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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第七幕「雪解け水」

 
 カイルがその場を離れた直後、唐突に我に返ったフィオナの目に飛び込んできたのは
 一向に此方をむこうとしない静馬の背中と
 粘りつくような水音と共に、止まる気配のない雫が地面に吸い込まれ続ける光景。

 泣くほど痛いなら、庇ったりしなければいいのに・・・

 こんな、可愛げのない後輩なんか

 ・・・放っておけばいいのよ。

 殴られたって、自業自得なんだから。

 そう言ってやろうと、口を開き・・・
 静馬が抑える手から、溢れこぼれる雫の色が透明でないことに
 ・・・思わず言葉を飲み込み

 フィオナの顔色が、一瞬で真っ青に変わる。

「ちょっと先輩っ、大丈夫なんですか!?」

 慌てて正面へ回りこみ、片手で鼻の付け根を押さえながら
 真っ赤に染まった唾を吐き出す静馬の惨状を見て、小さな悲鳴・・・ではなく
 その紫色に染まった、震える可憐な唇は、罵声を吐き出した。

「ひどい・・・こんな力一杯殴らなくても良いじゃない!
 一体何なのあの暴力男、こんな酷い事をしておいて先輩置き去りにして
 あっ、血は飲み込んじゃダメ、吐き出してください。
 そうじゃないと吐きますよ」

 ハンカチでそっと静馬の唇を拭おうとして、差し伸ばす震える手を、静馬がやんわり押しとどめる。

「暫くすれば、痛みでの興奮状態から落ち着いて血も止まる
 綺麗なハンカチが、汚れてしまうよ」

「変な所でバカな気を回してないでじっとしてて下さい!
 次によけたら、本気で怒りますよ!
 変態も気障も、時と状況を考えてよ、バカっ!」

 まったくもうっ、と敬語を忘れるほど本気で怒鳴られて
 はい・・・と素直に、大人しくフィオナの真新しいハンカチで鼻血まで拭かれて
 そのまま当てられた真っ白だったハンカチは、見る間に朱に染まっていく。

 ジョストは、ある程度の危険を伴う競技で、彼女はその騎士だ
 ・・・というだけでは納得できないほど、冷静な視点でフィオナが見ている
 しかし、顔色は真っ青で・・・静馬よりフィオナのほうが今にも倒れそうに見える。

「どうしよう、全然血が止まらない・・・
 先輩、気分悪くないですか?
 自分で歩けますか?」

 声からは困惑は伝わってくるが、パニックにはなっていない。

 そのくせ、今までの生意気で刺々しい態度や口調が、まるで嘘かのように
 優しい気遣う・・・何処か弱々しい口調で、甲斐甲斐しく、手際よく世話を焼いてくる。
 細い体を寄り添わせ、まるで静馬を支えようとするかのように、背中に手を当て
 静馬の鼻が詰まっていなければ・・・
 ふわりとフィオナの香りに包みこまれているのかのように感じたことだろう。

「まだ少し目の前がチカチカするが、問題なく自分で歩けそうだよ
 気分は・・・殴られる前より良い、と言ったらまた怒られるかな?」

「ばかっ!」

 刷毛でさっと刷いたように、フィオナが頬を紅潮させると
 手綱を静馬の手からもぎ取り、もう一方の手で静馬の手を引いて、ズンズン歩き出す。

 ・・・

 やや有って、フィオナに手を引かれた静馬が、ごくさり気なく切り出した。
 鼻を抑えている為に、声色は何時もと違うが、口調は全くいつもの通り
 穏やかで、落ち着いた声は何処か遠くから聞こえてくるようにフィオナには聞こえた。

「フィオナ、一ついいかな?」

「あっ・・・歩くの速すぎて、傷に響きますか?」

 言うなり申し訳なさそうに歩調を緩め、しおらしい顔をするのに、静馬は小さく首を振る。
 『手を引かれる』から『隣をゆっくり歩く』にまで位置関係を変えた静馬が、頭一つ分以上低いフィオナと並んでゆったりした歩調で歩を進める。

