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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第十四幕「金色の髪の乙女」

 
 風光る午後、ゆったりとした湯気の立ち上る様を前に、借りてきた猫のように大人しく座るフィオナ。
 もぞもぞと尻の収まりが悪そうに、俯き気味なその姿は何処か小動物的で、普段の勝気な姿からは全く想像もできない。
 保健室で綾子と静馬を前に見せた、何処か居づらそうな態度とは違う
 あの時は静馬という連れがおり、その治療のためという理由があったが、今のフィオナには連れがいない。
 である以上、誰にも迷惑をかけない現状、フィオナが『居辛い』と言う理由で、大人しく居心地の悪さを甘受し続ける理由がない。

「折角だから、冷めてしまう前に飲んでくれ。
 紅茶を上手く入れるのは、私の人に自慢できる物の一つだと思っている」

 進められるままにティーカップに手を伸ばし、掴み上げる瞬間陶器の触れ合う小さな響きが、室内に流れ出たが、どちらもそれには気付かないふりをした。
 お互い理由は違えども、そんな小さな点を話題の焦点にするつもりはない、と言うことだけは間違いなく共通していた。
 
 眼の前でゆったりと椅子に腰を掛け柔らかく微笑む美女は、本当にリラックスしているのが空気で伝わってくるにもかかわらず、まっすぐに背筋が伸ばされ。
 溢れんばかりの努力と、それに支えられた自信に、ほんのちょっぴり混じった無邪気さが、その美貌を眩いばかりに輝かせ
 更に追い打ちで、張られた胸に圧倒され・・・
 室内に他の者がいない現状、男であるなしに関わらず、緊張は強いられるであろう。

 眼の前に居る美女は、先ほどああ言ったが・・・ただ座っているのを見ているだけでも、自慢できるものを探すまでもなく、幾らでも見つけることが出来る、そんな女性であった。
 ましてや、そんな外見が良いだけの薄っぺらな相手ではなく
 それがフィオナとは、ほんの二年生まれた年が違うだけとは思えない落ち着きさえも身に付けている。

 公爵家の御令嬢にして学生会会長、何よりフィオナにとっては、倒さなければならない最大の目標であり、越えなければならない壁。
 ジョストの天才と讃えられるSクラス騎士、そして・・・フィオナを騎士として
 否、ライバルとして認めてくれた初めての相手。

 神様がいるとしたら・・・

 不公平を訴えるべきなのか、こんな人に出会わせてくれたことに感謝の言葉を言うべきなのか

「それで、レッド・・・静馬が自分の物だと白昼堂々と練習場で宣言したと聞いたんだが?」
 
 スィーリアのやや顰められた眉が、そう深くはないが美しい眉間に皺を寄せていたために、フィオナは口の中の紅茶を吹き出さずに、なんとか飲み込む事に成功した。
 流れだした声は真剣で、淡々と事実を確認するかのように、静かにフィオナの答えを求める。

 真赤にして俯けていた顔を更に俯け、口を開いては閉じるを繰り返すフィオナ
 対するスィーリアも赤い顔をしていたが、此方は羞恥心からではなく、必死に笑いを抑えるためだったが、俯いたままのフィオナはそれに気付ける筈もなく。
 ましてや、誂って来るなどというのは、彼女の中のスィーリア像からは想像も出来なかったのか、疑いもせずにその作られた鹿爪らしい表情をまに受けた。

「誤っ、誤解です。
 私は先輩・・・静馬先輩が変態気障ナンパ男だけど、暴力で女の子にどうこうするような人じゃないって、誤解を解いただけですっ!」

 テーブルに手をついて弾かれた様に言い返すフィオナの反応に、ついに耐えきれなくなったスィーリアが、背を丸め口元を手で隠しながら、楽しそうな笑い声を上げる。

「まぁ、事実はそんなところだろうと思っていた。
 安心していい、放送部に三流ゴシップ誌の真似事をさせるつもりは、学生会にも私にもない。
 もっとも、その場にいた者達の口に戸を立てることは出来ないが
 しかし、変態気障ナンパ男とは、今度の渾名は・・・また随分と豪華なことだ」

 背を丸めるほど大笑いしていながらも、上品さを損なわないスィーリアの姿に、一瞬呆気に取られながらも
 フィオナの冷静な部分が、ゆっくりと正解をたぐり寄せる。

 つまり・・・今、私

 スィーリア先輩に・・・からかわれた?

