FC2ブログ

歪んだパズルのつなげ方

スポンサー広告

スポンサーサイト

 
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第八幕「女と少女」

 
 何とも言えない、居た堪れないような空気、居づらい雰囲気。

 しかし、逃げることも出来ず

 下手に口を開けば、致命傷に成りかねない・・・

 そんな妙な緊張感もそこに混じって・・・

 フィオナは借りてきた猫のように、小さな体を一層縮こまらせて。

 それでも、静馬の後ろで

 じっと手当が終わるのを見守っていた。

 ・・・

 柊木綾子というのが、ウィンフォード学園の校医の名である。
 女性の年齢のことを詳しく説明する事は、この際避け、若く、美人であるとだけに留めておく。
 それ以上の情報など女性には興味ないであろうし、男性には不要であるのだから。

 そんな彼女が働いている職場は、ジョストの盛んな学園で。
 ジョストと言うのは、負傷することも珍しくはない競技である
 ・・・場合によっては大怪我を負いかねない程に。

 そんな学園の校医となれば、保健の先生と言うよりは、野戦医に近しい厳しい場面も時にはあるのだろうが、彼女の柔らかい雰囲気はそれを感じさせなかった。
 落ち着いた大人の女性であり、気さくな美人と有っては
 話のわかる先生ということで・・・男女の別なく生徒にも人気がある
 種々雑多な悩みを相談され、様々な用途の訪問を受けていた。

 もちろん、その中には恋の悩みも含まれる。

 綾子に、と言うたぐいの物まで。

 その落ち着いた大人の女性が・・・
 扉をくぐってきた静馬の顔を見た瞬間、険しい表情を浮かべ、僅かに青ざめた。
 
 何かを言いかけて、無理矢理言葉を飲み込み・・・

 書きかけの日誌に、手に持っていたボールペンを挟んで閉じ。
 立ち上がるなり白衣の裾を翻しながら、大股に、怒った様に静馬に歩み寄ると
 その頬に両手を添えて、顔を寄せる。

「ちょっと・・・何やってるんですか先生!」

 フィオナが頬を染めながら、強引に二人の間に割って入り、綾子の胸を押して二人を引き離すと
 不思議そうな顔で、綾子はフィオナを見ていたが・・・
 しばらくして、ようやく何故自分が引き剥がされたのかに思い至り

 フィオナの顔を見ながら、数度頷いて・・・妙に優しい笑みを浮かべる。

「何って、傷口の診察よ?」

 綾子の返事に、へーそうなんですか、と口では返しながら
 フィオナの綾子に向ける視線は、あからさまに疑いの眼差し。

 ・・・絶対嘘だ。

 入ってきた時の先生、浮気性の旦那さんが久々に帰って来た、みたいな顔してたじゃない

 今だって、いきなりキスしようとしてたくせに・・・

 一体、こんな変態気障ナンパ男の、何処がいいのかしら

 本当・・・男の趣味悪い

「静馬君・・・大丈夫?」

「取り敢えずは、裂傷と擦過傷と鼻血で
 元々酷い顔が一層酷くなっている以外は、大したことないです」

 その答えに、ひとまず安堵の息を漏らし
 綾子は踵を返すと、消毒液と数枚のガーゼを手早くまとめて戻ってくる。

 いかにも保健室の備品、という感じの安っぽい丸椅子に座るように静馬を促し。
 再び顔を寄せて、覗き込むようにあちこち静馬の顔を向かせながら、ペンライトまで持ち出し細々と眺めていく顔は、とても真剣だった。

「血、止まってるわね。 
 顔の傷は小さくても、結構血が出るから
 慌てず圧迫した初期対処が良かったみたい」

 割と大雑把にガーゼに消毒液を浸し
 同じくらい大雑把に患部を拭っていく
 半ば固まっていた血がガーゼを赤黒く変え、その下から出てきた肌は、良く見れば確かに赤くなって腫れてはいるが、傷口自体は思っていた以上に小さい。

「誰に殴られたの?って聞きたい所だけど止めとくわね。
 単純な喧嘩ではないようだし・・・」

 言いながら、視線で静馬の手を示す。
 殴り合ったのなら、そんなに綺麗な手じゃないでしょ?と

「第一、そんなさっぱりした顔の被害者なら・・・一方的な暴力って訳でもなさそうだし、ね」

「別に隠しませんよ、殴った相手のことも。
 ケンカでも暴力でもなく、拳がただ当たったというだけで、そこに意志はないので。
 現象としては、殴られたと言えますが・・・此方が勝手にぶつかっただけですから」

 つまりは、自分の負っている怪我は、暴力ではなく事故だった。
 静馬の言っている内容から、朧気ながらもその実情をつかんだ綾子が、何処か困ったような溜息をつきながらも、その目は笑っていた。

「そう、それじゃこの件はお終い」

 小さく手をたたき、話題の打切を告げる綾子に、フィオナが流石に突っ込みを入れる。

 いや・・・つっかかった。

 その声色は呆れではなく、疑念と、嘲笑。

「いいんですか?先生がそんな適当で。
 もしかしたら、先輩の方から言いがかりをつけて、物で殴ったかも知れないのに」

 フィオナの子供っぽいつっかかり方に
 綾子が返したのは大人の笑み

 手でフィオナに座るように長椅子を示し・・・
 油薬を塗り終えた静馬を伴って、フィオナの対面に腰を降ろすのに・・・
 フィオナの片眉が跳ね上がるのを見逃さなかった。

 どちらが?