「さっき君は、カイルの事を暴力男と言っていたが、それは違う。
 あいつは確かに誤解されやすいし、変人かも知れないが・・・
 面倒見のいい、優しい男だよ」

 呆れたような溜息をフィオナがついて見せる。

「バカな冗談は、後でゆっくり聞いてあげます。
 こんな怪我させておいて、放って置くなんて・・・本当に友達なんですか?
 先輩バカだから、良い様に利用されちゃってるんじゃないですか?
 ・・・絶対、あの暴力男は学生会に訴えて、罰してもらうんだから」

 後半はつぶやきになりながらも、静馬の手を握るフィオナの手に力がこもる。

「だいたい、もし先輩が、か・・・庇ってくれなかったら、私がそうなってたってことですよね?
 信じらんないっ、女の子相手に・・・」

 言ってから、フィオナは気付いた・・・
 静馬は、カイルに向かって、拳を振り下ろした行為を非難せず
 どころかその正当性を認めて、『振り下ろすべきだ』と言っていたことを。

 故に、返って来た静馬の言葉は、全くの予想外

「それが・・・誇りの重さ、なんじゃないかな」

 不意にフィオナが足を止めたが、静馬はまるでそこで足をとめることを知っていたかのように、ピタリとその横で足を止めた。
 キッと睨むような鋭い・・・それなのに、何処か泣き出すような目で、静馬を見上げ
 それを受け止める静馬の目は、湖面の様に静かで、どこまでも深く、真直ぐに向けられるフィオナの目線に向け、逸らされることはなかった。

「相手が女の子、それも自分より年下の相手であっても
 誇りを汚されたなら、汚した相手を・・・打ち倒さざるをえない。
 そこには手加減を加えてはいけない・・・いや、手加減が加わることはない。
 何故なら、手加減が出来る程度のことで、人は拳を振り上げるべきではないのだから」

 君は、そう思わないか?

 そう尋ねる静馬の声は、フィオナの心にゆっくりと染みこんでいく。

「だから、ジョストでは手を抜くことが最も恥ずべき行いとされている。
 何故なら、お互いの誇りをかけた戦いだからね」

 そこで手を抜くということは、前提条件を覆す。

 即ち、相手がかけた誇りに唾することであり

 相手をのみならず、ジョストへの最大の侮辱である。

「私が・・・殴られて当然のことをしたって。
 先輩は、そう言いたいんですか」

 フィオナの口から出たのは、プラスチックの様な声・・・

 酷く非人間的で、冷たく硬質であるのに・・・
 今にも割れて、壊れてしまいそうなほどに脆く
 暖か味も、心も、何も伝わってこない

 ただの音の連なり。

「そう思っていたら、庇ったりはしない。
 フィオナの為に成らないからね・・・
 ただ、今回は、そう単純ではなかった・・・確かにフィオナの言い方も悪かったが
 君は此処に来る前に、誰かに上から押し付けられ、抑えつけられる様な態度を取られていた。
 そこに、カイルに同じような態度を取られ、反発してしまった」

「・・・っ」

 苦々し気な表情をフィオナが一瞬浮かべるのを、静馬は見逃さず
 フィオナが握る手に力がこもるのを、気付かぬ筈もない。

「・・・やはりか。
 あの時の発言には、いつものからかう雰囲気がまるでなく
 胸に湧いた嫌悪感を、ただ吐き出しているように見えた。
 もっとも、例えフィオナが誰かの被害者であったとしても、カイル自身には全く無関係だ
 カイルは八つ当たりされる謂れはなく・・・
 その上、馬をぞんざいに扱うような物言いは、ベグライターとして、許せなかったのだろう」

 鼻をハンカチで押さえながら、という情けない姿でも構わず
 静馬は全く何時もの調子で、フィオナに片目をつぶってみせる。
 全く以て、決まり様のない仕草であるのに・・・

 慣れてきたのか、フィオナにはそれが、滑稽には見えなかった。



「・・・ごめん、なさい」



「謝るべき相手は、この場にはいないよフィオナ。
 でも、その愛らしい表情は、正当な褒賞として、受け取らせてもらおう」

 目を細めて笑いかける静馬の視線から顔を背け。

「・・・気障っ」

 と小さく罵倒するも、つながれた手には力が込められ。

 保健室に着くまで、その手は離されることがなかった。


   

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