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歪んだパズルのつなげ方

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*Edit
   

DR~少女竜騎士物語~

第四幕「天才と腰抜けと少女の覚悟」

 
 午後の穏やかな日差しは、早春の柔らかさを一層増す様な優風と相まって
 まるで童話の中での出来事の様な、暖かな空気で学園全体を包み込み
 ゆったりした笑みと、欠伸を誘った。

 それは学園の中に例外なく指先を伸ばし
 職員室も保健室も区別なく、全てを呑み込む。
 にも関わらず、と言うよりは・・・やはり、と言うべきか

 その室内に緩んだ空気が入り込めずにいたのは、たった一人の少女・・・淑女の存在ゆえであった。

 スィーリア・クマーニ・エイントリー、ウィンフォード学園内のみ成らず
 この街に住むもの、いや・・・この国に住む者で知らぬ者がいない、と言われても否定できない程の有名人。
 公爵家の令嬢にして、此処ウィンフォード学園の生徒会会長
 ジョストの学内大会二連覇という、比肩する者のない学園最強のSクラス騎士

 そして、なにより・・・頗る付きの美女である。

 外見のみ成らず、性格も、立ち居振る舞いも

 ・・・その生き様ですら、峻厳にして優美と言わざるを得ない程の。

「すまないな、新学期早々呼び出してしまって」

 男口調でありながら、欠片も荒々しさなど感じさせない
 どころか優雅さや、気品を漂わせる耳心地のいい、内に自信を秘めた声
 でありながら、女性らしい柔らかさを兼ね備えるスィーリアに、静馬は静かに首を振った。

「いえ、役得と思っていますよ。
 これ程の美女からのお誘いとあっては、断る勇気がない。
 次の機会、などという物は、永遠に来ないかも知れないので」

 スィーリアを前にしても、静馬は静馬であった。

「まったく・・・そんなことばかり言っていると、ベルティーユに言いつけてしまうぞ」

 珍しく、イタズラっぽい猫のような笑みを浮かべるスィーリアに、静馬は頭を掻きながら小さく笑う。

「それは勘弁願いたいな。
 そんなことになったら、勝ち目のない戦いを延々続けなければならない事になる。
 彼女はきっと、満面の笑みを浮かべてこう言うだろうね。
 『貴方の女性を見る目は確かです、友人として私、精一杯応援いたしますわ』と」

 態とらしく困った様な溜息を付き、肩をすくめてみせる

「彼女の友情に応えるべく、私は明日から分不相応な高嶺の花に夜討ち朝駆け
 延々と挑み続ける宿命を背負うことになる」

 眉を顰め怪訝な表情をしていたスィーリアが、どうにもわからないと言う顔をしてみせるのに
 涼しい顔をして紅茶を一口飲み込んで・・・片目を瞑ってみせる静馬の表情に
 ようやく誂われ返されたのだと理解するも

 遠回しにだが『貴女を明日から口説き落としに行く』と言う内容に、僅かに頬に血が上る。

 冗談だと解っていても、スィーリアとて年頃の女性であり
 家格が高すぎるが故に、逆にベルティーユのような軽く受け流せるスキルを身につけられる程、この手の口説き文句を投げかけられる機会は多くない。
 その上、彼女の兄がスィーリアを超える、ジョストの名手であり、割りと容赦のない性格をしている、と言う噂が流れている為

 彼女に口説き文句を囁くような命知らずは、未だ現れていないのだ。

 言い換えるのであれば、こんなことを平気でスィーリアに向かって真顔で言って来たのは
 彼女の知る限り、静馬以外にはいない。
 そのうえ、静馬の発言は謙遜などではなく
 静馬自身がはっきりと、勝ち目がないと断言している通りに、彼にはスィーリアを口説くつもりはこれっぽっちもない事が、スィーリアにもはっきりとわかっている。

 小さな、呆れたような溜息・・・

「わかった、真面目な話をしよう。
 一年間、この学園で過ごしてみてどうだ?」

 酷く抽象的で、曖昧な問いかけ

「とても、魅力的なところであると。
 ジョストの設備も、全天候型ではないが立派で
 教員、生徒のみ成らず町の人達までもがジョストを愛している。
 何より・・・騎士、ベグライター共に、自主自立を尊ぶ校風のお陰で、随分と過ごしやすい」

