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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第五幕「罪人の名は」

 
 内心で、少女は小さくほくそ笑んでいた。

 

 焦れていた気分を転換しようと、無意識に足が向いた先が厩舎で
 自分が焦っていることに更に苛立ちがつのり
 気晴らしに馬に乗ろうと、鞍を置いた所でこの間のことを思い出し
 舌打ちしながら、ブツブツと独り悪態をついていた所で

 彼女の馬が逃げ出した。

 馬は繊細な生き物である、頭も良く、臆病で
 そばにいる人間など、常に様子を伺っている。
 少女の苛立ちと舌打ちによって、追い詰められていた馬は
 今まで逃げたことなど無い為に、フィオナが鞍を持ったままでは入れないと、腕木をはずし

 逃げ道が出来た瞬間、そこを目指しかけ出した。

 フィオナはそれに、咄嗟に反応することは出来ず
 弱々しく伸ばした手も何も掴むことも出来ず
 ただ、駆けて行く様を見送った・・・

 ストレスから解放され
 自由になった我が身を純粋に喜ぶような馬の姿を
 呆然と、見つめることしか出来ずに。

 周りが大騒ぎしている中、たった独り、動くことも出来ずに・・・

 ・・・

 馬を逃がしたことで、小言を言われて終わり。
 うんざりした気分でそう思っていたのに・・・
 事態は、予想外な方向へと展開していく。

 逃げた馬を捕まえたのはリサだった、自分の馬にすぐさま飛び乗って追い
 巧みな馬術であっさりと追いつき、並走して捕まえてくれた。
 走り寄ってお礼を言うと、そっけなく次から気をつけるように釘を差してくる。

 今は、その素っ気なさが、混乱した精神に有りがたかった。

 逃げた馬の姿に、フィオナは自分を重ねて見ていた。
 
 ストレスから逃げ出したいと、何処かで思っていることを素直に認めるたくなくて

 ・・・何も考えたくなかった。



 認めてしまえば、心が折れてしまうということが、感じ取れてしまった為に



 だが、その場にはリサだけではなく、見知らぬ男女二人の人物がいた。
 二人の内女性のほうが、妙に突っかかった物言いで・・・
 ささくれ必死に耐えていた、フィオナの神経を逆なでする。

 それに見合ったつっけんどんな対応をして、心の平静を保とうとするフィオナだったが
 突っかかってくる相手に、そんな態度を取れば火に油
 文句を並べ立てたかと思うと、『指導してやる』と言い出した。

 苛立っている所に混乱し、更にそこへ上から押さえつけられれば
 素直に謝罪の言葉や気持ちなど、湧いてくるはずもない。
 当然のことながら、フィオナの心のなかには、少なからぬ反発が生まれる。

 なんなの、この野蛮人・・・

 言う事を聞かないから、暴力で打ちのめす、相手の言い分を簡略化すればそういう事だ。
 何より気に入らないのは・・・自分が勝つと、信じ込んでケンカを吹っ掛けて来ている
 私より自分のほうが強いという、上から目線で上級生風を吹かせようというところだ。

 バカにしてる・・・

 そんな力尽くの押し付けのくせに、『指導』なんて笑っちゃうよね。

 これなら、あの変態気障ナンパ男先輩のほうが、随分とましだわ

 あの人は、腰抜けで変態だけど、暴力で相手に言う事に従わせる、なんて事はなかったし

 こんな上から目線でもなかった・・・

 まぁ、腰抜けでそんなことが出来る実力が無いだけ、なんだろうけど。

 そんなことを考えていると、リサが庇うように、代わりにその『指導』を受けて立った。
 先輩二人はちょっと動揺している、私になら勝てると踏んで言い出したのに、リサが代理に出たのだから当然だろう。
 これは予想外だけど・・・私にとっては理想的な展開。
 相手が負ければ二年生はメンツ丸つぶれな上に
 間近でリサの戦い方を見ることが出来る。

 途端に渋り出す二年生の姿に、フィオナは内心せせら笑う。

 まぁそんなものだろう、暴力を振りかざしているだけ有って、実際ジョストの実力は高いだろうし
 となれば、リサのそっけない態度に、急に怖気付いたとしても不思議ではない。
 第一、私の言い方が気に入らないとふっかけてきたケンカだ
 リサと試合しても、相手の気は晴れないだろうし・・・一体何をしてるんだか、と言う感じだ。

