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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第十三幕「誤解」

 
 リサに連れられて行き着いた先の光景に、フィオナは口を噤んだ。

 練習場の一角に、この前茜先輩と一緒に居た、水野とか言う男の先輩がいて・・・

 それを見つけてしまい、げんなりとした気分になっている所で、リサがそちらの方へと歩き出したからだ。

 どういう訳だか、リサはあの後から、彼らと話すようになっていて・・・今日はこうして、態々自分から足を運んでまで会いに来たのだ、という事実がリサの言葉の端々から感じ取れる。

 突っかかるようなリサの口調。
 だがそれは、リサが相手をまともにしているという事でもある。
 一体何があったのかは知らないが・・・
 水野とかいう先輩は、リサには『見えて』居るのだ。
 その横に居る、女の・・・リサが美桜先輩と呼びかけた人も。

 右手が無意識に胸を抑えていることにも気付かずに、フィオナはそこから視線をそらす。

 否・・・逸らそうとして、逸らせずに居た。

 美桜は使い込まれて古ぼけてはいるものの、見事な鎧を身に纏っているのに、その動きは全くの初心者。
 槍を構えれば、先端は揺れて定まらず
 馬にだって、乗っていると言うよりは、載せてもらっていると言う感じだ。
 姿勢は腰が引けているし、鎧の重さに振り回されて、上体をしっかり保つことすらできていない。

 どこから見ても、鎧を初めて身につけた素人そのものじゃない・・・

 内心で毒つくフィオナだが、そんな美桜に真剣な顔でアドバイスするリサの態度が、冷たく現実を押し付ける。
 そんな素人よりも、自分の価値は、リサにとっては低いのだと。

 いや、とっくの昔に解っていて、気付かないふりをして・・・逃げていただけ。

 解っていた、最初から解っていた
 私はリサに、騎士だと認めてもらえていないんだって
 いまさらそんな事でショックを受けてどうするの、フィオナ

 貴女はもう踏み出したのに・・・
 他人を傷つけてまで、前に進んだのに・・・
 一体何を今更ためらっているの、もう逃げ場なんて無い。

 今更・・・退ける訳・・・ないじゃない

 進みなさいよ臆病者!

 自分を騎士だって、リサに認めさせるんでしょ、フィオナ。

「騎士が素人で、ベグライターが実績ゼロ。
 それでどうやって戦うつもりですか、そんなんで試合になるのかしら?
 公衆の面前で恥をかくだけじゃないんですか」

 貴弘がフィオナの言葉に反応せず、まぁそうかもな、程度に軽く流され。
 美桜の方も、反発するようなこともなく・・・
 唯一反応したのがリサで、言い過ぎだと窘められる以上のことはない。

 意を決して、神経を逆なでするように言ったフィオナの言葉。
 しかし、結果は思った程いい反応は相手から返ってこず・・・
 相手に反発心を呼び起こし、嫌われることも出来ず

 相手をからかうことで、紛らわせていたやるせなさの・・・行き場を失う。

 そして、続く一言が・・・
 怯み、迷いながらも・・・
 それでも前に進もうと、必死に耐え、踏み出した少女の胸を抉る。



「試合に出て、無事に終わることが重要なんだよ」



 骨がきしみ、拳が小さく震えるほど、フィオナは両の手を握りしめた。

 その一言は、一般論で判断するのなら、いい言葉なのかも知れない。

 勝ち負けが全てではない、全力を出しきり、純粋に競技を楽しめばいい
 その結果として勝敗があるだけで、相手とお互いに健闘を讃え合い、認め合う
 その事が、ジョストで戦う意味なのだと・・・

 フィオナは、救われたのかも知れない・・・

 貴弘がフィオナと、精神的に真正面から向き合って言ったのであれば。

 だが、貴弘はフィオナをただの面倒臭い後輩程度に、おざなりに対処しただけ
 言い換えるのであれば、フィオナには自分の言っている事など、解ろうが解るまいが、どうでも良いと説明すること無く、会話を打ち切りに出た。
 お前と話す必要などない、と・・・

 貴弘にとってそれは、当然の反応。
 彼は一介の高校二年生に過ぎず、フィオナに対し真正面から対応してやる義務もなければ、義理もない。
 ましてやフィオナは初対面から突っかかってきた少女で、第一印象では最悪。
 即ち、今までフィオナが積んできた実績や信用が、貴弘のその反応を引き出したに過ぎない。

 しかし、フィオナにとって・・・
 相手を傷つけて遠ざけ、その事で号泣しながら、それでもと踏み出した少女にとって
 自身の実力を歯牙にも掛けられず、その上で話す価値もないと背を向けられた少女には
 とどめとなる、冷酷で・・・トラウマを抉る一撃。

 その態度は

 フィオナの存在などどうでも良いと、おざなりに対応し
 会話の早期切り上げを目的とした、結論の提示。
 自業自得ではあるものの・・・
 フィオナにとっては二度目となる、コミュニケーションの一方的な拒絶。

 その内容は

 相手を傷つけてまで勝利を求めた選択は間違っていると否定し、その事で大泣きしたフィオナの涙を嘲笑い
 勝つ為に積み上げてきた努力を、無意味なものと、泥に投げ捨て
 才能の無い者は、どう足掻いても才有るものには勝てないと侮辱する
 喉の奥から手が出る程に、勝利を渇望する少女には・・・そう受け取られる一言

