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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第十五幕「腰抜けは拳を握らず」

 
 麗らかな午後の日差し、軽く伸びをしながら体をほぐすと、春の温もった空気に誘われて生欠伸が漏れでた。
 普段から緊張感とはさして親しくも無く、どころか交流の断絶している感のある静馬ではあるが、それにしても口を開けての大欠伸、などという緩みきった表情は珍しい。
 大きく息を吸い込み切った所で、「先輩」と短いながらも鋭く声を掛けられ。
 それ以上、息を吸うことも吐くことも出来ずに息をつまらせる。

 幸いにして、厩舎へ向かう道は人通りも無く、情けない姿を衆目に晒すことは避けられたが
 間違いなくむせ込んでいる今も、片時も外れること無く自分に向けられている視線を、静馬はその背中に痛いほど感じていた。
 涙目のまま声を掛けてきた相手へと振り向き、その姿を視界の中央に据えた静馬の目が、僅かに顰められる。

「君は、先日フィオナと一緒にいた子だね」

 思い返して、すごい目つきで自分を睨んでいた少女の姿を思い浮かべ
 手のひらを相手に向け、此方は戦う意志はないと言うことを、全面に押し出しながら

 静馬は半歩後ずさる。

 自分でも未だに、何がどうしてフィオナにあれ程怯えられたのかはわからないが・・・
 少なくとも、今眼の前に居る何処か不機嫌そうな目を向けてくる少女はあの時、人を睨み殺せるのでは無いかという目を此方に向けていた
 自分の友人が・・・いや、知人で有っても、ああいった態度を取れば、その原因である相手を遠ざけて護るという行為自体は共感できる。
 共感どころか、フィオナにそれだけの知り合いがいたことを、内心ちょっと喜びつつ、安堵もしている。

 問題は、今眼の前に居る少女が、それを暴力に訴えてでも・・・と考えるかどうかの判断材料が圧倒的に不足していて、全く予想もつかないところだ。

「そんなに怖がらないで下さい。
 あの後フィオナから言われました、先輩はそんな人じゃないって」

 フィオナより細く高い少女の声が、『変態気障腰抜けナンパ男だ』とフィオナが言った部分は敢えて言葉にはしなかったのは、優しさなのか、罪悪感なのか・・・
 静馬にとって見れば、いきなり開口一番『もう二度とフィオナに近づくな!』と怒鳴られることまでは覚悟していただけに、少女の態度と言葉は少々意外で

 ・・・であるのに、何処か胡散臭げに此方を値踏みしてくるような視線を向けられ
 あいも変わらず不機嫌さを隠そうとしない少女の表情に、どうにも落ち着かない気分にさせられる。
 そして、ひとつの誤解は解けたが、もう一つの新たな誤解が生まれたという少女の観点で見るのなら、静馬の態度は少しもおかしなものではなかった。

「私、フィオナの友達のリサ・エオストレです。
 いきなり事情も知らないのにしゃしゃり出て、失礼なのはわかってますが・・・
 フィオナをもっと大切にしてあげて下さい」

 ・・・え?

「フィオナは優しい子です。
 口ではいろいろ憎まれ口を言いますが、本心は別なんです」

「え、ええ・・・そうですね」

 顔や身長に似合わぬ、迫力のある熱弁を静かに振るうリサに気圧されて、静馬が思わず敬語で返してしまう。
 元々が、女性に対して、弱腰とも言えるほど柔らかく当たるのだが
 リサの真剣な口調に、普段の軽口も自然と影を潜める。

 最もそれは表面上での出来事、内心では当然違う。

 リサはああ言っているが、実際はフィオナの方が静馬を拒絶したのだ。
 言ってしまえば、静馬のほうが被害者で、『もっと大切にしろ』などと言われる筋合いはない。
 どころか、先日の話しあえそうな機会を間接的に潰したのは・・・本人に悪気はないとは言え、リサ本人もその原因の一端であるのだ。
 その事について静馬にはどうこう言うつもりはないが、釈然としない気持ちが湧くのもまた事実。

 しかし、そんな気持ちも、続くリサの言葉で吹き飛ばされる



「だから、ちゃんと謝ればフィオナだって、先輩の浮気を許してくれるはずです!」



 いきなり、してもいない浮気をしたことにされて
 それを責めてきたのが、付き合っている相手ではなく
 今まで二度しか会ったことのない少女本人ですら無く・・・その友達で