 でも、それなら一層此処でリサと戦って・・・負けてもらわないとね。

「あれ?下級生を教え導くのが上級生の役割じゃないんですか?
 それとも、教え導くのは相手の下級生が、自分より弱い時だけですか?」

 口元を歪め、小馬鹿にした様な口調でそう言うと
 龍造寺茜と名乗った先輩は、それ以上は食い下がらず、リサの代理を受け入れた。
 騎士らしい潔さ・・・それがあれば当然もう引き下がれない。

 茜先輩は、きっちり挑発に乗って、自身が騎士であることを示した。

 茜先輩に、水野と呼ばれていた男の先輩が、なにか言いたげな顔をしてこっちを見ていたが、それはどうでもいいことだ。
 リサと茜先輩、実際に槍を交えて戦う二人が、それでいいといってしまった以上、彼がなにか言っても後は戦うしかない、それが騎士というものだ。

 騎士でもない人間が、口を挟んでいい所ではないんだから。

 口をだすならもっと早く、こうなる前にすべきだったのに。

 もう二人は止まらない・・・賽は投げられたというやつだ。

 試合でリサが負けたら私が謝罪する、なんて条件なんかどうでも良い。
 リサが負けるわけがないし、仮に負けたとしても、どうせ心の中まではわからないのだから、舌でも出しながら精々しおらしく謝ってやれば良い。
 だから、これはまるまる得をしただけだ、私だけが。

 そう考えると「上級生に対する口のききかたが気に入らない」なんて理由で突っかかって来てくれた茜先輩に、ちょっと感謝してもいいくらいだ。

 ・・・

 試合は予想通り、リサの優位で進む。
 リサが上級生を圧倒するのを、フィオナは当然の結果だと受け止めていた。
 その心の動きは、確信や信頼と言うより、信仰に近しい。

 茜先輩のことは知らないけど

 リサが天才であることは嫌になるほど知っている・・・

 天才のリサが、負けるわけないじゃない。

 しかし、相手はそれで自信を揺らがせ、精神的に崩れてしまうようなことはなかった。
 多分、最初からリサの実力をある程度予測していたのだろう
 そして、一本目、二本目と槍を実際に交わして、それが確信に変わった。

 リサの実力を現実のものと、素直に受け止めた、ということか。

 インターバルでの会話が長引くのを見て、内心で舌を出しつつ
 先ほどの試合でリサがやっていた、切り返しの動きと身体の使い方を、冷静に頭の中でなぞる。
 身体の小さいリサが、見るからに力の強そうな先輩の一撃に対し、後出しで負けない重さの一撃を放った。
 突くと同時に、流れるような動きで肩を入れながら、腰、腕をひねり、その力を槍にのせた

 やっぱり・・・リサは天才だ。

 あの技術は、身体の小さな私にも必要になる

 明日からの練習メニューに入れないと

 そっと心のメモに書き加えながら、頭の中で数度イメージを練り直す。
 予想通り、と言うよりは予定通り、リサの試合を真近で見て得るものは大きい。
 それが即ち、自分とリサとの間に厳然と横たわる実力の溝だと・・・
 聡いフィオナが、気づかずにいられるはずもなく。

 小さくはない胸の痛みに、奥歯をかみしめて耐える。

 今はまだ勝てない・・・

 でも、必ずリサと戦う時が来る、その時は・・・

 全力を尽くして戦う?

 違う、何としてでも叩き潰して勝つ!

 敢闘賞なんて要らない・・・がんばったね、何て言われたくも無い

 勝利を掴まなければ、そんなものは嘘だ

 リサの動きを一瞬でも見逃さないように、顔に笑顔を貼り付け
 奥歯をかみ締めながら、全身全霊、神経を、意識を集中していた為に・・・
 フィオナは、背後から近付く気配に気付けなかった。

「そこまで!」

 その声に、スタート位置まで既に馬を進めていたリサが、ビクッと体を竦ませる。
 フィオナも肩を竦めゆっくりと振り返り・・・
 予想通りの相手が、予想通りの表情で歩み寄ってくるのを認めた。