 ・・・それでも、フィオナは激発しなかった。

「出るからには勝ちを目指す・・・どんな事をしても。そうじゃないんですか?」

 漏れ出したフィオナの声は、深く、低く、感情が押し殺されていて。
 向けられ、答えを求め迫るようなそのエメラルド色の瞳は、この上なく真剣で・・・
 目を向けられた貴弘が、その追い詰められた様な声に、眉をしかめる。

 ・・・今更、もう

 フィオナは頭を振って、浮かびそうになる弱音を振り捨てる。
 手に入らないものを欲しがってもしょうがない・・・
 手を伸ばせば、届いたかも知れないなんてそんな弱い心は捨てなくちゃ
 相手は天才、それも二人だ。

 凡人の私が、余計なことにまで心を割いて、勝てるわけがない。

「勝つつもりもないのに、遊び半分でジョストをされるのって・・・すごく不愉快です」

 普段の、相手を小馬鹿にした・・・静馬が言う処の『からかう様な雰囲気』の欠片もないフィオナの言葉に、言葉をつきつけられた貴弘は、僅かばかりに動揺する心を隠せなかった。

「何も言えないみたいですね・・・だいたい先輩は―」

「呼んだかい?」「んにゃぁ」

「・・・っ!?」

 びくっと目に見えて体を震わせたフィオナが、眉尻を落とした眉を寄せ、とたんに目が泳ぎだす。
 恐る恐る声がした方へ目を向けると、頭に子猫をのせた静馬が片手を上げて微笑んでいた。
 フィオナの視線につられて振り返ったリサが、ぱっと顔を輝かせ、子どもらしい外見に似合いの無邪気な笑みを浮かべ、目を輝かす。

「な、なんで、こ、こんな所に、居るんですか?」

 対するフィオナは、普段の勝気な表情を浮かべ様としているのだろうが、顔は青ざめ、腰は引け、良く見れば膝も僅かに笑っているのが解る。

 なんの責任も義務もないとは言え、幼さを残した少女が男を目の前にして怯えている現状、黙って見過ごすことは出来ず・・・
 いきなりのフィオナの変貌に、リサと貴弘はフィオナを庇うようにさりげなさを装う風もなく、静馬との間に身体で割って入る・・・といっても、静馬とフィオナ二人の距離は優に三メートルはあるのだが
 それにしては、フィオナの怖がり方が異常であった。

 リサが先程までの子供の様な表情から一変、鋭く睨むような目を静馬に向け
 その目が、無言の内に静かに告げている・・・それ以上、一歩も近づくな、と。

「美少女二人に熱い眼差しを向けられるのは嬉しいんだが・・・怯えられるのは流石の私も少々堪える
 もっとも、君に関わるなと言われても、諦めるつもりは無いよフィオナ。
 しかし此処は退散しよう、いずれ二人でゆっくり話をしたものだね」

 肩を竦め、頭の上でまるまる子猫もそのままに、踵を返し手を軽く振りながら歩み去っていく静馬の背が、遠ざかっていくのに、フィオナがほっと安堵の息を漏らす。

「フィオナ、学生会に行こ」
「えっ?」

 頭に最初に浮かんだのは、『野良猫退治のため?』という言葉だったが
 リサの怖いほど真剣な目と、続く貴弘の言葉で、現状が自分の認識と大きくかけ離れていることを理解する。

「マフィアみたいな男だな・・・表面上は柔らかい言葉で、相手を脅すなんて。
 何か困ったことがあったら手を貸すから、変に遠慮せず直ぐに相談するといい。
 学生会にも、話しておいた方が良いかも知れない」

 真面目な顔をしてフィオナを気遣う貴弘とリサが、何をどう誤解して、勘違いしているのか
 静馬の気障ったらしいと聞こえる言い回しが、フィオナの態度からどう誤解されたのか

 フィオナは自分では余りそういう自覚はないが、間違いなく美少女である・・・口を開かなければ。

 ・・・これって、もしかして・・・先輩が

 ストーカーか何かと、思われてたりするってこと?

 事実は全く違う、唐突にいるはずのない相手の声が聞こえ、確かに驚きはしたものの
 フィオナにしてみれば、静馬には負い目はあれど、怯えることなど無い。
 綾子ですら、静馬がフィオナに会えば、怒る前に謝ると考えたのだ
 フィオナが怯えたとすれば、静馬を再び突き放さなければならない事へのみ

 現実はもっと単純にして、馬鹿馬鹿しい代物。

 静馬の連れに、フィオナが怯えただけ。
 鋭い爪と牙を持ち、縦長の闇に輝く瞳を持つ野獣・・・
 頭の上で丸まって半分眠っていた、子猫に。

 だが、フィオナはその誤解を解く事をわずかに躊躇った。

 逆を返せば・・・直ぐに誤解を解こうとして、僅かに逡巡してしまった。
 これは前回の繰り返しではないのか?
 もし此処で自分が静馬を庇えば、次はまた静馬を突き放し、傷つけることになるのではないか、と。
 しかし、それも一瞬。
 理性は迷ったが、その理性が答えを出す前に、感情が溢れ出す。

「先輩の事何も知らないくせに悪く言わないでっ
 変態で、気障で、腰抜けのナンパ男だけど、あの人はそんなんじゃない」

 フィオナの否定の叫びは・・・

 今度こそ、正当に誤解される原因になった。


   

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