 予想をはるかに超えた展開に、普段飄々としている静馬であってもさすがに思考が追いつけず
 引き攣った笑みを浮かべながら、取り敢えず相手を落ち着かせようと肩に手を置き
 「まぁまぁ」ではなく、「どうどう」と咄嗟に口を突いてしまったのも騎士故で・・・
 当然だが、リサの神経は逆撫でされた。

「ふざけないで下さいっ!
 他人を馬扱いして、本当に先輩はフィオナに謝る気があるんですか!?」

「まず落ち着こう、相互理解は大切だよリサ」

 ファーストネームをいきなり呼び捨てるのもどうかとは思ったのだが、この国ではそれほど特別な意味を持たないようなので・・・郷に入りては郷に従え、静馬はほぼ初対面のリサにそう呼びかけた。
 そも、身に覚えのない浮気をした浮気者と決めつけてきた相手だ
 下手にからかいでもすれば、一体どれだけの罪状が並んでいくのか解ったものではないのだが
 新たな火種を撒かないように、細心の注意が必要な相手に、いきなり躓いて

 ある意味では開き直ったのが良かったのか、ようやく何時もの調子を取り戻していた。

 しかし、ここで下手に『嬢』などと付けて呼んで子供扱いをしたと曲解をされたり
 『可愛い顔が台無しだ』などと何時もの調子で口を滑らせては・・・
 そこを足がかりにして、問題は更に拗れていくことになるのを鋭く感じ取った静馬は、空気を読んで必要最低限の言葉で済ます

 まさに、何時もの飄々とした・・・芸術的な回避行動といっていい。

「まず最初に言っておくと・・・
 フィオナが私のことをどう思っているのかはわからないが、私はフィオナを友人だと思っている。
 その前提を踏まえて聞いて欲しい」

「そんな・・・そんな言い逃れで!」

 ズイッと噛み付かんばかりに怒った顔を近づけるリサ
 その迫力に、思わず逃げそうになる静馬の服を、リサが逃すまいと握って引き寄せる。

「遊びで・・・フィオナを弄んだのなら、謝って下さい。
 もしそうなら、謝った後はもう二度とフィオナに声を掛けたりしないで下さい」

 言葉は丁寧だが、口調は命令。
 何よりその目が、恨み殺さんばかりに鈍い光を放つ。
 だが、静馬はその目を逃げずに受け止めた。

「さて、仮に私が此処で『はい解りました』と言えば、君は満足してしまうのかな?
 三つ、君は勘違いしているよリサ」

 服を掴むリサの、思いの外小さな細い指を優しくはがしながら
 静馬が小さく肩をすくめてみせる。

「私は君に、行動を制限される理由は無いんだ・・・今これから君が私に告白でもしない限りはね。
 それだって、あくまで願望や要請で、命令とまでの強制力も拘束力もない。
 第一、フィオナを弄ぶような人間が、そんな口約束を守ると信じてしまうのは
 ・・・少々危なっかしい純真ぶりだね」

 片目をつぶってみせる静馬に、リサが眉を吊り上げながら顔を赤くして睨みつける。

「二つ目はもう少しわかりやすい。
 私はフィオナを尊敬しているが、フィオナは私を軽蔑している。
 勘違いしないで欲しいのは、フィオナはうわさ話に流されているわけではなく
 あくまで本人の価値基準での正当な評価で私を軽蔑している、という点だ」

 静馬の言葉を理解して、リサが怪訝な表情を浮かべだまりこもうとするのを、小さな笑い声が目の前の現実に引き止める。

「今の言葉に裏はないよ、残念ながら。だから君が思い浮かべたその結論は正しい。
 私は、フィオナにとっては唾棄すべき存在でしか無い。
 それはフィオナが悪いわけでも、誤解をしているわけでも、狭量なわけでもなく・・・私が嫌がらせをしているわけでもない。
 お互いの立ち位置がそうだ、というだけなんだ」

 悲しいことだがね、と付け加えながら、それでも微笑う静馬に、リサの表情が一層困惑を深める。

 静馬の言っている言葉は理解できるのに、言っていることがわからない。

 何故なら、騎士を名乗る者に『自分が誰かにとって最低な存在として蔑まれている』などと面と向かって
 笑いながら告白されるなどという経験は、リサにとって初めてのことで
 お互いが反目しているというのであれば、価値観の相違だと無理にも納得ができるが
 蔑まれていると告白した者は、相手を尊敬していると告げたのだ。

 それって、つまり・・・先輩は

 自分自身を、最低の唾棄すべき存在だと感じているってこと?