 もちろん、対面に座った二人共が。

 無言のまま投げかけられる静馬の視線を、綾子は態と無視して、フィオナの目を真正面から見据える。

「教職員は、学園に所属する生徒を教え導く立場にいる、と言う貴女の意見は正しいわ。
 えぇっと・・・」

「フィオナです、フィオナ・ベックフォード」

 怒っていても、相手が何を言いたいのかを即座に理解して返すフィオナに
 綾子はゆったりと笑み返しながら、小さく会釈をかえす。

「ありがとう。
 フィオナの言葉は間違っていない・・・でもね、貴女はいくつか勘違いをしている。
 教えるというのは、一から十まで全てを説明することではないし
 正解を示して押し付けること・・・ではないのよ」

 片目をつぶって見せ、ゆっくりとフィオナに笑みかける。

 美人がそういう顔をすると、妙にチャーミングに見え
 フィオナの心は、綾子の求めていたリラックスではなく
 妙な、圧迫感とそれに対する反発心が深まっていく。

「誰かに押し付けられて、それがなんで正しいのかわからないまま受け入れた正解なんて
 いつか誰かに説明を求められた時、本当に正しいって信じて言い続けられる?
 例え相手にとっては間違っていても、これは正解なんだって」

 不機嫌そうな顔のまま・・・無言で首を振るフィオナの反応を
 気難しくものを考えての反応だと、綾子は完全に誤解した。
 
「だから、いっぱい悩んで、間違えて、正解を選びとる、それが貴方達学生の仕事よ」

 ・・・ほら、やっぱりそうじゃない。

 この人の言葉は感覚的で、答えが先にあるんでしょ

「それなら、どうして先生は、学生である先輩の言葉を正しいって受け入れたんですか
 矛盾してますよねそれ、学生は間違って正解を選ぶのが仕事なら
 先輩は正解を探している途中ですから」

 この人は、先輩を特別扱いしているだけでしょ?

 だいたい、男子生徒の隣に並んで座るなんて

 なにアピールしてんのよ、いやらしい・・・

「それは彼が騎士だからよ。
 誇りを持ち、名誉を重んじ、驕らず、言葉の重さを知る、ね。
 そんな騎士の言葉を、疑う理由がないでしょ?」

 さも当然だと言わんばかりの綾子の態度は
 フィオナの中にわずかに芽生えた気持ちを
 ・・・引っ掻いた。

 綾子にからかうつもりがなかったかと問われれば、そこは否定できないが
 どちらかと言えば、祝福のつもりが大きかった。
 フィオナが素直に祝福されても、それを穿って見る娘であると見ぬいた
 綾子による、気を使った婉曲的な祝福。

 今の状況をみれば、綾子がした誤解にも不思議はない。

 そして、それは強ち誤解とも言い切れない

 自分から誰かに暴力を振るうようなことのない穏やかな男が、誰かに殴られ
 心配そうな顔をした少女に、手を引かれて保健室に連れてこられた
 その上、診察の為に駆け寄った綾子を、顔を真赤にして引き剥がした・・・

 静馬が、誰かからフィオナを庇ったか
 フィオナから、誰かを庇ったのか・・・

 どちらにしろ、綾子に対するフィオナの態度を、ヤキモチだと思い込んだ。

 つまり、二人は恋人同士であるか、その一歩手前の関係と呼べるほどには、強く結びつきがあり
 自分の多少のからかいが、『越えられる程度』の小さな障害・・・
 言い換えるなら、二人にとってはイベントであり
 二人がそれを乗り越えることで、関係を深める、と。

 故に、静馬が綾子を止めようとする視線を、あえて無視したのだ。

 常に飄々とした態度で、誰にでも対する静馬が、初めて見せた照れ隠しだと

 フィオナが更に綾子に突っかかったことで、その誤解を正解だと確信して。

 いや・・・まるっきり誤解と言う訳でもなく、フィオナの反発は嫉妬であった。
 ただし、小さな子供が・・・母親を取られることを怒るような
 或いは、妹が兄が連れてきた彼女に向けるような、といったほうがより近しいか。

 だが、二人は兄妹ではなく・・・

 まだ出会って数日の、知人でしか無い

 重ねて来た時が少ないことが
 そして、フィオナが持つ、見かけよりも子供っぽい部分が
 綾子のからかいに付けられた、引っ掻き傷によって上げた悲鳴を聞いて
 初めて、綾子は自分がひどい勘違いをしていたことを、思い知らされる。



「戦わない騎士に、価値はあるんですか!?」



 怒った顔でいった直後、フィオナの顔は蒼白になり

 見ているのが辛くなるほどに、痛々しく表情が沈み

 目に浮かんだ怯えを隠すように伏せた顔のまま立ち上がると

 無言のまま、走ってその場を逃げ出した。




   

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
無料アクセス解析
現在の閲覧者数:
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。