「……わわっ、怖い人がきちゃった」

 思っていたことがそのまま口を突いて出てしまい、フィオナは慌てて白い手で口を押さえる。

 その場の四人の視線が集まった方向から歩いてくるのは、見るからに柔らかい雰囲気の女生徒
 茜も年齢に似合わぬ落ち着いているが、それ以上に落ち着いた雰囲気を身に纏い・・・その印象はフィオナの言うような怖い人にはとても見えない。

 リサとフィオナ、入学したての一年生二人に比べると、まるで大人と子供の様だった。

「何をしているの?届け出も無く、模擬試合をする事は、学園の規則に反するわよ」

 厳しい口調と声ではあるが、茜を相手に茶々を入れたフィオナが怖がるほど、とはとても思えない。

「模擬試合を申し込んで来たのは先輩の方からです。
 リサはしかたなく受けただけなんだからっ」

 リサは自分の代わりに試合を受けてくれただけ、と言う論点がぼやける説明を省き
 あくまで、『仕掛けて来たのは相手』と言う部分を強調する。
 呆れ混じりの溜息が茜の方から聞こえて来るが、そんなものは無視する。

 因縁を付けて絡んできたと言う事実が、二年生二人の中でどの様に都合良く解釈されているのかなんて興味無い。
 そして、『指導』と言いながら、腕力で捻じ伏せ様としてきたのは、紛れも無い事実。
 フィオナにしてみれば、変なチンピラに絡まれたのと同じレベルの出来事でしかない。

「原因がどちらにあるのかではなく、規則を破った事を問題にしているのよ、フィオナ」

 ・・・やっぱり玲奈先輩は怖い。

 少しも感情論に誤魔化されずに、理路整然と正論で返してきた。

 だからこの人はちょっと苦手なのだ、話を続けると・・・手も足も出ないほどにやり込められてしまう。

 早く切り上げて、此処から離れてしまおう。

「わかりましたー
 このまま続けていても、リサが勝つのは目に見えているし、ここまでで良いですよね先輩」

「……ああ、そうだな」

 呆れた溜息をついていた茜からの返事は、『どうでも良い』と言う思いがありありと窺えたが
 それも、フィオナにとっては予想通りの反応だった。

「先輩がいいって言ってるし、もう行こう」

 フィオナは、玲奈の方に視線を送ったリサを急かすように声を掛け
 リサの槍を受け取って手早くラックに立て掛け、リサの手をとって早々にその場を後にした。

 背後に聞こえてくる玲奈の「まちなさい」という制止の声は、ちゃっかり聞こえなかったことにして。

「リサは鎧着替えてきちゃいなよ、この子は私が厩舎に戻しておくから。
 それから、遅くなったけどありがとねリサ、私の代わりに先輩との試合受けてくれて。
 玲奈先輩は厩舎に追掛けて来るだろうから、そっちは私が引き受けるよ」

 いたずらっぽく片目をつぶって笑いながら言うフィオナに、こくりとリサは小さく頷き返し
 手馴れた動作で馬から降りると、ヘルムを外し、小脇に抱えて・・・ようやく小さな息をつく。

 目に見えた内容自体では、リサが終始優勢というよりも、完全にやり込めていたが
 フィオナが思っているほどに、余裕での試合ではなかった。
 仮にそれほどの実力差があるのなら、あっさりと茜のヘルムに飾られた羽根を落とし
 所謂、フェザーズ・フライで試合を終わらせることに、リサは躊躇わなかっただろう。

 つまりは・・・茜先輩は口煩いだけではない、実力の持ち主ってことか

 それほどの実力者と戦うリサをこの目で、間近に見れたことの意味は大きい。
 実力が伯仲すればするほど、リサは引き出しを開け、奥の手を出さざるをえない
 フィオナに取れば、驚かされる技術・・・宝の山を、だ。

「そんなわけだから、今日は一人でご飯食べちゃって、それじゃね」

 ・・・であるのに

 手を振って踵を返すフィオナの
 明るい声で一方的に言うだけ言って、リサに向けた背は
 随分と、小さく寂しそうに見えた。

 それは、独り利を得たとほくそ笑むべき者の背ではなく

 返事が返って来ることのないのを、知っているもの背で・・・



 相手にとって、自分など路傍の石ころと同じだと、言われた少女の小さな背中だった。




   

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