「・・・つまり、先輩は、一方的にフィオナに好意を寄せている、と言う事ですか?」

 流石のリサも、思ったままを言葉にすることは出来ず。
 僅かな逡巡の後に、言葉を選びながら問い返した。

「そういう理解で構わない」

 鷹揚に頷き返す静馬の余裕ある態度が、リサには鼻についた。

 ・・・そして何より、腹がたった。

 少なくともフィオナは、この眼の前で笑っている男を責めたリサと貴弘から庇ったのだ。
 それなのに当の本人は、自分がフィオナに軽蔑されていると思い込んでいて・・・
 それがフィオナにとっては当然だと、疑ってもいない。

 それなら・・・

「そう言えば先輩は、フィオナと二人で話したいってこの間言ってましたよね」

 素っ気無いリサの声に、苦笑いを浮かべながら首肯する。
 向けられたその目が、何処か困ったような
 それでいて、諦めたような色を浮かべるのを見逃さず、リサの眉が眉間に寄せられる。

「いいですよ、この間のお詫びに私がそれを段取ってあげます」

「いや、それは止めておこう」

 軽く肩を竦め、あっさりとその申し出を断る静馬に不機嫌そうなリサが再度詰め寄る。

「どうしてです!
 フィオナと二人で話したいって言ったのは嘘なんですか!?」

「いや・・・話したいのは本当で、それに手を貸してくれるという申し出はとても有り難い。
 しかしねリサ、君は二人でと言って、自分が段取りをするといった。
 つまりはフィオナを呼び出し、君の代わりに私が待ち合わせの場所に赴くという提案だと、私は受け取った。
 それでは、フィオナは君に不信感を抱き、君はフィオナに後ろめたさを抱え込むことになってしまうよ」

 静馬はリサの肩に手を置き、片目をつぶってみせる。
 板についた仕草で、不自然さは無いにもかかわらず、静馬が余りに凡庸な容姿であるために
 この上なく・・・違和感しか湧いてこない。

 それ故に、リサは静馬が言葉を濁したことを見逃した。

 もし、リサの提案を静馬が受ければ
 フィオナがリサに抱くのは、不信感ではなく・・・
 裏切られた、という思いなのだ。

「一人が幸せになって、二人が不幸せと言う取引は不健全だ。
 やはり目指すのは全員の幸せであるべきで・・・
 それができないのなら次善の目標は最大多数の幸福であるべきだ
 ・・・というのが私の安っぽい見識なんだが、どうだろう?」

 言葉が十分にリサの心に沁み込むのを待ってから
 静馬は、さり気なくそこに付け加える

「それに、自分の感情を優先させて、友達を騙してはいけない。
 そんな事をしては、次に君は自己紹介をするときに
 『私はフィオナの友達です』と言えなくなってしまう」

 酷く優しい笑みを浮かべ、とても穏やかであるのに、静馬の声はリサの背筋を震わせた。

 怒っている訳でも
 睨まれた訳でもない
 静かに窘められただけ。

 ただそれだけであるのに
 心底、眼の前の男は穏やかであるのに
 リサの心は恐怖する。

 感情的に怒鳴られれば反発できた
 真剣な目で睨まれたのなら、にらみ返せた。
 だが、それを許さぬ静かな宣言



 君がもし、フィオナを騙すのであれば、私は君がフィオナの友達を名乗ることを許さない。



 脅しでも何でもない、ただの事実の通達でしか無い。
 先ほど静馬自身が言った通り、そこには強制力も拘束力もない。
 腰の退けた静馬には、暴力を背景とした恫喝など出来るはずもない。

 であるが故にそれは、リサに反論すらさせずに、ただ黙って頷く以外の何もさせなかった。

2012.03.04


   

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