 不機嫌によっていく眉を見ながら、スィーリアの笑みが優しい物に変わっていく。

「そう怒るな、妙な噂が立つのを事前に止めるにしても、フィオナから事実を聞く必要があったのだ。
 実際の出来事を本人から聞かねば、学生会は独断と偏見で、活動の制限を生徒に課すと言われかねないのでな」

 悪びれた風もなく、涼し気な表情でそう告げるスィーリアは、やはり何処か何時もより楽しげで。
 笑いを無理にも抑えつけているのが一目でわかるという、普段の毅然とした態度とは一線を画した、砕けた態度・・・其故に、フィオナも怒れずにいた。
 そこには、公爵令嬢でも、学生会会長でもない、スィーリアと言う少女が居たが為に。
 
「何かそんなに面白いものでも見えるんですか」

 ・・・怒るを通り越して、呆れるにまで至ったというのも否定はできないが。
 ともかくも、スィーリアは望み通りフィオナから答えを引き出し、肩の力を抜いてのけた。
 最初から、此処まで考えてのああいう態度だったのだと、フィオナも気づいて・・・負けを認めてしまったために。

「静馬は、確かに変わり者で気障と受け取れる類の物言いをする。
 ただ・・・ナンパ男というのは違う、あいつはあれで出来るだけ丁寧に対応しようとしているだけなんだ」

 まさか、スィーリア先輩まであの変態気障ナンパ男に毒されてるとは・・・

 思いが表情に出たのか、スィーリアの笑みに苦味が交じる。
 そこで、フィオナは感じていた違和感の正体に気付いた

 幾ら砕けた口調と態度をとったからといっても、見ず知らずの相手を「あいつ」なんて、スィーリア先輩が言うわけがない、か。

「知り合いなんですか、先輩・・・静馬先輩と」

 さりげなさも何もなく、ストレートに尋ねるその言葉には、興味本位の色が濃い。
 だが、スィーリアはそんな表面上のフェイントに、誤魔化されはしなかった。

「知り合い・・・私の方は友人だと思っているよ。
 ただ、あいつはあの通りの男だからな、公言するなと本人に言われている。
 なので、公式には知人ということになっている」

 小さく息をつきながら軽く肩をすくめると、その長い金色の髪が背で揺れ、フィオナの心を、チクリと小さな痛みがおそった。
 刺さった針の名は嫉妬。
 同じく明るい金髪であっても、フィオナは髪を・・・邪魔になるからと、肩口の長さで切っている。
 
 髪の長さ以上の実力的な隔たりが、目の前のスィーリアとはあるのだと魅せつけられたようで
 無意識の内に小さく唇を噛み締め・・・それに気づいて、意識して表情を解きほぐしていく
 
 なんというか、そういう所本当にまめよね先輩は・・・

 無理にも意識を、目の前のスィーリアに感じた嫉妬から静馬への悪態にねじ曲げ、スィーリアへと真っ直ぐに向き合う。
 此処で卑屈になって何か言う訳にはいかない。
 自分を騎士と・・・ライバルであると認めてくれた、スィーリアの為にも。
 しかし、強がりを口にするにも・・・眼の前の実力差はいかんともしがたいのも事実。

 何より、静馬がスィーリアに告げた言葉が、フィオナの心を深く抉っていた。

 スィーリアの友人として、自分が居るべきではないという静馬の発言は
 即ちフィオナがリサの・・・天才の隣に対等の立場で立つことへの否定
 ・・・そう、無意識に置き換えて
 静馬が穏やかにそれを受け止め、冷静に事実を受け入れているのに対し
 自分はそれに逆らって、受け入れることに抗って・・・
 事実を見ようとしない子供のように感じて。

 いや・・・有りもしない希望に縋りつく、哀れな敗者であると言われているよう。

「少し付け加えるなら、極私的にはファンだと思っている」

 フィオナの目がじっとスィーリアの豊かな胸部を凝視したまま、不機嫌に眉を寄せる。

 それはそうでしょうよ、こんな美人でスタイルも頭も、性格までも良い人を嫌う男なんていない・・・先輩だって、嫌っているわけがない
 ただ、腰抜けだから、ベルティーユ先輩に迫られた時みたいに、自分には勿体無いとかなんとか言い訳して、ファンてことで逃げたんでしょどうせ

