・言われたフィオナの方が、一瞬で耳まで真っ赤になって、恥ずかしさのあまり絶句する。

 テーブルに手をつき、身を乗り出し顔をつきだして、噛み付く様にしていたフィオナを一発で黙らせ
 のみ成らず、肩を縮こまららせ恥ずかしそうにうつむかせ、大人しく席に座らせた
 そんな一言を投げかけた方はといえば、周りの視線を全く気にした風もなく、平凡な容姿に似合わぬ優雅な仕草でコーヒーカップを傾けている。

「ねぇ、変態気障ナンパ男というのは・・・本当に誤解なんでしょうね?」

 トーンの下がったノエルの声に伸し掛かられ、貴弘が視線を逸らす。
 問われても困るというのが貴弘の本音である、なにしろ貴弘にはそれを否定できるほどの材料が何もなく
 唯一人、否定して二人を会わせようと、強硬に推し進めたリサはこの場に居ないのだ。

「ちょっと・・・否定なさいよ。
 発案者でなくとも賛同者なのよ、貴方」

「カイルの友人ということだし、悪人ではないのは確か・・・だと思う」

 その一言でノエルは、やや呆れた表情を浮かべつつも、数度頷いて納得した。
 答えになっていない答え、即ちそう返すのが限界であるということは、間接的な肯定。
 だけでなく、ノエルは貴弘が言葉にしなかった部分を、はっきりと聞きとった。

 そのかわり、カイルの友人であるのだから・・・

 変わり者であるのも、たしかである、と。

2012.03.17


   

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