 静馬の返答は、スィーリアの問いかけに対する答えではあったが
 スィーリアの求める形の答えではなかった。 
 言葉使いも一学年上の者に対するものとしては、些か不足があるものの、先程のスィーリアが見せた砕けた態度からしても、知らぬ仲ではないのだろう。

 抽象的な問い掛けは、お互いが共通の認識を持つ者同志での、暗黙の了解の上で成り立つ。

 即ち、静馬はスィーリアが求める答えを知りながら、それとは別の答えを返した。

 言い換えるのであれば・・・スィーリアの問い掛けに、応えなかった。

 その事実を聡いスィーリアが見逃すはずもなく
 真剣な・・・真剣過ぎて、怒ったような顔で静馬を真正面から見据える。

 誤魔化されてやる訳にはいかない。
 答えを得るまでは、逃しはしない。

 静かな佇まいの奥底に、マグマのような激情を湛えながら。

「あまり熱い視線を向けてくれるなスィーリア嬢、勘違いをしてしまいたくなる」

「ふざけて答えをはぐらかすなレッド
 これは君の将来に関わる大事だ、この件に関しては・・・」

 語気を荒めたスィーリアの剣幕に、諦めたような溜息を返す静馬。

「先日、騎士科の一年生からタオルを投げつけられたのだが・・・
 あれが手袋でなくて、ほっと胸をなでおろした。
 何しろ、格好良く掴みとるつもりが、手は宙を掴み、タオルは顔面で受けとった。
 実に私らしい結果だと、我が事ながら失笑せずにいられない」

 肩をすくめる静馬に、片手で顔を覆うように額を押さえながら、もう一方の手を振って言葉を止めさせる。

「わかった・・・もう良い、この件はこれ以上聞かない」

 ・・・

 だいたい最初から、おかしいと思ったのだ。

 大会三連覇にリーチの掛かったスィーリア先輩という、Sクラス騎士を差し置いて『騎士王』などという渾名を付けられていることが。
 そんな人物が、派手好きで悪目立ちしているベルティーユ先輩と仲が良いと聞いた時点で、疑惑は確信に変わった。
 案の定、その後話しを聞いて回って聞けば聞くほど・・・その渾名が皮肉以外の何ものでもないことが、浮き彫りになってくる。

 要するに『戦場に立たないのだから、敗けようがない』
 あいつは、騎士・・・戦うものではなく。
 王様・・・戦いを見るもの。

 即ち、観戦者・・・腰抜けだと言われているのだ。

 『無敗の騎士王』と呼ばれている者の正体を知った今、腹立たしいほどにその噂が真実であることが解った。

 ベルティーユ先輩は、平民ではなく貴族のお姫様で、本来であれば言葉を交わすどころか、顔を見ることですら気軽に出来る相手ではない。
 でも、その取り巻きは二人は平民だ・・・それなのに、あんなことを言われてヘラヘラと笑っているような男が、騎士であるなどと他の騎士達は認めたくないのだろう。

 自身の名誉を護る為に、決闘を申し込んでもおかしくはないくらいの事を言われていたのに
 あの変態気障ナンパ男は、怒るどころか否定する素振りすら見せなかった。
 騎士として、どころか人として、誇りの水位が低いのだろう。

 それとも、美人を前にしてだらしなく相互を崩していただけなのかも知れない。

 どちらにせよ、あの男が唾棄すべき腰抜けである事だけは間違いない。

 そして、私には腰抜け男に関わっている暇はない。

 次の大会でなんとしても優勝しなければならない。
 それには、大会三連覇がほぼ確実と言われているスィーリア先輩と・・・リサに勝たなければならないのだ、時間は幾ら有っても足りない。

 誰に言っても笑われる目標。

 無名の一年生が、天才の呼び名を恣にする二人を倒して優勝するなんて、まるっきり夢物語だ、と。
 誰に言われるまでもなく、自分がいちばん解っている。
 自分で確かめ、事実に叩きのめされもした。

 それでも、騎士を名乗るのなら勝利を・・・一番を目指す。

 自分には出来なかったから。

 自分は天才ではないから。

 言い訳なんか後回しだ、泣き言を言うのは負けた時でいい。

 勝たなきゃ・・・
 勝って、私は元気だって
 一人でも大丈夫だって

 鎧を送ってくれたお母さんに、伝わるように
 
 だから、ベグライターも、友達もいらない。
 私は、独りでも大丈夫だって、示さなきゃ成らないんだから。

 勝たなきゃ・・・ダメだから。



 私は・・・独りで勝ってみせる!




   

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