 何より質が悪いのが・・・あの腰抜けっぷりが筋金入りで、本気で本人がそう思っているところよ。

 そんなんだから、お節介気障男のくせに・・・彼女の一人もできないんじゃない。

「ファンの独りという扱いじゃ、確かに友達って言うよりは知り合いですねぇ
 まぁ、静馬先輩がスィーリア先輩につきまとっているなんて噂もないし・・・隠れファンの一人って言うのは、お似合いなポジションですけどね」

 本人を前にして言えば、殴られそうな発言・・・いや、静馬であれば笑って同意するかも知れないが、流石にスィーリアがフィオナの物言いに、何かを言いかけて・・・眉を顰めた。
 黙りこむスィーリアを前に、別に私は悪いことは何も言っていない、という強気な表情を浮かべつつも、チラチラと盗み見るような視線を向け
 顎に手を当てて考えこむスィーリアの沈黙に、ついには耐えられずにフィオナが音を上げた。

「私は別に・・・」
「フィオナは、なにか誤解をしているようだが
 レッドが私のファンなのではなく、私がレッドのファンなのだぞ?」

「はぁ!?」

 思い切り相手を馬鹿にしたような、素っ頓狂な声が出たことに、フィオナ本人も驚いたが。
 それでも続く言葉が、口をついて出ることは止められなかった。

「ファンて、静馬先輩のですか?スィーリア先輩が?
 一体何処に、あの変態気障ナンパ男のファンになる要因があるんですか
 と言うか、あの人一度も勝つどころか、戦ってもいませんよね?」

 畳み掛ける様に早口で言葉を並べ立てる少女の真剣な表情に、何処か母親のような優しい目を向けながら、上品に笑うさまは、二人を姉妹のようにも見せる。
 出来の良い上品な姉と、お転婆で生意気な妹そのままに。

「それとも・・・まさか、ああ言うタイプが好み、なんて言わないですよね?」

「冗談はやめてくれ、何でもかんでも色恋沙汰に結び付けられては困る。
 静馬は良い奴だが、恋人に望む相手ではない」

 ・・・なんだか、此処まではっきりと言われちゃうと、流石にちょっと気の毒かも

 先輩、大きい胸の女の人好きみたいだし・・・

「『無敗の騎士王』なんて渾名が、学園最強騎士として気になる、なんて意味でも無いですよね・・・
 あれ?それじゃぁ一体、なんのファンなんです?」

 眉を顰め、小首を傾げるフィオナの指先がティーカップに触れ、小さく音を立てる。
 念を押すようなフィオナの声に、スィーリアは当然だと優雅に顎を引いて見せ

「ジョストに決まっている、と言いたいところだが、残念ながらそうではない。
 私は、静馬の在り方のファンなんだ」

 在り方?と聞き返す言葉に頷きながら、少しのぬるくなってしまった紅茶で喉を湿し
 訳がわからないと言う表情を浮かべる少女に、そっと笑いかけながら
 そう在り方だ、と短く頷いてティーカップを戻す。

「静馬は、残念ながら騎士としては強くない、だが人としては高いと私は思っている。
 本人を前にして言えば、嫌がるだろうが・・・尊敬しているし、一種憧れてすら居る」

 ごく自然に、さりげない態度と声だったが、スィーリアの言葉はゆっくりと部屋に染み渡り
 フィオナも、危うくその雰囲気に流されて頷きそうになった。

 大会三連覇に片手が掛かっているSクラス騎士が

 学生会会長で、大貴族の公爵家の御令嬢が

 何一つとして自分に勝るところのない相手に

 他の騎士達から、馬鹿にされせせら笑われている人に

 ・・・憧れている?

 困惑の表情を浮かべるフィオナに、小さく笑い声を上げスィーリアが僅かに身を乗り出して、人差し指と親指をたてた右手をフィオナの眉間に向ける。

「解らない、という顔をしているな?
 それでは私に勝つことはおろか、追いつくこともできないぞフィオナ。
 いや、こう言い直してやろう・・・」

 言いながら、今まで見たこともないほどに無邪気で楽しげな笑みを浮かべたスィーリアが、右手の人差し指を僅かに上に跳ね上げながら。



「『無敗の騎士王』に土をつけることなど、とてもとても」




   

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